特別暴力対策課は、ある地点であれこれ準備に追われている。
夕日に差し掛かる時間帯、人があまり行き来しない時間の準備だ。
「隊長!こちら準備完了しました!」
「すみません第二部隊はまだ終了していません!装甲車がまだ到着していないので待ってくれると助かります!」
「第三部隊も待機を要請します、こちらは人数の補充がまだ出来ていません」
「第四部隊は準備完了でーす!」
「偵察部隊は現在偵察していますが、不審人物はいません」
状況が流れている中で、モニターを見ながらユリは指示を出す。
「じゃあ第一第四はそのまま待機して、第二第三の方は急いで準備して。装甲車の数が足りないなら予備部隊から回してもいいから。偵察部隊はそのまま偵察をお願い、不審な点があったら連絡お願い」
場所はアビドス校区から少し離れた場所だ。
セリカなども通らないエリアであり、通ると言えばそれこそ拠点の行き帰りなどで往復する不良ぐらいだろうか。ただ、その不良も顔を出していないあたり、何かを感じて避けているかもしれない。
そこの夕方ともなれば、都市であってもほぼ人はいないのである。
「あ、そっちどうですか!」
「突入部隊の方は心配しないで、人数は揃っていて今突入前の準備をしているから」
「わかりました!」
それでも油断はできない状況、出来る限りの準備が必要だからとユリは無線機に張り付いている。
なので、突入部隊の方はショウコが確認している。
「突入部隊のみんなー!精神の方はしょうがないけど、物理的に体調悪いとかってあるー?」
「いやー、こっちは大丈夫だよー!」
「ん、大丈夫」
「気にしないで、ショウコ」
「自分もヘーキだよー」
「元気ですわ〜」
返事を聞く限りだと問題ないようだ。
「オッケー、みんな武器の手入れをしているし問題ないか」
確認したショウコは、そのままユリの方へ戻ってきた。
「協力者の皆様は今武器の確認をしているけど、正直問題はないよ。いつでも行けるからそれだけは覚えておいて」
「うん、ありがとう。こっちは第二部隊が車不足、第三部隊が人手不足で止まっているから、予備部隊から出させることでなんとかしようとしてる。補充が終わり次第合図を出して突撃するから、ショウコもやり残したことがあるならやっといた方がいいよ」
「私はやりたいことちゃんと終わらせてきたから気にしなくてもいい。あ、でもそうだ。折角だからユリにちょっと頼みたいことがある」
「ここを離れるほどのやつなら出来ないよ」
「いや、ちょっと持っててもらいたいものがある。片手サイズのものなんだ」
「なに」
ショウコは目の前にいる少女を振り向かせて、一つのものを取り出した。
それは電子タバコである。
「あんたそれって!」
「これ、今日の朝カンナ局長にどうしてもって頼んで持ってきたもの。分かるでしょ?」
電子タバコを吸う人間は、一人しかいない。
「リーダーの____」
「うん、そう。リーダーのやつ。これを折角だから、ユリから渡してほしいなって思うんだ」
「なんで」
聞かれた方は、少し恥ずかしそうに答える。
「本来は私から渡してもいいんだろうけど、ユリから渡したほうが上手く言えるんじゃないかなって」
「どういう意味」
「まだ、リーダーに対する感情が定まってないでしょ?」
ユリは俯いた。
流石に付き合いがある友からの発言であり、自身の考えを突いていたのもあってか言い返すことはない。
「その状態で会ったら多分、ろくに会話できないまま溝が深まると思う。私は深まってもいいから自分の言いたいことを彼女にぶつけるだけなんだけど、ユリはそういうの、辛いでしょ?だから手っ取り早く思っているよと、言えるものを用意しないといけないなって思って持ってきたんだ」
「そんな見せかけの愛なんて見抜かれる」
「飾る必要はない。これを渡して、一応いるかなって持ってきたって言うだけでも気遣いの一つにはなるさ。たとえリーダーが生き返って、自分たちのところにすぐに戻らなかったとしても、その一つで左右されることってあるはずだから」
「でも確保しないと_____」
「そこまで追い詰める必要はない。生き返って歩き回ったらまた戻ったりするさ。ヴァルキューレの追跡能力だって格段に上がってるし、一応上の方から指示を出して自分がゆっくり尾行することになっているから」
「そんな話いつの間につけてきたの?」
「ああ」
ショウコはそもそもスパイ枠で採用・教育されてきた生徒だ。
尾行に関する技術もちゃんと習得している。
「場合によっては各学園の自治体に保護をお願いすることも考えているから、ともかくセツカがいた時は彼女を捕まえることから考えよう。もし矯正局に戻せたら、その時はもう小細工なしでぶつかるしかない。逃げられてもそれだけの手段があると考えれば、気も楽になるだろ?」
「_____ほんっと、お気楽よね。ショウコは」
「そうでもしないと訓練とか、警察とかやってらんないって」
友人同士でも徹底的に合わない部分もある、というのはこれで示している通りだろう。
