シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない 作:嘉神すくすく
サブタイは餞だよ、レイちゃん。
「『クリスマスを焼き払え~♪ 冥府の炎をプレゼント~♪ 楽しかった出来事を~♪ 女神の微笑みが薙ぎ払う~♪』」
「なんですかその邪悪なクリスマスソング……」
「
シャンフロサービス開始から最初のクリスマスシーズン。
このシャングリラフロンティアというゲームは現実の季節に合わせた期間限定イベント等は実施せず、さらに言えばクリスマスやサンタクロースといった概念自体がゲーム内に存在していない。
そんな運営の方針を世界観重視で
「普通にジングルベルとか悲しかった出来事を消し去るだけでいいじゃないですか。クリスマスに思うことがあっても怨嗟を燃やすほどではないでしょう?」
「まーワイちゃん的にはそうだけど……あの連中を前にしてそれはちょっと違うなーって」
……多数派に属する誰かが「ないなら創ればいいじゃない」と口にした。するとどうだ
「────これより天ぷら騎士団、クリスマス
「ガチの火あぶり……!? 人を誘う計画立ててただけでしょうがよえーっ」
「うっせぇ!! オラっ、磔にしろ! 薪は少しずつ増やしてガンガン燃やせー!!」
「 い や あ あ あ あ あ あ 」
「ミニスカサンタだ!!!!」
「いいやビキニサンタだ!!!!」
「待てよ、童貞を殺すトナカイセーターもあるんだぜ」
「テメェらなぁ……全部ヤる根性はねェってのか、あー?」
「「「サバさん……!」」」
「なにもサンタさんのイメージを現実そのままの白ひげおじいちゃんにする必要はありませんぞ。ならばそこにアルブレヒト様を……フヒヒ」
「それを言えば男である必要もないわ。そもそもこのゲームにクリスマスが無いということはかの聖人への信仰が存在しないというわけで……その座に相応しい存在は他にいるでしょ、ねえ?」
「宗教戦争の火蓋とはこうして切られるわけですなぁ……イヤーッ!!!!」
「聖女ちゃんサイコーッ!!!!」
「おいお前!? 店の備品持って行くなよ! 名匠お手製とはいえ形だけのオモチャ……射的用のライフルなんて武器になんねえぞ!?」
「オモチャでもいい……! 弾がコルクでもこれは確かに“銃”なんだ……ッ!! 僕にはこれが必要なんだっ」
「血涙流すほどか!? いや返せって……」
「ヤダーッ! (ジタバタ)」
「
家族や恋人との団欒とは程遠い人たちだなぁ。
「なー、射的の店番やっとる泣きぼくろタトゥーの彼なんやけどさ……もしかして今も黒狼で苦労人やってたりする?」
「はい……
「ごめんね……『今のお前は腑抜けている、浜辺で待つ』って伝えとくわ」
『殺してやる』という意味であることだけは伝わってきた。*2
それはさておき街はプレイヤーたる開拓者達……クリスマス・イヴおよびクリスマス当日に学校や仕事以外の予定が存在しない人たちの手によりお祭りムードが形成されていた。
ただの悪乗りと侮るなかれ。各方面の(様子がおかしいタイプの)プレイヤー達が一斉に、示し合わせて
「大好きなんだあああああああ!!!!」
「やりやがった……! やりやがったッ! マジかよあの野郎! “団長”ォ! 俺には手に負えねえ……っ!」
「この忙しいときにヤシロバード貴様ァ!!」
そんな稼ぎの
かくいう私は連日付き合わされたことで正直辟易していたところ、直近までボクシングの試合のためにイン率が低下していた虎人さんを数日ぶりに見かけたので愚痴を兼ねて近況報告した後だった。
「……虎人さんは何かご予定は? 姉さんはあの調子ですし、暇なのでは」
「今年はバイトやね。友達と一緒になんかのカフェのイベント手伝いに行くんよ」
「────へぇー、何ていうお店なんですか?」
「お、興味ある感じ? ほんなら後でメッセージ送るわ、店名しか教えて貰っとらんけど」
「はい、行けたら行きますね」
「すがすがしいくらい来ないやつやん。まあワイちゃんキッチンやしどうせ顔合わせられんのやけどなブヘヘヘヘ」
◇ ◇ ◇
バレンタイン・イヴの夜。
「おかえりなさいませ、お嬢様。席までご案内いたします」
「はい」
(ん? 初めてのお客さんだよな? 妙に堂に入ってて、自然体でお嬢様扱いしちゃった……)
行けたら行くと言いましたね? とても苦労しましたが、虎人さんには内緒で
ニット帽、伊達メガネ、口元まで覆えるマフラーの完全防備で今回訪れたのはカフェ『黒棺』。……俗に”執事喫茶”と呼ばれる女性向けのコンセプトカフェであり、近隣でも特に評価が高い店舗だった。二学期の終業式が行われた今日、かなりギリギリのタイミングだったけど学校で虎人さんの発言の裏を取ることができた。
つまり陽務くんがこのお店に────~~~ッ!?
「あの席にします!」
「えっ、よろしいのですか? あの席だとバトラーがよ「大丈夫ですッ」か、かしこまりました……御用の際はこちらのベルでお呼びください」
イミテーションの宝石がほどよく散りばめられたハンドベルを卓上に置いた後一礼し、案内をしてくれたその店員さんは去っていった。
私が希望したのは入口から最も遠く奥まった位置にあるために
「ミスタ・ラクロウ、氷の補充をお願いします」
「はー「返事は伸ばさない」ハイッ……!」
(い……いるぅぅぅぅ! 制服似合ってる〜〜〜ッ!)
芯まで冷えきった身体に熱が巡って頭まで火照るのを感じる…………曇り止め付きのメガネにしておいて本当に良かった……!!
ドリンクカウンターに立っている彼……おそらくは注文票と指示書を交互に見ながら飲み物作りに苦心しているのは、まぎれもなく陽務くんだ!!
「バトラー・ヒロト、休憩を差し上げられず恐縮ですが5番テーブルのレディ達がお待ちかねです、早急にお相手を。……あまり嫌そうな顔をするな────弱く見えるぞ」
「うへぇ……」
「急な欠員にご対応いただいたことは感謝に耐えません……しかし
「弱みは見せんなって意味……? かしこまりました……」
厨房……というより舞台袖だろうか、客の目を避けられる陰での会話が僅かに聞こえてくる。艶があり紳士的ながらどこか陰を感じる男性の声と、通りが良く人懐っこそうな聞き覚えがありすぎる声だった。……明らかに気疲れしている感じがしたが、客前に出てきた際はおくびにも出していない辺り本当にタフな人だ。あの容姿でどうして裏方に回してもらえると信じたのかは理解に苦しむけど。
「プロボクシング会の新星、話題性もレディ受けもこの上ない存在だ……よく連れて来てくれましたね、ミス・ルミ」
「兄の幼なじみなんです。前の試合で顔やられないかとヒヤヒヤしてました…………臨時ボーナス期待してます」
「勿論です。明日以降も継続勤務して頂けるならさらに────」
チリンチリーン
「このロイヤルコースをお願いします」
「承りました(単品注文の方が安くつくのにこのボッタクリ食べ放題コースを……? しかも事もなげに……このお嬢様、まさか“本物”!?)」
先程の密談は聞かなかったことにして、なるべく長く滞在できそうなメニューを選び注文を済ませる。こういうお店って条例に触れそうな値段設定しているイメージがあったけど、存外常識的で安心した。
「店ちょ……執事長、氷このくらいで良いですかね?」
「はい、ありがとうございます。……ミスタ・ラクロウ、少し手伝ってください」
(あぁ……)
陽務くんが戻ってきたと思ったら片眼鏡を掛けた本格派コスチュームの店長と再び奥へと行ってしまった。
手持ち無沙汰になったので店内を見渡したところ、四人組のお客さんの対応をしている虎人さん……周布くんの姿が目を引いた。
「へぇ、そちらのお
いつものエセ関西弁はお店の雰囲気に合わないのか、あるいはキャラ付けを指示されたのだろう周布くんの接客は他の人と比較して執事としては拙いものであったけど、むしろその不慣れながらも一所懸命な姿勢が『乙女ゲー的』で喜ばれているようにも見えた。
加えて女子というものは有名人に弱い。先週末にボクシングの試合で勝利し全日本新人王となった翌日以降、そのビジュアルが映えるからか各種メディアでもてはやされている御本人のおもてなしともなればウケるのは明白だ。
さらに高身長の肉体派でありながら、脂肪がほとんど無いからか身体の線も実際より細く見える女性の理想欲張りセットときたもので……本人は積極的にやりたがらないだろうけど、ホストとかこういう異性へ向けた接客業の適性は間違いなく最高だった。
(……でも、違うんだよね)
なんというか、響かない。
見た目だけでなく内面も…………アレなところはあれど優れていることを知っていてなお、私は彼を見ても店内の他の女性客のように浮き足立たない。
この周囲とのズレと、雨の日のような感覚はとても馴染み深い……隣人のようなものであった。
「────失礼します。お嬢様、本日のお紅茶のテイスティングをお願いします」
「……ああ、そういう。分かりました、紹介をお願いし────ヒュイッ!?!?」
「本来ロイヤルコースは給仕を専任するバトラーを一人選んで頂いてからのご案内となるのですが、手順の前後をお許しください……ミスター・ラクロウ、お願いします」
「は、はい……手前を失礼しますオジョーサマ……」
「……っ? ???? ────〜〜〜ッッッ!?!?」
え……へ?? はえ……っ????
「えっと……向かって左から、ダージリン、ウバ、キームン、オリジナルブレンドのハーブティーで、す」
「ロイヤルコースをご用命のお嬢様の望みは良識を逸脱しない限り全て承ります。……改めてまして、こちらが本日出勤のバトラー達です。一人お選びください」
…………陽務くんの横顔とか匂いとか、諸々のせいで何を言われているのかわからなかった。
「え……あの」
(ぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?)
陽務くん、が、目の、前、に。
「────バトラーのご指名はお決まりの際に改めて。ところで今はちょうど食事時ですので……バトラー・ラクロウ、お嬢様へ何かオススメを提示してください」
「バトっ、俺……!? いや急にオススメとか言われても……!」
「最終的に決めるのはお嬢様です。召し上がるお嬢様のことを考えた上で、自由に選んでください」
「ハイ……ええと、こちらのサラダとスープと、あとこのプレートとかいかがでしょうか……?」
「…………ッ!(ブンブンブンブンブンブン)」
「ウオッ……か、かしこまりました。失礼……致します」
……そのチョイスが彼の好きな物なのか、それとも私が
「……バトラー・ラクロウ。ご本人からバトラーのご指名が入るまで0番テーブルへの給仕は全ておまかせします。ドリンクは私が兼任しますのでそちらが疎かになっても構いません」
「あ、やっぱ俺も
店長…………いや、“執事長”……っ!!
この“館”が他と比べレビューが頭ひとつ抜けて好評である所以をこの数十秒で理解させられた。……おそらくあのデキる人には私の
え、だとすると……え!?
(何かを注文する度に陽務くんとお話ができちゃうってこと!?!?)
…………チリンチリーン
「はいっ、お待たせしましたオジョー様」
「…………(ユビサシ)」
「え? ええと……ポップコーンシュリンプですね、かしこまりました」
…………さようならお正月のお餅、私には向こう二週間よりも今日一日を優先する理由ができました。少しも惜しくはありません。
────なるべくお腹に溜まらないメニューを厳選し、可能な限り
己との戦いが今、ここに幕を開けた。
そのばん さいがれいは、 おなかが いたくて なきました。
いっぱいたべて、おおきくなれよ。
最強種とかのあれこれがなくてもシャンフロのイカレポンチたちは賑やかにやってて欲しいよねパパ。
ミス・妹:軍資金のために虎を騙して給仕させた主犯。クソデカいタンコブができた。
ミスタ・兄:臨時収入目当ての共犯。そこそこデカいタンコブができた。
バトラー・虎:クソ真面目に約1.5日間勤務した結果バトラー仕草が新学期まで染み付いたままになり、その間に今回無関係の社会人女性をはじめとした何人かの情緒を破壊した。
モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?
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あ、いっすよ(快諾)
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頭湧いてるんですか?
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そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも