シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseC-1:ゼンヒの復帰・前編

 ここはシャーレ前交番。

 

 久しぶりに足を運んだゼンヒは、熱烈な歓迎を受けた。

 

「警部補ー!」

「ゼンヒさーん!」

「待ってたんですよー!」

 

 もみくちゃにされて少し嬉しそうな彼女だが、それはそれとして一つの疑問。

 

「あれ、ハクジツは?」

「あ、まだ屋上で休憩しているんじゃないですかね」

「今行ったら邪魔かな」

「大丈夫だと思いますよ〜」

「じゃ、いってくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _____そして、今。

 

 見慣れた銀の髪、安心する香り、いつもの美しいけど可愛いと思う、その姿。

 

 自分の経験からそう思うのか、リンネの部分がそうさせるのか分からないまま。彼女は見つめる。

 

「_____」

 

 声が出ない。

 

 出そうと思っても、どう声をかけていいか分からない。

 

 自分は果たして前のように声をかけていいのか、それとも真相が分かった以上他人行儀になるべきなのか。分からないままだ。

 

 それに。

 

 彼女にとって自分がどうなのか、というのが分からない。あまり表立って話せる内容でないのもそうだが、聞こうと思って聞けるものでもない。自分が帰ってきた時に、自分が知った情報と交換する形でショウコに自分がいない時の話を聞いた時には、一触即発という状態まで行った、ということは彼女は自分を恨んでいる可能性が高い。

 

 でも警察で、一緒の組織、一緒の場所にいる以上避けて通ることはできないのも確か。ゆえに挨拶しようとした。

 

「ハクジツ」

 

 それが、ゼンヒの答えだった。

 

 自分にとってはやはり、彼女の呼び方はこれしかない。そうして一緒にやってきたのが、自分と彼女の関係。その関係を、別の色で塗りつぶすということが出来なかったのだ。

 

「……リンっ」

 

 何かに驚いて、振り返るハクジツ。

 

 でも振り返った後に、また目をそらす。

 

「その声で私の名前を呼ばないで」

「半分はリンネだ。変声でもしないと出来ない」

「でも半分はセツカなんでしょう」

「あの声は高すぎる。話をする前に喉をやる」

 

 彼女にとって、ゼンヒはもう前の関係に戻れない、戻りたくもないと思うようなものだった。そう、思うと悲しくなってしまう。

 

「私を殺しに来たの」

「いいや。武器すら持ってない」

「セツカという女は武器を隠し持っている、そういうやつなの、知ってるから」

「そりゃセツカはそうかもしれないけど、私はゼンヒだ」

「そう言って、私を騙したんでしょう」

「_____騙したつもりはない」

 

 自分ではどうしようもないことを言われても何も出来ない、と彼女は正直に言った。それが相手の望む答えでなくても、そう言うしかないのだから。

 

「あなたは、私にとっての何なの?」

「先輩と呼べるならそう呼べばいい、そうでないならただの仕事仲間だ。それ以外ないだろう」

「あなたは、どう思ってるの?」

「お前の態度によって私の存在価値は決まる。お前にとっての世界は、お前の見えてる世界が全てだ。平均値だとか、常識とかじゃない。お前の認識が、そのまま私の価値になる」

「______」

 

 ハクジツは口を閉ざす。

 

「私はゼンヒだ、そう名乗るしかない。二人の人間の命によって生まれた人間だ。私にはセツカみたいに可愛く振る舞って人を殺すスキルはないし、リンネみたいなカリスマを使って人を率いて凶悪犯罪をするだけの知識もない。どちらでもなく、故にゼンヒと名乗った。お前にとって、ゼンヒというものが人間でなく、どちらの要素が多いかによって決まるのであれば、それはセツカだろうな」

「だから私は許せなかった。お前がリンネじゃないと知っていれば、すぐに殺せたのに。タイミングが悪すぎた、もうすでに知った後、ならばきっと殺されないようにする。それだけ、でしょ?」

「今の私は一人じゃない、バンリもいるから」

 

 その一言が、引き金を引かせた。

 

 ハクジツが引いて売ったその銃は、借り物の拳銃。しかし、セツカ達を倒すために作られたまま持っていた、セラフィム弾。

 

 急いで避けたゼンヒだが完全には避けきれず、後ろに倒れる。頬から血を流して。

 

「お前は大事な人の命を奪って、よくもまあそんなのうのうと!奪われた人間のことを考えたことはないの!?」

「私はどちらでもない、そう言うしかない人生を送ってきたからゼンヒとして安心できる人間を欲した」

「私の元にはもうリンネは帰ってこない!」

 

 もう一発。

 

 避けようと思っても、倒れた状態では難しい。そのまま小指の肉を靴ごと銃弾が抉る。

 

「うぐ」

「答えてみろよ!私に近づいたのは何のため!?リンネの代わりをやろうなんて甘い考えを持ったわけじゃないでしょ!?あんたには無理なの!私にとっての青春はあの子の隣だったの!」

「知っている!私はあの女の代わりなんてしない!私を愛してくれている人間を知っているから!」

「口答えするなっ!」

 

 今度は脛の肉を抉られた。

 

「があっ!?」

「一年しか生きてない人間には分からない!連邦生徒会も、シャーレが発足してからも明確に救われてない下流の人間が必死に生きてる時に、私を救ってくれた運命の人間のことなんて!彼女はその中で唯一の希望だった、どんなことをしてでも生き延びて世界を作り変えようとしてくれた人間が、ただ一人、隣にいて欲しいと自分の手を取ってくれた時の嬉しさも、消えていってしまった悲しみも!」

「だがそれはまやかしだ!そう言った人間だけをのさばらせた社会は明確な評価を置き去りにして、ただ有力な人間の趣味趣向によって作り替えられ捨てられる!その危険さが分からないのか!ハクジツ、何でこれが分からない!」

「分かりたくない!こっちが理解を示して協力しなければいけない社会はただ大きな問題を提示し続けてこちらのことは後回しだと言わんばかりに目をそらす、そんな奴らの味方なんか本当は嫌なの!それでも、それでも!お前がリンネだと信じて私は首輪を付けた!その愛だけが、私を警察として成り立たせた!」

 

 彼女にとって、キヴォトスでの人生はそれだけのものだ。

 

 空虚ではない、だからこそ悍ましい。ただ力のある人間のために奴隷となるしかない世界なら、自分を特別視して助けてくれる人間のために力を貸して死に絶えたい。それが望んでいた幸せでなかったとしても、ただ助けを借りずに死に晒すよりはよかった。

 

 それを壊した人間を恨むのは当然であり、その要素を強く残したゼンヒは彼女に取って邪魔でしかない。

 

「あの時!赤い髪が増えた時にお前を殺せばあんな事件も起きず、リンネに会うために色々出来たのよ!でも、レストランの時にようやく判明した!リンネはお前の中にはいないと!でも、あの時に殺せなかった!それが、間違いを正す最後の、最後のチャンスだったのに!」

 

 また、二発。今度は立ちあがろうとしていたゼンヒの肩と膝を軽く抉った。

 

「うぶ」

 

 倒れ伏し、動けなくなっているゼンヒは立とうとするが、それができる状態じゃない。

 

「お前の中にリンネがいなかった、たったそれだけのことを知るのに、私は、私は!」

 

 引き金を引こうとするが、引けない。

 

 スライドが後ろに引いて下がっていたのすら気づかないほどに精神が錯乱している。

 

「私に取ってはリンネの隣だけが、人生と呼べた時間だった!そのリンネは生き返ったらまるで私のことを邪魔者のように言って避けようとして、それで戻ってきたのはお前だけ!私はそれで何を納得させればいいの!?私の人生はどうやって取り戻せばいいの!?教えてよ!」

「_____」

 

 ゼンヒには答えられない質問だった。

 

 彼女の人生はそれだけ暗いものであり、その中で希望を見出せば、見出したもの自体の光に焼き尽くされたのがハクジツ。

 

 そんな少女の慟哭は、誰も止めることができない。

 

「あなたはセツカだったんでしょ!?答えてよ、私が納得できる奪った理由を!そのために態々生き返らせたんだから!」

「私はどちらでもない、だから答えられない」

「言い訳を!」

 

 ハクジツは相手の胸ぐらを掴む。

 

「だって、だって!そうじゃなければ貴女なんて価値のないタンパク質同然!リンネから力を奪っただけでカッコつけて生きるだけはさぞかし楽しかったでしょうね!でも、私はそうじゃない!そのためにお前に媚を売ったなんて思ったら吐き気がして仕方ない!ならもう貴女の価値はただ一つ!私に真実を伝えて死ぬことだけなの!」

 

 誰が助けに来てくれるかも分からないまま、知ってることを話すことにした。

 

「セツカはシャルアー奪取のために研究所を襲い、そこからセツカはリンネのことを狙うようになった。前々から気に入らなかったんだろうが、それよりも神秘の研究をしていて、シャルアーという異邦人を連れてきたのを見るに別世界との接続を危険視したのかもしれない。

 お前を襲った時には既にその意向で固まっていた。だからお前を襲い、餌にして釣り出そうとしたんだ」

「そんなことは知っているの!」

「それが真実だ。リンネはゲマトリアでさえ安定しなかったことをやった、シャルアーのせいにするわけじゃないが______彼女の力は異端すぎた。それを危惧するのも当然と言えた。それが、セツカ視点の話だ。それ以外は分からない」

 

 血を流し、眩暈が止まらないゼンヒ。

 

「あの実験を成功させた時から、リンネを殺すつもりだった。そういう、ことだ」

「何それ……何よ!そんなことすれば人殺しを生業にするしかなかったセツカも一生そのままなのに!」

「人間社会は相対的な善悪しかないが、リンネはそれで済む領域を踏み外した。確かに下流階級の人間にとって、連邦生徒会は信用できないのかもしれない。だけど、あの少女たちも先生の力を借りて自分達を強くしていっている。その意識が先生のおかげで自治区を持つ学園へと渡り、全体的にそういった貧困者を救うための福祉は整っていってるんだ。彼はアビドスの一件から手を伸ばして救うという理想を行動で示し、今も頑張って居るから弱者を救おうと頑張れる社会に、キヴォトス全体が変わっていっている。それを今破壊されてはならない」

 

 それは、ゼンヒだからこそ言えること。

 

 彼女は空白で、外からキヴォトスを見れた。確かにシャーレと連邦生徒会は各学園の上部と接することが殆どだが、そこからシャーレから困難に立ち向かい、誰かを救うという理念が共有されていっている。敵対していた人間も、誰か救いたいと願った時にいる仲間がいればその理想を壊すことなく一緒に歩めるのだ。それが広まっている今、彼女に取っては安い絶望で社会を破滅させるわけにはいかないと強い意志を持っている。

 

 ゼンヒはその社会が生まれ、基礎になった先、つまり「先生という力がなくても自立して活躍できる」というのを示すための役割を、自分が望む望まないにかかわらず体現し続けている。特別暴力対策課がいい例だ。

 

「私には、ショウコやユリ、バンリに_____今入れていいか分からないがカザミに、って色々な仲間がいる。それは私が活躍できる、頑張れる、自分で自分の人生を決めれると示し続けた結果なんだ。先生たちがもっと多くの人間を救えれば、私はもっと多くの人間に自由というものを見せられ続ける。同志を作り、助け合い、生きることの素晴らしさを伝えられる社会が欲しい。だから私は復帰して、リンネと戦う」

 

 ハクジツの幸せを真っ向から反対する彼女の願い。それは、かつて捨てられた者であった彼女には耐え難い言葉である。ゆえに、ここで決別するであろう、そうハクジツは考えて警戒した。

 

 しかし_____

 

 そんな理想を口にした少女は目を逸らし、悲しそうな表情をする。

 

「でも、私だって最初からそうなりたいと思ってたわけじゃない。警察になって、ようやく気付いた願いなんだ」

「犬になればそんな綺麗事いくらでも」

「綺麗事は人の心を癒しても、芯になれるほど強くはない。綺麗事や正義は、貫こうとすればその光さえ見えなくなるくらい傷だらけになる。あんなに傷つくなんて、思いもしなかった」

「何言って______」

「特別暴力対策課というものができる時には、既にその光に触れていた。その前に私は、そう思わせてくれた人のためにその正義を示したかった」

 

 彼女は悲しそうな声、掠れそうなその声を必死に聞こえるように出す。

 

「それが______」

 

 涙を答えた、光のない目を向けた。

 

「ハクジツだったんだよ」

 

 




(意図しないとはいえ前後編に分かれたため、一応ご挨拶は次にします。後回しになって申し訳ないです)
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