シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない 作:嘉神すくすく
シャンフロ内で大手や上位といった単語を冠するクランは基本的に加入を希望するプレイヤーに対する必須条件を設定している。
…………最後のそれが何を指して言っているのかよくわからないけど、少なくともメンバーの大半が虎人さん相手であろうと特攻を仕掛けられる程度には選りすぐられているらしい。非公式シャンフロwikiのプレイヤー事件欄に“バレンタイン・レイド”*1として項目が追加された先日の虐殺を思い出しながらそう思う。
これは加入希望者とクランのモチベーションにギャップを生じさせないための最低限の配慮なのだ。加えて、クランによっては運営プレイヤーが直接面談を行うこともある。
『動物は好きかしら?』
『ここは汚物に満ち、塗れ、溢れかえっている。素晴らしいじゃあないか』
『……“合格”よ』
『ティーアスたん良いよナ……』
『良い……』
『────“本物”だなお前ェ』
面談実施で特に有名なのはSF-ZOOと着せ替え隊で、その内容は一癖も二癖もあるらしく……“愛”が不十分と見なされればつまみ出されるのだとか。
ここまでは大多数のクランが行っている取り組みであるけど、上位クランの中にはさらに入団試験を実施しメンバーを厳選している所もある。そして私が属する黒狼もその一つ……というか代表格だ。
「サイガー0と申します! シャンフロ歴は半年でクラン:
「これはこれはご丁寧に、こちらこそよろしくお願いします。…………いやごめん、なんかの面接官になった気分」
「た、確かにこれは堅すぎますね……じゃあ次は────やっほ〜! サイガー0だよ☆ 気軽に“レイ”って呼ん「
(あれ? ワイちゃんどうしてこんな事に付き合ってるのん? そもそもなんで自己紹介の練習……??)
最近、黒狼の入団試験を突破したプレイヤーとクランリーダーたる姉さんの面談に立ち会った時のこと。
面談と言っても合否に関わるものではなく、最終的な意思確認でしかないことは最初に姉さんも伝えていたのだけど……その人の緊張ぶりは目も当てらないほどで、自分で自分が何を話しているのか分かっていない様子が印象に残っている。
曰く…………『
……姉さん目的で入団しようとする女性ファンは相当数居るけど、ほぼ全員が試験で振るい落とされるだけに『ついに出たかあ』と遠い目をしていた。
レベル90以上が推奨される試験をレベル80前半で合格できるほどの実力があり、試験中もほとんど取り乱さない安定感を示していながら姉さんと対面した途端の有様を見た私は…………ふと、自分の場合を考えた。そして────
『は……はひ、はじめまひ、ひ、ひづと……………………ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ”』
二の舞を演じることは火を見るより明らかだ。写真を相手に見立てた予行演習でそれだったし……。
そこで私はその写真に写っていた
『あー? そんなん、百回でも千回でも繰り返してパフォーマンス安定させるんがイチバンやろ』
『そ、そうですよね……』
『ワイちゃんならしょーもないその場しのぎを探す暇で一回でも多く練習して下ブレても対応できる状態に近づけるわ。それが実力ってもんやない?』
『じ、“実力”……! ────虎人さん、これから私の特訓にお付き合い頂けませんか?』
『さ、サイガー0が燃えとる……!? ……ええやろ、この大胸筋でなんぼでも受け止めたる。ワイちゃんめっちゃタフやし』
試行錯誤しつつかれこれ一時間。
時間帯・シチュエーションに合わせた
「……ところで最近さ、剣聖志望の女プレイヤーが黒狼入団試験受けたとか聞いたんやけど」
「合格しましたけど……推薦者だったんですか?」
「ちゃう。
どうやらダレてきたらしい虎人さんがそんなことを話してきた。
(言われて思い出したけど、あの新しい人って『目隠し鬼』の……)
梁山泊が“商品価値”を守るために行う“見せしめ”……そのうちの一つで、“推薦試合”という名目の下に執り行われた身の毛もよだつ
……昔は知らないけど現在の黒狼への加入ルートは2種類ある。
一つは正規のルート。
前提として『黒狼館があるフィフティシアに到達済』であることと『メンバーからの紹介』、それに加えて『入団試験の合格』が条件となっている。よく『レベル90以上』が必須という噂を耳にするけど、試験を行うエリアの推奨レベルが90以上であるだけでクランとして設定している条件ではない。*2
そしてもう一つが『虎人さんからの推薦』だ。こちらの場合は試験等も免除で面談のみという特別対応であり、さらに言えば姉さんとサブリーダーの派閥間で取り合いが発生する。戦力が担保されている以上は無理からぬことだけど……バカバカしいなとたまに思ってる。
本来は対人コンテンツに偏った活動をしている人が他コンテンツを志向した際に『強さに関しては間違いないよ』と虎人さんが保証し各種クランへの合流を手助けるものだけど……たまに『タイガーマスクに気に入られれば楽にトップクラン入り出来る』と勘違いし、地獄を見てタイガーマスクアンチスレに仲間入りする人が現れるのだ。
実力不足のプレイヤーが虎人さんの推薦を受けることはハッキリ言って普通に入団するよりも遥かに厳しく、特に黒狼への推薦を希望する場合は姉さんへの忖度も加わって『そんなんであのワンちゃんとやれんの? あぁ?』と、甘えた心を粉微塵になるまで砕かれる。
(『目をつぶっていても勝てる』をただの文句じゃなくて実践するんだもんなぁ……私もたまにやられるし)
「……あなたを倒して剣聖になるって言ってましたよ?」
「ええやん。顔見に行くから後で名前教えてな」
「本当にやめてください。……それよりふと気になったのですが、梁山泊のクラン加入条件って何かありましたっけ?」
「月四試合以上のPvPコンテンツ参加が必須で、あとは試合が配信されることへの同意やけど……恥ずかしいとか手の内拡散されたくないとかってやつもおるからこっちは任意。ぶっちゃけ出入りほぼ自由よ」
天ぷら騎士団もそうだけど、トップクランにあるまじき緩さだなぁ。
「そろそろ練習再開しますね」
「アッハイ。……正直もう飽きたよワイちゃん」
「……確かに私も、な、なんというか……虎人さんに慣れただけって感覚があるんですよね」
「てかワイちゃんなんてサイガー0が部屋の置物に見えてきてるし」
同じ部屋、同じ顔、同じ声。
そんな変化のない環境で同じ内容を繰り返せば認知機能の低下は免れないということだろう。
「他に誰か呼ぶ?」
「それはちょっと……いや、呼ぶとしても誰を?」
「……………………サイガー100?」
「絶対に嫌です」
「とりま見た目だけでも変えるかぁ」
「あ、落ち着かないので顔は隠してくださいね」
そう言って虎人さんは目がチカチカする色の虎マスクと虎マントを外し…………なんだっけ。ファステイアかセカンディルのNPC防具店で見た事がある、青い鳥の覆面を装備した。
「とりま見た目はヨシ、後は……ア、ァ、アッ、ン"ッッッ────声も変えてみっか」
「み"ッッッ!?!?」
せ、声帯模写!?
い、いや……いやいやいやいやそこじゃなくて!! こ、この
「アッアッアッアッ」
「普段の声とだいぶ違って驚いたろ? ディープスローターってク……やつがいるんだけど、そいつがまた器用でさ。VRシステムの特性だかなんだかよく分かんねえ部分を上手くやって完璧な声マネが出来るんだと」
「そ、そそそそそその……え、つまっ……あのっ!?」
「えっ……そ、そんなになるまでの声か……?」
普段学校等で遠巻きに耳にする本人のものよりもやや低く、どこか語尾の伸びにやらしさを感じる非常によく似た声…………や、やらしいって言っても別にそういう意味じゃないけどっ! な、なんと言ったらいいか……覆面越しでも“にやけ”ているのが分かるような、多分私の中のイメージよりも解像度の高い表現なのだと思う。
「しばらく前にサイガー100とアーサー・ペンシルゴンの声真似にあっさり騙されたことがあって『こりゃすげぇ』って教えてもらっ、たんだけど…………ウケ良すぎじゃね?
「は、話し方まで合、変える必要あります!?」
「声だけ変えようとしたらギクシャクするんだよ……それよりホラ、やるんだろ続き。早く終わらせちまおう」
服装はだいぶアレだけど、口調・声そして恐らくは身振りに至るまで
…………まあ、うん、度肝を抜かれたものの期せずして限りなく本番に近いシミュレーションを行うことが出来ると思えば、むしろ良い、はず。
大丈夫、出来る……私は出来る…………いつも真奈さんと周布くんから薫陶を全身全霊で受けている斎賀怜なら出来る……!
「は……はひ、はじめまひ、ひ、ひづ……」
「こりゃしばらくダメそうだな……」
(あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ”……)
ムリ……ムリ、ホントムリ……
だって……居るんだもん、そこ……
目の前のこの、虎人さん……だったはずの鳥の人────
(陽務君だもの〜〜~〜〜~ッッッ!!!!
「────
「なんすか」
「……………………
「ナニ言ってんの
「アッ」
「強制ログアウト!? 一人で悶えてたあのクソ女といい勝負やん……!」
斎賀怜の意識は途切れた。
……その後、彼女は泣いた。告白はおろか自己紹介さえ出来ていない相手に袖にされ、ショックで一晩中枕を濡らした。
ここ1ヶ月強、引越しとか身の回りが忙しなくて全く書けていませんでした。最近になってようやく余裕が出てきたのでちょこちょこ更新していきます。見捨てないで(メンヘラ二度打ち)
レイちゃんのバレンタイン話兼モモちゃんの誕生日エピは時期遅れですが書きます(宣誓)
サイガー0:文句があれば本人に言ったり言わなかったり
ディープスローター:フレンドにアンチスレの住人が多数
京極:アンチスレの姫
虎の声帯模写:実際にはディプスロのものとは別物。VR上でもそういう事ができると知見を得た虎が現実で練習し、一定水準に達した後でディプスロによるブラッシュアップ(拒否権なし)を経てお墨付きを受けた技術。単に音声データとして声を分析した場合はディプスロのそれには数段劣るものの、感情・口調・癖等の解像度が高く厚みがあり、聞く人により“本物”だと受け取られる、つまりエロい。その手のジャンルが好きな人種にバカウケする。
モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?
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あ、いっすよ(快諾)
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頭湧いてるんですか?
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そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも