シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない 作:嘉神すくすく
「ええと……わ、私はノルマを課されたり無理強いされたりとか嫌いなんです、それでも強くなれますか?」
「はい! 強くなれますよ」
「私はレベルは低いし知識もそこそこで、これまでMMOをやり込んだこともありません。それでも強くなれますか?」
「はい! 強くなれますよ」
「姉さんや貴方よりも強くなれますか?」
「はい! 一所懸命プレイすればサイガー100やワイちゃんよりも強くなれますよ(ニコニコ)」
「わ、わかりました……改めてよろしくお願いします」
「これから本物の“虎”に育てたる、“タイガー・インプリンティング”や」
「そ、それは遠慮します……」
「えー」
……Onxsさん*1から事前に教わっていた定型じみたお願いの為に街の往来に正座していた私は膝の埃を払い落としつつ立ち上がる。虎人さんから本腰の入った教えを乞うにあたっての儀礼というか作法に近いものらしい。
虎人さんとフレンドになってからしばらく、ある程度打ち解けた頃合いを見て私は彼に弟子入り……というのは大袈裟かな、ティーチングをお願いしたところ何の見返りも提示できないにも関わらず快諾された。姉さんから『良くしてやってくれ』と頼まれていたことが大きかったようで、とてもありがたいことだった。
「それはそうとマッダイさんから話は聞いとるで。駆け足気味に黒狼に合流したでコンテンツの取りこぼしだか達成状況だかが気になるんやて?」
「はい……姉の下でばかり活動しているとどうしてもリュカオーン関係に寄ってしまうので。と、とりあえず満遍なくこのゲームの事を学び直したいな、と……」
「あーね。このゲームってやることキッチリ決めとると他のことが分からんくなってくるしええと思う」
……シャンフロを初めて以来クラン:黒狼の皆さんから様々な知識を教わってきたものの、ゲーム理解度が深まりつつある最近はその内容が偏重していることが気になりだした。
中でも甲斐甲斐しくしてくれる姉さんには特に感謝しているけど、何につけてもクランの利益に繋がる活動に誘導してくるきらいがあるためあまり唯々諾々としていると将来的に私個人の目標達成に支障をきたしかねない……いつの日か陽務くんと一緒にプレイする時を思うと“夜襲のリュカオーン”にばかり気を取られるわけにはいかなかった。
それである日、話しづらい姉さんの代わりに相談したマッシブダイナマイトさんから提案されたのが虎人さんを頼ることだった。
この人は対人第一のプレイヤーだけど意外なことにPvP以外の多種多様なコンテンツにも触れている。…………より言うと誘われたら二つ返事かつ無警戒で遊びに行く気質から様々なプレイヤーと交流があり、それに伴い築かれた各方面へのパイプを活用しつつビギナーや中堅手前のプレイヤー達を導いてきた実績があるのだとか。
ただ最近では紫電ライガさんの動画配信に週数回ゲスト出演しシャンフロという界隈の裾野を広げていたりと結構……いやとても忙しいはず。加えて知名度も抜群なこの人から
「あ、あのー……今更なんですけど私を、というか他クランのプレイヤーをティーチングするのを梁山泊の方とか、配信のリスナーさんとかに何か言われたりしないんですか……?」
「あ? そんなん知らん、ワイちゃんはワイちゃんがやりたいよーにやる。……てかフツーに友達と遊んどるだけで口挟んでくるようなクソボケの言う事なぞ聞く意味無いやん」
「え、えぇ……」
「そういうしょーもないこと気にする暇でやれることは山ほどあるって話、マジでやり尽くせんほどあるし。まー、もしそんなくだらん奴に絡まれたらワイちゃんが百人でも千人でも相手して…………突然やけど明日の配信に出てくれない? 一分だけでええから」
「嫌です」
私の事を
「ほなとりあえず
「切り替えが早い……稼ぎって、マーニとか素材ですか?」
「それもええけど将来的にもっと役に立つもんやね。とりまコチラの素敵な掲示板をご覧あさぁせ」
そう言って指し示されたのはどの街にも複数点在している依頼掲示板……シャンフロに限らず古今東西あらゆるゲームに存在するクエストのシンボルマークだ。
シャンフロにおいてユニークを冠するクエストの価値と希少性は今更語るまでもないけど……その対にあたる一般的なクエスト、中でも全プレイヤーがほぼ無条件で請け負うことが出来る公示された案件はリスクリターンやタイムパフォーマンスの観点から価値が低く見られており、かくいう私もある程度ゲームに慣れてからはクランの皆さんの勧めもあって手を出さなくなった。誰もが始めたての頃はゲームシステムへの慣らしとして難易度の低いクエストをこなしつつより高難易度のクエストに挑戦していくのがセオリーではあるものの、如何せんありふれた内容のクエストは報酬も分相応であるため手間をかけるほどの旨味を感じなくなっていく。
ただそう言った薄味な類のクエストが大半を占める一方で高難易度かつ報酬も大きいクエストもあるものの────
「おー、とりまここにあるクエスト全部回る」
「ぜ、全部ですか……? いや、あの、“はぐれドラゴン討伐”ってこの辺りの平均レベルだとフルパーティでもかなりキツイ難易度ですよね……? それにこれとか、こ、これも……ど、どれもついで程度の感覚で請け負う内容じゃありませんよ!?」
「リアクションがサイガー100そっくり、うふふ」
信じられない物を見る姉さんの顔が目に浮かぶようだ……のほほんとした様子で前科を開示された私も今きっと同じ表情を浮かべているはず。
……このゲームにおけるクエストの難易度は青天井であり、誰もが当たり前に手を伸ばせる範疇にさえ万全の準備をしなければクリアすら出来ず、それでいて人手と労力に見合うほどの報酬が得られるとも限らないクエストが相当数存在する。そしてそれらの大半に関して攻略推奨人数を揃え少なくない時間をかけて挑戦するくらいであれば、同じリソースでエリア周回をする方が建設的であるというのが私の周囲の評価だった。
「短期間でより多く、より広く活躍するんが……えっと…………なんか、あの隠しステータス? マツコ的やつを伸ばすコツなんよ」
「……マスクデータのことですか?」
「そうそれ。公式が何も言わんから事実は分からんけど、少なくとも【好感度】とか【信頼値】的なのは存在しとるはず。この辺が高いと何かとええ事が────」
『た、“タイガー・マスク”トラト様……ッ! 突然の無礼ご容赦ください……王国騎士団長より貴方様宛の書状を預かっております、どうかお目通し願います!』
「こんな感じにユニークが歩いて来たりするのん」
『は? ユニ……?』
「いいや、何でも。夜までに片付けたる」
『おお……!』
(あー、姉さんが話してたのってこれかぁ)
絶大なNPC人気を誇る虎人さんのもとには頻繁にネームドNPCやその関係各所からの指名依頼が届き、そこからさらに派生して数多のユニークにアプローチしている。その人気の根拠たるはコロシアムにおける
彼はクエストに関して選り好みをせず端から端まで、難易度と報酬が限りなく低い子供NPCの野良依頼からリスクリターンが釣り合っておらず塩漬けになったものまで目に付いた限りは全てこなすという。そうしてネームド・MOB問わずあらゆるNPCの【信頼値】を稼ぎ続けた果てに全プレイヤートップのユニーク保有者という現在の立場がある────そう前置きした上で『統計上の外れ値でしかない』として非推奨なプレイスタイルだと姉さんは断言した。
『各街の掲示板から受けられるクエストの周回──いわゆる“掲示板周回”の一応のメリットは全プレイヤーがユニークとの巡り合わせと無関係に回数を重ねられる点だ。だが、なぁ…………アイテムを浪費せず『ひのきのつえ』だけで、しかも時間をかけずにエネミーを狩り続けられる
…………やけに長くて重いため息が印象的だったなぁ。
「……あの、
「サイガー100が? あー…………アレな、やめとけ言うたのに
予想はしてたけど大した理由じゃなかった。
『500マーニの
『ひぃん……』
予想通りすぎて幻聴が聞こえた気がする……『ひのきのぼう』で
つまるところ実入りが悪く、武器の修理や消費アイテム分のマーニを賄えるかさえ怪しい日々が続いたことで参ってしまったらしい。一体いつの話なのかは知らないけど、現在ではゲーム内トップの実力者である姉さんでそれならクエストは選り好みすべしという風潮がプレイヤー間の共通認識になるのも無理からぬことだと思う。
「まー、これからアイテムと使い捨ての
「丸太!? 材木ですらないんですか!? そんなの姉さんの二の舞待ったなしでしょっ」
「『ひのきのまるた』さん*2舐めんな……! 攻城兵器にも採用されとる耐久度コスパ最強武器やぞ!? それと安心せえ、今のワイちゃんには『MPゲイン』*3と【施し】*4の永久機関がある。手のかかる剣聖ニュービーを介護して『自立式
「それならまあ、とはならない……!」
そもそも私は姉さんほどMPに依存していないんですよ。むしろ武器のグレードを落とした際の戦力ダウンは姉さんの比ではないはずだ。
「しゃーないなぁ……なら今日最後まで回れたらご褒美にさっき貰ったこのユニーククエストにも参加させたるわ」
「あ、それは素直に嬉しいで────推奨レベル90!? まだレベル50の私には無理ですよ……!」
「さっきから黙って聞いとればチピチピチャパチャパ……!
「その減らず口がいつ黙ったと言うんですか!? どこまでもふざけ倒して……もう我慢なりませんッ!」
そうして堪忍袋の緒が切れた私は大剣を大上段に構え、虎人さんに初めて牙を向いた。
「なめてんじゃねえぞ! こら!」
……………………そして最後まで何もさせて貰えず、組打ち*5で一方的にボコボコにされた。
確かに私は初心者ではあるもののPvPの特訓として姉さんと何度か手合わせしたことがある。今はまだ従剣なしという
「痛い思いをしないで強くなりてぇだと? なれるわけねぇだろうが!」
「言ってない……言ってないです……」
「まぁ細かいことは気にしないで、語録遊びしたかっただけですから」
この人、おかしいくらい強いとか強くておかしいとかではなく、普通に気狂いなのかもしれない。
◇ ◇ ◇
────ふと、虎人さんのティーチング初日の出来事を思い出した。結局宿屋まで引きずられて回復した後、掲示板クエスト制覇の後のユニーククエストをクリアするまでに7回デスし丸太を四本ロストした地獄行脚はつい昨日の事のように覚えている。それも今となっては良い思い出…………では無い、未だに納得には至っていない。もっと他にやりようはありましたよね……? ねぇ!?
…………思う所は多々、本当に色々とあるものの虎人さんの提案……より言うと彼がシャンフロで開拓してきた足跡の多くは私の方針に合致するものであったことは認めざるを得なかった。
私は姉さんのように情報戦で他プレイヤーを出し抜いたり、京極ちゃんや天音さんのように無道を貫くやり口は心理的な抵抗が強く不得手だ。……
そもそもクエストという概念はプレイヤーとしては報酬を得るための“おつかい”程度でしかないけど、ゲーム内のNPCからすれば切実な“願い”だ。他のゲームでそんなことを口にしようものなら嘲笑されそうなほど幼気な考えだけど、けれどシャンフロという世界においてはそれこそがリアルなのだ。
『その暴威を犯罪者だけに向け、あまつさえ他の開拓者に見向きもされず捨ておかれた願いを叶えて回る最強の君子』
それがNPCから見た虎人さんという存在だ。人気になって当然だと思うし、そんな人物にほぼ無血で一国を盗られたエインヴルス国王の心労たるや推して余りある。……NPCから大いに尊敬される立場にありながら、定期的に“掲示板周回”している理由が『片付いてた方がスッキリするから』だと聞いた時は流石にビックリしましたよ。
リスクリターン以前に報酬そのものが眼中に無いあの人は外れ値ですらなく、統計に含めてはならない宇宙人か何かだった。ドラゴン系モンスターを『ちょっと手間』程度にしか見なしていない宇宙人なんて怖すぎるけど。
「あ、あのー…………サイガー
「ヒッ!? 失礼しましァッス!!!!」
う、うぅ……まだちゃんとお話し出来ないなぁ……。
とはいえようやく……ようやく、あの虚無感から発狂してしまいそうな下積みの日々が報われる時が来たんだ……!
せっかく陽務くんから誘って貰えたこの機会に、精一杯お役に立てることをアピールしなくちゃ……!
「と、りあえず、フィフティシアまでの攻略前にアイテムの補充をしておきましょうっ」
「ヘイ……!」
(プレッシャーに押し潰されそうだ……! そ、それはそうと、基本を疎かにしない辺りは流石トップ層だな……)
よしっ、自然な流れでお店に誘えた……! この時のために脳内シミュレーションしてきた
ドアベルの音と共にNPC運営の道具屋に入店する。すると──
『いらっしゃ────ッ! サイガゼロさん……!? お、お久しぶりです!』
「うえっ!? な、なんだこの好対応……!」
「店主、ご無沙汰していま……る。ハイ・ポーションとハイ・マギポーションを五個づつ包んでくだ……もらおう」
(ロールプレイボロボロだな……)
掲示板の他に黒狼内で独占しているクエスト、それらに加えて虎人さんが手がかりだけ掴んで放置していた各種ユニークシナリオ達成により稼いだ【信頼値】……そして出身:一見の実力者の『装備アイテムのランクに応じてNPCの好感度に補正』される効果より、個別の好感度を稼いでいないにも関わらずVIP扱いだ。
家でも教育された相手から下に見られないために家の力を示す手管に通じるものがあり、個人的に好ましいと思っていない……けど陽務くんから頼りにしてもらうためなら使える手段はなんだって用いるべきだろう。
『ウス! ミキシングポーションもおまけしときやす!』
(NPCって相手によってこんなにへりくだった対応すんの……? あ、【
「いや、私は結構。それよりもこちらの────サ、サンラクさんっ、に……よ、よくしてやって欲しい」
「……へ?」
『──ヘヘッ、流石は“
「ええっ!? ま、マジで割引され……全品3割引き!? さ、サイガー0氏ィ! なんなんスかコレ!?」
ふふ……よろこんで貰えたみたいで良かった。
「は、はい。シャンフロにはステータス画面等で直接確認出来ないマスクデータ、いわゆる“隠しステータス”が存在していまふ。私の場合はクエストクリアやPKK等の治安維持で得られる【信頼値】が高いのでNPCとの交渉において有利な補正が働いているんでふ!」
(噛んだ……てかやっぱり【カルマ値】とか【ヴォーパル魂】的なのが他にもあるんだな…………紹介だけで3割? てかなんでいきなり俺を!?)
「ち、ちなみにこの【信頼値】というものは開拓者としての活躍だけではなく普段の服装や立ち振る舞い、NPCとの会話内容によっても上下するのでロールプレイも必要な要素なんです……!」
「へ、へー……シラナカッタナー……(そこまで配慮するとかガチ勢やべえよ……)」
店主NPCの口ぶりから虎人さんと私個人の情報が紐づいている……というか過去に虎人さんから連れられた際の出来事がしっかり記憶されていると思しき点は少し引っかかったけど、この日この時のために蓄えてきたシャンフロの知識を総動員しレクチャーする。実はかなり重要なシステムなんだよね。
こ、ここまでは上手にリード出来てる気がする……ならここでもう一押し──!
「店主、掘り出し物があるなら……か、かか、
「なにっ」
きゃあああああああああっ!!!! 言っちゃった!!!! どさくさに紛れて陽務くんのことを『彼』って呼んじゃったああああああ……!!!!
『────“お墨付き”とは驚いたな。畏まりやした、直ちに……』
「掘り出し……? いやそれよりもお墨付きって何────ナニコレェ」
あー……やっぱり驚くよね、私もあのラインナップと値段には初見で目を丸くしたものだ。
…………よ、よーし、思い切って、やるぞ……!
「────この『聖女ちゃんの聖水』をしゃンラクさんに三つ。代金はこれで」
「あのごめんなんt『お買上げありがとうございまァす!』何してくれてんだこのハゲオヤジ!? な……なん、こん!? いきなり何してんスか!?」
「い、いえ、大したことでは無いのですが……パッとサンラクさんの構成を見るにアンデッド系モンスターに対して厳しそうというか、詰みかねない状況がありそうで……勝手ではありますが配慮をと」
「い、イヤイヤイヤイヤ!? こんなもん渡されても返せるものが────はっ! あ、あのう……クリスタル・スコーピオンの素材とか興味ないすかね!?」
「い、いえいえいえいえ!! ほ、本当に大丈夫です……! え、ええと……せ、先行投資というやつですので!? それとこのポーションも使ってくださいっ」
(ナンデ? なんの先行投資!? ってかしれっと俺の脆弱性看破されてんのこわっ……こえーよ……いやマジで怖いんだが!?)
よし……! 自然な形で贈り物が出来ましたっ。
昔、虎人さんからこんな形で『フルフェイス装備でこれ無いといざって時に無駄死にする』って結晶系回復アイテムのセットを貰ったんだよね。フォルティアンへのご招待という釣り針付きだったけど……今にして思えば私に後ろめたさを感じさせないための配慮も含まれていたのだ。たまに様子がおかしいだけで基本的に配慮が行き届いてる人なんだよね……彼を真似たおかげで今こうして陽務くんと良好な関係を築けつつあった。
(協力に見返りを求めかっただけでなく次から次へと俺にだけ利益を────な、何を企んでやがるのか皆目見当つかねぇ……!? うえ──っ、こ……怖いよーっ)
この調子でもっと仲良くなれたらいいなぁ。
まぁ細かいことは気にしないで、バケモンが一人増えつつあるだけだから。ヒロインちゃんは原作の時点で成長性:A+なのでS+++くらいにしても誤差だよねパパ。
虎と怜ちゃん:お互いのことを頭のおかしい弟のような存在だと考えている。妹とは見ていない。
鳥:不定発症予定
モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?
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あ、いっすよ(快諾)
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頭湧いてるんですか?
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そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも