適当なところで昼食をとってから、一時間くらい歩いてようやく見つけた花屋に二人はやってきた。
「いらっしゃいませ」
店員は機械。
「すいません、この店って長居しても大丈夫なタイプですか?」
「フラワーショップというのは基本客が長居するものですよ。気にしないでください」
「助かります。ほら」
ゼンヒはわけが分からないまま、花屋に踏み入る。
「え、えっと、何を?」
「いやあまさかね、リーダーともあろうお方が今お世話になってる人にお礼をしないとか」
「なら花屋でなくても良くないか!?」
「トリニティの人たちは花を贈ると比較的喜びやすい人種ですよ。品位を大事にするので」
「店員さん!」
店員はニコニコフェイスをモニターに表示して笑っている。
「でもどうしよう、何も花知らない」
「薔薇でも百合でもいいんじゃないですか」
「鈴蘭とかいかがでしょう」
「それ意味違ってこない?」
雑談をしながらも、二人は花を見る。
「こういう時って何がいいのかな」
「好きなものを選んだ方がいいですよリーダー、自分が選んだもの、っていうのが何よりの気持ちの表れでしょ?」
「これで変なの選んでバンリに嫌われたくない……」
「心配性だなあ〜、そういう時の私でしょ?何も知らない人間に適当にそそのかされて作ったらこうなっちゃったよ〜!うわーん!許して〜!って言うための」
「それ本当にやってもいいの?」
「友達ってのは何も守り守られ、一緒に信念を貫き通すってだけがそう呼べるものでもないですよ。一緒にバカやって怒られる悪友っていうのもまた友達ってもんです。そういう意味ではもう友人ですよ、自分は」
ショウコは笑っている。
実際そうなのかも知れない。ゼンヒの事に関してはかなり慎重に扱わないといけない上に、彼女本人も自由な生活は出来ない状態の筈なのに事件を勝手に解決した挙句にトリニティ領地をほっつき歩いているのだから。
ゼンヒ自身は満更でもない、なんなら一緒に来た少女に関しては改めて信頼してみようと思うくらいなので迷惑には思ってないだろうが、バンリはどうだろうか。自分が守ると誓った人間が勝手に飛び出して事件を解決した上で仕事仲間と近場を散歩しているということに怒ってるはずだ。
だから自分が怒られる事を予測できていたショウコは怒られることは一個増えた程度では動じないメンタルでゼンヒをどやす。
「じゃあ、うん、選ぶよ」
「頑張ってくださいね〜」
「いやショウコも選ぶんだよ私一人じゃ沢山見れないから」
「仕方ないなあ」
そうして二人は、色々な花を見始めた。
「うーん、ガーベラってどうですか?」
「このすごいピンク色のひまわりみたいなやつ?」
「ひまわり要素はないけど、まあそうですね」
「どうなんだろ。でもなんか、これだとあんまり喜ばない気がするんだよな」
「そもそもあの家に花瓶あるんですか」
「あるよ!バンリだって立派なお嬢様なんだよ!?」
「そこに入ってたのは?」
「枯れてるからわかんない」
「それは仕方ない」
店員さんも、少女二人がプレゼントのために、しかも急にやってきて訳わからないままに探している二人を微笑ましく見守った。やはりこれをプレゼントしたい、と言うものが何よりも効果のあるものだと考えているからだろう。
矢車菊や、あれやこれやと見ている中で何かを思い出したのだろう。ゼンヒはショウコに声をかける。
「ああ、そうだ。花言葉ってあるの思い出したんだけどさ。ああ言うのってやっぱり調べてからちゃんと送った方がいいのかな」
「いやあでもその場で判明することないし花は綺麗でそのまま通る可能性があるからあんまり意味ないんじゃないかなあ。どうなんです店員さん、他のお客さんって花言葉を重視される方って多いんですかね?」
「あんまり気にされる方はいないと思いますよ。ただ、トリニティだと傾向として少し多めかもしれませんね。元々花言葉というのは、昔の貴族が意味をつけたものですから。その遊びの延長線上の願掛けではありますけど、宗教のようなものよりかは重視されないかと。送られる方はどういう方ですか?」
「それこそこの近辺に住んでるお嬢様なんです、感謝の花束を贈ろうとしていて」
「なるほど_____ただ、花は沢山ありますから、どうしても決まらなさそうと言うのであれば花言葉に沿った贈り物を提案させていただきます」
なんと聡明な店員なのだろう。
ちゃんと求められた情報を与えた上で花言葉は願掛け以上の意味はないといい、どうしてもと言うのであれば提案するがしばらくは自分たちで決める時間があった方がいいという気遣いをしている。それはちょっと特殊な状況にあった二人には、ありがたいことだった。
「私1歳児だから花の種類さえ碌に知らないんだけどどうしたらいい?」
「大丈夫ですよリーダー自分16年生きてて花言葉一個も知らないですから」
「頼りにならないな」
「そんなことを知る理由もない世界で生きてきたのでね。いやあ、SRTはエリートだったからなあ。まあ今も変わらないか」
「大丈夫だ、特別暴力対策課がもっと増強されればそれだけ俗っぽくも愛おしいものを知れるようになる」
「そのためには仲直りが必要ですね」
「うーん今それ言わないで欲しかったな」
「ああ失敬。でも、立ち向かうための準備として今一番の居場所を作ってくれるレディに花束を贈ろうって言うんでしょ?」
「……そうかもな」
肯定したゼンヒは、一つの花が目に留まった。
薔薇である。
「ああ、じゃあ、薔薇でどうかな」
「薔薇?告白でも?」
「でも本数によってなんか意味合いが違ってくるというか、重さが違ってくると聞いたような気がした」
「実際そうですよ〜」
店員が肯定。
「本数によって色々意味が変わってきますから、薔薇だけで告白っていう意味にはならないんですよね」
「じゃあ薔薇にしようか」
「お、いいじゃないですか〜。で本数は?」
「どうしよう」
「12本欲張って入れる?」
「いいね」
適当な少女たちは、12本の薔薇で花束を作ることに決めた。
「でも、色も確か意味があるって」
「んなもん赤色でいいんじゃ?」
「うーん、そうかも」
ゼンヒは連れの言うことに頷く。
色まで凝り出そうとしたら、流石に時間が掛かりすぎる。ここまで来ておいて内心何も言わずに飛び出したことにバンリは怒っているんだろうか、と思うと少し怖くなってきた。それでもショウコという言い訳があるから、怯えるほどでもなかったが。
だが、よく考えたらいつもの感謝の印に赤い薔薇12本と薄紅色のブーケではなんとなく味気がない気もする。
「一本だけ色違いの薔薇を入れるのってどうかな」
「ほう?」
「なんか少しだけ奥に刺して見つけたときに『あっ色違いだ!』ってなると思って」
突如爆笑するショウコ。
「あは、あはは!そんな、そんなガキみたいな!」
「ガキって言わないでくれガキって!一歳だぞ!」
「いやあ、おもろ、ははははは……」
しかし、ゼンヒからのプレゼントと考えた登記にはとてもいい案であると彼女は考えた。
「でもいいんじゃないですかね、その発案をして実行したのがリーダーである以上、それに価値があると思いますよ。面白いのは否めないですし、万一やばい薔薇の色選んでもまあ大丈夫でしょう。一才児には優しくしようってことで」
その程度ならギリギリ許されるだろうと考えた彼女は、ゼンヒのその考えに親指を立てた。
「でも、何色がいいんです?」
「それこそこれとか」
ゼンヒは、小さな瓶に刺さっている薔薇を一輪取り出した。
それは黒色の薔薇だ。普通人に送るような意味はないから、少しだけ機械の店員が焦ってるように見える。
「おお、黒色。一応お聞きしますがどんな意味があるかは」
「全く知らない。でも、これがいいと思うんだ」
ゼンヒの微笑み反応するように、傾いて色づいてきた陽の光を反射する黒い薔薇は、高級感を出す。
「何が決め手なんです?勘?」
「警察って基本黒いジャケット着てたりするし、司法だって黒いローブを着る。それは公平性や染まらない意志の表れでもあるんだ。ちょうど司法の仕事してるから、この黒にはそう言う意味を込めたいな」
「自分は公平ですよってそれ関係あります?」
「正確に言えばこの染まらない色の秩序に従い、自分はあなたを愛します。
……的なこじつけでどうにかならないか」
「なるんじゃないですか?それを本人の前で言えればの話ですけど」
「恥ずかしいな」
「まあ、告白するならちゃんと隠れて見守りますから。安心してくださいよ」
決まりだ。
11本の赤い薔薇と、一本の黒い薔薇で花束を作ることにした。
「じゃあ、作ってもらおうか」
「はーい」
ある少女の気持ちを伝える象徴を、店員は綺麗に整えていく。
その手際に見惚れているゼンヒの横で、スマホを取り出して支払いの準備をするショウコ。その光景はあまりにも親戚のそれに見える。
「はい、これをどうぞ」
「ありがとう」
ゼンヒは花束を受け取って、それを確認したショウコが払う。
「あ、おい」
「いいじゃないですか。昼食代は奢らせたんだしこれくらいはしますよ」
「と言ってもお前2000円分しか食ってない」
「残りの分は話を聞いてくれて、しばらくはヴァルキューレに残ってくれるお礼ってことで。ここで少しくらいは頼れるところ見せないとまた拗ねちゃうと思いますから」
「人のことなんだと思って」
「一才児」
自称していたものでカウンターされれば、言われた方はしゅんとしていじける。
「ほら、店員さんにお礼言わないと」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ〜、頑張ってくださいね」
「頑張ってなんてそんな告白じゃないんですから」
「実は感謝伝えるのにも勇気は居るんですよ。だから、応援は無駄なことではないんです」
店員さんに一理ある、と思った二人は頷いた。
さて、陽は傾いてきて夕方に差し掛かってきている。騒ぎも収まって時間が経つからか、クラシック風なデザインの車が道路を走っている。
「じゃ、ありがとうございました」
「お気をつけて〜」
「はい」
二人お礼して、店を出た。
いい光景だ。トリニティを風聞通りに受け取れば陰湿で硬い場所だが、こうして青春の1ページとして歩けば爽やかで上品ないい道になる。
「帰りましょうか」
「別にお前の家じゃないぞ」
「まあまあそう硬いことは言わずに」
自分にはこんな仲間もいたのか、と言う安心感から、すでにいつものカッコつけたような態度が出てくるようになったゼンヒを、横から見て嬉しくしているその仲間。
夕方の道、街灯も光を灯す頃はすでにかけがえの無い思い出になる程美しい。