僕、大きくなったら〇〇ちゃんと結婚する!! 作:おじいちゃん
「ねえ、知ってる? この国には、結婚する、とか宣言しておいてその相手のことを忘れる男が居るらしいわよ?」
「へえ、誰のことだろうな。俺はしばらくスメールにいたからモンドの事情には疎いし、よくわから」
エンジェルズ・シェア。厄介ごとの気配を察知して即座に逃走したフィッシュルを恨みながら、ロサリアに引っ張られてカンナが辿り着いた場所である。困惑するがままに酒を飲んでいると、突然。ロサリアから会話が振られ、カンナは特に何かを考えるでもなく、そんな返事をする。
シュッ、と。風を切る音共にカンナの目の前に現れたのは、ロサリアの拳。酒を飲んで多少判断力が鈍っていたことはあるにせよ、別に反応できない速さではないのだが。これがひとえに、キレた女の底力、というところなのだろうか。
痴話喧嘩は酒の付き物。店に被害が出るなら話は別だが、そうでもない限り、チャールズから口出しをしてくることはない。
現地妻と妻に揃ってボコボコにされていた父の姿を思い浮かべながら、冷や汗をかく。
「……ええ。ええ。分かってはいたわよ。君はまだあの時、物心が付いたばかりの子供だったもの」
「ロサリア……?」
ロサリアがヤケになって酒を呑む中、カンナは一人、過去のことを思い浮かべていた。
父の財布が盗まれた、という理由で賊を討伐することになったとある日。神の目を持つ二人にそこらの賊が勝てるわけもなく、ボッコボコにされて治安維持組織に突き出された。その中に一人、少女が居たような。その少女を引き取り、暫く一緒に旅をしていた時期があったような。その少女の名前が、確かそんな感じだったような……。
「いやいや、ないだろ」
「どうしたの、急に」
「昔のことを思い出してた。親父たちと賊をボコった時に、一人女の子が居てな」
「……へえ。どんな子だったの?」
「あんまり覚えてねえけど、美人だった記憶はあるな」
「…………」
「どうした?」
「うるさいこっち見るな」
ズーン、と。ジョッキ片手に机の上に倒れ伏すロサリア。
頬が若干赤みがかっているが、もしや彼女はあまり酒に強くなく、勢いのあまり許容量を超えてしまったのではないか、と。カンナはそんなことを考えていた。クソボケが。
「……本当に覚えていないのね」
「……なんか、すまん」
「良いのよ、別に。いずれ闇に帰る際、君を道連れにするわけにはいかないもの」
ため息を吐き、そんな言葉を紡ぐロサリア。美人だな〜、急にそんなことを言い出してどうしたのかな〜、なんてことを思っているかカンナ。
「別に、んなことは気にせんでいいだろ」
「は?」
「酒を交わしたら二人はもう友達、ってな」
「……友達、ねえ」
カンナの意図としては。ロサリアが何か抱え込んでいるように思えた為、何かあるなら気楽に周りを、俺を頼れよ、と。そんな軽い忠告程度だったのだが。
ロサリアが纏う空気が急に重くなる。ジトっと、店内の湿度が上昇した。
「……ま、今はそれで良いわ」
「ん?」
「君───いえ、カンナはどれくらいモンドにいるつもりなの?」
「まあ、七日ぐらいか? 璃月への移動を考えるとそのぐらいだな」
「……へーえ、久しぶりに姿を見せたと思ったら、すぐにいなくなるってわけ」
出来ることならば。ロサリアも彼の旅路に手を貸し、付き添い、やがては……というような、サクセスストーリーを歩んでみたいものなのだが。
モンドに来てから得たもの全てを捨てて旅に出る選択を取ることは、ロサリアにはできない。それは、あの日の自分を、彼を裏切る決断になる。
「……ね。ちょっとこっち向きなさい」
「ん……」
瞬間。鼻腔を擽るは酒臭い、しかしどこか甘い吐息。眼前に映るは冷たさすら感じるほど整ったロサリアの美貌。
人生16年、最後にされたのは、5歳の時に母親からされたソレであろうか。それにしても頬へのものであり、唇にされたことは未だない。
軽く。お互いの唇を触れ合わせるだけのソフトなものではあったが。しかし、カンナが受けた衝撃はソフトどころではない。
あわあわする彼をみながら、ロサリアはふっと笑い、言葉を発する。
「こうすれば、カンナは私のことをずっと覚えてるでしょう?」
「───」
「ま、私からも時々メールは出すけど。ちゃんと返しなさいよ、でないと、もっと凄いことをしに行くから」
ロサリア可愛いよロサリア