「随分とボロボロだから、相当消耗したんだねえ道中」
「熱烈な歓迎感謝するよ」
「アリウス過激派の首魁もやってきたんだ。まあ、関係ないけど」
セツカは手すりに肘を置いて、相手に対して挑発するような笑みを見せる。
「君たちがこの門に来ることは正直予測できることだったよ。辿り着くまで行ったのは褒めてあげる、私のために、嬉しいなあ」
「心にもないこと言ってくれるなよ、この門を使うことは予測していたが一体何のために」
「そりゃあシャルアーの件から始まった色々を片付けるためだよ」
「片付けて、どうする?」
「別世界で楽しくやっていくつもりだよ〜、だから帰った」
「嫌だと言ったら」
「へえ、あんた達は止められると思ってるのね」
三人を嘲笑うかのように、ヤツカは煽る。
「止められるわけないじゃない。私に全員やられているのに、たった三人ぽっちで出来ると思ってるの?」
「その三人ぽっちで君たちはやってきたんだ。ちゃんと手の内を知っているのであればこっちも余裕だよ」
「ほざけ」
カザミの言い返しに、本気になって怒ろうとする相手。
「なに?それとも、多少の小細工を持ってきたの?」
「どうだろうねえ」
「曖昧にしたところであるものとして動いていれば、そうそう当たらないのよ」
「おお、お見事」
言い合いをしている中で、カザミがスペツナズナイフを取り出す。これをヤツカに向けて、話を続けることにした。
「まあ、そうだな。聞いてくれるわけはないけど……一応、こちらの要求を言おうじゃないか。なあ、ユリ?」
「ええ」
ユリは一歩前に出て、セツカを見て口を開く。
「アタシ達はあなたを止めにきた、あなたを逮捕してこの門を閉じて補完するためにやってきた!改めて、改めてアタシの要望を聞いてくれ」
「なぁに?」
「大人しくここで捕まってくれるならアタシ達は手荒な真似はしないし、ちゃんと身柄は守ると約束する。だから、おとなしくこっちの要望に従って欲しい!」
「それはどうせゼンヒを復活させるためでしょ?私痛いの嫌だし、ゼンヒだって嫌がってるよ」
胸に手を当てた彼女は、そのまま話す。
「ゼンヒちゃんはね、君達が怖いことから守ってくれなかったのをかなり怒っているし悲しんでいるんだよ?怪我を治したのも私だし、それに矯正局にいる間彼女の話し相手になったのも私。そして、君たちよりも先にシャルアーとヤツカが自由にしてくれた事を考えたら、私達がゼンヒの仲間なんだ」
「……」
「否定しないの?」
三人は、と言うよりユリとショウコは無理に言い返すことはしなかった。さらにユリは、その誘いに乗らずに、自分の思っている事を伝えた。
「否定はしないよ。だけど、ひとつ言うなら」
「なにかな?」
「セツカ、あんたもリーダーだよ。ゼンヒなんだ」
言われた方の顔から笑顔が消える。真面目に話を聞く気になった合図だと捉えられた。
「どのみちあんたは死んだ身で、その体がゼンヒという女のものであるなら。あんたもリーダーの一つだ。手荒な真似はしたくない」
「綺麗事言うのはもう少し早くにするべきだったんじゃない?」
「人は全部分かり合えるわけじゃない。考えることが最初から予め分かったとしても、それを納得出来るかは別問題。だからアタシ達は、これ以上あんたが変なことしでかす前に止める!」
ほほう、ともう一度口角を上げるセツカ。
「もう一度聞いておくけど、あんたの目的は何?」
「それは私たちが門を開けて、シャルアーの旅立ちついでに私たちも新しい世界に行くことだよ」
正直心にもないことだが、聞かれた方はせめて本気で聞こえるように答える。
「彼女の世界には、色彩に匹敵するようなものが沢山転がっている。研究資料もだいたい手付かずのままにあると聞いた。それらをゲットして、この世界での研究材料に使うつもりでいるよ。まあ、特に目的があるわけじゃないけどね」
「戻ってきたとて、シャーレやゲマトリアに勝てる算段があると?」
「あるよ〜。まあ、それこそ君たちが永遠に知ることのないことだから関係ないけど。
と言うわけで止めるにしても時間が掛かりすぎたらアウト、そもそも三人だからここで殺されたら進捗がその分進むからアウト。君たちは不利な状況からスタートってわけ」
「大人しく逃げるのであれば、私もあんた達を食べないであげる。さあ、どうする?」
ヤツカが追加で煽りを入れた。
ユリとショウコは、言葉で解決できないことを悟って銃を取り出した。すでにナイフを構えていたカザミは彼女らに内心"遅い"とツッコミを入れつつも、ようやく戦う気を出してくれたのかと安堵して啖呵を切る。
「よし、互いにやりたいことが決まったようだね。じゃあここからは最後の戦いになる。結局どっちかが無力化されるまで続けるしかない戦いだ、時間をたっぷり稼いで死んでやろうじゃないか!」
「下郎ども!私らは貴様ら3人で死ぬほどやわではない、ましてやシャーレの指揮下にない、何の能力も持たない者達に負けることなど一切ない!」
「ほんとうにそうかなあ!?」
煽ったカザミはそのまま門の前にいる少女を無視して、スペツナズナイフの刃を飛ばしてセツカを刺そうとする。
だけれども彼女はそんな簡単に当たるわけではない。ナイフを向けられた段階で横に飛んで避けて、自分も刃物を取り出した。
「うげっ!?刀かよ!」
「ふふん、使えるんだよこれでも。ほらヤツカ!」
「ええ!」
ヤツカも自分の切り札である神狼を起動する。
数的有利とは名ばかりで、それぞれが単騎として完成された戦いが始まった。
「行くよ!」
この時に余裕を感じていたのは、それぞれの厄介なやつを味方に押し付けて戦おうとしていたセツカとカザミ。
二人はそれぞれナイフと刀を持つ。
基本的にはセツカが攻め入る形で、刀を振った。
彼女の太刀筋は見事なもの。全くと言っていいほどブレがなく、ブレがないと言うことは勢いと力による制御がしっかりできていると言うこと。スペツナズナイフを何本か持ってきていたカザミは何度か刃で受け止める。
しかし、スペツナズナイフというのは発射機構などを備えている分単純な刃物と比較してあまり刀身は固定はされておらず、単純な力に弱い。
「折れたぁ!」
なんて叫んだカザミだが、気にせずもう一本取り出して対応。
「ほらほら!ちゃんと対応しないとあっという間に細切れになっちゃうよ!」
相手の戦い方は、基礎が出来た上で想像の上をいくもの。
何よりも一閃と言えるほどの一太刀を何度も何度も、一回もブレたり遅れたりすることなく押し付ける戦いを続けれるだけでも悍ましいものだ。
それと戦えている方もベアトリーチェの手下なだけあって対応できているが、体術を駆使して刀を封じて殴ったり蹴ったりすることで気絶を狙うが_____
「甘いよ!」
「いっ……!?」
セツカの袖から刃物が飛んでくる。
急いで急所を腕で防ぐが、垂直に刺さってしまう。
「舐めるなぁ!」
血管を切断するほどではないがその痛みに顔を歪め彼女は足で蹴って相手を遠ざけようとした。
だがそれすら見透かしたように、脛のところからも刃物が。
「ほらっ!」
二枚目の刃は、彼女に言葉にできない悲鳴を上げさせるに至った。
そんな絶叫をあげても動きを鈍らせないで飛んで離れる。
「はぁ、はぁ____きぃっ……ひゅ」
若干呼吸がおかしくなるくらいの痛み。
血の匂いが充満するにつれ、ヤツカは高揚し、特暴課の二人は焦る。
「ははは、いい気味ね!イキって戦ったはいいけど、結局姉さんに勝てるわけないのよ!」
「カザミ!」
「構うな!こっちはこっちで仕留める!」
「アタシがいくよ!」
「黙れ!お前がこっちに構って、またショウコを傷だらけにしたいのか!」
幸いユリとショウコはデータがあるため無傷で神狼の動きをいなして時間を稼ぐことに成功していた。攻撃を当てれるだけの隙はないが、何より下手に暴走すると彼女の邪魔をすると判断したために時間を稼ぐことを徹底。
事実、時間を稼いでもらっている側はそれに恩義と効果を感じていたために、自分の切り傷程度で崩すことを嫌った。
「構わずそっちの方に集中しろ!」
「分かった!」
二人はカザミのことを"仲間"として信じた。自分たちとは違う生き方で、強さを重ねてきたのであればその中に知らない策がある、という確信があった。
「いやあ随分お熱い友情で結ばれてるんだねえ」
「世の中分からないものだよ。信じ合える奴の中に元SRTの人間がいるなんてこと」
「でも、それに報いることはできないよ」
腕には刃物が刺さった状態で痛みが集中力を鈍らせ、足からも血を流しているためこのまま戦えば負けるのは必定。
「君は刃物の扱いに慣れていない。いや、私と同じ立ち位置にいない。どれだけ言っても結局は軍隊的な訓練しか受けていないから私には勝てないよ。格闘術とかは高く、完成されているけど」
「褒めてくれるっていうならこのまま負けた方が華だ」
「そうはできないよ。私にも、仲間というものがいる」
「だよ、な」
セツカは話終わったら襲いかかる。
太刀の光は、血によって鈍くなりつつある。切れ味こそ劣らない故に、恐怖が生まれた。
だがカザミはそれで怯むような人間ではない。ナイフを構え直し、応戦する。
「ほらほら!」
「ぐぅ……っ!」
痛みに耐え、力に耐えながら受け流し続ける。
たまにナイフの刃先を向けて、飛ばすように脅す。それをセツカは上手いことずらしながら対処することで、怪我したまま動かして出血多量での死亡を狙った。
「狙わせないよ?」
「くそっ、ちょっとは手加減しろって……わっ!?」
カザミの意識は段々と朦朧してくる。
そのうちに筋肉へのエネルギー供給などが間に合わず、弾かれればその力の分だけ腕を振って無防備になってきた。
これが災いし、血を流し続ける少女は自身の血で湿った床に足を滑らせて転んだ。
「ざまあないね、これで!」
「舐め、る、なぁ!」
スペツナズナイフを相手に向け、転んだ姿勢を出来る限り膝を床に付けて身体を起こしながら刃を射出した。
当然反射神経も良く、足元も安定した場所で戦っていたセツカは飛来物を弾き飛ばして襲いかかる。
転んだ衝撃で痛みが増し、まともに動けないカザミは避けられない。それでも片方の手でもう一本ナイフを取り出して、それで刃を撃つ。
「同じ手に引っかかる訳ないじゃん!」
セツカは、勝ちを確信して獲物を屠れる事を悦ぶ表情を見せた。
「そうだ、同じ手に引っかかるようなやつが世紀の殺人鬼になる訳ない」
深手を負った少女は、その言葉に同意を示した。
目の前の少女は刀でもう一度飛んできたものを弾く。
だが、弾くと言うことは刀を振り、元の姿勢、いや、防御が可能になる姿勢まで戻るのに時間が掛かると言うことだ。
血を流しすぎて碌に動けない相手を殺そうとするセツカ。彼女は勝ちを確信していたし、事実もうナイフを取り出して撃つには間に合わない距離にいた。
「終わりだよ!」
「ああ」
その相手に、カザミはナイフを取り出さなかったもう一つの手で______
黒く輝く、運命を取り出した。