「だから違う!あそこの壁を使ったらぶち当たる!」
「タイミングを聞いてるんだよ」
「弾の速度考えたら分かるだろ元軍人なんだから」
「くそ!ピエロのくせして偉そうに!」
「何をやっているの!違う!そこじゃない!」
「コンマの距離を正確に修正できるか早撃ちで!」
「そのための訓練だっただろうが!」
「何をやっている」
呆れたカンナは、何かやっているシャルアーとショウコに近寄った。
「あ、局長」
「なんだこの暴力的な胸を持った」
「ちょっ失礼なこと言わない!」
「構わない。私よりも大きい生徒はいる」
「あの発言に乗らないでください反応しにくいので」
「それよりもロシアでは美人揃いと聞いたが、やはりちゃんと見れば可愛いものだ。シャルアーと言ったか?」
「ナンパはNG、私には王子様がいる」
「そうか」
差し詰めシャルアーの特技を習っていたのだろうということを、彼女は理解した。暇で暇で仕方ないのでそういうことをやっているのを、咎める理由もない。
「そうだ、カザミはいるか?」
「後ろですよ後ろ」
カンナが後ろを振り向くと、ちゃんと何もしないで立ってる少女がいた。
「おお、ここだったか」
「何かお話?開放してくれたのに檻に逆戻りなんて絶対に嫌ですよ」
「だろうな。そうならないようにどうするかを今上で考えている最中だ、しばらくはここの近辺で過ごすことになるからあまり迷惑をかけないようにな」
「分かってますって。で、どうなんです?例の話」
カザミは、自分の要求が呑まれるかどうかの話を切り出した。相手がその話以外で、自分のところにわざわざ訪ねてこないだろうという確信もある。
「まず、お前に関しては今回は上層部もかなり評価している。特にゼンヒに戻す手段とセツカを越えれるだけの策を作ってやってのけたことに関しては、お前が一番貢献していると言っていいからな」
「そう言った褒め言葉は必要ない。あったところで役に立たない」
「そうか……では、報酬について話そう」
二人は休憩用のベンチに座った。
「お前の要求していたアリウス過激派の社会参加するためのサポートに関してだが、これに関しては今すぐに全てを達成するのは難しいと言わせてくれ」
「は?」
「怒るな。順を追って説明する」
カンナは苦労が尽きないな、と若干内心で落ち込みながらも説明。
「最低条件だった社会復帰のサポート、特に働き口に関してはうちで雇うことにした。その上で住む場所だったりなどの手配をしなければならないのだが、その手配というのに時間が掛かってしまっている」
「ヴァルキューレで?」
「ああ」
彼女はカザミにリストを渡した。
どれも生き残っていたメンバーがちゃんと戸籍登録をした上で雇用契約をしているのを示すための書類。その一覧を、リーダーであるカザミに見せている。
「なるほど、ちゃんとしっかり手配してくれているんだ」
「だが先にも言った通り、住む場所などの手配が追いついていない。ちょうど良いところが見つからないっていうのもあるが、彼女達を住まわせる、というのに忌避感を覚えるオーナーが多いんだ。だから、どうしてもまだ矯正局に出せない状態になっている」
「そりゃそうでしょ、自分がまともだったらちょっと考えてしまうし。しかしヴァルキューレのどこに就職したんだ?」
「ここだが」
ここ、と指す場所は特別暴力対策課である。
「えっ」
「特別暴力対策課、テロ対策チームとして就職させることにした」
「良いのそれ!?」
「逆にそうしてもらわないと困るというか」
素直にカンナは、状況を話す。
「本当はそちらの就職の自由まで保護してあげたかったが、事実住む場所の一件も合わさってまだ信頼が勝ち取れていないのが実情だ。だから就職先を用意しようとした場合、政治的な意図にも巻き込まれないようにと考えた場合はここが一番安全だった。だが当然他の局に回すのは無理だったから、ここになったわけだ」
「それだけで引き受けるか?あれだけの凶悪犯」
「引き受けるわけはないな。だが、そうまでしてでもやっておきたいことがある」
カザミは黙った。
それが何であるかは言われないでも分かっていたが、遮ることはしない。
「結局落花堂、扇堂リンネの件は何も片付いていないのがネックだ。ゼンヒが戻ってくるか来ないかは不明だが、仮に戻ってきたとしても苦労するのには変わりない。あの兵隊たちが今も量産されていることを考えれば、毎回他校の戦力を借りてもキリがない。だから、こちらも非合法的な活動に詳しい、それ専門で動けるスペシャリストを欲した」
「それがアリウス過激派、いや、今となってはテロ対策チームということ?」
「そうなるな。まだアリウスに残っている、過激派じゃない奴らも誘ってみている」
「____マジで?」
かなりフランクな驚きが出た。
「結局過激派は数を減らしてしまっている以上、数は必要だ。流石に罪はないので任意になっているが、それでもまだ隠されていた分の神秘に関する資料は出てくるだろうし、実際そこからいろいろな対策を打てると踏んだ。ゆえにお前たち以外もちゃんと、拾い上げる算段を立てている」
「お金大丈夫なのそれ」
「元々特別暴力対策課は依頼料があって、独自で資金繰りをしていた。事実いろいろな場所での警護活動や、哨戒任務の同行などでかなり金を稼いでいたのもあってかお前たちを雇っても余裕ということが判明している。お得意先は幸い誰も嫌な顔しなかった」
「えぇ……そんなことある?」
「家の件と違ってこっちは事情をよく知っている人間の方が多いんだ。特に、アリウスというのは生徒達では知りようのない情報をたくさん持っていて、その扱い方も学んでる。この価値は正直計り知れない。仮にゲマトリアのことに一歩も近づけなくても、兵士だった時に学んだことだけでもお釣りがくる。
ヴァルキューレで独占すれば、ヴァルキューレの価値となり、その分だけ金を取ることもできる。それでお前達の駄賃を生成する、お前達自身の価値で、ちゃんと金が生み出されるんだ」
実際、これに関して異を唱えるものはいなかった。
ヴァルキューレそのものがキリノとゼンヒで評価がよくなりつつあり、実際に共同作戦を先生主導で組んでもいいほどの信頼感を勝ち取りつつある。その上で連邦生徒会管轄の、いわゆる公的機関がその情報を手に入れて保管することは現時点では他の学園が持つよりも安心できる。
上層部もそのことを承知しており、故に引き受けることを決断した。
「こうなるまでに遠く、頑張ってきたな」
「最初に褒めてくれるのがまさか公安局の狂犬なんて思いもしなかったな。人生って不思議なものだ。ベアトリーチェがいた時代は彼女に褒められるかどうか気にしてて、彼女が居なくなれば評価基準がないまま彷徨った。アリウススクワットだけは、前と同じ生き方を出来た。それを羨んだものだよ」
「今でもその娘達のことは嫌いか?」
「ああ大嫌いだ。全員テロで死ねばいい」
「なら、その先生代わりをお前がやったと思え」
心にもないことを、と言おうとしたがイントネーションを聞けば否定しづらくなっている。
「それだけでこれだけの有用な人材が、生き残ったんだ。恨みを抑え込むことはできなかったとしても、これからの戦いには役立つ。この状態まで持って行ったのは誰でもないカザミ自身だ、誇ってくれ」
「____ありがとう」
少しだけ、顔を赤めるカザミ。
純粋に褒められるなんて初めてなようで、それだけ彼女はひどいところで生きてきたのだろう。
「感謝しても仕切れないのはこちらのほうだ。ゼンヒが日常に戻ってこれたのは、お前のおかげでもあるんだから」
「まだヴァルキューレに戻ってきてないのに?」
「彼女の人生は、この組織のためだけにあるわけではないからな。寂しい、が」
そりゃそっか、と思いながらも遠くを見るカザミ。
何しろゼンヒがヴァルキューレにもたらしてきたことを考えれば、彼女にずっといて欲しいと思うことは何ら不思議ではない。
だが、その当人は今かなり精神が参っているようだ。仕事に戻ってきてくれることを望む人間は多いが、結局は本人が決めること。どうなるかは今もわからない。
「正直言ったらあれだけど、自分戻ってくると思ってる」
「どうしてだ」
「彼女は結局今かなり不貞腐れてるんでしょ。後ろから襲われて、殺されるのが怖かったのは事実で、結局そこが傷になっているのは変わらない。向き合うのさえ恐ろしい事実なのも変わりないけど、じゃあそれを他の仲間がフォローしてくれなかったから怒ってる。だけど本当は、その事実に目を向けるのが怖くて周りに怒っているだけかもしれない」
「つまり、傷さえある程度癒えたらこちらの態度も寛解するかもしれないということか?」
「その傷を癒すことを引き受けたのが、おそらくバンリだと。彼女はゼンヒのことをかなり気に入ってる様子でしたから」
レストランで話したことも考えれば、並々ならぬ感情を抱いてることは理解できた。
それがここまで献身的とは思わなかったが、それが悪いことでない以上止めることもない。
「何から何まで、他人に頼ってばかりだな」
「そうでもないでしょ。警察が警察の役目をちゃんと果たすようになった以上、行政に頼ってる市民だってそのサポートをしたいと思う時だってあるから」
「そうだな……ん?」
話をしていると、階段からドタバタと騒がしい音が聞こえてきた。
「大変です、依頼が来ました!」
やってきたのは課の一人。
「どんな依頼だ」
「緊急です!トリニティで立てこもり事件が発生したから手を貸して欲しいと!」
「正義実現委員会は?」
「居ますけど先の一件で怪我人が多くてあまり回ってないから人をよこして欲しいと」
「私が行きます」
その報告を聞いていた一人、ショウコが立ち上がってカンナに近づく。
「行ってくれるか」
「場所は?」
「あ、えっと……紅茶専門店が割と並んでるとこです!犯人は近辺に爆弾を仕掛けたと脅しているため、捜索するための人手も欲しいと!」
「放置してたらリーダーが危ない、か。分かった、ユリも今ダウンしてるから私が陣頭指揮を取る。5分以内に人員集めて、即座に出発させろ。私もすぐに行く」
「わかりました!」
慌ただしくなってきた地下。
「じゃあ、行ってきます。何、すぐに戻ってきますよ」
「助かる。気をつけて行ってこい」
「そこの二人、ハクジツさんとユリの子守りを頼む」
「仕方ないなあ、分かったよ」
「私も少し用事がある、トリニティに行くなら乗せてってくれ」
「シャルアーなあ____仕方ない、連れて行くよ」
「やった」
それぞれが、騒ぎに乗じてやることのために動き出した。
キヴォトスで犯罪や事故が起きない日は一度もない。
しかし、彼女達はそれでも息つく暇もないこの街を愛しているから、問題が起これば飛んでいくのだ。