シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない 作:嘉神すくすく
怜ちゃん♪ 怜ちゃん♪ バレンタインチョコ渡せない怜ちゃん♪(断定)
怜ちゃん♪ 怜ちゃん♪ 靴箱に入れる度胸すらない怜ちゃん♪(確定)
ご覧♪ 怜ちゃん♪ あの手にあるチョコ♪
目ぇ背けるな、手作りトリュフチョコが義理なわけねぇだろ
可愛いね♪ 怜ちゃん♪
バレンタインデー、当日。
登校している男女の様子が浮き足立っている、そう見えるのは私がそうだからだろうか。
……かじかむ手を揉み、息を吐きかけながら、あの人が通りかかるのを待つ。僅かに熱を取り戻した指先で、学生鞄の内に秘めたそれに触れる。
勇気が足りなくて特別な形には出来なかったけど……それでも、私にとって何よりも特別な想いの結晶は確かにそこにあった。もはや何度目かも分からない確認だった。
(8時5分……寝坊とか、してないといいなぁ)
この日のために何度も……シャンフロでという但し書きは付くけど、声をかけるシミュレーションをした。
スタンダードに歩いてくるパターン以外にも大慌てで走ってくるパターン、友達と一緒におしゃべりしながら登校してくるパターンや妹さんを怒らせてるパターンetcetc……『数をこなして下振れを減らす』というアドバイスに従い、あらゆるシチュエーションで自然と声をかけられるように虎人さんと特訓した今の
……それでも遅刻寸前の状況下となると遠慮が勝るかもしれないから、余裕をもって来て欲しかった。……今この登校時間帯というチャンスを逃した場合は正直後がない。周りの目がある学校で渡すというのは…………虎メンタルではない私にとっては控えめに言ってハードルが高すぎる、およそ間違いなく実行できないと思う。
(デッドラインは放課後、お稽古事の送迎の時間まで……!)
虎人さんの薫陶を思い返す……『万全は常に過去にある、戦いになった瞬間から人間にベストコンディションはありえない』……!
(“
待ち人、来たれり。
穏やかな足取りの彼────陽務楽郎くんは、いつも通りの眠気まなこだけど
「な、何か良いことがあったのかな……?」
……新しいゲームをクリアした直後とかだろうか。やや上機嫌なその表情を見て、首元から頭にかけて瞬間的に熱が増した。
「
(……な、何か食べてる。 朝ごはん、じゃなさそう……?)
平日の内3日程度は菓子パンを片手に登校する陽務くんだけど、それとは異なる小さな袋を片手に持ち、もう片方の手の指先で中身をつまんで有り難そうに口へと運んでいく。
「なんだろう、赤と黒の丸くて一口サイズの……………………コ゚ッ」
……“それ”の正体に気付いた次の瞬間に、私の膝は砕け、声は枯れ、気管支が酷く狭まったのを感じ取った。
“それ”は、自然な光沢を放つ食物である。
“それ”は、親指ほどの球体であり、一つ一つにハートや花びらが散りばめられている。
“それ”は、リボンで封をされていた質の高い紙袋に梱包されている。
そして────
「……トリュフチョコってご家庭で手作り出来るもんなんだな。いや、でもホワイトチョコでコーティングって素人のレベルか……?」
( い や あ あ あ あ あ あ あ あ )
“それ”は、バレンタインシーズンのにわかシコラティエ達の思い付きに対し確かな現実を示す、多数の工程と難易度を誇っている。
……彼の背中が小さくなっていく。
昨夜日付が変わるまで重ねた試行回数は、私の数段上を行く“それ”を前に砕け散ってしまった。
「────誰が“あれ”を?」
確かめなければならない。
◇ ◇ ◇
「でさー、その『労災』って落ちモノゲーがまたクソで」
「……ちょっと待て。まさかとは思ってたが、この前ライガーチャンネルで“助手T”が呼んだクソゲーマーって!?」
「え、お前リスナーだったの?」
「初期からの“
昼休み。本を読むフリをして陽務くんとクラスの男子の会話に聞き耳を立てている。
……登校してから今まで、チョコを渡すチャンスを伺いつつ“あれ”の贈り主の手がかりを掴もうとしていたのだけど、びっくりするほど何も無い。さらに言うとチョコを貰っていない同士のクラスメイト達とバカ騒ぎをし、実は貰っていた一人を一緒になって吊るしあげていた。
隠しているのか、あるいはそもそも贈り主は校内に居ないのか……
「お、おい……どこのどちら様と連絡を?」
「────今から校内200人の仔獅子、その中の親衛隊50人がお前に
「50!?」
ほんの数日前に陽務くんは“友人S”というプレイヤーネームで、麗華さん……紫電ライガのゲーム配信枠にゲスト出演していた。
トータル15時間費やしたスコアアタックで目標を出来ず心が折れた配信者の代理として、攻略できる見込みが高いコンビとして“助手T”こと虎人さんが呼んだらしく……『さっき配信告知出たばかりなんやけど、今度友達をライガの姐さんの枠に呼ぶんだー、楽しみやなー』という身内告知を受けた私もリアルタイムでコメントしていた。
……配信視聴をシャンフロより優先したことで今は姉さんとケンカ中だけど、どうでもいいことだ。
(まさかアレを贈ったのは勅使河原麗華さん……ッ!?)
だとすればあのチョコのクオリティも納得が立つ。麗華さんならあれが出来る……
(けど麗華さんって関東の人だし……そもそも、そんな贈り物が出来る立場の人じゃない……というか陽務くんとの関係は────えっ)
「なにっ」
「な、なんだあっ」
「すごい数の信者が集まってきている……!」
廊下の左右、両方向からそれぞれ一クラス分の生徒が性別学年問わず列を正して大挙してきた……!
え、本当に50人!?
「何者ですか?」
「グワーッ!」
「何者ですか?」
「グワーッ!」
「何者ですか?」
「グワーッ!」
隙間ない人の壁の向こうでは何が行われてるんだろう……
◇ ◇ ◇
…………結局放課後までチョコは渡せず、贈り主の特定はおろか手がかりすら掴めなかった。
「……なにこの、なに……? 見た目ただの板チョコなのにすごく美味しい……えぇ……? 感動より困惑が勝る……怖いわ……!」
放課後の稽古が終わった今、気持ちのやり場がなくなった私はロックロールに足を運んだ。渡せなかったチョコを真奈さんに片付けてもらっている。
「……話を戻すけど、彼の周りでそんなパティシエみたいな真似が出来る女の子の話なんて聞いた事ないわよ?」
「ですよね……中学の頃を含めてもそんな特技の子が身近に居た記憶はありませんし、そこまで関係が深い人と一緒にいたことは間違いなくありません……!」
「断言出来ちゃうの……?」
真奈さんも心当たりは無いとなると、後は虎人さん……周布くんしか知ってそうな人はいない。
しかし私とあの人はシャンフロのサイガー0と虎人というゲーム上の繋がりでしかなく、リアルの交友関係を聞き出せる関係にはないのが悩みだった。
(かと言ってカミングアウトするのは普通に怖いんだよね……良い人なんだけど)
ゲームだとケンカになっても遊びで済むけど、リアルだと姉二人を含めた3人がかりでも相手にならなそうな脅威度を前に健全な友好関係を築ける自信が無い……正直、お爺様でも厳しいと思う。
「……ま、真奈さん。代わりに周布くんにも聞いて貰えませんか……? 私ではちょっと……」
「しょうがないわね……まあ私も気になるし。……あ、噂をすれば────怜ちゃん、どこへっ」
商品棚に身を隠してお店の入口へ意識を向けると……人好きな笑みを浮かべた周布くんが、天井から吊り下げられた掲示物に髪を掠めながら入店してきた。
「こんばんは岩巻さん。……なんその高級そうな板チョコ」
「意気地無しの置き土産よ」
「誰かは知らんけどダメだったんやね……ふあぁ」
「あら、寝不足?」
「昨日寝たのが遅くて……」
(ほんっとうっっに申し訳ありません……ッ!)
遅くまでお付き合い頂いた上で何の成果も得られませんでした……
「周布くんも食べる?」
「あ、じゃーちょっと……
「……ねえ周布くん、男子的にはこのチョコを今日貰ってたらどう思う?」
「んえっ? いや、こんなん店売りだろーと手作りだろーとどっちでも特別やと思う、嬉しいかは相手による。これ食って何も感じ取れんヤツはそもそも貰う資格無いと思う」
「勿体ないわよねぇ」
「おいちい」
うぅ……真奈さんがすごい目でこっち見てる。
「……周布くんの周りでこれ作れる女子って誰かいる?」
「女子……? いや、知らん…………ってか、これを? …………10年そこらの蓄積で出せてええ完成度なん?」
「いないかぁ……じゃあ陽務くんのご家族とか周りは?」
「絶対おらん。おっても親戚くらい? 聞いた事ないケド」
「……これ作れるってすごいのね、無駄に」
「おいちい……おいちい……」
周布くんが知らないということは身近な存在で深い関係の相手がいるとは考えにくく、他校の生徒という線も薄い。
だとしたら麗華さんのように遠方の人……かもしれない。
……ふと、陽務くんのゲーム友達について虎人さんが話したのを思い出した。
一人は『頭のおかしい界隈』(原文ママ)において陽務くんが尊敬する人物だという男性。
一人は虎人さんの格ゲー友達でもあり共通の友人となる、『カツオ』という男性。
……そしてもう一人が、前述の二人と異なり虎人さんは直接話したことがないものの『罵りあいが出来る関係っぽい』という……
(…………うううううううう……!)
目尻から漏れ出た不安感を拭き取りつつことの成り行きを見守っていると────
「よっ、練習帰りか?」
「ラク? 自分が夜外出るとか珍しいやん」
「『労災』のストーリーが思ったより薄くて早く終わったんだよ。マジで“現場監督”にリソース9割ぶち込んでたぞあのゲーム……」
(みっ!? ひ、ひひ、陽務くん……っ!?)
平日の夕方以降は基本ご自宅に居て、出かけるとしてもコンビニ程度な陽務くんがこの時間にロックロールに来店するのはとても珍しい。
どうやら新しいゲームを求めてきたようだった。
(こ、こんなことなら真奈さんにチョコ渡すんじゃなかったぁ……!)
実際に渡せたかはさておいて、
「(ハァ…………)いらっしゃい、陽務くん。いきなりだけど君って今日誰かからチョコ貰った?」
「貰ってませんけど何か文句ありますかねェ……??」
グッッッッ
「イヤイヤイヤ! ぜんっぜん! むしろ良いわ!」
「……なんかアホほど肯定するやん。てか岩巻さん、ワイちゃんには聞かんの?」
「魚に対して『あなたは泳げますか?』って聞くやつがあるかよ」
「そういうことね」(そういうことです)
こっちはその肩にかけた大容量エナメルバッグにこれでもかと詰め込まれている前提で話を進めているんです、話の腰を折らないでください。
「まあまあまあ、細かいことはいいの! そんなことより陽務くん……これ食べて感想聞かせてもらえる? どんな想いが込められているか感じながら、可能な限り具体的にねっ……!」
「えっ!?」
「あっ……」
(!! 真奈さん……っ!)
直接思いを伝えることは出来なかったけど……そ、それでも! 陽務くんに食べて貰えるなら……!
「あ、あのう……」
あ、もちろんチョコのことですからね!? 何らやましい意図はありませんよ……!
「ちょっと……」
ずっと、ずっと陽務くんに味わって欲しかった……ついに、念願が叶────なんだか、さっきから周布くんが控えめに自己主張して……………………虎人さん?
「いや、あの……真奈さん、これ食えって……俺、なんかしました? ただの箱じゃないすか……」
「は? 何を言っ……………………周布くん」
「……すごく、すごい、おいちかったです」
「食い意地ィ!!」
「アーッ!」
(岩巻さんが作ったか貰ったチョコをこいつが全部食べちまったのかな……)
…………ま、まァ、これで周布くんを恨むのは筋違いですヨね? そもそもちゃんと渡せていなかった私が悪いのは変わらないのだから……ええ、ええ……!
「そもそもチョコに関しては昨日コイツからめちゃくちゃ良いやつ貰ったんで別に……」
なんて?
「……ごめん、よく聞こえなかった。なに?
「ちゃうよ? ワイちゃんのおばあちゃんが取引先に渡す用で量産するのを手伝ったんよ、その余りをこいつと瑠美ちゃんにあげたの。……あ、忘れる前に渡しとこ。はい岩巻さんこれ」
「…………あ〜〜〜〜、点と点が繋がったわ……ありがとう、来年度もよろしくお伝えしといて」
「お前のおばあさん税理士なんだよな? 貰ったやつプロ並だったんだけど……」
「確かにすごいわこれ……トリュフチョコを着色したホワイトチョコでコーティングした上にデコレーションまで散りばめられて……中のラズベリーソースが甘酸っぱくて、甘いチョコとマッチしてる……これでお店出してないとか世界の損失じゃない?」
「趣味は趣味だから楽しいって言うてた」
虎人さんから真奈さんに手渡された紙袋……それは今朝、陽務くんも手にしていた、紛れもない“それ”だった。
そういうことですか。
「それはそれとしてワイちゃんも愛情込めて作ったんだヨ?」
「聞きたくなかったよマジでよ」
「────────」
「っ!? 殺気……? いや、誰も居ない……?」
「あ……ありがとうございましたぁ……」
姉さんとケンカ中の私は今、シャンフロのリスポーンポイントをフィフティシアの黒狼館ではなく、フォルティアンのタイガー・コロッセオに変更している。
ログインしてくるのが待ち遠しいです、虎人さん。
怜ちゃんがいつまでも踏ん切りつけないので投稿がこんな時期になりました。そういうこととする。
怜ちゃんが虎を「周布くん」と呼んでいる時は畏怖が勝っている状態、ファイティングポーズを取る時は確定で「虎人さん」です。
モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?
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あ、いっすよ(快諾)
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頭湧いてるんですか?
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そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも