「どうやら元々テロリストの奴らまでも引き出してまで攻略しようとするのは感服するよ。まさか、そんななりふり構わない行動を公務員が_____いや、
「何?スカした野郎のくせして嫌味を言いにきたの?」
「レディに向かって野郎はないだろう、ドブネズミが」
対応しながら、軽口を叩くカザミとそれにちゃんと返すリンネ。
「で、何しに来たわけ?」
「それは勿論死ぬ前に顔を見ておこうと思ってね」
「案外性癖終わってるね」
「お前らが死んでも私には構わない話だが、顔を見に来たと言うのはただ一人だよ」
やはりハクジツに視線を向ける彼女。
「ああはいはい汚くて悪かったな!見てろ!お前の兵隊なんかさっさと片付けてやるからな!」
「頑張ってくれたまえ。応援している」
「心にもないこと言いやがって!」
首魁だった少女は苛立ちながらもしっかりと襲ってくるやつに対応。他の仲間もあまりに人が多すぎるので、今分断して戦えるのをできる限り長引かせる形で相手を処理していく。
ただ、それでもハクジツとリンネの二人は動かずに、お互いに言葉を交わす。
「____私を殺すの?リンネ」
「いいや、実を言えば君は殺さない。あの時私のことは死んだもの、とはいえ別人でも誰かを生かしたい、殺したいと言う願望はあるし、器もまた君を生かしたいと思うのも不思議ではない」
「そう……そんなに私のことが、好きなんだ」
リンネは、微笑んだまま話を続ける。
「そうそう、今この死に損ないたちに飲ませた薬というのは
「……」
「君によって倒されるなら構わないとも言ったし、その言葉に嘘はないよ」
第三勢力の主は、屋根に足を乗せたまま彼女に語りかけた。
「だけれども、今この場にいる天衣セツカという人間と、それに戦って疲弊している特別暴力対策課ならびにヴァルキューレのような公的な武装組織は私の完全な敵だ。たとえ君の目の前で惨い殺し方をしたとしても絶対に必要なことなんだ。私の目的にはね」
目を伏せた彼女は、他の人間を見た。
ユメとクロコは安定して対処するための肉壁を作っているが、計算して積む暇がなかったので壁が壊れて崩れるのが作った端から発生してしまっていて、だんだんと身動きが取れなくなっている。壁を使っていた人間たちも同様で、段々彼女たちが自由に動ける場所が狭まって来ている。
「ほら、周りを見てごらん。君の仲間だと思っていた子たちは、だんだんと追い詰められている。それを覆す術はセラフィム弾では出来ないし、君たちは火炎放射器などの残虐な兵装を持って来ていない。持って来てたとて、ここにある死に損ないの人間の形をしたものの数は変わらない」
「リンネ……」
「ごめんね、ハクジツ」
謝るにしては一切止めないあたり、やはり自分本位なのだろう。話を聞いててキレそうになってるバンリも処理に追われてて口を開く暇がない。
そして会話している当人、ハクジツは相手が自分の青春の一つであり、悪事を働いていながら自分のことは巻き込むまいとしていた優しさが本物だからと知っていたからこそ、その自分本位さに気付けないで、かつての青春の幻影に惑わされ続けている。
だけれども、事実としてハクジツの仲間はほぼ追い詰められた。
「うーん厳しい!どれだけ撃ち殺しても埒開かないねえ!」
「うへぇ!大変だよぉ!なんでこんなに多いの〜!」
「ん……しつこいっ……!」
「ねえショウコ!これどうにかならないの!」
「どうにかなったら苦労しないって!」
「あ〜もうほんと、も〜!」
それぞれが限界を迎えそうになっていた。
「さあ、おとなしくその命を差し出してくれ。ハクジツを傷つけることになるのなら、せめて彼女に傷が少ないように」
全員が全員、諦めかけている。
(こんな終わり方ぁ……!)
苦虫を噛み潰したように食いしばって耐えているユリのヘッドセットに、通信が入る。
『第二部隊増援確認!これは_____シスターフッド!?まさか、そんなことがあり得るわけ!第二部隊と合わせた数よりも倍以上の増援が来ています!おまけに翼が生えてるやつに隕石が降って来ている!』
『第三部隊も増援を確認!正実……って嘘だぁ!そんなわけ!いややっぱり正実だぁ!でもなんかゲヘナっぽい生徒も来ていて支援砲撃をしてくれている!』
「あぁ……!?」
急な連絡に、若干怒鳴るように反応したユリ。
だが、そんな窮地も当然、その救いの中にある。
空に凶星。
赤い炎が降り注ぎ、相手を焼き払って溶かし霧散させる。
「きゃあっ!?」
「なになにっ!」
驚く面々の中で、その影をいち早く捉えたのはユメだ。
「あっ!シャルアー!」
「えっ!?」
そう、降り注いだ星の正体はシャルアー・ドーンである。
大剣を担いでいるが、そこから爆炎が漏れ出し、そのせいで彼女の髪が赤くなっているようにも見える。
「ええ____!?」
「やっばいこっちも!」
「今度は何!?」
当然シャルアーは一人しかいない。
だが、彼女が降り立たない方向からも支援砲撃が飛んできて相手が吹き飛んでいく。
その砲撃が手厚く、危うくそこにいたバンリたちが吹っ飛びそうな勢い。
「何ですのーっ!」
「うわー!」
砲撃で道が開けるレベルの威力が数秒間降り注いだ。
そして。
「ふふふ、あはははははははッ!」
という、れっきとした"男"の笑い声。
リンネとは反対方向から響くその声に振り向くと______
スーツ姿で少し色白
黒い髪を揺らして大笑いし
手にはタブレットを持っている
そう、そんな男は一人しかいない
そして、その男をこの中で唯一よく知っている少女が叫ぶ。
「_______先生!」
シロコ*テラーの叫びが響き、月光を背にして現れたのは。
シャーレの先生である。
彼だけではない。
その横には、ツノが生えて軍服のようなものを着た少女までいる。
「マコトさん!」
「他にも配下の子達がいる!」
リンネは、とんでもないやつの乱入に若干だけ足が引いた。
「……まさか、そっちまでいるとはね」
「ふいー間に合った間に合った!君たち、大丈夫か!?」
「大丈夫ですー!助かりました!」
反応するユリを横に、文句を言うシャルアー。
「おい先生!あんた昨日話した時『リンネとかと関わると最悪シャーレの権威に関わる』とか言わなかったか!?」
「ん〜言ったけどねえあれは君にも隠しておきたかったんだよサプライズのために!何、そんなに自分一人で倒したかった!?」
「んなわけあるか!ありがとう!」
「どういたしまして!」
突入部隊の全員は混乱した。
シャーレが来るまではサプライズであったが、まさかシャルアーまで支援で来るとは思わなかったのである。
「ねえシャルアーちゃんって敵じゃなかった!?」
「あの門の関係で寝返らざるを得なかった!大丈夫、渡すのは黒服だ!」
「ちゃっかりしてるんだから!」
「そうでもしないといけない状況なんだよ!」
シャルアーがいろんなやつと言い合いをしている中で、リンネは先生に話しかけた。
「まさか、先生が来るとは思いもしなかった。懸念通り、我々はそちらに選ばれなかった人間を救い上げるための装置にすぎない。多少、人道を踏み外すがね。このグレーゾーンがあるという大事さは、私より人類史を習ったそちらが知っているはずでは?」
「確かに、弱者というのはどの社会でも必ず存在するものだ。それは認めるし、事実それを強制排除しようとして社会システム全体に悪影響を及ぼすものもあった。けれどもリンネ、シャーレというのはそういった少女達でさえ救うためにある」
「今そこにいる過激派の首魁はそちらがアリウススクワッドしか救わなかったために出来たようなものだ。どう説明するつもりだ?」
「それこそアリウススクワッドの面々は、社会活動に今勤しんでいる最中だ」
「何を?」
「アルバイトや海での仕事だ。特にDJなどのクラブなどでは、腕っぷしもあったほうがいいからな。彼女らをモデルに、最低値が高く強い少女達が職を求めてあぶれていると言えばそれを救おうとする連中はごまんといる」
一歩も引かずにネガキャンを打ち砕くために、返した先生。
「そんなことをしていれば、カザミがそうなるのも納得だな。遅すぎる」
「根本治療は急激な切除だけで成り立つものではない」
「そういう綺麗事で、動かせると思っているのか?」
「綺麗事を動かすために私にはシャーレという権威が与えられた。権力というのは獲得した手段ではなく、いかに行使したかでその正当性が担保されるんだ。本人の前で言うのもあれだが、まだヴァルキューレが公的武装機関としての信頼度を勝ち取りきれてない以上、いや、たとえキリノやゼンヒが勝ち取ったとしてもこの社会では用心棒の価値は比較的高く、傭兵市場はまだかなり活発だ。そこで社会に参加して経済に合流させることで彼女達の生活基盤を確保できる。あまり戦いで価値を上げることは是としたくはないが、そこまではすぐに解決できないから」
ベアトリーチェといた、と言う点でも裏事情にも詳しいやつはそう多くない。各種自治体の犯罪対策にも役立つから、アリウスの生徒をどこかへ流入させるのは大いに役立つ。その先鋒をアリウススクワッドに任せただけのことだ。
「詭弁を堂々と言うの、よろしくないな」
「詭弁は未来の常識だ。そうするためにここにいる」
「そうか____ならば!」
リンネは先生を兵士に襲わせようとした。
「マコト!」
「いいだろう!」
シッテムの箱でガードするまでもなく、マコトが砲撃を要請。
すると、襲おうとしてきた奴らは全員砲撃で吹き飛んだ。
「くそっ、旗色が悪くなってきたか」
そう悪態をつくリンネを無視して、先生は突撃部隊に叫んだ。
「君たち!早く行け!」
「もちろん!」
「行かせるか!」
だが、リンネはそれでも通さない。
兵士は補充すればいいだけに、何体でも呼び出して妨害しようとした。
それでもここまで応援が来て、足を止めるわけにはいかない。
そう考えた奴が一人、叫んだ。