お久しぶりです
その一報は、瞬時に学園中に広まった。
アレクシア王女行方不明、騎士団は誘拐と考え現在捜索中。そして、1人の生徒が容疑者として、騎士団に拘束されたということも。
その拘束された生徒というのが、クレアの弟であるシドだった。それが判明した瞬間案の定クレアは大暴走、1人で騎士団に突っ込もうとし、ローズ生徒会長に拘束されたらしい。何やってんだあの阿呆。
現在生徒は寮の敷地内から出る事を禁じられている。生徒が容疑者とされている以上、他の生徒に怪しい動きをさせないための措置だろう。だがどうにもこの件、きな臭いものを感じざるを得ない。
誘拐ならば、何か犯人からの要求があるのが定番だ。それがないと言う事は、アレクシアの身そのものが目的だったと考えるべきだろう。身体が目的ということは、目的は人体実験か?なぜわざわざ攫えば大騒ぎになるであろうアレクシアなんだ?アレクシアと他の人間の相違点…………王族であることが重要なのか?
「やっぱり情報が足りなすぎるし、集めようにも外出は許可されてない。ここで無理やり動けば、俺も犯人の疑いをかけられる可能性がある」
俺がベッドの上でゴロゴロと呻いていると、扉がノックされた。こんな時に誰がと思い、俺は少しの警戒心を持ちながら扉を開ける。
そこに立っていたのは、いつかの研修で駐屯所にいた騎士の1人だった。何故こんなところに騎士が?何故を俺を訪ねてくる?
「あの、俺に一体なんのご用で?」
「久しぶりだなベクタくん、アイリス様がお呼びだ。身だしなみを整え、帯剣状態で来てくれ」
このタイミングでアイリスからの呼び出し、内容は大方予想できる。この事件の捜索の協力とかそこらだろう。個人的にもこの事件を調べたいと思っていたし、動きやすくなるのはありがたい。
俺は早々に身だしなみを整え、アイリス王者の元へと向かった。
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「お久しぶりです、ベクタ君」
「お久しぶりです、アイリス様。それとゼノン先生、まさかこちらにいらっしゃるとは」
「やぁ、ベクタ君」
部屋に入るとアイリスとゼノンが俺を待ち構えていた。普通ならもう少し和やかに雑談に興じたい所だったが、流石にこの重い空気の中そんな事をする気にはなれない。
「それでアイリス様、私は一体何をすれば?」
「話が早くて助かります。貴方には他の騎士と同じくアレクシアの捜索をしていただきたいのです。学生にこんな事を頼むのは情け無いですが、騎士団は人手不足、是非力を貸してください」
「私からも頼む、アレクシアを一刻も早く助けるために」
一瞬、本当に一瞬違和感を覚えた。
声音を聞けば心の熱が伝り、一挙手一投足は言葉にせずとも意思を語る物だ。この世界に転生し、剣の修練を積み、アイリスという天才と対峙し、それに勝つ事を目標に修練を積んできた俺は、声音や行動からある程度の事は読み取れる程に観察眼が伸びていた。
今、ゼノンの「助けるために」という言葉には熱を感じなかった。本当に助けたいと思っているのか?
「………もちろん、私でよろしければ協力させていただきます」
「そう言っていただけると助かります。ではこれを、騎士たちが着ているものと同じものです。学生服では、他の騎士たちに変に思われてしまいますから」
「お気遣いありがとうございます…………一つ、お願いがございます」
おそらく、俺は他の騎士とチームで動くことになるだろう。だがそれでは、俺の欲しい情報は入手できない。ここはなんとしても、単独で動く必要がある。
「お願いですか?」
「私は、単独で動かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「それは許可できないな、こちらが協力を頼んでいる身とはいえそこまで身勝手な行動を、学生である君に許可することは出来ない」
予想通り、ゼノンが突っかかってきた。ゼノンとしては、たとえ俺のような学生とはいえ不安分子は作りたくないのだろう。だが、ゼノンに許可されなくとも良い、なんせここにはゼノン以上の権力者であるアイリスが居る。アイリスさえ許可してくれればそれで良いのだ。
アイリスは何も言わずに、俺の双眸をじっと見つめる。それに対して俺も正面から、アイリスの視線にのみ集中する。アイリス程の強者ならば、俺並みの観察眼を持つはずだ。その目で感じろ、俺はアンタにとって有益な存在だ。
時間にして十数秒の見つめ合いの後、アイリスはゆっくりと目を瞑り小さく微笑んだ。そして改めて俺を見ると、王族たる威厳をひしひしと感じさせる声音にて判断を下す。
「ベクタ・レイブンス、単独で動く事を許可します。この事件が終わるまで、貴方は学生ではなく私直下の騎士として扱いましょう」
「!………ありがとうございます」
頭を下げる直前、ゼノンの顔を見ると少し苦々しい顔をしていた。やはり、この事件にはこいつが一枚噛んでいるようだ。
「では早速、調査に出ます」
俺は受け取った騎士服を持ち帰り早々に着替え、この事件の真相を暴くため街へ繰り出した。
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調査をすると言っても、俺は既にこの事件にゼノンが絡んでいると半ば確信している。部屋を出て行く時、俺の背に確かに敵意を向けていた。気づかれてるだなんて1ミリも思ってないだろうな。
そんなことよりも、この状況をどう切り抜けるか…………
「………だれだ?お前らは」
「「「……………」」」
単独で調査を開始し、人気のない場所へ足を踏み入れた瞬間俺の目の前に黒ずくめの男たちが現れたのだ。彼らは無言で剣を構え、俺に切先を向けてきた。
このタイミングで謎の男たちから奇襲、もう確定だろこれ。ゼノンはどうやらよっぽど俺が邪魔らしい。にしても取る手段がアホすぎる。
「俺を消すには、いまいち物足りないな」
立ち姿、構え、そこから導き出される彼らの実力は確かに低くはない。だがこれで分かった、ゼノンは完全に俺を舐めているってことだ。俺の実力を軽視するとはすなわち、俺と剣を交えたこの国の騎士と、アイリスすらも軽視するということ。正直そっちの方が腹立つ。
「………ちょっとイラっときたから、お前らで発散するかッ!」
言い終わると同時に俺は奴らの懐に踏み込み、1人を思い切り蹴り飛ばす。残り2人はそこでやっと事態を把握したらしく、同時に剣を振り下ろしてくる。俺はあえて、避けるのではなく迎え撃つ姿勢を取る。
腰の剣に手を回し脱力、高速の居合い一閃を奴らの剣に叩きつける。剣が折られてたじろいだ奴らの後ろに瞬時に回り込み、頭を掴んで地面に叩きつける。
「ふぅ、すっきり」
1人も殺すことなく無力化、無闇に人を斬るのは好きじゃないからね。俺は最初に蹴り飛ばした奴を尋問するしようと、振り向いた。その瞬間、凄まじい圧が俺の体を叩いた。
「ッ!誰だ!」
先程蹴り飛ばした奴、近くに立つ黒ずくめの………女?先ほど圧はおそらくこいつから放たれた物だ。その立ち姿と気配から只者ではないことは容易にわかる。
「貴方が、ベクタ・レイブンス……………彼は何を考えているの?この程度の使い手に一体何を…………」
彼女はこちらに目もくれず、何かを呟いていたが小さすぎて聞こえなかった。背中に嫌な汗をかきながら目を離せないでいると、彼女はこちらを向き、次ははっきりと喋り始めた。
「貴方が私たちに何をもたらしてくれるのか今はまだわからないけれど、彼の期待を裏切らないことね」
「?……いったい何のことだ」
「今はまだ分からなくていいわ……………貴方が観客でなくなった時、嫌でも全てを知ることになる」
言い終わったかと思えば、いつのまにかその女は姿を消していた。代わりに女が立っていた場所には一枚の紙が落ちていた。
手に取り中を見てみると、それはこの国の下水道の地図に印がつけられたものだった。
確証はないが、このタイミングでこれを渡してきたということはおそらく、この印の場所にアレクシアがいる。
「……………1人で行くしかないな」
アイリスにこれを持って行ってもいいが、情報源が全く信用できない謎の女だし、もし罠だった場合騎士団は大きなダメージを負う可能性もある。もし俺が生き残れたとしても、その責任を取る度胸は残念ながら無い。
「今動くと他の騎士にも見つかる可能性あるな、動くなら夜だな」
正義感の強い彼らの事だ、俺が1人で行くと言ったならおそらく同行しようとするだろう。それは避けたい。
「さて、気合い入れて行きますか」
この事件をきっかけに、俺は世界を巻き込んだとんでもなく大きな闇と、それに立ち向かう謎の組織とそのボスに目をつけられることになるのだが、この時の俺はそんなこと1ミリも考えていなかった。
今回短めですがどうだったでしょう?
ゼノンは主人公のことを、所詮学生の雑魚と認識していますが、それは授業内での力しか見ていないためです。基本的に主人公授業では本気を出さずに、周りからの技術の吸収と観察、防御、捌きに重きを置いているので未だゼノン名前でガチになったことはありません。アイリスとの立ち合いも人伝に聞いただけな上アイリス側が学生相手に手を抜いたと思っています。