シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない 作:嘉神すくすく
虎人さんがアーサー・ペンシルゴンさんからの挑戦を受けることを知らされた少し後のこと。
「2、白」
5メートルほど離れた場所に立つ虎人さんの手からなだらかに放たれた白色のボールと、四色に色分けされた十字の投げ棒が回転を抑えて飛来してくる。
「な、7!」
手元に届くまでの間にボールに書かれた数字を読み上げつつ回避し、投げ棒を指定された色の部分でキャッチする。
私が今こうして虎人さんと行っているのはリアルで球技や格闘技などのフィジカルアスリートが行う反応速度の養成……より言うと、そのトレーニング2種類を複合したものだ。なぜ複合しているのかと言うと、最初に一種類ずつ行った際になまじ上手くやって見せたばかりに数段飛ばしでステップアップさせられたからだった。
「えっと……赤!」
足元の籠にある安い作りのボールをひとつ手に取って上手から投げ、ワンテンポ遅れて投げ棒を手首のスナップで回転をかけて投げる。
「8」
彼の指示通りに『ぶつけるつもりで』投げつけたのだけど、下手から取りやすく放られた私よりも余裕の反応で虎人さんは左手で
プロボクサーの面目躍如といったところだろうか。で、でも……
「黒」
「5っ! で、赤っ」
身体が
そもそもフルダイブとリアルの反射速度には最低限の相関はあれどイコールではない。フィジカルスポーツにおける運動神経ひとつとっても野球・サッカー・格闘技や器械新体操など多種多様な競技それぞれに適性があり、フルダイブVRゲームもその例に漏れず最適な運動神経の種類や方向性がある。リアルにおける肉体性能だけで片付けられる差ではないはずなのだ。
「8。スピードあげるでー、青」
「じゅ、う!? 白!」
「9、白」
「しろ! ……あっ」
…………棒に気を取られすぎてボールが肩に命中してしまった。
「おー、おー! だいぶ長く続いたやん、初めての時のサイガー100より更にええよ。……ちなみに数字は?」
「さ、3……」
「正解。……いやボールから早々に目ぇ切って棒の方に集中しとったしマジで初めてとは思えんわ。女子格闘技界に興味とかない?」
「ありません」
「そう言わずにワイちゃんと一緒にヘビー級で世界
「よ、よりにもよって
「えっ…………えぇーっ!?!?!?!? 2メートル無いの……? 嘘でしょ……!? その見た目でワイちゃんをだましたのか!?」
「アバター通りの体型なわけがないでしょうがあーっ」
この人の頭の中でリアルの私はどんなイメージになっているのやら……。
「……そういえば虎人さんはアバターはリアルに寄せるタイプなんですよね?」
「おー、アバター側に感覚合わせるんが苦手なんよね。ワイちゃんってばプロゲーマーでも変態でもないし」
「へ、変態……?」
「そ、まあ天才でもええ」
虎人さんや姉さんのようないわゆる“最初期組”はシャンフロのアバターの操作性が異常なまで高いことを知りえなかったこともあり、体格をリアルに寄せるか身体データをロードしエディットしたアバターを使用している割合が高いという話を何度か聞いたことがある。特にマッシブダイナマイトさんからは当時あまりの違和感の無さに感動したと熱弁されたものだ。
リアルとフルダイブVR上で操作するアバターとの体型差によるミスマッチは特に格闘ゲームでよく発生する。例えば虎人さんのように身長190センチ超の男性がフルダイブ上で幼く小さな女の子キャラクターを使用すると体格がかけ離れているせいで違和感が大きく操作に慣れるまで時間がかかるし、場合によっては最後まで『身体に合わず』キャラクターの性能を十分に発揮出来ず使用を断念するということも珍しくない。
しかしシャンフロに限ってはどういう原理か分からないけどこの問題を解消している。リアルでは身長170センチも無い女の
「んー、ワイちゃんの中でフルダイブのプレイヤーには大きく三つのタイプがあると思っとるの。まず特定のゲームタイトルを理詰めと試行回数で順当にパフォーマンスを高める“秀才型”、VR適性がバカ高くて再現性の低いイカれパフォーマンスを発揮する“変態型”、ゲーム内外の幅広い努力とか経験で身につけた能力をゲームパフォーマンスに昇華する“素養型”。……ソヨーって単語正しく使えとるよね?」
「はい、はい! その……へ、“変態型”のお話しを詳しく聞きたいです……!」
「自分と一番遠いとこに食いつくやん。うん“変態型”は才能ツリーがフルダイブに偏っとるタイプで、プロの有名所を挙げるとまずはかの全米一位ことシルヴィア選手、次点でイギリスかドイツだったかのレオノーラ選手の二人が“変態型”ベースの競技者やね。それ以外のプロ選手は基本的にムッツリスケベの“秀才”で……てか才能なんて
「言い方。そ、それはそうと虎人さんってプロゲーマーに詳しかったりするんですか?」
「いーや、全然ニワカ。ここ1年くらいで友達に誘われて格ゲープロの試合見る機会が増えたの」
プロゲーミング界隈のことはあまり詳しくないけど、そんな私でもその世界トップの女性選手二人の名前はよく耳にする。シルヴィア選手はあまりにも有名なので今更語るまでもないとして……“レオノーラ・ロジャー”選手はイギリスのプロゲーマーであり、シルヴィア選手と比較されて『全欧一』などと語られている方だ。
実の所どんなプレイスタイルかは知らないけど下半身にハンデを抱えている方であり……日常生活における足代わりの車椅子を魔改造し紅茶セットと湯沸かし器を搭載しているという特集記事の内容だけは鮮明に記憶に残っている。
「シャンフロ内でパッとするのは一人だけ、総プレイ時間全プレイヤー中たぶん一位の廃人を超えた廃人“ディプスロ”や。こいつは100点満点中300点クラスでブッチギリの“ド変態”なんやけど……あ、そもそもディプスロ知っとる?」
「い、いえ。あいにくと存じ上げません……」
「いやっ、別に知らんでええから気にしんで。むしろあんなネトゲ廃人のストーカーで“石橋強”*1な人生スリーアウト女となんて接点持つべきやない……!」
「イシバシツヨシ……?」
「ごめん忘れて」
た、たぶん虎人さん愛読の格闘漫画のキャラクターかな……二言目にはタフとかバキな虎人さんが言葉を濁した辺り特に聞くに絶えない情報なのは間違いないと思う。*2
「……まー、なんというか、起きとる間ずっと学校も仕事も無しにゲームしとるんかなーって感じで、フルダイブに偏りすぎて日常生活に支障をきたしてないか心配になるレベル。ちなみにワイちゃんの中でサイガー100と出会って欲しくないプレイヤーランキング第一位」
「一応理由を聞いても?」
「万が一にも仕事と人生捨てかねん」
「さ、流石の姉さんもそこまでは……………………後で詳しく話しましょう」
「……言っといてなんだけどあの見た目だし配信とかでも食っていけるポテンシャルはあるくない? やりたがるかは知らんけど」
「絶対にダメです、その手の虚業に手を出そうものなら家の恥と見なした長女が黙っていません。……し、しばらく前に縁談を袖にした前科もあっておそらくはゲーム没収の上で実家に強制送還ついで軟禁、最悪私も巻き込まれて花嫁修業コースなんです……!」
「軟禁!? 良家のやり方が怖すぎルと申します……てか今の時代に縁談とかあるんやね」
自由恋愛全盛で未婚率が上昇傾向にある現代において斎賀家の未婚に対する忌避感は年々高まっている……そのため私だって学校やお稽古ごとの成績や生活態度に気を抜けないのだ。
「これ以上は危険だ、話題を戻すぞ。最後がタイガー・ベスト変態大賞受賞、リア友のクソゲーマーこと“サンラク”や」
(グッッッッッッッ)
「なんのガッツポーズ? ……プレイヤーネーム出されてもピンと来ないやろーけどこいつはすごい、ワイちゃんと真逆でどのゲームのどんなアバターにも感覚寄せてまうの。そもそも変態型とそれ以外の線引きをするとしたら、リアルではなくゲーム内特有の感覚を主としてアバターを動かせるかどうかなんよね。この辺が得意な人の事を『VR適性が高い』なんて“秀才型”の友達が表現しとった……気がする」
