シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない 作:嘉神すくすく
「今日はコスパの高いディフェンステクを教えたります」
「はい、よろしくお願いします」
姉さんが体調を崩したことで今日の黒狼メンバー・サイガー0としての活動が無くなった。……風邪程度なら構わずログインしてくる姉がVR機器から
「仮想敵はリュカオーン、あるいは同程度の大きさと重さの動物系エネミー。まともに盾受けとかしようもんならスタミナもHPもいくらあっても足らん階級差の相手が上方向から体重乗せて殴ってくる……さらに自分が前出てヘイト保持せんとパーティが壊滅するっちゅう、下手に飛んだり跳ねたり自分だけ生き残る行動が出来ん状況をイメージしてな?」
普段何かと雑な虎人さんだが、戦闘が関与する場面においてはその限りではなくとても具体的だ。
このゲームの戦闘システムへの解像度が非常に高く、目の前の相手の戦闘スタイルの適正と伸び代を手に取るように理解し、その上で本人の要望や憧れまで汲み取ることが出来るこの人は率直に言ってコーチングがとても上手だった。
…………
参考までに一週間前に行われた前回は受け身の訓練とか言ってすり鉢状の天然ダムの上から叩き落とされ、底から駆け上がって落下を繰り返し、最終的に三回デスした。……今回も仮想敵がリュカオーンという時点でろくでもない予感がする。
「まー、まずお手本からや。とりあえず大剣とか大槌とかなるべく重い武器で、リュカオーンの気持ちになってワイちゃんを殺す気で攻撃してみぃ」
「わかりました、思い切り行きます」
「……やれ言うといてアレやけど結構前向きなんひどくない?」
「殺れます」
「ヒエッ……ああ、もし食いしばり発動させられたらご褒美に
プレイヤー需要が高く市場価格が高い【
「今更遠慮はしませんけど……アンチノミーを相手に
「大剣なんてお前、リュカオーンからしたら人間で言う包丁程度やろ。ならこれでちょうどええわ、はよ来い」
「侮ってるわけじゃないのが怖い、なぁっ!」
会話の中で不意を突いたつもりの逆袈裟の斬り上げ、左腕でガードされてもまとめて胴体まで斬り飛ばせる踏み込みの深さとそれに正比例した速度だ。
「タイミングよし、踏み込みよし、でもダーメ」
「ヒィっ!?」
大剣の腹への大雑把な蹴り、しかしそう見えるだけで確かに狙い済まされたものだった。
相手の左腰から右肩へ突き抜けるはずだった斬撃の方向がかき乱され、私自身の力に虎人さんの蹴りの威力が加わり“飛来”してきた大剣を……握りを保持しつつも腕の力を抜き、敢えて振り回
「お、上手いやん。それが出来るんなら飲み込みも早そうやね」
「死ぬかと思った……ッ」
「打ってこいとは言うたが反撃せんとは言うとらんぞ。一応説明すると今のは“
「カウンター系スキルの補正無しで出来ていいことじゃありませんよ……!?」
「
おかしい……時に“スキルゲー”呼ばわりされるシャンフロにおける名実共にトップのプレイヤーであるこの人がそれを真っ向から否定している。
「というかね、ワイちゃんとしては他ゲーとは次元が違うシャンフロのイカレポンチ物理エンジンをもっと信じなさいよって皆に言い聞かせたいワケ」
「納得出来るわけないでしょう……」
「……よっしゃ、ならちょうど素手やし一つええ経験させたろ。ほら、もっぺん殺す気で斬ってこいや」
「────はあッ!!」
京極ちゃんではないけど、とりあえず斬ってから考えよう。
先程のように力の方向をズラされることも考慮に入れた上で、今度は上段からの袈裟斬り。虎人さんの右肩から左脇腹にかけて両断する軌道で────
「────〜〜〜〜ッッッ!?!?」
ぬろっ、と。剣の軌道が左後ろに
虎人さんの右前腕、胴体から伸びる刻傷の先端あたりにアンチノミーが触れた、刃が確かに触れた。
だのに斬れておらず、構えた大剣が斬り掛かる前とほぼ同じポジションへ戻っている。
「幼女ちゃんを相手に素手で剣の攻撃を防いだのは覚えとるな? 今のがそれや」
「あ、あの時の『素手パリィ』!? い、いや、でも今のは弾かれた感覚ではなかったはず……」
「そらそうや。今のはワイちゃんが弾いたんやなくて、自分が
「なにを言っ────え? いやでも……」
「
言いながら虎人さんは私の肩に手を添え、軽く押してきた。
「今、押された時に身体はどう反応したか言ってみ?」
「軽く仰け反って、自然と体勢を戻しました」
「うん。じゃあさっきの袈裟斬りに対してワイちゃんが腕をのばした時、サイガー0は何に注意しとった?」
「……また軌道をズラしてくると考え、そうされないよう気を引き締めていました」
「うん、ワイちゃんのことぶった斬るのに迷いが無かったとこも含め超エラい」
「で、ですが私が直前で躊躇して剣を引いた訳ではありません……! むしろ容赦なく振り抜いたはずですっ、なのに何故!?」
「ちょお泣いていい?」
後で存分に涙してもらうようお願いすると、気を取り直した虎人さんは私に剣を構えさせてきた。
「こう、力の進行方向に対し横から別の力をかけられた時、気が抜けとったら最初みたく相手の思う通りにまんまとやられる訳やけど、今みたく注意しとったら意識的でも無意識でも『そうはいくか』とどうにかしようとする」
構えた剣の腹に触れて真横に押され、それに反発するよう腕に力が入るのを感じつつ…………虎人さんが何を言わんとしているのかはもう分かっている。ただ、ただ、私のこれまでの武道における経験が理解を拒んでいる。……中でも特に柔道のものが、否定せよと躍起になっている。
「
「そう言わんと練習してみ? 腕何本飛んでも無くならんのやから」
力の流れが目で見えてるくらいでないと出来ない……柔道における我が家のおじい様水準の所業を『ゲームの高等テクニック』くらいの感覚で語られた私は実際怒りすら抱いていた。
「べつにコレをそんままやれとは言わんよ、ワイちゃんだって他に手段がない時にしかやらんし。……ほら見て、ちょっと斬れとるやろ」
「わー、ほんとだー……じゃない! 刃に触れた上であんな真似を……?? 上手く
「実はとあるクs……ゲームで日本刀を素手でパリィする裏技みたいなのがあってな、シャンフロに慣れてきた頃に『出来るんじゃね?』と思いつきで試したんや。ほんで腕を数十回チョンパした末にたどり着いたってワケ。まー、システムアシスト悪用した元ゲーのそれとは見た目以外完全に別モンやけど……『ゲームで
ゲーム以外で出来るのはおかしくないみたいに言っていますが全くそんなことはありませんし、おかしいを通り越して『おぞましい』の領域ですよそれ。
「プレイ中は現実だの常識だのは忘れてまえ。自由に、
「…………っ??」
……なぜだか胸がザワつく独白だった。
「……いや、大人しく“レペルカウンター”とか使いますよ。そんな真似ができる人は虎人さんの他にいるわけないんですから」
「ハァ……だーかーらー、そーやって縮こまんなって
「…………それ、まさか私のモノマネじゃあないですよね?」
「そうでは無いことを願っとる。……ただ、自分がクソゲーマーな例の彼とお話しすら出来なのは正直こんな────あっぶな!? マジなんかよ……! ……あのっ、サイガー0さん……? 気に触ったのなら謝りますんでぇ……そのぉ……無言のガチキルムーブ一旦止めて貰えませんかね……!?」
◇ ◇ ◇
「…………柔道の経験とかおありで?」
「中学の頃に週3で道場に通っとった。……これ以上は危険だ、話題を変えるぞ。学校の先生の受け売りやけど独身税がやばい」
「いきなりな上に
「公共*1の授業中に担任の先生が愚痴ってたんよ、『少子化対策とか言って独身からカネ巻き上げるとかイカレてんのかよえーっ』て」
一回キルされた直後に蘇生され冷静になった私は虎人さんの取り留めのない話を大人しく聞く。……柔道に関しては一定以上の心得と自負がある私がゲームとは言え『ふわっ』と、条件反射による抵抗が起こらないまま宙に浮かされ、次の瞬間には頭部を地面に叩きつけ潰されたのだ。得意分野で、しかもフィジカルの差が無いにも関わらず格付けされればこうもなる。
「実際には税金やなくて保険料らしいんやけど、なんか『保険料の調整なら反発が生まれにくいからってかァ!? 未婚率が高ェのは税金と保険料でカネねぇからだろがクソッ!!』って」
「教師の発言とは思えない……! 流石に意訳ですよね……?」
「残念ながら原文ママやね。コンパで酔ってやらかして男の人に逃げられたらしくて……学校じゃ笑い話として消化できんレベルの剣幕やった」
教師の奇行や変な話なんて高校生からすれば絶好の話題に他ならないはずなのに……虎人さんのクラスがおよそ間違いなく
「今度の春から年間五千円とか一万とか持ってかれるらしいわ」
「年間と言うことは、ひと月400円とか800円とか? あまり大した金額では……」
「ぶっちゃけ聞いた直後はワイちゃんもそー思った。しゃあけどなんか段階的に引き上げられて3年後には月千円とか千五百円になるらしいんよ。『ふざけんな』と声あげようかしたタイミングで先生がガチギレしだしたせいでの……学校じゃ話せんからこの思いを誰かと分かち合いたくてしゃーなかったのよ」
「ひどい話ですね」
プイプイと
「将来ちゃんと選挙に行きましょうね」
「うん」
「ところで姉の体調について詳しく聞いてませんか?
選挙権を持たない未成年の被扶養者である私たちではどうにも出来ない話は打ち切り、実の所かなり気がかりな姉の件に話題を切り替える。
百姉さんは私達三姉妹の中で身体が最も強く体力もあり、記憶にある限りでは風邪で寝込んでいる姿は見たことがなく、インフルエンザ等の流行病で学校を休んでいる時もケロッとしていたほどだ。病気になった経験が少ないせいか仮病をしてもバレると学校でボヤくことがあったと天音さんから聞かされたこともある。
「あ? ちょお待って…………最終ログイン昨日の夜、いや今日の明け方か。……ログインしとらんの?
「えっ、知らないんですか? 体調を考慮して
「ハァ!? 待ってそんなん知らんぞワイちゃんっ、昼間ピンピンしとったし、ごつ盛りの豚骨に煮豚と煮卵までしっかり完食しとったが!?」
「〜〜〜〜〜────ッッッ!!!!」
武器を取り出そうとした自分自身をギリギリのところで制止できた。
(この人はまた当然のように……ッ)
……それが既知の習慣であること、少なくとも今この場においては本人に悪気が無いこと、何より今斬りかかったところで通用せず話の腰を折るだけで終わることは分かりきっている。
「そ、そうなんですかァ……! ちょッッとその時の様子とか、聞かせてもらってモ……?」
「さっきのことはマジごめんって……」
なんとか気を静め詳細を聞き出すことに専念する。
「とは言えいつもと一緒よ? チラチラこっち見ながら在宅ワークしとるサイガー100と、やる事やってスマホいじるワイちゃん……たま〜にスプレッドの関数について口出しする以外は適当にダべってて、向こうの仕事が済んでシャンフロにログインするタイミングで解散……マジでいつも通りで、咳とかお腹痛そうな様子も無かったんやけど」
「……虎人さんが帰った後出かけたりとかは?」
「多分ない。何かしらの日用品が切れとったらワイちゃんが先に気付くし、なんか用事がある様子も無かったわ」
(これ仙姉さん知られたら絶対ダメなやつ……!)
私生活を掌握されている上に覗き見がバレている姉への哀れみと羨望が混在しているのが自分でわかる……そこまで他人の不審挙動に気付くこの人が言うのだから、少なくとも一緒にいる時から体調が悪かったということはないのだろう。
しかしそれなら帰省や出張等に際しても旅先にVR機器一式を持参するほどの姉がログインしてこず、わざわざ私に黒狼メンバーへの伝言まで頼んでくるのは不自然だ。
(……ん? 『ダべってた』って具体的には…………まさか)
私……その内容に心当たりがあるんです。知ったばかりの事を共有したがるこの人にとって、私という人物は話し相手の優先度としてきっと高い方ではあるけどトップでは断じてないからだ。
「虎人さん……? さっきの保険料の話って姉さんにもしました、よね……?」
「トーゼンやん。あん人に相手がおらんからワイちゃんイロイロやっとるわけやし、家計に関わる話をせんわけ無いやろ」
「でしょうね……(チャキッ」
「何故に武装を……?」
いつでも殺れるよう準備しているんですよ。
「まあお気になさらず続けてください」
「そう……? ほんで社会人だけあって『理不尽な……社保なら法改正が要らないからか? ア”ァ”……?』とか言うとったもんでな、実質増税やしそらそうよ。まー、でな? 先生が『偽装……控除……非課税投資枠…………そうだ、いっそお前らの誰かを────ッ!!』だのと実力行使に及んでクラスを恐怖のどん底に陥れたこともあって……相手の有無は置いといて、偽装結婚とかするレベルで有利なんかとポチポチ調べながら話したワケ」
「……確かに色々な制度を受けられるとは聞きますけど、具体的な内容を知る機会ってありませんからね」
今週のローカルニュースで虎人さんの学校の名前を見聞きしなかった事実に日本の未来を憂慮しつつ、何を話したのか大まかな見当を付けた。
「まあ、姉さんはそんなことする人じゃ無いですよ。身元がハッキリしてる家のお見合い相手さえ袖にしてるのに、自分でそんな都合のいい相手を見つけるなんてとてもとて、も……………………あの、まさか」
「おー、『
◇ ◇ ◇
その後、黒狼館内のリスポーンポイントに死に戻りした私の後にもう一人、タイムリーな人物が姿を現した。
「姉さん、イン出来たんだ」
「……ああ、時間はかかったがなんとかな。それよりもお前、それって【
「いやこれは……虎人さんからのご褒b「トッッッッ!?!?!?!?」
…………ログインするのに何時間かけたのか分からない姉さんは、ほんの数秒で強制ログアウトしてしまった。身体は頑強でも心はそうでもなかったらしい。
しかし無理からぬことだと思う……私だってあの人みたいにふざけたことを陽務くんから言われようものなら────
「はうっ」
…………。
…………。
…………。
その日は再ログイン出来なかった。
過去に頂いた感想の中に「楽郎や玲ちゃんは中部住みってメガスターミーが言ってたぜ」というものがありました。
……で、実際に名古屋観光してきたのが俺……!!
名古屋、すげえっ。関東にも関西にもアクセスしやすい上に住みやすすぎルと申します。
玲ちゃん達の住んでる地域が神奈川とか横浜とか千葉とか言ってた奴は荼毘に伏したよ。
我が住んでいる地域は秋津茜ちゃんと同レベルなので漫画の新刊とか発売日に入荷することはありません(半ギレ)
応援ペーパーの玲ちゃん目当てで漫画25巻を紙媒体で予約したものの、これ投稿してる時点ではまだ拝めていません(全ギレ)
この怒りを玲ちゃんにぶつけよう!!
虎(リアル)の戦闘力:各方面の達人が自分の得意分野とそのルール内で戦えば一応有利取れるレベル。
剣道でやり合う場合、京極パパなら勝てるけど息子達とか京極ちゃんでは無理。力士なら相撲でやり合えば当然勝てるけど総合格闘ルールでは無理。なんでもありの素手喧嘩だと人類ではほぼムリなので抑止力としてハイエンド・トダーが存在している。
ルールとは競技を成立させるために存在するのです。
モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?
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あ、いっすよ(快諾)
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頭湧いてるんですか?
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そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも