シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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ゼンヒ警部補編(後)
ゼンヒのプレリュード


 扇皇ゼンヒは、特別暴力対策課事務所へと足を運んだ。

 

「お邪魔するぞ」

 

 扉のベルに惹かれて目線を向けた部下達。

 

 いつの間にか帰ってきた、自分たちのリーダーがいる。

 

「あれ、リーダーだ___えリーダー!?」

「お帰りなさいリーダー!待ってたんですよ!」

「すまない、だいぶ心配をかけたな。ユリは?」

「ああ、ユリ隊長は休暇ですよ。なんでも精神をやったとか」

「無理もないか」

「どうもリーダーを取り返す過程であーだこーだあったのがなかなか応えてしまったみたいで。復帰するとは言ってたので心配してはないんですが、どうか?」

「いや、それならいいんだ。彼女にも迷惑をかけた、ゆっくり休んで戻って来れるようにもちゃんと構えないとな」

「そう思ってるなら大丈夫ですよ」

 

 そんな会話をしていると、階段から降りてくる音が。

 

「あ、リーダー」

「ゼンヒ……」

 

 ショウコとカンナだ。

 

「まだ休暇が終わる一週間前だぞ」

「一応挨拶をしておこうと思って。こんにちは」

「ああ、こんにちは_____戻ってきてくれて嬉しいぞ、ゼンヒ」

 

 二人は握手する。

 

「ええ、こちらこそ。お久しぶりです、長い間留守にして申し訳ありません」

「気にするな。お前のことをよく理解していなかったミスが、思っていたよりもいい方向に解決できた奇跡に感謝しているほどだ」

「すべてはバンリのおかげです。彼女がいなければ、ずっとひとりぼっちのままでした」

 

 その言い方がすべてだった。

 

 ゼンヒは周りの人間に社会的地位から距離を測ることにした結果、前よりも離れた感じがしている。カンナは、前にあった絶大な信頼を感じなくなったのもあって、まだ残っているであろう傷をはっきりと見た気がする。

 

「そうか_____やはり、私ではお前を支えることができなかった、か」

「私の出自を考えれば仕方のないことです。気にしないでください」

 

 この話を続けることはまずいだろう、という気遣いから当人のゼンヒは話を変えた。

 

「ところで局長、今日はどのようなご用件で?」

「代わりに責任者をやっているショウコと今後の相談をしていたんだ。いずれ復帰した時にもゼンヒにも話すから、安心して欲しい」

「前みたいに隠し事はなし、ですよ?」

「ああ」

 

 髪の色は元に戻っているが、やはり所作にセツカを感じる。

 

 過去を知って、それが自分と地続きであることを知れば、過去の癖として浮き沈みするものなのだろう。ゼンヒは純粋にゼンヒではなくなったのかも知れない。

 

「その話を終えたところ、お前が来たんだ」

「そうだったんですね」

「ああ_____おっと、そろそろ時間か」

 

 カンナが時計を見ると12時30分。

 

「早めにヴァルキューレに戻らないと会議の時間が来てしまう、失礼する」

「わかりました、お気をつけて」

「ああ」

 

 彼女は会釈をしてから、扉を開けて出ていった。

 

 残ったのは部下とショウコとゼンヒ。

 

「……局長のこと、傷つけてしまっただろうか」

「狂犬だなんだといじられるよりかは軽傷じゃないですかね?」

「そうか?」

「戻って来ないことと比べたら全部軽傷!で我慢するのもよくはないとは思いますが、今すぐにちゃんと話すのはおそらく相手も準備が出来てないかと」

「______私もまだまだ子供だな」

「一歳児にしてはよくやってると私は思いますけどね。ほら、座って」

 

 バーのカウンターに二人で座る。

 

「そうだ、あれ作って」

「あれって?」

「ベーコンエッグ。サラダはまだあったでしょ?」

「コーンポタージュはインスタントで構いませんね?」

「ああ」

 

 下っ端をこき使うショウコは、指示を出した後にゼンヒに話しかける。

 

「にしても私はもう少し長引くと思ってましたよ。一ヶ月はまだ帰って来ないと考えてましたし、それ前提で予定組んでたので。しばらくは色んなことに注力するつもりでした」

「色んなこと?」

「たとえばカザミがうちで雇うことになったからその準備、とか」

「カザミって誰?」

「えっと_____」

 

 そう、カザミと言われてもゼンヒは分からない。

 

 ゼンヒにとって彼女はシン、アリウスの政治犯でしかないからだ。

 

「ほら、アリウス過激派の首魁いたでしょ?あの子がカザミなんです」

「それが仲間になるとは聞いてないぞ」

「リーダー取り返す時にはすでに仲間みたいなもんでしたけどね。セツカとの決着も彼女が作ったうろ覚えのセラフィム弾でバキューンと一発、でしたから」

「セツカは負けたの?私の記憶もあったはずなのに?」

「本人はナイフで接近戦仕掛けて、他の動きができないタイミングで撃ち抜いたって言ってたからおそらくはかなりギリギリの状態だったかと。刀でめちゃくちゃ斬られてたし」

「そうなんだ_____それも私のためか?」

「もちろん。ゲヘナのマコトさんだってリーダーに"キヴォトスに新しい希望をもたらすだろう"と期待してたんですし、先生だってそうだったんですから」

 

 事態の流れを聞く中で、色んなことに驚くゼンヒ。

 

 マコトや先生が、シャーレや連邦生徒会に依存しないための政治を作るきっかけ、最後のカリスマとして活躍することを望んでいること。そのためにはシャルアーを自軍に引き入れたりなど協力を惜しまなかったことも。

 

 また、カザミも裏社会の情報や対抗策を知っているだろうと判断したカンナから成功したらアリウス過激派の保護を条件に協力を取り付けて特暴課に所属させていたこともショウコは相手に伝えた。

 

「なるほど、そこまで私のことを」

「それだけ影響力のある人間だったって事ですよ。最初から強盗事件を解決して、過激派を最初から最後までボコボコにして、過去が不良界の2大スターと来たもんだ。誰だって接触したくなるに決まっている。

 まあ、そうでなくてもバンリさんはリーダーにゾッコンだと思いますけどね」

「えへへ、そうかな」

 

 ちょっとだけ恥ずかしがるゼンヒ。

 

「いいなあ、そういう顔も出来るようになったと言ったらユリのやつは喜ぶんじゃないかな」

「やっぱり私がいない方が……ってならない?」

「うーん、それはなるかも。やめとくかな」

「それでいい」

 

 ショウコは気ままに水を飲む。相手は気にせず話を続けた。

 

「でも改めて色んな人間との関係性を考え直したら、ショウコが部下から友達になった。やっぱお前って凄い人間なんじゃ……?」

「恋のキューピットは誰にでもなれます。ですが、仕事を完遂できるキューピットは少ないってだけです。まあその少数側ですけどね」

「凄いなあ……」

「でもリーダーの方がすごいと思いますよ」

「お世辞か?」

「いや本気で」

 

 彼女は真っ直ぐな瞳で言う。

 

「私達の最大値と言えばFOX小隊という狐四人組の隊でした。カイザーの不正を暴いて鎮圧したりなど、とにかく大活躍をしていたんですね」

「今は不知火カヤと一緒に仲良く獄中暮らしか」

「ですねえ。で、話を戻すとSRTって軍隊教育されていたけど結局その少数で動かすのが一番強いって程度にはあまり大規模行動が必要なく、個人の力が重要視されてたんですね」

「訓練してても使い所がないから、少数精鋭をたくさん作って連携させた方が一個大隊作るよりかは役に立つって話か」

 

 それこそそんな規模の隊作るのは学園同士で戦争するかしないと必要無い。安定しているは“特色がない”と判断されるにはそれ相応の下地があったわけだ。

 

「まあそれでもSRTという誇りがあったから耐えれていたものの、ヴァルキューレに入ってからは殊更使うこともない。って言うわけで安定した人材が腐っていくところをリーダーはしっかり活用したわけです。それもFOXやRABBITのような“強いやつの少数精鋭”が限界だったSRTを超えて、安定した奴らを大多数使い確実に運用して勝っていく。相手がそれをするだけのものであったのも事実ですが、リーダーはこの点で既にSRTを超えたと思っています」

 

 その実力がカリスマにつながっているとシャーレ関係者は考えているのだろう。そう言われると、ゼンヒは照れる。

 

「そんな大したことはやってない。ちゃんと情報の聞き分けを一緒にしてくれるだけの知識や、訓練で培ってきたことを腐らせないように維持し続けてるその意気込みが私のやりたいことを助けてくれているんだ。SRTの移行も確かに、学園同士のトラブルに介入するなら適正だったかもしれないが、警察とかは兎に角数が必要だからな。その数があって、しかも練度が高い。大活躍するに決まってる」

「そう見抜いて拾ってくれたのを、ユリだって感謝してるんですよ」

「そう、だったんだな」

 

 彼女の顔が、少ししだけ曇る。

 

「私は彼女に感謝しているんだ。特暴課が結成されてからも、彼女の意気と人格がこの課の士気と実力を上げ続けている事を理解していた。だがあの時はもう私は限界だった、ハクジツという一番信じてた人に裏切られて、今でも怖いと思ってるほどだ。あんな事にならないかって。また、彼女を傷つけてしまうんじゃないかって怯えてる」

 

 今度はちゃんと、自分が怯えてることを仲間に伝えられる。こうした関係が、むやみやたらではなく、ちゃんと判断した上で築けているのもまたゼンヒの成果なのだろう。

 

「大丈夫ですよ、リーダー」

「え?」

 

 ショウコは励ますように言った。

 

「リーダーがユリの事を評価しているのは知っています。なら、ユリの言ったことを素直に受け止めてから、彼女に自分はちゃんと評価している、信頼していると言ってあげればいいんです」

「それだけで、いいのか?」

「それが本心なのも自分は分かってますから。濁したりせずしっかり伝えましょ」

 

 そう言ったタイミングで、二人分のパンとサラダとコーンポタージュ、そしてバゲットが来る。

 

「そのためにも食べちゃいましょ」

「……ああ」

 

 ショウコに励まされてから、ゼンヒは笑って昼飯を摂る。

 

 美味しく出来上がっているこれは、二人が舌鼓を打ち、美味しいと言わせるくらいには分厚いベーコンと半熟の卵、そしてソースが絡み合って最高のベーコンエッグとして完成している。

 

 ゼンヒが戻ってくる一週間前、新しい騒ぎの前の、静かな第一歩を踏み出した昼のことであった。




(正式なご挨拶の後書きはプレリュードが終わってからの第一話からさせていただく予定です。プレリュードはあと2話あります)
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