まさかの主人公ポジになりまして?   作:RAKU0221

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今回はちょっと長めです。


ミドガルの王女

 

 

「兄さん、来たよ。食堂に行こう」

 

 

 昼下がりの魔剣士学園、今日も今日とていい天気だ。妹であるサクヤが俺と同じく一般家庭出身の特待生として入学を果たしておよそ7か月ほどが経った。何が変わったかといえば、昼食をサクヤととるようになったことだろう。なんでもサクヤ曰く「せっかく同じ学園に通っているのに、月一の家族との食事でしか食卓を囲まないのはもったいないとは思わない?」だそうだ。

 まあ正直どっちでもよかったんだが、可愛い妹の頼みとあらば兄貴としては答えないわけにはいかないだろう。でもなあ.........サクヤと飯食うと、目立つんだよなあ.........。

 

 サクヤも俺と同じく、最初はかなり周りからの圧をにさらされていた。一般家庭出身で、しかも女の子だ。貴族のバカ息子共にちょっかいをかけられることもあった。だがその8割を、サクヤは立ち合いでボコしたそうだ。ちなみに残りの2割は俺と同学年のバカだったので俺が”お話”したらわかってくれた。

 

 それからというもの、サクヤは1年の貴族女子たちから超モテるようになった。バカ息子共を一蹴する実力に加えてスラっと高い身長に凛々しい顔、フツーにイケメンである。

 

 そーいえば、サクヤが入学してから俺に声をかけてくる女子生徒が少なくなったような..........まあいいか、偶々だ偶々。

 

 

「?........兄さん?ボクの顔に何か付いてる?」

 

「ん、いや、世の中やっぱりビジュだよなーって」

 

「???」

 

 

 サクヤとともに教室から食堂に向かう。その道中でちらちらとこちらを見てくる視線、非常に落ち着かない。

 

 

「そういえば兄さん、今日の王都ブシン流の授業来るんだってね?」

 

「んあー、なんかゼノン先生に言われてな、上級生の中でもトップクラスの実力を1年生に見せてあげてほしいってよ」

 

「トップクラス.......トップの間違いじゃない?」

 

 

 笑顔にもかかわらず、とんでもない圧だこと。ほらー1年の子たちちょっとビビってんじゃんかわいそうに。

 

 

「圧出しすぎ、感情の管理はまだまだだな」

 

「ッ........ごめん」

 

 

 指摘すると、サクヤはわかりやすく落ち込んだ。普段ほかの生徒にはクールでかっこいい才女としての一面を見せているんだろうが、こういうところはまだまだ可愛い妹である。

 優しく頭の上に手を置き撫でる。少し前までずいぶん小さかったのに今じゃずいぶん大きくなったなあ...........兄貴ってより父親みたいな感想かこれ?前世を合わせて30歳を越えているわけだしなあ、いやだなあ、まだ若人を謳歌してたいなあ。それはそうとナデナデ。

 

 

「ね、ねえ兄さん........」

 

「んー?」

 

「あ、あの.......さすがに恥ずかしいっていうか、いやうれしいんだけど.......みんな見てるし」

 

「........あぁごめんごめん」

 

 

 周りを見れば、先ほどまでビビり散らかしていた女子生徒は若干頬を赤らめ、それ以外の生徒も少しぎょっとした顔をしていた。

 あれま、思ったより注目されてらー。別にみても面白くないだろうに。

 

 

「.......次は人目のないところにするか」

 

「ッ~~~~~~!わざと言ってるの?」

 

「なにが?」

 

「はあ......そうだよね、聞いたボクが悪かったよ」

 

 

 えーなんで若干不機嫌?俺なんか悪いことした?速足で歩いて行くサクヤを困惑しながらも追いかける。前世からずっと、女の子ってのは難しくてよくわからん。誰か教えてほしい、切実に。

 

 

 

 食堂に着き、サクヤとともにいつもの席に座り食事を始めた。毎日同じ場所で食べると、自然にベストプレイスも決まってくるよな。

 学園の学食は正直言って結構レベルが高い。貴族御用達の学園というのもあって、肉や魚の品質は本物だ。この世界では食を趣味にしているのもあってか、この時間は俺の学園での楽しみ№1だ。ちなみに2位が剣術の授業、座学は同率最下位。

 

 

「そういえば、アレクシア様に彼氏ができたって話は知ってるかな?」

 

「へえ、あの言い寄ってきた男子生徒を悉く振りまくったあのアレクシア様が?」

 

「そう、しかも相手は下級貴族の息子さんらしい。どういうつもりなんだろうね」

 

「へえ、まあ人の恋愛なんて詮索するもんじゃないだろ」

 

「兄さんはほんとに、その手の話に興味ないね」

 

 

 アレクシア・ミドガル

 現在の王国最強、アイリス・ミドガルの妹にして、入学早々この学園のマドンナになった。直接顔を合わせて話したことはないが、以前騎士団に研修に行ったときにアイリスからアレクシアについて少し話を聞いた。なんで研修に行っただけの学生がアイリスと話せたのかというと、いろいろあってなんとアイリスからお茶に誘われたんですねえこれが。

 

 確か、あれは半年以上前だったはずだ。

 

 

 

 

 

ーアレクシア入学約1か月前ー

 

 

 

 

「お疲れ様です」

 

「おー!おつかれさん!どうだい?騎士団の雰囲気には慣れたか?」

 

 

 そういって豪快に肩を組んできたのは、騎士団でも指折りの実力者「獅子髭」の二つ名を持つグレンさんだ。この研修期間中、俺の教育係としてずいぶんと世話を焼いてくれた。ちなみにこの研修にはクレアも来ているが、俺とは駐屯場に来る曜日がずれているので顔を合わせることはあまりなかった。

 

 

「まぁ、そうですね。やっと慣れてきたって感じです。研修期間はもう終わっちゃいますけど」

 

「そうかそうか!ま、卒業したらまた一緒に仕事できるんだ。何なら、すぐに俺も越えられちまうかもしれんな!ガハハハハハッ!」

 

「いやいや、私などまだまだですとも。これからも精進しますよ」

 

 

 この研修期間中、基本的には王都の見回りや訓練が大半、あとはちょくちょく書類仕事の手伝いをしていた。グレンさんや、若手の実力派マルコさんをはじめとしてたくさんの王国騎士の人と手合わせさせてもらった。王国騎士団ともなればその練度は学園の生徒たちとは比べるべくもないほど高かった。ま、グレンさん以外には勝ち越したけどね。

 グレンさんの剣はさすがの一言だった。圧倒的な破壊力と堅牢さ、魔力に頼りすぎない素の肉体強度と経験からくる剣術の練度がほかの騎士たちとは一味違った。

 

 

「勝負自体勝ちはしたが、魔力操作だけなら圧倒的に俺の負けだった。流石レイブンスの息子だな」

 

「母をご存じで?」

 

「当然だ。一般家庭出身であり、魔力も乏しいにもかかわらず王国騎士となった女騎士。何度か手を合わせたこともあるが、基本に忠実なブシン流と滑らかな魔力操作、美しい剣だったのを覚えている」

 

「へえ、母から騎士団時代の話はあまり聞かなかったので新鮮です」

 

「ほお、ならこんな話は......」

 

「交流も大事ですが、仕事をさぼってもらっては困りますよグレン」

 

 

 意気揚々とグレンさんが話し始めた時、背後から女性の声が聞こえた。その声を聴いた瞬間、グレンさんがピシッと固まったように見えた。

 

 

「あなたがサボるなんて珍しいと思ったら、そういうことですか」

 

「あ、アイリス様.....いやはやこれは失敬、私としたことがすっかり忘れていました!ではベクタ、この話はまたの機会に」

 

「え、ええ、貴重なお話ありがとうございました」

 

 

 グレンさんは豪快な笑顔を浮かべると、そそくさと仕事へと向かった。駐屯場の一室、残されたのは俺とアイリス様のみ。王族と二人きりというのは、一般家庭出身の身からするとマジで吐きそうになるくらい緊張する。

 だが初対面でずっと黙ってるとか印象悪すぎるし、ここは一発気合い入れて挨拶くらいしっかりしないとな。

 

 

「お初にお目にかかります、アイリス様。私はミドガル魔剣士学園から参りました、ベクタ・レイブンスと申します」

 

「これはご丁寧に。私はアイリス・ミドガル、王女という身分にはありますがここでは一人の魔剣士です。そう硬くならないでください、後輩にそこまで緊張されるというのも寂しいですから」

 

 

 はあ何この人聖人の類やんけ、アイリス王女万歳。

 

 

「ベクタ・レイブンス........あなたがそうでしたか、貴族と比べても遜色ない魔力量に洗練された佇まい。とても一般家庭出身とは思えませんね」

 

「私のことをご存じで?」

 

「はい。元々魔剣士学園に、あの厳しい基準をクリアして入学した一般家庭出身者がいるというのは聞いていました。この研修期間中に運が良ければ会えるかと思っていましたが、今日はついてたみたいです」

 

 

 そういって、アイリスは優しく微笑んだ。おー顔がいい、さすがだ王族。なんか、あんまり王族って感じの圧感じないなこの人。これが、アイリス様が国民から圧倒的な信頼と支持を受ける理由なんだと思い知らされる。

 アイリスがふと何かを思いついたような顔をして俺に向き直る、その顔は先ほどと同じように笑っているが、先ほどは感じなかった圧がある。

 

 

(あー俺このパターン知ってるー)

 

「ベクタくん、この後ご予定はありますか?」

 

「いえ、特には」

 

「体力の方は余ってますか?」

 

「今日は町の警護だったので、有り余ってますね」

 

「ならどうでしょう、私と手合わせしてみませんか?」

 

 

 アイリス様の目に浮かぶのは確かな自信、その体からは圧倒的なオーラが漏れ出ていた。この絶大な魔力とすべてを破壊する剛剣がアイリス様が最強と言われる所以。

 その圧倒的な圧に、並みの魔剣士なら尻込みするだろう。だがあいにくと、俺もバトルジャンキーの類である。現王国最強が、俺に勝負を持ち掛けてきた。その事実に俺は確かな胸の高鳴りを感じでいた。

 

 

「ぜひとも、一手御指南よろしくお願いします」

 

 

 

ー王国騎士団第一訓練場ー

 

 

 俺とアイリス様の手合わせの話は、瞬く間に駐屯場にいた騎士たちに伝わった。グレンをはじめとした名だたる王国騎士たちが、俺とアイリス様の戦いを今か今かと待っているのが空気でわかる。

 俺とアイリス様は中央に立ち、互いを見合う。やはり王国最強の天才アイリス・ミドガル、立ち姿からでもわかる圧倒的な強者の風格を感じる。俺は人よりも魔力を知覚する能力に長けている、アイリス様から感じる魔力量はここにいるどの騎士よりも圧倒的に多いというのは容易にわかった。俺の”秘策”を使えば勝ちの確率は跳ね上がるだろうが、今回は使えない。

 

 

「まさかここまで人が集まってくるなんて思いませんでした」

 

「アイリス様の戦いは、誰だって見たいでしょうから」

 

「仕事がある騎士もいるでしょうに、後でお説教ですね......それはそうと、真剣でよかったのですか?万一のことがあったら......」

 

「死の可能性が有るか否かで訓練の質は段違いだというのが父の教えでして。一般家庭らしい泥臭い理論だとは思いますが........」

 

 

 この立ち合いのルールは以下の通りだ。

 

 1.打撃なし、剣術のみの一本勝負

 2.アーティファクトの使用禁止

 3.真剣を使用し、急所への寸止めか一定以上の出血をもって勝敗を決する。

 

 

「逆に、よろしいのですか........ケガをするかもしれませんよ?」

 

 

 俺は自身の魔力を解放する。魔力の可視化、ただオーラとして魔力を放出するのではなく、形をもって可視化させるのは一定以上の実力者でなければ成しえない一応高等技能に分類される技だ。こんなものは雑魚を威圧する程度にしか使えないが、俺が、ここでやることに意味がある。

 

 

「上級貴族並みの魔力だ、本当に一般家庭出身か?あいつ」

 

「白金の鷲か.......あそこまで流麗な魔力はなかなか見ないな」

 

 

 ほら、周りの騎士たちはおれの魔力に驚愕している。これが一種のアピールになるはずだ、卒業後王国騎士団入りの可能性をここで高めておかないとな。もしかしたら、いきなり良いポジション用意してもらえるかもしれないし。

 アイリス様の方を見ると、俺の魔力を見て少しの驚愕と期待の感情が見て取れた。この国の王女も大概戦い好きなのか?

 

 

「驚きました、まさかここまでとは。グレン以外に勝ち越したというのも納得です......であれば、私も全力でお相手しましょう」

 

 

 アイリスが魔力を解放する。その魔力は、一瞬で訓練場を覆いつくした。若い騎士たちはみな、その圧倒的な魔力に息をのんだ。

 

 

「では、行きますっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として、それなりにいい勝負をして負けた。

 

 俺は疲労感からその場に膝をつき、大きく息を吐いた。勝てるとは思っていなかったが、やはり王国最強の壁は高い。おれは体のあちこちに切り傷を負ったのに対して、アイリスは腕や足に多少の切り傷と、服がちょっと切れたくらいだった。それに俺がこうして膝をついているのにアイリスはたっている。

 

 

「おいおい、まさかここまでとはな」

 

「学生の身で、王国騎士のトップ層に並ぶぞ」

 

 

 だが、周りへのいいアピールにはなったみたいだ。卒業までに引き抜いてくれれば、楽に就職ができるのでそこんとこよろしくお偉いさん。

 息を整え立ち上がり、剣を収めるとアイリスが握手を求めてきた。拒否する理由はないので、差し出された手を握り返す。王女とはいえこの国トップといわれる魔剣士、その手は手袋越しでもわかるほどに鍛えられた者の手だった。

 

 

「とてもいい剣でした、学生にしておくのがもったいないくらい」

 

「恐縮です、アイリス様と手合わせできたこと光栄に思います」

 

「フフッ、あなたは真面目ですね。もっと気軽に接してくれていいんですよ?そうだ、もしよければこの後お茶でもどうですか?後輩と交流する貴重な機会ですし」

 

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 はい、やってまいりましたアイリスとのお茶タイム。なんで?いやダメだろ絶対。そんな簡単に下々の民入れたらダメなとこじゃないのこの部屋!?

 シャワーを浴びて制服に着替え、アイリスを訪ねると通されたのは駐屯場に設置されている王族や上級貴族のための応接室。一般家庭出身の身からすると目玉が飛び出るくらいの値段しそうな絵画とか、壺とか、照明ばかり。特待生として寮に入った時にも衝撃を受けたがあれとはまた一つレベルが違う。

 

 

(おちつかねー、帰りてぇ)

 

「落ち着きませんか?普段は来ない場所ですもんね」

 

「あ、あはは......まあ」

 

「普通の応接室の方がいいかとも思ったんですが、ほかの騎士に『アイリス様をあのような汚い部屋にお通しするわけにはいきませぬ』と言われてしまって」

 

「その口調、部隊長のバロム殿ですか?」

 

「あら、わかりますか?」

 

「ええ、短期間ではありましたが、お世話になった方々のお名前と特徴くらいは記憶してますよ」

 

 

 あとあのおっさんが一番口うるさかったからなあ、一般家庭だからってちょっとなめてかかってきたし。まあ訓練でボコしたけど。

 

 そこからしばらく、アイリスとお茶を飲みながら世間話をした。学園での生活がどうだの、最近こんな珍事件があっただの。まあ一番会話が弾んだのはやはり剣の話で、互いの鍛錬についての話なんかは互いに学ぶものが多かった。

 出されたお茶はありがたくいただいたが、味が上品すぎてまったくと言っていいほどわからなかった。めちゃくちゃコーラがぶ飲みしたい気分になった。

 

 

「ベクタくんの妹さんも、魔剣士学園に?」

 

「無事基準を突破したので、1か月後入学します」

 

「なら、私の妹と同級生になりますね」

 

「アイリス様の妹というと、アレクシア様ですね」

 

「はい、よければベクタくんも気に掛けてあげてください。あなたの剣は、きっとあの子にとっていい刺激になると思います」

 

「私などが、王族の方を気に掛けるなど恐れ多いですが、わかりました」

 

「そう硬くならないで下さいと言っているのに、もう」

 

 

 アイリスは少し困ったような笑みを浮かべた。いやだって仕方ないだろ、王族って存在は俺にとってはるか雲の上の存在だ。才能があったから魔剣士学園にはいったが、右を向いても左を向いても貴族の坊ちゃん嬢ちゃんばかり、肩身が狭いなんてもんじゃなかった。最近やっと学園の空気には慣れたが、自国の王女となれば話は別だろっ!

 

 だが、アイリスの困ったような笑顔は、俺からみると少し悲しそうに見えた。そういえば、手合わせする前にも「後輩に緊張されるのは寂しい」とか言っていた気がする。なら、ほんの少しだけ踏み込んでみてもいいんだろうか?ええい、もうここまで来たらいったれ俺!

 

 

「よろしければ、聞かせていただけませんか?アイリス様とアレクシア様のこと。こんな機会そうそうないですし..........もちろんアイリス様さえよければ、ですが」

 

 

 それを聞いたアイリスは、俺がそんなこと言うとは想像もしていなかったのかきょとんとした顔をした。思ったよりもころころ表情が動く人だななんて、口が裂けても言えない。アイリスはぽかんとした表情から一転、嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「ええ、かまいませんよ。さて、何から話しましょうか........」

 

「そんなにたくさんエピソードがあるとは、楽しみです」

 

 

 そこからは、ミドガル姉妹のエピソードトークを聞きつつお茶を飲む和やかな時間だった。まあずいぶんと話し込んだせいで寮の門限には間に合わなかったし、アイリスとの手合わせの件でクレアにはガン詰めされたし、実家に帰った時にはサクヤが不機嫌になったのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、アレクシア回だと思ったか?残念アイリス回だ!

戦いとは対話、ということで手合わせを通してアイリスとちょっと仲良くなったというお話でした。ベクタのガチ戦闘はもうちょい先でふさわしい舞台で描かせていただきます。

次回はついにあの狂人が登場です。まあ本人ができる限りモブに徹しているせいで大した描写はないと思いますがね........まったくあの狂人はよぉ。
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