シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない 作:嘉神すくすく
時系列的には単話3
https://syosetu.org/novel/363204/26.html
のちょっと後で地続き。クリスマスバブルとは何なのか、そしてレイちゃんの体調不良が自業自得であることが分かれば十分ですので、是非読んで笑ってあげてください。
シャンフロサービス開始から最初のクリスマスシーズンが終了した。
クリスマスバブル、万歳。
寝食を削り余暇時間の大半を費やした甲斐もあり私たち
さて、シャンフロ史上初の好景気も収束し、仕事納めも済んだことで精神的余裕が生じた私だが、街が新年を迎える装いに変わりつつあるのを見てふと、無意識のうちに目を背けていたある事実と向き合うこととなった。
……………………リアルではクリスマスらしいこと一切せずに年末を迎えようとしていることに。
いや、まあ……例年通りと言えばそうだし、学生時代も寮の自室でトワのダル絡みや課題に発狂するエイトの相手をしていた記憶しかないのだが……今年は人としてひどく“間違えた”という感覚が付きまとっている。
「周布くんってば今年のクリスマスはバイト先で人気者になってたみたいよ、これをどう思う? ねぇ……?」
「…………違うんです真奈さん、まずは話を聞いてください」
「聞きましょう」
……バツが悪くて息苦しい。
実家に帰る前のちょっとした買出しのついでに今年最後の営業を行っているロックロールへ顔を出した私なのだが、青筋を立てた真奈さんの熱い歓迎に耐えきれず目を逸らしていた。
「なにも彼よりシャンフロを優先したというわけではないんです……そもそもの話、お互い忙しい中無理して平日に時間を作るよりも諸々落ち着いた頃に日程を合わせる方が合理的なわけで……」
「それは一理あるわね。それで、シーズン遅れの“
「あ、明日……」
「この乙女ゲーマイスター岩巻を前によくぞほざいた。……ウチの弟子なら今頃ご親戚の家に向かってるわよ、午後からミカン
語るに落とされた……!*1 というかアイツ真奈さんと連絡取り合ってるのか……。
確かに年末は親戚近所の農家さんの手伝いをすることを日程含め本人から聞かされていたが、咄嗟のことで失念していた……アイツにしては珍しく細かく予定を話すなぁとクリスマス前の当時は思ったが、もしかして擦り合わせを見逃したのだろうか私。
「あなたねぇ、せっかくアプローチ
「いや待って、そもそも真奈さんが裏で糸引いていたんですか!?」
「
「その乙女ゲー的思考やめてもらっていいですか……? 否定も肯定もしづらいんですよ……!」
シャンフロにかまけた結果やらかした事は私自身認めるところではある、だがこの……シャンフロ内にもよくいる愛好家特有の独特な言葉選びで詰められると素直に受け入れ難くなるからやめてほしい。
「シャンフロ一辺倒なとこが問題よね……少しはレイちゃんを見習ってシャンフロ以外のゲームもやったら? 話のタネにもなるし……というかシャンフロ以降ウチで何も買ってないでしょアナタ。たまにはお客様らしい姿勢を見せて欲しいわ」
「それはまあ、申し訳ないとは思いますが……実際問題、他タイトルの情報を見ても食指が向かないんです」
「廃人め……しかしご安心くださいお客様、貴方の前にいるのは数々の初心者や偏食ゲーマーを導いてきた“プロ”ですから───────」
「なんですかその語尾の余韻……というか、プロって大袈裟な」
「具体的には上得意様である周布くんのお気に入りゲームを全て把握しているわ。彼、コレクション趣味のパケ派だから」
プロだな───────
「レイちゃんだって気になってる男の子とのおしゃべりのために色々プレイしているんだし(実際役に立ってるかは別だけど……)彼だってシャンフロ以外の話が出来れば嬉しいはずよ」
「た、確かに……それにヒロトの強さは他のゲームで培われた経験による面もあるわけで…………分かりました、何かオススメをください」
「任せなさい。……とりあえずこの辺はどうかしら」
そう言って真奈さんが提示してきたタイトルは
・ヴィーナスファイト*2
・ゴッデスオブヴィクトリー*3
・ランブルドルフィンズ*4
「────割と女嫌いなのに女体は普通に好きな困った子なのよね、彼」
「二次元趣味については理解しているつもりですが……実際にプレイするとなればだいぶ話が変わってきますよ!?」
「……冗談抜きにこの辺りは評価も高い上に彼のお気に入りよ。難易度とグラフィックはアレだけど」
「だからといって、こ、こんな……男同士ならともかく……!」
「ま、なるわね」
この人わかっててやったな!?
「他にもっと話題にしやすくて……あと、操作キャラに慣れる時間をかける必要もない、できればシャンフロの片手間にプレイ出来るゲームはありませんか……?」
「注文が多いわぁこの子。はいはい、ちょっと待ってなさい」
(うーん……しかし何をオススメしたものかしら。格ゲー以外で本人が買ってくタイトルの大半はイカれ難易度の弾幕STGとスケベなアクションゲームだし、乙女ゲーやらせたい気持ちはあるけど流石にねぇ…………あ、これちょうど良いかも、売れ残りのラスイチだし)
「はいこれ、周布くんが今も時々友達とプレイしてるゲームよ」
「どれどれ……」
……………………パッケージの裏を見たあと携帯でタイトルを検索し、公式サイトと非公式wikiまで軽く確認する。話題にしやすい内容で、難易度や民度もまともそう……さらに、私が得意とする
「これにします」
「お買い上げありがとうございます。……ところで周布くんは元旦に親戚同伴でこっちに戻ってくるらしいけど、百ちゃんの予定は?」
「…………大晦日から数日は京都の親戚宅へ実家総出です」
「間が悪いわね……」
◇ ◇ ◇
シャンフロのデイリーノルマを済ませた後、早速買ったゲームを起動……する前に、ビデオ通話のリクエストが来た。────携帯の画面に写った名前に狼狽して一度応答拒否してしまった。
……突然のことで心の準備が出来ておらず、顔は見るのも見せるのも無理だったから音声通話で折り返し、操作ミスという言い訳からなんとか自然とリカバリーできた。
向こうは今親戚と一緒に農作業の日当で買い食いしつつ、近所のちびっ子たちを相手に縄跳びの手本を示しチヤホヤされているらしい。私にとってはもう十年以上前となる小学校の『なわとび課題』にノスタルジーを感じるとともに、肉体労働後だと言うのに疲れを感じさせないそのタフさに呆れさせられた。
話の流れでロックロールで買ったゲームを話題として切り出してみたところ非常に好感触で、こっちが浮かれている間にしれっと後日一緒に遊ぶ約束を付けられていた。三賀日明けかぁ……。
(まだプレイしていないのに会話が弾んだ……もっと早くにやるべきだったな)
こんなやり方を見つけるとはなかなかどうして、レイは斎賀家の宿痾を逃れ上手くやっているのだろう。
それはさておき……どうも私はゲーマーとしてはまだまだ甘く見られているらしかった。
「『モモさん一人じゃキツイと思う』とは……昔ならともかく、今の私には結構な言いようじゃないか?」
ゲーマーとしての歴が浅いのは私自身認めるところではあるが、それでもシャンフロという競走の激しい世界でトップ帯に登り詰めた自負がある。それを承知の上で私では『不足』と評価したのだ。
ああ、だから言ってやったとも……『目に物見せてやる』と。それはそれは嬉しそうな笑い声で通話は終了した。
……さて。ゲームを入れ替えるのが半年以上ぶりでソフト挿入部の裏表を間違えるといううっかりを経て、プレイヤーネームとアバターを設定する。……髪が栗色のウルフカットである点以外はシャンフロのサイガー100と同様に仕立て上げ、改めてシャンフロではないフルダイブの世界にログインし────
「ウェルカム天誅ァーッ!!」
「騙して悪いが天誅!!」
「イヤーッ! バクマツ・ニュービー天誅ゥ!!」
プレイ開始から1秒満たぬ間に三枚におろされた。
…………ネタバレ防止とはいえ、もう少し『キツイ理由』を話してくれても良かったんじゃないか、なぁ。
◇ ◇ ◇
今年の初夢は陽務くんの幼なじみにすごく可愛くて人懐っこくて積極的で関西弁な女の子がいて、周布くんが姉さんに焼いてるレベルのお節介を陽務くんに焼いている様子を身動きできずに見せられるという悪夢だった。*5
「あ"あ"ッ! タッパとメロンだけで満足しておけよ次女……!」
「一番善戦してたのは流石だと思うけど……」
「何の慰めにもなってないよっ」
姉さんとの組手を終えた京極ちゃんが、見た目だけ乱暴に兜を外しながら私の隣に腰を下ろしてきた。
龍宮院流の本道場では現在男女に別れての組手が“負け抜け”の交代制で行われており……その中で百姉さんの戦績は圧倒的だった。
京極ちゃんは全国優勝クラスでありこの場にいる女性陣でも上位の実力を有している、けれども相手が悪いと言わざるを得ない。
姉さんは現役選手ではないけど彼女とおなじ全国優勝経験者であり歴も長い。技量に関してどんなに甘く評価しても京極ちゃんがわずかに上程度でしかないので、頭一つ分以上の体格とフィジカルの差は埋まるものでは無かった。
盈月流弓術の本家へご挨拶に行っているためこの場には居ないけど、泉姉さんでさえ剣道において百姉さんには敵わない。それほどの腕前であるため過去に龍宮院流の関係者とお見合いが組まれたこともあったものの…………どんな対応をしたのやら、帰り際の御相手の顔を偶然見たときは申し訳なく感じたものだった。
「女版のヒロくんじゃん……息切れ以外で抜けないとかふざけてるよホント」
「ヒロくん……?」
「あ、シャンフロのタイガーマスクのことね。あの子の本名はヒロトって言って、剣道における
「へ、へー……」
世間が狭すぎる。剣道もやってるんだあの人……。
弟という単語を強調する彼女はしばしばシャンフロでもリアルの関係性を臭わせ……というより弟分であると公言しており、『でもお前の方が弱くない?w』と煽った人間を『僕のことバカにしたよねキミぃ?』とキルしているのだ。
それを知っていたため『むかし京都にいたのかな?』くらいに考えていたけど、まさか同門だとは思っていなかった。
「シャンフロであんなだけど剣道ではどうなの?」
「……あのメロンの3倍の速さで立ち回るくせにスタミナ無限、こっちがコンパクトに1回打つ時間で2回は大ぶりしてくる上に1発の威力も
「……ゲームの話してる?」
「ゲーム内の方が性能的に大人しいよ。……
……道理で、内弟子さん達が誰一人として百姉さん相手に怖気付くそぶりを見せないわけだ。人の形をした
「まあヒロくんはいつもそんなだけどさ…………今日の次女、アレなに? 撃ち合ってる最中何かずっとブツブツ言ってるし」
「天誅……天誅っ、天誅……! 天誅ゥゥゥゥッッッ!!!!!」
「変な掛け声が妙に鬼気迫っててキショいんだよ……! 薩摩示現流か何か!?」
「知らない……知ってても言わない……」
……虎人さんに似てきたのかどうかはわからないけど、心当たりがある変な
◇ ◇ ◇
自宅マンションだ、ヒロトが目の前にいる。
実家への義理を果たし帰ってきてから一日が過ぎた。
「しかしキツいイベントだったなヒロト」
「はい、残り五人がなかなか倒せんかった」
年末の約束通り私たちは“幕末”と通称されるゲームで朝から夕方まで半日近く過ごした。
ところで虎之介ことヒロトがあのゲームで“狂骨”と称される理由だが、脳に天誅を宿さず素のままであの箱庭を闊歩する精神性がプレイヤーの大半と一線を画す……つまり
それはさておき、今日の夕飯はヒロトの御母堂が狩ったというヒグマ肉(!?)を鍋料理で堪能した。
(高校時代に滋賀の料理宿でツキノワグマを口にしたことはあるが……まさか自宅でヒグマに舌鼓を打つ日が来るとはな)
ツキノワグマと同様のくちどけがいい脂身、そしてより旨味が強い赤身……正月らしい食事が続いていたことも相まって身体が歓喜で震えるほどの絶品だった。
シメのうどんまで頂き、現在はミカン収穫を完遂したボーナスで貰ったという晩白柚の皮を剥くヒロトの姿を、半纏+電気毛布の防寒装備でまったりと眺めていた。寒波のせいか気温が低すぎる……今日はもう手すら出したくなかった。
「んっ……甘くて美味しい」
「ねー。皮の厚さに相応しい味よな」
「もっとちょうだい」
「ほい」
「ぁーん……」
(差し出したやつ直でいった……!?)
しかし不思議なことで、ついこの前までは真奈さんの言葉やら間の悪さやらに加え、私を天誅した輩どもへの怒りに燃え天誅すべしと身体が天誅を求めていたはずだったが……それらの衝動は、元から存在しなかったかのようになりを潜めていた。
「…………疲れとる?」
「正月休みだのに実家関係の天誅が続いていたからちょっとな……ぁーむ」
(この甘えたモードは重症やな……)
斎賀百……『辻斬・
年末年始は心と体を休めようね。
正月休み中にこんなものをここまで書いたり読んだりしている人類には無用な言葉だと思われるが……
島田虎之助:虎が幕末で設定したPNの参照元、『幕末の三剣士』とされる歴史上の人物。しかし表記揺れによって漫画家の名前になっていることに虎は気付いていない。
天誅:天誅は天誅じゃ、天誅がわからんやつは天誅できん。
虎には天誅がわからぬ、あってもなくても変わらないから。
モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?
-
あ、いっすよ(快諾)
-
頭湧いてるんですか?
-
そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも