シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseC-1:ゼンヒの復帰・後編

 それは告白にも等しいことだ。

 

「私はハクジツのために、動きたいと思っていた時期がある。警察に入って学習が終わり、実務の中でいろいろ教えてくれたお前のことを頼りにしていたし、ずっとこんな状態が続くといいなと思っていた」

「_____」

 

 ハクジツは止まる。

 

 相手は自分を恨んでいる前提だから銃は向けたままだが、それでも話を最後まで聞こうと、彼女は止まったままだった。

 

「あの時、私はハクジツの手によって殺されかけた。今となっては仕方ないと思うし、ここで死ぬならそういう運命であると受け入れよう。ユリとは全く話をつけていないから悲しませるかもしれないが、結局半分はセツカだし、私は彼女に助けてもらったから一緒に死ぬ覚悟はある。その幕引きが自分のことを愛してくれた人なら後悔もない」

 

 静かに、ゼンヒは語る。

 

「お前が私を攻撃したことは仕方ない、で済むことだ。ハクジツには私を殺すだけの理由があったし、社会から見てもあの遺物の結果であると言われたら否定もできないからな。お前にとっての人生が、あの女との逢瀬だったなら、私が嫌われることも、もう前みたいに戻れないことも受け入れる。だが」

 

 その少女は、少しばかり涙を流す。

 

「だが……私は傷ついたし、寂しいよ、今も」

「何言って」

「私が頑張れたのは、ハクジツのおかげであった部分も多いんだ。それがたとえ、私なんてどうでも良かったとしても、やってくれた事は嬉しかったし、今も好きだ。好きだよ、でも、もうそんな事はお前に取ってはどうでもいいことも知ってる。私はあの女じゃない、なれない、それが恋であることを知った以上、私は敵でしかない」

 

 ハクジツにとってはリンネが一番大事であることは変わらないと感じたし、事実彼女にとってはそれが一番の存在である。リンネという少女が生きている以上、ゼンヒの優先順位なんて地の底以下であってもおかしくはない。

 

「だからこうして、けじめを付けにきた。特別暴力対策課はリンネを追跡し絶対に確保することを目標にして動いている、その長としてのけじめもある。私の命一つでせいせいして手を引くならば、喜んで命を」

「私だってどうすればいいか分からないの!」

 

 ハクジツが大声を上げ、相手の言葉を遮る。

 

 少し驚いたゼンヒは、ちょっとだけ後退り。

 

「あんたなんか勝手に死んじゃえって思ってるわ自分だって!私にとっての青春はリンネの隣にしかない、でも彼女は私を遠ざけた!自分のためだと言って!私はどうすればいいの!?あなたと私はもう敵同士になるしかない!でも、そうしてリンネは戻ってくるの!?」

 

「教えてよ!あなたは半分リンネなんでしょ!?」

 

 彼女の隣にいたいだけ、というのがハクジツの願い。

 

 その願いは永遠に叶いそうにない、邪魔者を全員殺したところで彼女と接触できない以上正しいかどうかも分からない。

 

 知恵あるものはそれゆえに迷う。

 

 ハクジツは感情のままに動かず、自分の立場どころか周りに大迷惑をかけかねない動きをする年頃の少女よりは理性的であったが、だからこそ自分の行動や理念が正しいのかどうかずっと迷い続けている。

 

「あなたは私を好きだったんでしょう!?あなたの中にリンネが居たんでしょう!?答えてよ!あなたがゼンヒなら、セツカじゃないなら!」

「_____帰って来ない、と言ったら?」

 

 落ち着いた時の声は、リンネに近い。その声に驚いて、ハクジツは手の震えさえ止まった。

 

「……もし、もしだ。私とリンネの感性が似てるというのであれば、私は全てが終わるまで帰って来ないと思う。仮にお前が、私の敵を全員殺したとしても」

 

 目の色の青が、相手の瞳を輝かせる。

 

「私だったらそうするよ。立場が逆だったとして、ハクジツの元に戻るのは全てが終わったあとだ。リンネのすることなら、そうだな。キヴォトスを征服でもしないと戻ってこない、と思う」

 

 落ち着きつつあるハクジツに話す内容は、身に覚えがあることだった。

 

 バンリのところから飛び出して人質事件が起こってる場所に飛び込んで行った時、彼女が死んだらいやだ、そんなことにならない、させないために自分から死にに行くようなことをした自身のことを考えればその可能性がないとも言えない。

 

 セツカのことをよく見てきた彼女は、そのセツカが大好きな人間に素直に好意を言って頼るような人間であることを知っていた。ゆえに、バンリの様子と照らし合わせてそうだろうと、素直に伝える。

 

「無論、私の言葉だ。それでどうこうなるわけじゃないが_____私には、見覚えがある。バンリのところで生活してる時、それで飛び出したからさ。怒られたよ」

「ゼンヒ_____」

「多分、その時のバンリと、今のハクジツは同じじゃないかな。どうしてじっとしてられないの、一緒に居てくれないの、何も言わずにどっかに行っちゃうのって。私は迷惑をかけた側だから、そんな強くは言えないけど、きっとハクジツだってそう思ってる、はずなんだ」

 

 そんな自分勝手な人間であると、なんとなく確信があった。

 

 その確信を、ハクジツは感じ取っている。

 

 あんまりに時間をかけすぎて出血も止まっているゼンヒは、少しだけ笑って答える。

 

「私はその時ビンタを貰ったし、めちゃくちゃ怒られたんだよ。バンリに。その時に、初めて、その、居場所というものを得た気がするんだ。ハクジツやユリ達が離れないように頑張ってたあの時から、依存はしてても仲間として見てなかったかもしれない。だって、私と同じ境遇の人がいなかったからって、勝手に心閉ざしてさ。だから、ハクジツが攻撃した時が結構怖かった。私が誰からも必要とされてないような感じて_______」

 

 彼女の笑顔は、眩しかった。

 

「でも、そうじゃないと知って、もう一回だけ、みんなと距離を取ってからもう一度縮めて見たいって思ったんだ。改めて、あの時ハクジツに怖かったって、傷ついたって、寂しいって言って見たかったんだ」

「私は」

 

 ハクジツの言葉を、ゼンヒは待つ。

 

「私はあの人の隣にずっと居たいだけ、ゼンヒがリンネだと信じて近づいて、いつか戻ってきてくれることを信じてた。それを裏切られて、どうでも良くなった。元に戻ったような今でも、それは変わらない。だって、彼女が居ないことには変わりないから」

 

 その事実、酷い言い草を直そうともしない彼女のことを、ゼンヒは受け止めた。

 

「でも、今、ゼンヒは____私のわがままを聞いてくれた。どうして?」

「最初はあいつと違う、そう言って分からないことから逃げた。でも、ハクジツと話して、分かったことがあったから。誰かを愛そうとする人を知ったから、改めてハクジツのことを理解しようとして、私は理解したんだよ。恋を一欠片」

 

 立ち上がったゼンヒは、微笑む。

 

「それが例え等価値でなくても、私は半分はリンネだ。その焦りが、もし彼女にあるとしたら。何がなんでもハクジツを離そうとするのは、理解できるから。邪魔とかじゃない、自分が唯一安心できる人間が死ぬなら、自分が死ぬほうが楽なんだよ」

 

 自分が何も言わずに飛び出したのは、その苦痛から逃れるためだった。今も多分、その焦りがあるから仕事も我慢できるんだと彼女は思っている。

 

「だから、それが役に立てばいいなって。私しか今、答えられないから」

 

 それで、ゼンヒは言葉を締めた。

 

 一番彼女ができる誠実が、これであった。

 

「そっか。そう、なんだ」

「だから……さ」

 

 銃を下げたハクジツに、ゼンヒは近寄る。

 

「一緒に捕まえに行こう、ハクジツ。リンネを捕まえて、あいつにそんな考えは間違ってるって、そんなものは愛じゃないって言いに行こう。じゃないと、あの女はずっと勘違いしたまま、二人が会えなくなっちゃうから」

「______」

 

 警察としての本懐が、今一番彼女が欲しいエンディングに近づく。

 

 運命とは奇怪だが、故に光明ともなった。

 

「ハクジツがそのために警察になったんじゃないって知ってるよ。でも、その上で、私はハクジツと共に今回の件を終わらせたい。彼女を止める、そうじゃないと、私やハクジツだけじゃない、他の人たちだって安心して眠れないから」

 

 薬物の蔓延は進んでいる。

 

 セツカの件で元締めなどが浮き彫りになったが、それ以前から彼女は薬物使用者と何かと縁がある。それが、シャーレに対する感情から起きたものであることも分かっていた。

 

 相手は容赦がない、その分こっちも余裕がない。

 

 人を殺せば、その恨みがセツカを殺したように怨嗟が重なるだけ。

 

 ならば、司法の拘束によって混乱と社会運動と呼ばれようとしている外道を止めるしかない。その鍵は、自分ではなくハクジツであるとゼンヒは信じている。

 

「だから、だから」

「もう、何も言わないで」

 

 人の話を遮って、ハクジツは相手に近づいた。

 

「ハクジツ」

「______」

 

 そうまでして彼女がやりたかったこと。

 

 ゆっくりと近づいた彼女は空の銃さえ捨てて________

 

 相手を抱きしめた。

 

「_____」

「ねえ、ゼンヒ。いや、先輩」

「ハクジツ……!」

 

 ハクジツの、少し泣きそうな声が聞こえ、急いでゼンヒも相手を抱きしめる。

 

「力を、貸してください。私、このままは嫌なんです……リンネがずっと、私のことを見てくれないのは嫌なんです_____!」

「当たり前だ、力を貸すよ。私にこの世界が良いと"最初に"魅せてくれたのはハクジツじゃないか……!その世界が崩れるのは見たくない」

「先輩!」

「このことは誰にも言わない、それだけ傷ついたってことだから。だから、今のうちに泣いて、みんなの前で笑えるようにしてくれ。じゃないと、困ってしまうから。カザミとかにもなんか言われるの、嫌だろ?」

 

 冗談も言えるようになった関係のまま、新しく互いを見直して歩めると確信した二人。

 

 啜り泣く声はゼンヒにしか聞こえないくらいにくぐもっている。

 

(甘すぎるのかもな、私)

 

 自分を殺しかけて、挙句人のことああだこうだ言った人間にさえこうなのは自分でも引くところだが、それでも彼女は改めてこの甘さを認めてくれる人に出会えたことを感謝した。

 

 彼女は、空を見上げる。

 

 雲の隙間から、陽が差し込んでいた。

 




《後書き》
どうも、らんかんです!

シャーレ前交番本編最終章『ゼンヒ警部補編(後)』が始まりました!わーい!

ここからはゼンヒを構成したもう一人であり、ハクジツの恋人である扇堂リンネ率いるギャングである落花堂との戦いが始まります!シャーレや他の学園の生徒も認知した以上、大きな戦いになるでしょう!前章で猛威を振るったシャルアーやカザミ、今まで関わったキャラも参戦して騒ぎになること間違いなし!新キャラだって出ちゃいます!薬物から拡散する悪意と失望の蔓延に彼女達はどう立ち向かうのか、お楽しみに!

で、ここからは雑談です。

まずお礼を先延ばしにしてて申し訳なかったんですが、応援高評価のおかげでこの作品のゲージが真っ赤になりました!ありがとうございます!次は目指せ下の方のバーの色!それだけ人気の作品になると良いなあ、と思っております。頑張ります!

そして、後書きを後回しにしてごめんなさい!なんだかんだ、ちゃんとしたスタートを切ってからってわがままで書いたので_____次に後書きを書くとしたらちゃんと終わった後ですね。

雑談は以上です。

最後にもしこの作品がよかったら高評価か感想をお願いします!書くときのモチベーションになるので、していただけると嬉しいです!

あとは追加でお願いですが、この作品や他の作品書く時に少し参考にしたいので、よろしければこの作品で出たキャラで好きなのが居たら感想お願いします!嫌いなキャラとかも居たら情報として教えてください(もしこのキャラ嫌いだけどBad評価が気になる!って人は書いてるツイッターかハーメルンのメッセージなどで教えていただけたら嬉しいです)

では!

らんかんより。
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