ショウコが入ってきた直後に、色々な人間が入ってくる。
それらは二人に一切構わずに犯人と人質を別にして運び出していく。
「いやあ、来ると思ってましたよ。リーダー」
「私は戻るといった覚えはないが」
「戻らないとも聞いた覚えはないですね」
「私はハクジツに裏切られた。お前らだってそうなるのだろう?」
「ヴァルキューレに裏切られてリーダーに縋ってるのにわざわざそんなことしますかね?」
「お前達みたいにもう正義の為に戦ったりはしないで自分のためにしか戦わないぞ」
「とか言う人間は普通一人で立てこもり犯と戦いませんって」
ショウコの口車は滑車も同然。
流石に疲れもあって発言のストックがなくなったゼンヒは、黙ってしまう。
「まあまあ、捕まえたりとかはしないんでまず一回出ません?ここに居たら邪魔になっちゃう」
「……そうだな」
二人は、現場から出ることにした。
建物から出ると、ショウコは正実の生徒と部下に話をつける。
「すまないがこの女性と大事な話があるから暫く席を外させて欲しい」
「え、いいですけど……戻ってきますよね?」
「もちろん。危ない事をするわけじゃないから」
「ほんとですね!?」
「君の可愛い顔が見れないのは悲しいから」
「あっちょっとナンパは無しです!」
「分かってるって」
「そっちもいいかい?」
「もちろん」
そうして話をつけたら、彼女はゼンヒのところに戻ってきた。
「んじゃ、行きますか」
「……ああ」
あまり乗り気ではなかったが、シャルアーもいない以上何もする事はなかったゼンヒはショウコと一緒に歩き出した。
「なんで私のこと助けた」
「リーダーが頑張ってるのに自分が行かない理由はないですよ」
「お前達のことが嫌いだと言ったのにか?」
「そりゃリーダーだって人でしょ、嫌いだくらいは言いますよ。それで自分の尊敬が消えるわけでもないし」
「どうせお前は裏切らない仲間がいるからそう言えるんだ。ユリはお前を攻撃しないし、お前はユリを攻撃しない」
「どうだか」
少しだけヘラヘラしながら、はぐらかすショウコ。
「いやあ、場合によっては普通に撃つかもしれないからなあ。やばいことしてたら」
「どうしてそんな事を言う。お前達はキツい訓練を共にした友人じゃ……」
「あのねえそんな事で友達作ってたところでそれ信頼出来るわけないでしょ」
ゼンヒは思い込みを否定されて逆上しかけるが、彼女の善性はクールダウンさせる。相手の話を聞くべきだ、という思いが、なぜか強まった。
「SRTはそもそもそんな友情とかで固まるほど良いところじゃないんです。そんなものがあると逆に困る。信頼関係はあっても、そう言った私情というのは行動を鈍らせるだけなんですから」
「まるで自分達はと仲間意識を感じて執着していたユリがバカみたいじゃないか」
「バカみたいというかバカでしょあんなの。それでもSRT出身だからと迫害されていた事を考えれば、彼女みたいな嘘の誇りを掲げる奴が心の支えになっていたのも確かですがね」
事実、ヴァルキューレに転籍したSRTの生徒は、一部はユリのおかげで保っていた。ショウコは違ったが。
「じゃあ、お前は一体どこでユリを友人と認め、私をリーダーだと認めたんだ」
「明確に認めたを基準にするならば、それこそ教会調査の時ですよ」
そう、カザミ率いる過激派との決着がついた事件の時だ。
「ちょっと認めてやろうかなって思ったのがゲヘナでの作戦の時で、完全に認めたのは教会の事件の時です。事件発生中は、予想外の事態が起こり過ぎて受け止め切れてなくても、周りのサポートでちゃんと立ち直って進むリーダーの精神と、事件解決まで導いた判断力などに惹かれましたし、ユリは最中こそ普通でしたけど、終わってから色々話を聞いているとリーダーの補佐としてちゃんと活躍していたことを知ったんで……そのときに初めて『ああ、これが戦友なんだな』って思いましたよ?」
「______そうなんだな」
「まあそれを言ったところで、リーダーが戻ってくるとは思えないけど。褒められたからって戻ろうとは思わないでしょ?」
素直に彼女は頷いた。
やっぱり〜、とそれでもペースを崩さないショウコの相手はやりにくいと感じつつ、ゼンヒは一つ質問をした。
「一つ聞いてもいいか」
「何です?」
「何で私のことを____そうだな、好きって言えるんだ。仲間であってほしい、リーダーであってほしいって言えるんだ。私はもう戻りたくないって、何度も言っているのにそれでも戻ってきてほしいって言えるのはなぜ」
純粋であり、また大事な質問だ。
ゼンヒは仲間に裏切られた傷が全く治っていないが、相手の話は聞いてやろうと思っている。自分がリーダーでないと嫌だ、どうしても戻ってきてほしいと願ったからセツカと戦い、色々な助けを借りて自分を復活させた。
その理由が知りたい、と願っている。
「それこそさっき言った私なりの信用基準を満たしているからですよ。SRTは一筋縄ではいかないめんどくさい連中ばかりで、本来だったらヴァルキューレの運用が出来ないってレベルの頑固者集団だったんです。これを掌握し、二度も大きな作戦に引き連れ、確実に勝ってきたその腕は、全く変わることのない事実。たとえリーダーが自分たちのことも嫌いになって、ヴァルキューレから居なくなったとしてもその功績は変わることはない。そしてリーダーは、自分たちを率いる前からそうだったと聞いています」
梅花園の養女を救い出すときもそう、近場のコンビニで起こった強盗事件の時もそう、薬物取り締まりの時もヘルメット団の対処もアリウス過激派の一部を一人で倒した時も________ゼンヒは実力を示した。
それはSRTという現実主義の世界で生きてきた少女の興味を引くものだ。
「どこからそんな実力をつけた奴が出てくるんだと疑問に思ってたんですけど、それがセツカとリンネの二人から授かったものだとは。結構びっくりしましたよ、あの時」
「そりゃあな。私だって、その二人が融合して生まれたなんて聞いたから驚いたよ」
「セツカともゆっくり話してみたかったのが、心残りですかね」
「そんなこと言っていいのか?」
「いいじゃないですか、リーダーを守ってくれた守護霊のこと、悼む権利くらいあるでしょ?」
どこまでもショウコはマイペースだ、そう思って苦笑を溢すゼンヒ。
「まあでも、自分はそういう実力者から学ぶのが好きなんですよ。特別暴力対策課という肩書きには拘ってないですけど、それでもあなたが居るから楽しく仕事が出来ています。強制は出来ないですけど、できれば戻ってきてほしいなっていうのが正直なところです」
彼女の本音だった。
改めて時間が経ち、前と同じように事件を解決し、仕事仲間と歩いているゼンヒはそれを聞いては落ち込んだ表情でよそ見をする。
「______正直、私は怖い。また裏切られて、後ろから攻撃されて苦しむことが」
「自分も至らないところはあったとは思うのですが、まあ誰もリーダーのPTSDに対して何もアクションとってませんでしたからね。仕方ないというか、当然というか」
「攻撃してきたのはハクジツだ、だから、お前たちには罪はない。なのに、あんなことされたらって恐怖が私を支配して、どうしても戻りたくない。私の全てを、罪も何もかも受け入れてくれるバンリを守るためには、独りじゃ何も出来ないのに______怖い、怖いんだ」
俯いてうずくまるゼンヒ。
「なあ、ショウコ。私はどうしたらこの苦しみから逃げられる?」
「向き合うしかないですかね」
「お前は向き合えるのか」
「そもそもリーダーのは向き合ってると言えないでしょ」
自分の努力が全部無駄だと言いたいのか!とすぐに立ち上がったゼンヒの目の前にいるショウコ。
彼女は、優しい、シャルアーともバンリとも違う笑みで相手を迎える。
「ただ傷跡を見て痛みがフラッシュバックしてるだけ、それじゃ気が滅入りますって」
「じゃあどうすればいいんだよ!」
「本人に聞いてみるか、いっそもっと離れてみるか。休職をとってのんびりするのもいいですけど、まあそれで解決する兆しがなさそうというならハクジツさんに直接会ってみるしかない。でも今すぐには会えない、っていうなら無理なら文通からでもいいですし、何だったら伝言でやり取りするでもいい」
真面目に、ショウコは提案した。
「時間が掛かるし、その分焦ってしまうかもしれないって気持ちはわかりますよ。でも本来、復帰不可能になるくらいのPTSDの症状が出ているんですよリーダーは。もっとたくさん休むべきですけど、バンリさんのことが心配で今みたいに首突っ込んでないと狂いそうなんでしょ?」
「人の心を読むような言い草は、好きじゃない」
「好きじゃなくても聞いてくれると嬉しいです」
彼女はゼンヒが好きだ、だからこそ彼女に嫌われてもある程度今後の指標になりそうな話を続ける。
「でも本当に今みたいなことを一人でずっとやってたら、バンリさんが悲しむと思いません?自分一人じゃ彼女を抑えられなかった、自分じゃダメだったんだ、自分だとゼンヒを安心させれなくて出ていってしまったんだ_____そんな後悔をさせたくはないでしょう?」
「後悔はしない、バンリは自分を守ってくれると言ったし、自分も恩返しすると言えばいい」
「聞こえはいいかもしれないですけどそれ自分が守ると言わせておいて結局信頼されてないって思われる可能性ありますよ?」
「そんなことはない!」
「あんた同じようなことハクジツさんにやられたの忘れました!?」
相手に力強く言われ、は、とした顔でゼンヒ止まる。
「あれとは状況が違いますけど、結局は同じことです。『信用してもらえなかった』と言うのは、信頼して守ってもらうよ!と言うのを約束しておいてその約束を不意にしたのと同じ。それってリーダーが傷付いた裏切りと、どう違うんです?」
ショウコは若干真面目な顔で相手を怒った。
「……」
「だから、そうならないためにも仲間がいますし、私だってそのためにリーダーの助けをしようとしてるんです。蟠りをなくすか、再び信用できるようになるか______少なくとも私たちの力を求めているなら、ちゃんと前の状態に戻れるまで手伝いますから」
それは彼女なりの誠意だ。
それでもまだ、ゼンヒは拗ねるように言う。
「_____お前がそこまでする必要はないだろう」
「流石に敬愛する人間が困っているのに手を貸さないのはポリシーに反しますから。頼ってくださいよ」
ずっと同じペースで話すショウコにもう裏があると勘繰るのさえ疲れたゼンヒは、苦笑した。
怒られたのはだいぶ心に来たようだが、それでも相手が言っていることは正しかった。
彼女が自分勝手に取り付けた約束を自分自身で不意にして、ただひたすらにバンリを不安にさせることは仕事仲間で一緒に頑張るはずだったハクジツが(遺物の効果で仕方なかったとはいえ)急に自分を攻撃し出して恐怖を覚えたことと一緒だと。
そんな大事なことを教えてくれて、失望するようなことをずっと言っていた自分に対してやはり態度というか、意思の変わらない彼女に若干の感謝すら覚えた。
「無論これはハクジツさんだけじゃなくて、ユリ相手でもこの手法を使っていい。状況を説明すれば、ユリだって分かってくれますから」
「本当かそれ」
「信じてくださいよ。少なくとも付き合いだけではリーダーより長いんですから」
はにかむショウコの顔はとても可愛い。
「まあ、だから。すぐに戻って完全復帰します!って言わなくてもいいですから、すぐに決めつけて消えちゃうんじゃなくて、少しそういうお時間が欲しいなって。欲を言えば、そういうお時間のお供に私を入れて欲しいと思っています」
正直に言う彼女は真面目にそう言う。
事実、ちゃんと自身のことをどう思っているかを話し、かつどうして欲しいかの要望を強要せずに伝えたショウコに関しては、信じてみようと思っているゼンヒ。もしかしたら、ちゃんと話せば今目の前にいる相手みたいに理解できるかもしれないとも思い始めている。
そう思えるくらいには、彼女は真摯に対応した。
「じゃあ、分かったよ_____ショウコ、お前がお供したいと言うなら早速一つ聞きたいことがある」
「何です?」
「これから私はどうすればいい」
すごく曖昧な質問だ。
「これから、って?」
「本当にこの時間から何をすればいいんだ、と聞いている」
今は昼間。
事件を解決した後とはいえ、何をすればいいのかゼンヒは悩んでいた。何をしたい、と言う明確な欲望もない。
「本当に何をしたらいいのか分からないが、すぐにヴァルキューレに顔を出したくないのだけは理解してくれると助かる」
「んーめんどくさい」
「めんどくさいってなんだめんどくさいって」
ゼンヒは頬を膨らませながら相手を肘でどつく。
「痛い痛い。でもまあ、それなら一個いいものありますよ」
「なんだ」
ショウコは、元気になってきた相手に、ちょっとした詫びの用意も兼ねて一つ提案をした。
「花屋に、行きませんか」
《お知らせ》
セツカ編は、次のサブタイで終わります。