「てなわけで、関わり方も分かんなくなってきたユリにはきっかけをあげるためにもそういう役をやらせたいって話。実際特暴課が出来てから、一番リーダーに関わってきたのはユリだしいい役目だと思うよ?」
「うーん____わかった、じゃあその役は喜んで引き受ける。
だけどねショウコ」
「ん?」
去ろうとしたショウコを呼び止めて、ユリは言う。
「これを託したから途中で死ぬなんて絶対にナシだからね。アタシたちも生きて、ちゃんとリーダーに会う。自分を取り戻すまでに人が死んでしまったと、リーダーの自責を誘発させてまで和解させるのは絶対に後悔が残るから」
「大丈夫だ、死にはしない」
「なんでそこで自信満々に言えるのよ」
「私の世界は、私がいるから世界が出来る。世界とは五感で構成されたもの、ハッピーエンドを迎えるためには努力は惜しまないつもりだ」
「ならいいや」
変なこと言ってるが、一理あるとも思った彼女はまた無線機の通信に耳を傾ける。
『第二部隊戦車補充完了、準備も完了しました』
「ならその場で待機、周辺の警戒を怠らないで」
『第三部隊まだ人が来ません、予備隊はもう送ってるって言う割には遅すぎる!』
『予備隊車の数が足りないので徒歩で向かわせてます』
「仕方ない、第三部隊人が徒歩で向かってるから迎えに行ってあげて」
『役立たずが!んん_____わかりました、今すぐ向かわせます』
「着いたら言ってね」
まだ準備は出来ていないが、1km四方で囲んで相手も気づいていないのかまだ猶予はある。
『偵察部隊、現在も異常なし』
「定期報告ありがとう、そのままよろしく」
『了解』
作戦本部のテントは、ゆっくりと緊張感が出てくる。
「そろそろ準備が出来そう」
「んー、じゃ最後の確認してくるように言ってくる」
「お願い、私も準備するよ」
「オッケー」
近くにいる通信兵に、定期報告の確認と準備完了したら待機するように指示を出してと伝えてから、ユリも近くにあったテントに入る。
「みんなー!そろそろ準備できるそうだから、最終確認よろしくねー!」
そう大声でショウコが知らせる中で、彼女は装備の確認と装着を始めた。
拳銃、これは9mm弾のマシンピストル。制圧に使う。
アサルトライフル。M27と呼ばれる代物で、軍用の支援火器として命中精度と火力が強み。
長引いた時の暗視ゴーグル、重めではあるもののしっかりと厚い防弾ベスト。
適当な軍用ポーチをつけて、完成した。全て黒で統一されており、これならば夜になっていくにつれて見分けにくくなるだろう。
「武器は____うん、これなら大丈夫」
装備した彼女は、置いてあった鏡を見る。
紅紫の、ちょっと短めの髪の向こうの目線はかなり暗い。
隈ができてしまっているのもそうであるのだが、全体的に疲労感が取れてないように思える。姿勢を正そうとすればするほど、疲労感が増した。
(アタシ、やっぱりずっと気を張ってるんだな_____いや、張らないといけないから仕方ないのか。でもリーダーと会えた時、また笑えるかな)
なんて心配が駆け巡るものの、それだけを考える暇はない。
テントを出ると、仲間もいた。
「お待たせ」
「おお、やってきたね」
軽い装備を整えたショウコも合流。
他の協力者達も、立って彼女に合流した。
「一同準備できてるよ」
「ありがとう。あ、通信兵!そっちはどう!?」
「第一から第四まで全て完了しているとのことです!偵察部隊の方も、全て異常は見当たらないとのこと!」
「ありがとう」
そう言ってから、ユリは自分のいる突入部隊の方へ歩いた。
「まずアタシ達のために集まってくれてありがとうございます。みなさん」
「気にしないで、私たちも用事があって協力してるんだからお互い様だよ」
「この作戦ではとりあえず門の確保をし、もしセツカ達かリンネの組織に当たった場合は、確実に捕まえるか撃破するようになってます。
ですか、この大部隊を揃えると言うことはそれだけ外というものに関わるもので、最大限の警戒をするということです。すでに自分の部下には伝えてありますが_____いざという時には逃げてください。被害を出さないことこそが、その後の情報の整理や攻略に繋がってきますから」
「ん、わかった」
「以上です、一応最後にお聞きしますが、何か質問がある方は?」
ユリは最後の情報共有のチャンスであることを強調し、周りを確認する。
しかし、誰も質問をしない。自分たちのやることをしっかりと確認して、頭に叩き込んだ上で準備をしていた。自分たちのやるべきことを怠った人間はいないのだ。
依頼し、率いる部隊長になったユリはその光景に安堵してから、号令をかける。
「それでは、みなさん。今回の作戦を成功させて、最低でもセツカの足元に辿り着けるように協力をお願いします!」
「うん!」
「ん」
「了解!」
「ええ」
「分かりましたわ!」
「オッケー!」
それぞれが返事をする中で、さらに一個、返事が響く。
《がんばれー!》
マイクが建物に反射して響き続ける声。
一瞬、皆が固まった。
特にショウコとハクジツは目を見開いて体が固まる。
因縁のある少女の呼び声だった。