「あー、なんとなくわかります。バグ技とかシステムを悪用するグリッチとか、リアルでは不可能な行動をしようとするとなんというか……リアルの感覚に足を取られてギクシャクしちゃうんですよね」
具体例を挙げると“ベルセルク・オンライン・パッション”はそのゲームスピードを抜きにしてもいかにバグ技を有効活用できるかが重要であるし、“辻斬・狂想曲:オンライン”はシステムアシストを悪用出来るか否かがトップ帯の分水嶺だ。
また“ネフィリム・ホロウ”というゲームもリアルの感覚ではなくゲームシステムを主としてアバターを操作出来るようになってからようやくスタートラインに立てる類であり……いずれも私には難しくて満足にプレイ出来なかった。
「つまりサ、ササ……サンラクさんっ達にはそういった違和感が少ないということでしょうか!?!?」
「えっ、う、うん、その通り。少なくともワイちゃんには出来んし多分サイガー0も無理……ってか、リアルでの運動経験がしっかりしてるほど出来なくなると思う。しゃーから大人しく
「な、なるほど……」
「やまでらのっ♪ おっしょさんがっ♪」
足元に転がっているボールを6個拾い上げて恐ろしく器用にジャグリングして見せてくる……この口ぶりだとシステムによる補正がないリアルでも同じことが出来るのかな。
「まー、リアルのスキルや経験はゲームでも確かに活かせるけど、かと言ってそれだけで勝てるほどの差は出ないんやけどね。フツーのゲームなら」
「? ええ、そうですね」
ポッポッポッと足元の籠にボールを落としつつ虎人さんは当たり前のことを言ってくる。
もしリアルの能力がゲーム上でもそのまま活用できてしまっているならプロゲーマーは各ジャンルに類する競技のアスリートで埋め尽くされているはずだ。確かにアスリートが現役を退いた後にプロゲーミングの世界に足を踏み入れるという話はあるけど、現実として好成績を記録する選手は若干名という夢物語に過ぎない。
あくまでプロゲーミングはeスポーツであって、フィジカルスポーツと似通う所はあれど別分野なのだから。
「……しかしそれだと虎人さんが強い事実に説明がつかない気がするんですけど」
「……そうかも?」
「疑問形……この際お聞きしたいのですが、虎人さんはどうしてそんなに強いんですか? いくら上手でもゲームで公式戦無敗なんて異常ですよね?」
「────おー、おー。よー言うてくれたね。その通り、ゲームで無敗なんてのは異常を超えて本来
そう言うと虎人さんは籠を抱えて私の後方へ歩いていき、私が回避してからそのままになっていたボールを拾い始めた。片付けや整理整頓は虎人さんが頭の中を整理する際に行うルーティンだ……私も追随しボールを回収する。
「…………んー、サイガー100と京極ちゃんってリアルでかなりちゃんと剣道やっとるやん? その能力と経験はゲームでも確かに役に立つけど、ゲーム的な戦力とプレイスキルの水準が互角の時によーやく差出る程度のもんでしかない。……仮に、仮にやけど、サイガー100のリアルの実力が80点で京極ちゃんが100点満点として、それでもこの二人がシャンフロでタイマン張ったら8割方サイガー100の方に軍杯が上がるくらいの差でしかないとワイちゃん思うわけ」
……リアルだと同点じゃないかなぁ。というか虎人さんの中でゲーム的な実力は姉さんの方が上である点は当然の事実であるらしい。
「レベルとかビルドとかスキル構成とかゲーム自体のプレイスキルとかその辺が受験のテストの点数だとして、リアルの能力は内申点みたいなもん……合計点が同じプレイヤー同士がかち合った時に内申点が高い方が勝つ、みたいな? いやちょっと違う……」
「リアルスキルもプレイスキルの内に含めるべきでは? 私の体感ですがリアルの剣道や柔道の技術をシャンフロで出力出来ている割合はリアルの1割から2割くらいなので……リアルで100点でもゲームだと10点くらいにしかならない、とか」
「────あぁ、そんなもんなのね。うん……それなら、そう、しっくりくる…………たぶん普通のゲームだとそう言うリアルスキル分の点数に最大10点までとか上限があるけど、シャンフロはアバターの操作性とか自由度が高ぎてその上限がそもそも無いんじゃねって感じする」
「……それだと結局100点満点の数割で10〜20点になるのでは」
「せやね、でも千点なら一割で100点、一万点なら千点になるやん。百億万なら一億万や」
「あ、もう話半分になりましたね??」
小学生並みのインフレに口の端から思わず笑いが零れた。
「? んー……それで言うとこれ系のトレーニングでアバター慣れすれば
「なるほど、そう考えると少しはやってみて良かったと思えます」
「えっ、もしかして疑ってたのん……?」
「当然じゃないですか……ゲーム内ならもっと他にやれること無いのかなと思いつつやっていました」
「ククク、酷い言われようだな……事実あるんだからしょうがないけど……」
「あるんじゃないですかこのスットコドッコイ……ッ!!」
「うおおおおお正当防衛ラァァァァァァッシュ!!!!」*3
正当防衛と叫んでるだけの徒手空拳……!
でもこれでシンプルに強いのだから本当に一億万点ありそうな説得力がある……一億なのか一万なのかどっちなんですか?
「ま、参りました……」
「うむ。……いやね、ぶっちゃけ倒したい相手を分析してイメトレするってだけやけど」
「え、そういう……?」
「そもそもサイガー0は具体的に倒したいボスとかプレイヤーっておらんだろうから優先度下げたのが半分……あ、おらんよね?」
「い、いません」
「もう半分は柔道とか色々やっとる以上教えるまでも無いかなって」
「……はい、対戦相手の癖や得意技が事前にわかっていれば素早く反応出来ます」
「ん、基本的すぎて忘れがちやけど大事よこういうの。『モーション見てから余裕でした』ってのは確かにすごいことやけど、ワイちゃんに言わせれば
「リュカオーンに対する黒狼のお話しですか?」
「……………………なんでわかったの!?!?」
「同じ話を最初にしてたじゃないですか……」
今回のトレーニングは『ワンちゃんの情報がなくてモーションに対応できていないなら、情報なくても対応出来るようになればいいじゃない!』というマリー・アン虎ネット的発想が発端であったのをこの人はすっかり忘れていた。
虎はVR適性が明確にカスですが、それを込みにサンラクがプレイしてるクソゲーを別アプローチでクリア出来る程度に地力があります。
そんなのと最低限話が通じる玲ちゃんもバケモノです。足掻くな、運命を受け入れろ。
虎の中のリアル玲ちゃん:基本的な見た目は姉の外見と普段の言動から推測し実物通り的中させている(すごい)
しかし身長と体重に関しては『180cm以上で階級は78kg超級かなー』と大ハズレ。今回否定されたものの『高身長コンプレックスで嘘ついてるのでは?』とか往生際の悪いことを考えている。
人生スリーアウト女:サンラクくぅん出てきてくれえぇ!!!!! お〇ン〇ンが破裂してしまう!!!!!!!!
虎視点のモモちゃんのリアル戦闘力:『だいぶ剣道強いっぽいけど流石にテクニックは京極ちゃん未満だよね。でもフィジカル差キツイかー』と考えている。そのくらい京極ちゃんのことを高く評価している一方でモモちゃんが剣道やってる姿を実際に見たことがないのでちょっと舐めてる。『あんな邪魔なもん付いてて動けるの?』とかだいぶ舐めたこと考えてるのが顔に出てほっぺをつねられる。
モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?
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あ、いっすよ(快諾)
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頭湧いてるんですか?
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そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも