「と言うわけだ、私としては個人の武器用の資金渡すよりも先に制式採用のもっとまともで強い武器をよこせと思っているのだがな」
「コンビニにでも行けばいいでしょう、と言いたいがあれでは警察の使い方に耐えれませんなあ」
片眼鏡の店主がいるここは、ビルの一階にあるガンショップである。
この日ゼンヒは仕事の最中なのにも関わらずショッピングをしていた。いや、彼女からすれば"仕事なのに"が正しいか。交番でのんびりしながらたまにパトロールして過ごす、と言う仕事でも満たされているのが彼女なのだから。これは当たり地域に配属された警官ならではの悩みだろう。
少し時は遡る。
ゼンヒは、公安局幹部の部屋に呼び出されていた。
『え、私専用の武器を見繕ってこい?』
『カンナ局長の指示ではないが……最近活躍してる君への労いを込めて、君専用の武器を見繕ってくれ。仕事中に行っても構わない』
公安局幹部は、あまりに頓珍漢としか言いようのない指示をゼンヒに伝えた。当然彼女は疑問に思い、質問をする。
『それのどこが宣伝になるんですか?』
『ヴァルキューレの腐敗は進んでいて、しかもそれは先生の活躍によって存在価値が薄れ、無気力になっている。これを打開するためにはワンマンアーミーになってもいいから、君を優遇してもっと活躍してもらう必要が出てきたと考えてもらってもいい』
幹部は動じないどころか、恥ずかしげもなく彼女をヒーローに仕立て上げるような言い草をする。
ゼンヒはその扱いについても横暴だと困っていたが、それよりも大事なことがあると主張した。
『しかしそれはあまりに横暴では。その資金をもう少し、他の警官の装備の拡充へと回した方が得策かと。仮に装備がしっかりと補充される、上層部が現場に寄り添うようになったら元から性根が腐っているならともかくとして、無気力状態はゆっくりと回復傾向になるはずです』
そんな彼女の提案虚しく、幹部は話を続ける。
『残念ながらゼンヒ君、このヴァルキューレの現状で装備の拡充に入れても意味はない。無気力による練度の低下は凄まじく、装備を与えたところでそれを活かせることはできない。SRTからの編入生もそうだが、汚職警官もまだまだ居る現在、そいつらに武器を渡すこともまた危うい。
この状況を打開するにはヒーローが必要であり、それがどれだけ警察組織として歪で根本に背いていようともシンボルによって"今の警察はこれほど活躍できる"とアピールすることが大事なのだ』
『私はこの件をカンナ局長に上申します。いくらなんでも警察組織としても個人の活躍を重視し過ぎている上、あまりに対処療法ではないですか。仮に私が活躍したとして、それが《優遇》や《賄賂》などと言われたらシャーレに選ばれず日の光も見れないと嘆く生徒のような子が増えるだけではないですか!』
彼女は幹部のデスクを叩いて威嚇するように叫ぶ。
『それにカンナ局長もそう言った事象について考えています!私を使うのは同じでしたが、それは"私を皮切りに優秀な指揮官を育てて強い警官をデッドストックしないため"の策なんです!ヒーローなどと持ち上げて
『ゼンヒ君!』
公安局幹部は、頭を抱えて苦悩を吐き出すように言った。
『……それでは遅すぎるのだよ。あの狂犬らしい考え方だが、現場があれでは現場主義なぞ汚職活動を肯定するようなものではないか』
『しかし!』
『私達幹部だってどうすればいいのか分からんのだ。元々学園による自治が多いにも関わらずこの学園がある以上警察としては働かねばならない、権利の弱さや行動の不自由さ、そのせいで元々あった無力感がシャーレの先生という領地関係なく使える強権の存在によって尚更強くなったからこそ止まらない自己否定からの仕事放棄や汚職。連邦生徒会によって支持されたSRT生が編入してからの信条からくる不和や、あちら側のエリートから叩き落とされた不満による汚職警官の増加。それでも止まらないシャーレの活躍によって、ヴァルキューレはその私兵となるべきで市民を守るという使命が軽んじられる風潮が生まれた。それを止めて良き方向にするための策なんだ、分かってくれ』
『それは局長だって理解しています。だから私を!』
『遅いのだ!その計画が完遂するまでどれほどの時間を要する!?君が証を立てたとして、それを分析し指揮官を育てるのに数年はかかるだろう!そのうちに存在理由をあの男に求める亡者達によってこのヴァルキューレは市民を守るためではなく、己の存在意義のためだけに力を振るうことになる!仮にもしヴァルキューレを解体したとして、大きめの学園でない限りには影響が出るだろう!人口は巨大な学園に過集中し、その結果都市の何割かが廃墟となる!それにどうしても移動できない市民を見捨てるだけではないか!』
幹部はさらに話す。
人口の過集中や所属の変更が大規模、もしくは未曾有で起きる場合政治経済にとんでもない負荷が掛かること。連邦生徒会でもどうしようもない大きな動きが出来てしまうと、その対処が遅れるたびに市民からは不満が噴出するだろう。それも対処できないとなれば、いずれ暴動が起き、連鎖的に処理の不足と暴動が起き続ければ最悪無政府状態になりかねない。当然、いくら大事件を解決してきた先生とはいえこれに完全な対応できるはずもなく、その不満が先生に向くようになると彼もまた暴動での粛清対象になる。そして粛清されてしまったら_____怒りに身を任せて政治を大きく壊した反動は計り知れず、いつか都市ごと機能しなくなるだろう。
『仮にもし未曾有の大移住が成功したとして、その領地が広がったところで様々なルールで生きてきた人間を一気に統一したルールで生活させれるかの問題も出てくる。これが達成されなかった場合、どうなる?しかもそれが一学園でなく複数の学園で。それを連邦生徒会が、先生が処理できるか?それも黒幕が居ない、無数の被害者を前にして』
『完璧な対応は……難しいと、思います』
相手の気迫にゼンヒは怯んだ。
『だから君を無理矢理にでもヒーローに仕立て上げるしかないのだ。
ゼンヒというヒーローが生まれ、それをヴァルキューレが前面に押し出す。市民のイメージにヴァルキューレの顔としての君が居れば、市民によってそうでない警官を誹謗させて反省を促す。当然反発するものも出てくるだろうが、それでもその警官に非がある。外部を刺激し、それで腐った部分を焼き捨てるしか再生は望めないのだよ。ゼンヒ君、分かってくれるか?』
幹部は宥めるように彼女に語りかけたが、当の本人は非常に、なんとも言えない感情渦巻いてその指示に伏すことへの拒絶感のみを残した。
『_____分かりたく、ありません』
ゼンヒは唇を噛みながら、相手の問いに答えを出さずその場を離れたのである。
と、余りに彼女にとって納得し難い話があった。
それでも話としては、公安局直々に活躍しているからこの金でいい銃を買ってもっと活躍して宣伝になってくれと言われたのだ。彼女をヒーローという火種にして腐敗を一掃する。そのためには彼女の意思を無視し組織のお金を渡してでも汚職を払拭するための道具として、もっと言えば政治の道具にするためには金に糸目はつけないというあまり喜ばしくない打算に巻き込まれたのである。
彼女の実績を考えれば悪くない話だが、ゼンヒ自身にはありがた迷惑だった。しかし上からの指示、無視するわけにはいかない。この前後輩と一緒に選んで買った黒ハットを被ってオシャレに気を紛らわせる効果を期待しつつやってきた。
だが、やはりゼンヒの活動記録を見るに彼女は計画を立てるときに相手を無力化する方法を優先する上、その無力化には暴力かガラスの破片のような刺さるものを多用する傾向が強くさほど銃を重視していない。
それが災いして銃については拘りがなく、店主と平行線な会話が続いていた。
「で、何が欲しいんだ?」
「何が欲しいって言われても困らなかったら今頃私は笑顔だろうな」
「嫌味を聞いたら嫌になってきた、今日店閉めるか」
「ああ悪かった店主さん頼むから閉めないで!」
膨れっ面の店長はガレージを閉めようとしたので慌てて止めて謝るゼンヒ。
「冗談だよ」
クスッと笑った彼女に安堵した。
またショーケースの方に戻ると、店主はゼンヒに向かってあることを聞いた。
「こう言う時には使ったことのある銃の話から聞いた方がいいだろう。何使ってた?」
「PDWのマガジンを使うハンドガン」
「すまないが日本語を喋ってくれないかね?」
「日本語だよ」
「一体どこでそんな銃使ったんだ」
「トリニティの高級紅茶専門店襲撃事件の時に使った」
「うーん、お巡りさん。もう少しまともな、そうだな。常識的な銃はないかい?例えばアサルトライフルとか」
ゼンヒは考える。しかし、最近ようやく実戦の経験を積み始めた彼女は戦い方が決まってない。
「と言っても、あと使ったのって言えば50BMGのアサルトライフルだったりとか。ヤク中捕まえる時は普通のハンドガン使ったけどあれ借り物の上にじゃあ好んで使うかといえばノーだしな」
「まるでその場にあるもので戦うから好みはないみたいな言い草だなあ」
そう言われても仕方ないのであるが、店主の見立ては完全に合ってるとは言えない。
彼女自身は銃のことをそこまで信用していない。無論、無機物に対しては銃があった方がいいのは事実だが、キヴォトス人は銃弾が当たってもさして影響はない人種。ストッピングパワーが重視されているものも買えばいいのだが、正直なところ彼女は『相手を止めようと思えば鋭いもので刺す』が常態化していてそこまで興味が持ててないのである。
ゼンヒは仕事だからプロモーション的にも決めなければいけないし、店主も仕事だから客をあまり蔑ろにできない。どっちも困ったところだが、その時間は終わりを迎えた。
砲弾が着弾する音。
窓が割れる音。
何か物が引きずられる音。
車か何かがぶつかる音。
余りに酷い音が聞こえてきたのだから。
「なんだ」
「ドンパチ?」
外を見てみると、ヘルメット団が行進していたらしいが何かが邪魔だったらしく八つ当たりに破壊行為を繰り返していた。
「どけよ!お前ら揃いも揃って邪魔しやがって!」
「マジでどかねーとこれでぶっ殺すからな!」
ひどく下品な言葉がビルの中を駆け回る。
始まった直後であるが、すでに市民や車へのダメージは甚大。逃げ遅れた生徒は見当たってはいないものの、このまま放置すれば最悪な事件として語り草になるだろう。
今いる場所から少し歩いた場所の立体駐車場に止めたからゼンヒが乗ってきたパトカーは壊されることはないだろうが、ここは様々な店があるショッピングエリア。この暴走を咎めなければ、被害額はかなりのものに。
ゼンヒは少し遠くのそれを眺めていたら、店から人が入ってきた。
「ここに警官がいるって聞いたんだが本当か!」
「ああ、本当だ」
警察手帳と生徒証を取り出して、入ってきた人間に見せる。
生徒はすがるような目で、彼女に言う。
「なんかすげーことになってるんだ!なんとかできないか!」
「いやそりゃあんな騒ぎに気づかない方がおかしいだろ。ただ、あれを警官一人でやれってのは難しいな」
「どうにかなんねーのかよこう言う時の税金だろ!」
生徒は泣きそうな声で言うが、ゼンヒは宥める。
「お金がいくら集まっても人はそんなすぐに来るもんじゃない。ともかく、抑える策を立てるからお前はすぐにこの場から離れて通報しろ。それまではなんとか頑張ってみる」
「約束だからな!」
店に入ってきたミレニアムの生徒はそのまま店から去っていった。見送ってから、ゼンヒは店主に話しかける。
話しかけられた方は、ようやく商売に入れるとテンションが上がっているようだった。商売魂腐ることなし、むしろ実演もできるとあれば舞い上がるのは当然だったのかもしれない。
「すまないが、何か対物用の武器はないか?」
「対物?対人じゃなくて?」
「一人で対人用武器使ってあれ制圧できるわけないからな。何かあるか?」
「ようやくまともな希望が出たな。任せてくれ」
ショーケースではなく下の大きめのスペースから、店主は武器を取り出した。
対物ライフルであるが、従来のものよりも明らかに大きいのである。少なくとも全長は2m近くはある。
「こいつは?」
「20mm対物狙撃銃だ。弾は砲弾サイズで重いがまっすぐ飛ぶ、これなら最初の一撃で装甲車だろうが戦車だろうが関係なくオサラバできるぞ!」
「いい銃だ、しかし狙撃銃では取り回しが悪い。それにでかい、もう少しいいものはないか?」
「おやあなんだ?変態銃にしか興味がないのか?とりあえず話を進めたいが、ちょっと待ってくれ」
店主は片眼鏡の位置を直してから、片手でその対物ライフルを持つ。
さほど狙いをつける必要はなかったのか、彼女は軽々しく引き金を引く。
大きい狙撃銃を片手で持って撃ってるのにも関わらず、それも本来の狙撃銃よりもあまりに大きいものなのに、一切のブレなく撃った。
瞬間。
「ぬああああああっ!」
「わああああーっ!」
大きな爆発音と共に、戦車が2台爆発して炎上し始めた。
どこから撃ったか探ろうにも銃痕を見つけようもなく、好き勝手暴れたせいで銃弾で割れたガラスは幾多にもあるから判断しようがないようだ。窓が割れた方角や、周りを見れば窓が割れてる割に大丈夫な店、しかも銃を扱ってる店があるのだから、そこに行こうと思いつくはずだ。
しかしそれよりも急に戦車が爆発したせいでパニックを起こし、そういった判断が出来ていない。ヘルメット団の困惑ぶりに、店主はよろしくない笑顔をしていた。
自分の店のガラスすら厭わない割り切りぶりにゼンヒは驚いたが「早く次の品を見てくれ」と店主に言われて元の方向に向き直す。目の前には、あまりにも太いショットガンがある。
「こいつなら扱いやすいし強いと思う」
「なんだこれ」
「23mm対空砲を切り取って作られたえらくデカいポンプショットガンだ、大体4発入る」
「いや〜、ちょっとこれもまた別ベクトルで扱いづらいな」
「わがままなお巡りさんだこと」
そんなショッピングを続けているが、当然不良達は戦車が2台やられただけだと暴れ続けている。
黙らせるためにはこれもまた撃つしかない。
「すまん、これに対応したスラッグ弾は?」
「もちろんあるよ。てかもう入れてる」
「早いな」
「四発だよ〜」
ゼンヒはそれを持って、店の前に出てこようとする車を撃った。
エンジン部分を狙って撃つと大穴が開いている上に、熱を持ったバッテリーやそのコードがエンジンと風穴で繋がるようになって炎上する。四発撃ったが三両ぐらいしか爆発させることは叶わなかった。しかし、店主の射撃もあったのでその分の走行不能車両並びにその操縦者のヘルメット団員は火傷や爆発の衝撃で動けなくなっている。
「どうかな?」
「いや〜、まあこれを愛用するやつはいないだろうな。警察から見たらないと思うこれ」
二人は顔を見合わせて困り顔。
しかしもっと困っているのはヘルメット団の方。
「いったいどこから撃ってきてるんだ!」
「分からねえ!分からねえヨォ!」
さしづめ不良らしい混乱の仕方だ、パニックになって銃を乱射している。
そろそろちゃんと始末したいところ。ゼンヒは店主の方を向く。
「すまないが今度は対人で最高のものをよろしく」
「んじゃこれしかないな」
テーブルの上にあまりにマガジンが大きい中機関銃が出てきた。
「じゃあ、これ借りるぞ」
「流石に店出てから使ってくれ」
「おっけ」
ゼンヒはそれを片手で持って肩に担いでから、店に出る。相手側はまだ無事な装甲車を下げたり、逆に壁にしたりして彼女が居る方向からの干渉を防ごうとしているようだった。
ヘルメット団のメンバーもそれに気づくが、少なくとも彼女のことを警官だとは思えなかった様子。
この日、彼女は仕事にも関わらずあまり客に威圧感を与えないようにと黒いハットをかぶっていた。紳士が被るようなものであり、割と値の張るもの。
そのせいで逆に警察どころかギャング感満載、それがあまりに大きい機関銃を持って出てくるのだから硝煙の中から現れてみればそれはもう威圧感が強く、その帽子の向こうから見える眼光は鋭く、相手が恐ろしく感じるのも無理なきことだ。
「さよならの時間だ!」
そう言ってゼンヒは中機関銃を両手で持って、乱射し始める。
人に当たれば耐えきれずに吹き飛び、車に当たれば穴だらけになってたまに爆ぜ、建物に当たれば根幹さえ傷つけかねないほど外壁を破壊して抉る。悲鳴も聞こえるはずなのに、銃声と薬莢が落ちる音、そして爆発し無機物が焼ける音によって遮られた。
その姿はまるで極悪人。七囚人とはまた別で、恐怖心を煽る姿をしていた。
_____銃弾を撃ち続けることそこ2分。
機関銃から、かち、と軽い音がする。どうやら弾は無くなったようだ。
制圧した跡を見てみると爆発炎上し視界は最悪、あちこちに倒れてぴくりとも動かないヘルメット団員達。
地獄のような光景が広がっているが、幸いここはキヴォトスだ。この程度で基本人は死にはしない。道路やある程度の店に関しては被害は甚大ではあるが、少なくともそこ数店舗。
「大丈夫か〜?」
終わりと共に、後ろから声がした。
ガンショップの店主が店から出てきて、ついでにパトカーもやってくる。
「ああ、大丈夫だ。ありがとうこれ」
「楽しかったなら何より」
中機関銃を店主に渡すと、その後ろからパトカーでやってきた後輩が。さらに車の残骸を挟んだ向こうでは、救急車と消防車の音がする。何かが叫ぶ声が聞こえた後に、水を撒く音がし始めた。
パトカーからは後輩が出てきた。
「大丈夫ですか先輩!」
「ああ、大丈夫だ。少し手荒な手は使ったが、まあ許容範囲だろう。ヘルメット団の間抜けさに助けられたと言うべきか」
「いや〜カッコつけてるとこ申し訳ないですけど煤だらけで汚いし少なくとも警察の見た目ではないです」
「あ〜あ、傷ついちゃうな」
「拗ねないでくださいよ」
警官として仕事をした以上、簡潔とはいえすぐに報告はしなければならない。
ゼンヒと後輩は、店主に挨拶してからパトカーに乗り込む。
「こちらゼンヒ、ただいま増援のパトカーにいる」
『ゼンヒか』
「局長」
無線機から声がした、その主はカンナである。
『被害の方はどうなってる?』
「ちょっと確認しますね」
マイクを持ったまま立ち上がって、ゼンヒは周囲を確認した。
「えーまず装甲車・戦車合わせ10両の爆発炎上、それに伴う街路樹の炎上。今確認したところ建物への被害の大体は暴れた後の窓ガラスの破損です、一部街路樹が倒れて一階が炎上しているのが____えっと三棟くらいありますが、すでに消火完了しそうです」
『そうか……一応聞くが、お前が分かる範囲で増援は来たか?』
「全く。手伝ってくれた人は居ましたし、ご厚意で対物用のライフルとか貸してくれたのでなんとか制圧できました。後輩、どう?ここにくる途中に警備局とかが来た形跡はあったか?」
「え?全く見てないですよ、野次馬が掻き分けられた形跡もなかったですし。ここに来るまでにちょっと道混んでて一周しましたけど警備局もパトカーも居ませんでした」
『____苦労をかけたな』
カンナのため息が聞こえるが、無線なので顔は見えない。彼女の気苦労を思うと、交番勤務のお巡り二人は苦笑い。
「じゃ、今から本来の場所に戻ります。あとで必要なことがあればそちらの方に連絡お願いしますね、局長」
『残党がいるかもしれないから気をつけて帰れよ』
「はい」
そう言って通信は切れた。
どうやらゼンヒが暴れている間も、到着が遅いことで有名だった警備局は全く来なかった。それどころかあまりに凶悪で怯んだのか、生活安全局も来ていない。公安局も当然来ていない以上、近頃はあまり考えなかった"ヴァルキューレの腐敗"を目の当たりにした気分に二人はなる。
お互いにそれを愚痴ろうと思ったが、その前に彼女たちに近づく音がした。
「おーい」
片眼鏡の店主である。ゼンヒはマイクを戻し、相手の方を見た。
「ああ、すまない。散々弾とか使っておいて請求先を伝えるの忘れてたな」
「いやいいんだ、あれらって元々埃被る寸前のものだったから弾薬も使えてハッピーだっただろう。警官に提供して使ったとあれば特別経費として計上できるから気にしてない」
「そうだったか」
彼女に対して詫びるゼンヒ。しかし店主は気にしてないと励まして、笑顔でゼンヒに話す。
「お礼言い忘れてたから急いできたんだよ。ありがとう、ゼンヒ。今度お礼させて欲しい」
「お礼なんてそんな。こちらこそありがとう店主さん、おかげで街の平和は守られた」
互いに握手をしてから抱き寄せて肩を叩き、また離れる。彼女らに友愛ができたようだ。
「今度よる時あったら電話して事前予約してくれないか、それまでにおすすめのもの用意するよ」
「ああ!私の戦い方を見てくれた礼、しっかりと菓子折り持って今度来るからな!」
「楽しみにしててね。それじゃ!」
「元気で!」
二人は笑顔で手を振って別れた。
消火活動はほぼ終わり、救急車のサイレンも遠くなっていく。
「ああいう人のために頑張りたい、ですね」
「……そうだな」
ゼンヒは幹部に言われたことへの不服を、互いに協力して乗り越えたガンショップの店主の笑顔で飲み込むことができた。
雲の間から陽が差し込み始める昼。
その光に照らされるように、ゼンヒと後輩を乗せたパトカーはその場を離れるのであった。