シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseB-20-2:紅茶街立てこもり事件・破

 建物に転がり込んだゼンヒ。

 

「こっちには人がいないのか、やはり単独犯か爆発物仕掛けるやつを多くして脅迫の内容を強める作戦か?」

 

 潜り込んだら一気にいつもの彼女に戻る。

 

 やはりやらかしたら命取りになる場所を潜り抜けてきたからこそ一気にスイッチが入るのか、警戒心も冷静さも一気に取り戻すようだ。

 

「一階は問題ない、上がるか」

 

 階段を見つけて上がろうとするゼンヒ。

 

「動くな!」

 

 そう叫ばれると銃口を向けて止まる。

 

 そこには、少女の首を肘を曲げて拘束しながた拳銃を人質に突きつけている犯人の姿が。

 

「この女がどうなってもいいのか!」

「銃弾でどうにかなるわけないだろ。大人しく投降しろ」

 

 ゼンヒは怯むことなく銃口を向ける。

 

「はぁ!?わかってないんだなお前!この拳銃の弾がどういうものか!」

「分かっていたとしても怯むことはない。セラフィム弾か?」

「な!」

 

 図星らしい。

 

 立てこもり犯は、そのままの状態で相手に問う。

 

「どうしてそれを知っている!?」

「お前が今ここで対峙している女は、それに関連した事件に巻き込まれたやつだからだ。銃を突きつけているのを見てそうだと思ってここにきた、セラフィムが相手では人数も下手に騒ぎの種になるだけだ」

 

 自分のことを警官とも、クズだとも言わずに相手を狙い続けるゼンヒ。

 

「で、お前は結局何がしたかったんだ?」

「正実の奴らに言った通りだ!身代金と逃げるだけの用意をしろと!それ以外に要求はしない!」

「ほーん。それだけ生活に困っているということか」

 

 彼女は相手を煽り続ける。

 

「まあその服装でまともに生活できてるわけはないものな。だが、それならかなりの悪手だ。こんな大掛かりなことをするなら、お前が望んだ生活は手に入らないだろうに」

「そうするしかなかった!頼みの綱だった過激派もトリニティの政治を崩せず瓦解、結局自分はこうすることでしか、まともな生活が送れない!」

 

 生活のための犯罪だったらしい。

 

 ただ、ここで自分と一人に限定している以上は仲間がいないということだろうか。爆破物はブラフの可能性も出てきたが、結局のところ自分一人で解決しに向かっている以上関係はない。

 

「思ったよりも素直に話してくれて嬉しいよ」

「それで協力はしないくせに!」

 

 銃弾がゼンヒの頬を掠める。

 

 彼女の頬からは血が滴るが、それは少量。当たった感触はかなりガッツリいったように感じたが、それでもあまり血は出ない以上粗製もいいところだろう。

 

「お前みたいにいい服を着て、いいところに住んでる奴には分からない!私たちが物心ついた時からこんな生活を送っていることを!それで、どんな思いをしているかを!」

「私はお前ではないからな、知る由もない」

 

 また、銃声が鳴る。

 

 今度はかすめずに、階段を抉った。

 

「おいおい随分と荒いじゃないか。そんなにかっかして撃っていたら、脅しの綱である人質殺害のための弾もなくなるぞ。リロードするからなんて甘い考えは捨てるといい」

「な、なんだよ!その頬から血が滴ってて何も思わないのかよ!」

「思うわけないだろう。危ないことに首を突っ込んできた人生だ、私は怯まないぞ」

 

 ゼンヒの余裕な表情が、相手を追い詰めていく。

 

 それでも立てこもり犯は、自分の境遇を話し続けた。

 

「トリニティはクソだ!生きていくのにも苦労する奴らのことを全く見もせずに、子供心の出来心でただ意味のない政治闘争に明け暮れ、その蹴落としなんて甘いことだけでやるべきことをやったと思い込んでいるバカな連中しかいない!エデン条約ですら茶番だ、自分たちみたいな人間を救おうとするような人はいなかったんだから!ミカという女がなんだ、あんな女を罰したところで自分たちになんの利益があった!ただ上流階級の溜飲が下がるだけの行動を繰り返す生徒会、いや、政治に意味はない!政治は民の手にあってこそ完成するを体現しているじゃないか!血統や生まれ持った能力だけで生き方が決まった連中とその奴隷のためにある世界なら、自分たちのようなずっと苦しい生活をするだけの奴らなんか面倒なだけで産むべきじゃなかっただろうに!産まれたら産まれたで過去は何もせず放っておいただけ!そんな政治も世界も滅んでしまえばいい!」

「そのためにセラフィムに手を出したのか」

「そうさ!これさえあれば銃というもので暗殺ができる!そのために今こうやって抱えてる女を殺して、正義実現委員会の奴らも殺して、自分の要求が達成されなければ自分も死ぬ!このような諦観と閉塞感を、自分からきっかけで自殺という形で広まればこの社会は崩れる!種田カザミという偽りのカリスマに惑わされることはなく、失楽園が始まるんだ!」

 

 相手はかなりの興奮状態だが、その興奮は恐怖心を紛らわすためだということを理解している。

 

 どうやら、彼女は相当生活に困窮していた挙句に、ここで産まれてしまった浮浪者らしい。浮浪者そのものはキヴォトス全体にいるので珍しいことではなかったものの、よりにもよってトリニティが生活圏というどうしようもない状態だった。

 

 一度はカザミが率いる過激派が、そういった浮浪者などを集めてトリニティの政治を破壊してかつての多数の自治体で形成される状態に戻してから社会の再建を図るつもりだったようだが、それをゼンヒが破壊した以上はどうしようもなくなっているのだろう。

 

 無論当の本人であるカザミは、過激派やそうでなかったアリウスのメンバーも含めてトリニティで苦しんでいる人間を救おうとしているのだが_____今ここにいる全員が、それを知らない。

 

「居場所がないのは、どうやらお互い一緒のようだな」

 

 ゼンヒは言う。

 

「どこが、どの口がそう言う!」

「嘘じゃ無い。私も居場所がなくてね、こんなことに足を突っ込めるくらいには日陰を歩いてる」

 

 彼女からしても嘘ではなかった。

 

 ヴァルキューレは裏切り者の巣窟に見えたままだし、バンリは自分が手を出せずにいるから結局遠くにいるまま。本当に彼女のことを分かって、一切の蟠りなく理解しあえて、その上で母性を感じて甘えられるようなドンピシャな存在が、セツカしかいない。

 

 そのセツカが消えた以上、どこに逃げればいいのかさえも迷走したままのゼンヒにとっては事実であったのだ。

 

「だからこうしてお前がとんでもないものを持ち歩いていたとしても、突っ込んでくるんだろう?」

「舐めやがって!」

 

 もう一発、放たれる。

 

 それも階段を下って床を抉るだけだが、その音が大きく響く。

 

「助けて!助けてよ!」

「うるさい黙れ!」

 

 少女が我慢の限界を迎えて喚き出すと、犯人は彼女を殴りつける。

 

 小さい子を殴るという行為に激怒しかけたが、ここで冷静さを失うと相手の思う壺になる可能性があるため、アウトサイダー気取ってダンマリを決め込んだ。

 

「ひ、ひぃ_____」

 

 すっかり怯えて騒げなくなった人質は、ずっと涙を流している。

 

「さあ、どうする!そろそろ決断の時だ!」

「ほほう?まだ話さないのかい?いいじゃないか、身の上話を聞かせてくれても!」

「どうせお前みたいな人間に分かりはしないんだ!」

 

 その決めつけが、もしかしたら孤立の原因なのかもしれない。

 

 ゼンヒはそうは思っていながらも、相手をこれ以上逆上させないためにも静かに睨みつける。

 

「どうして、どうしてお前はそう冷静なんだ!この銃弾が何か分かってて、撃たれたらどうなるかその頬の傷から分からないのか!?」

「逆に聞こう、お前に向けられているこの銃の中に、セラフィム弾が入っていないと思うのか?」

 

 相手はハッとした表情を見せる。

 

 当たり前の話だが、知っていると言うことはその何割かは使い道もわかっていると言うこと。そして相手の行動を知れるくらいの知識があると言うことは____実際に使っている可能性もあるのだ。

 

「お前に向けられているこの銃弾から、お前が作った粗いものよりも精密に作られたやつが飛んでくると思わないのか」

「なんのための人質だと思っている!こいつを盾にすれば、お前をその間に撃ち抜くことだってできるんだぞ!」

「言ったはずだ、私は警察ではないと」

 

 この発言は完全にブラフだ。

 

 自分が矯正局の失踪から世間に姿を見せず、元に戻ってもバンリのところに篭っていたからこそテレビに映った時から経って、シャーレ所属でも無いからこそ出来た芸当。

 

 相手が覚えていたとしてもゼンヒは階段の下でハットを被ったままなため、薄紅色の髪をしたただのギャングにしか見えない。言ってしまえば、彼女は今はリンネでもあった。

 

 ゼンヒは自分の過去を知り、それでもこうして正義のために立っている。その威圧感は凄まじいもの。

 

「ここでお前を殺すために銃を乱射したところで、正当防衛になるだけだ。まあ、お嬢様は基本金で揉み消せるから問題はない。お前が憎んだ腐った政治をフル活用するだけでいい。だが、お前がこうして時間を稼いでいるのだけは問題だ。単純に邪魔で、他に変なやつが生えてきたときに面倒だからな」

 

 一発撃って、相手を脅かす。

 

 相手にも人質にも当たらないが、跳弾して後ろの花瓶が割れた。

 

「ひ」

 

 かなり怯えている人質を盾にしながら、立てこもり犯は引き金に指をかけたまま叫ぶ。

 

「くそ、クソが!貴様みたいなやつがのうのうと生きているのに、なんで自分はずっとこんな目に!」

「そう思っている時点でお前はその状態から一生抜け出せない。ただそれだけのことだ」

「お前みたいな才能もない、どうせ世の中はどこぞの才女みたいに恵まれてなければ何も出来ない社会なんだ!そんなことさえ知らずに生きてきた女に!」

「では下江コハルという女はなぜシャーレの一瞥を受けることができた?ドベでも努力してきたからだろう!」

「結局はあの女も才女に媚び売っただけのこと!そのついでで先生にみそめられた、ただそれだけだ!」

「ならば私は何でそいつらと違う生き方をして楽しめてるんだろうなぁ!」

「くそぉぉぉぉぉーっ!」

 

 ゼンヒはとんでもない笑顔と口調で相手を煽り続けた。

 

「ここで死ね!クソアマ!」

 

 しかしその煽りが過ぎたか、犯人は銃をぶっ放す。

 

 その銃声はあまりにも大きく響いたように聞こえたが、何だか重なって聞こえた。あまりにはしゃぎ過ぎたせいで、聴覚も疲労しているのだろうか。

 

(まずい)

 

 ゼンヒが引き金を引こうとしていたときには、すでに銃弾が迫っている。彼女は急いでかがもうとしたが、間に合わない。

 

(油断しすぎたか!)

 

 彼女が目を瞑ろうとした、その時だ。

 

 目の前で花火が散るように、光が飛ぶ。

 

 それに驚いて彼女は転がり落ち、階段の下の壁にぶつかってうずくまる。

 

「いった____」

 

 立ちあがろうとするとさらに人が落っこちてきた。

 

「きゃああああーっ!」

「ああおいおい」

 

 急いで膝立ちをして受け止めたのは、人質の少女。

 

「え、おい、どうなって」

 

 あともう一人、騒ぎの元凶となった犯人がいたはずだ。

 

 その犯人はどうなったかと言えば______

 

「う、うぎ、あが」

 

 片目から血を流し、顔を抑え呻いていた。

 

「な、なぜ」

 

 確認ができないまま、犯人は階段で倒れる。この少女だけは、摩擦によって段差に引っかかったまま落ちてこなかった。

 

「いやあ、まさか成功しちゃうとは。シャルアー流恐るべし」

「お前は」

 

 入口の方から声がした。

 

「リーダー、元気にしてました?」

 

 そう、その声の正体は。

 

 依頼があって駆けつけた、特別暴力対策課のメンバーが一人。

 

 甘凪ショウコだった。

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