シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

108 / 163
衝突-9

 決着は一瞬。

 

 シャルアーの持っていた武器はこの世界のどの武器よりも強い、色彩に似た力が入っていた外の武器。そして、その武器を使っていたのは刃物の扱いを熟知したセツカと、自身の経験により銃の扱いに習熟していた隙のないゼンヒ。

 

 その一撃に至るまでの判断が早かった彼女の一太刀は神狼の一撃よりも、神速と呼べる速度で叩き切ったのである。

 

「そ、んな」

 

 それがヤツカの、最後の言葉だ。

 

 彼女からすれば信じられなかったのだろう、自分の敬愛していた女にくっついていただけの矮小な人格がここまで強かったという事実を。

 

 だが、シャルアーとセツカは、その答えを知っていた。

 

 何故なら、この体は()()()()()()()()()()だから。リンネのものでもセツカのものでもない、この体にとって最初に目覚めた人間はゼンヒであり、彼女のための肉体として一年過ごしたのだ。

 

 だから『セツカは自分の要素があった部分しか扱えなかった』とも言えるし『二人の肉体の良い点をフル活用できるゼンヒは強い』とも言えた。

 

「すごい_____」

「ありえない、これがリーダーの……!?」

 

 特暴課の二人は、困惑していた。

 

 まさか自分たちが少し削ったとはいえ、相手の力を大きく奪って倒すという芸当を一人でやってのけた。彼女たちでさえ知らない、ゼンヒの底力。

 

 黒く飛び散ったものを被り、一切怪我をしていないゼンヒの姿は凛々しく、いや、かっこいいとも言えただろう。

 

 災いそのものの力が封じ込められていた、氷獄の階層を騙る武器の刃さえ、月光に照らされて一人の少女の道を開く神具となっていたのだから。

 

「_____ありがとう」

「ああ」

 

 シャルアーに、律儀に全部の武器を拾ってまとめてから返すゼンヒ。

 

 かつてと同じ性格で、復活のことを喜ぼうとも一瞬思えたが、誰一人としてそう言った感情を出さない。

 

「……あの、リーダー」

「なんだ」

 

 ユリは、恐る恐る近づいた。

 

「おかえり、なさい」

「_____戻ると言った覚えはない」

 

 近づいてきた部下でさえ、バッサリ切り捨てるように言う。その威圧感に負け、罪悪感でユリは下がってしまった。

 

「おい、おい____かは、いや、そりゃないでしょゼンヒ____」

 

 応急処置をしてもらい、容体が安定してきたカザミは立ち上がって相手に詰め寄る。

 

「カザミ動くな、その傷じゃ」

 

 止めるショウコの言うことも聞かず、彼女はゼンヒに近づいた。

 

「こいつらは、自分に色々頼んできてまで、神秘に関する情報を集めてお前を取り返すために頑張ったんだ。そのことについて何も思わないのか」

「頼んだ覚えもなければ私はセツカのままでも構わなかったが」

「てめえ!」

 

 ゼンヒの胸ぐらを掴む。

 

「そのために!そのために何人集まったと思っている!ゲヘナの万魔殿の勢力に、シスターフッドや正実の奴らだって来たんだぞ!そいつらに対しても、何も!」

「言ったはずだ、頼んだ覚えはないと」

「こいつ!」

 

 カザミは相手を殴ろうとしたものの、流石に殴られそうになった側は察していたのか拳を受け止める。

 

「仮に私を助け出したとして、私は恩義を感じていない。私の要求するものを、誰も用意していないのだから」

 

 ヤツカを殺したのは"彼女が何もゼンヒにもたらさなかった"ことと"ゼンヒにもたらしてくれた人間が止めることを望んだから"であり、そこに社会における正義や立場の大義などは一切挟まることはなかった。

 

「お前が被りかけた冤罪を晴らすための戦いでもあったんだぞ!」

「その罪によって不利益を被るのは私じゃないだろうに」

「仲間として救おうとした奴らに向かってその言い方はないだろう!ゼンヒ、お前の仲間であるユリとショウコはお前と会って謝ったりお願いしたり、お前を仲間だと思って体を張ったんだ!何か言うべきだって思わないのか!」

「しつこいな。その礼儀をするほど、私はお前らに感謝していない」

 

 結局慕っていようがなんだろうがゼンヒは今、彼女自身の味方はいないと認識している。

 

 精神を揺さぶられて味方から攻撃されるのを、命懸けの状況でやられたら疑心暗鬼になるのも仕方がない、いや、普通は当たり前だ。

 

 同じ組織の人間から信じてくれなんて言われて信じれるわけもないどころか、その執念のためだけに自分の逃げ場を無くして挙句貢献したふうに言われればそれに怒りを感じるのも仕方のないこと。むしろ叫んだり物投げたりヒステリックにならないあたり、一才の少女としては高潔であるとも思える。

 

「大体お前はただのテロリストだ。人情に訴えかけると言う手段があの時浮かばなかったのに、滑稽じゃないか。それに頼らざるを得ない時点でSRTの奴らの実力なんか知れている。子供のお守りなんて二度とごめんだ」

「てめ……」

 

 もう一度引っ込めた拳を相手に叩き込もうとする。

 

 だが。

 

「____」

 

 その拳は、途中で止まる。

 

 代わりにカザミの嗚咽が、霜のように響いた。

 

 彼女の目の前にはゼンヒがいる、それは変わらない。

 

 だが、彼女は目の前に靡く薄紅色のヴェールの向こうに光を見たのだ。

 

 一瞬だけ、流れ星のように輪郭をなぞった月光を。

 

 それを見たのは種田カザミという、一人の女だけ。彼女は3歩後ろに下がってから、目を逸らして突き放すように言う。

 

「……好きにしろッ」

 

 ヤツカが暴れたせいで崩れた門の周り、地面に落ちた小さな瓦礫を蹴り飛ばして吐き捨てた。

 

 蹴った音と、壁に当たった音が反響する。

 

「もう知ったこっちゃない!知らねえよお前のことなんて!」

 

 愚痴りながら、カザミはその場を後にしようと歩く。

 

「カザミ!」

「おいカザミ!」

「止めんな!知るか!そんな女に負けたとか、言いたくない!」

 

 ずっと戦闘から様子を見ていたシャルアーも、彼女に思うところがあるのか見送った。

 

(お前とは直接話したことはないが____だからか、お前についていくやつが居たのは。種田カザミ、立派なもんだ。お前がもっと、真っ当に活躍できる社会に生まれていれば幸せだっただろうに。ありがとう、ゼンヒのことを分かってくれて)

 

 その微笑みは、背を向けて振り向こうとすら思わない少女には見えなかったのだが、それでも敬いを持ってシャルアーは彼女が消えるまでその背中を見送る。

 

 残るはユリとショウコだけだが、彼女達はもう深く追求しようとしなかった。おそらくは彼女達がまだ接し方に悩んでいるのを知っているから、仮に決めてたとしても勇気がまだ出ないから先陣を切ってくれたのかも知れない、と言う気遣いを感じていた。

 

 接し方が荒すぎるのだけはどうにかしてほしかったが、それでも自分たちのやってきた事を否定するような言い方に怒ってくれたのも、少しは嬉しかったのだろう。自分たちのために怒って立ち向かう人間も、彼女達にはいなかったのだから。

 

「あの、リーダー!」

「……なんだ」

 

 ユリは、手にあるものを持って近寄る。

 

「その、これを」

 

 渡したのは、ショウコから手渡された本来はゼンヒの持ち物。

 

 電子タバコだ。

 

「これくらいしかアタシは持ち出せませんでした。でも、きっと損はしないだろうと思って」

「そうか」

「……ごめんなさい、未練がましくこんなのを持って。幻滅しましたよね」

「______どうだろうな、でも、そうだな。持ってきてくれたんだ、ありがとう」

 

 それを彼女は、乱暴に取るでもなく、罵声を浴びせて相手を否定するように破壊するでもなく、少し丁寧に受け取った。この行動が逆にユリを怖がらせたのだが、そもそも相手の表情を見ようとしないゼンヒには分からないことだった。

 

「あ、そうそう。リーダーこれも」

 

 ショウコもそれについていくように、ゼンヒの私物を渡した。

 

「いやあどうしても武器とかは無理でしたけど、取り計らってもらってスマホとか身分証は持ってきましたよ。これがあればヴァルキューレ辞めても全然やっていけるでしょ?だから渡しときたいなって」

「_____」

 

 余計なお世話だ、とも言わないで受け取るゼンヒ。

 

「自分たちはどうしても戻ってきてほしいなって思ってますけど_____無理なら無理で、あんまり余計な手間をかけさせたくないのでこんなことしたんです。気を悪くしたなら謝りますけど」

「社会人的なやり方だけは知っているな、まあ、そうでなければ連邦生徒会の私兵をやるなんて無理な話か」

 

 彼女の口からは、相手を傷つける言葉が出てくる。

 

 だが、それはもうテンプレート的なもので、二人は慣れてしまっていた。むしろ彼女達は、今は堂々と特別暴力対策課の所属と言い張るつもりでいる。

 

 それでも、悲しい顔をしたのは。

 

 ゼンヒのそんな言い草の節々に、若干の悲しみを感じたのだ。ユリでさえ雨が降る匂いのようなものを感じ、そもそも人の機微をよく見るように教育されたショウコに至っては、悲しみがはっきりと伝わってきた。その正体までは分からずも、だ。

 

「____もう、二度と会うことはない」

 

 そんな微妙な言葉で、その場を去るべく歩き始めるゼンヒ。

 

「あ、ゼンヒ」

「なんだ」

 

 シャルアーは、後ろから声をかける。

 

「私は色々あるから少しこいつらと行動する。どこふらついてても、必要があったら駆けつけるつもりだがまず遠出するなよ〜」

「……分かってる」

 

 言われた方も、反抗する気も見せずに歩き始めた。

 

 それを、二人は追いかけようとしない。彼女が抱えたものは、二人にはどうすることもできないのを、分かっていたからだ。

 

 今は。

 

 シャルアーも一緒に見送ってから、武器をちゃんと回収して装備、そうしてから二人に向かって話しかける。

 

「すまない、友人が邪魔をした」

「どうやったらあの状態のリーダーに入り込めるんだ」

「私はこう見えても王子様なんだ。あんな少女を誑かすくらい余裕さ」

「ロシア美人ってみんなそうなの?」

「みんながみんなそうってわけじゃない。ま、私には王子様がいるがね。聞いていくかい?生きる活力になるよ」

「……今活力が欲しいのはシャルアーじゃないのか」

 

 ショウコは、彼女にそう言った。

 

 飄々としたままヤツカが死ぬのを見送ったのもそうだが、いくらセツカ自身の選択とはいえ今まで仲良しで、3人でこの都市を生き延びてきたのが粉々に砕け散った。喪った悲しみを、ショウコは見逃さなかったのである。

 

 特にシャルアーも、ヤツカと同じくセツカに救われた人間なのだから。

 

「____どうしてそう、こざかしいんだ?」

「こざかしい?いや、人の思考を読むのに長けていると言ってほしい」

「……じゃ、聞いてくれよ」

「いいよ。アタシも聞いてみたい、甘酸っぱい青春」

 

 3人は、囲んで話を始める。

 

 ゼンヒはしばらく自由にさせておいた方がいい、という気遣いは果たしで良し悪しのどちらに出るか。

 

 月光は、暖かみのあるものを被せるように地を輝かせた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。