シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseC-2:クラブハウス乱闘事件

 この日、ゼンヒはクラブハウスに来ていた。

 

『ここで隠れて取引をやっているらしい』

 

 と、このクラブハウスを今所有している少女に言われてのことだ。

 

 その少女は、今ステージでトラックをいじっている。

 

 その熱狂の中が一番、物事を隠しやすい。森を隠すなら森の中とはよく言ったものだと、彼女は警察とはわからない程度のカジュアルスーツで人間の隙間を潜っている。

 

(案外見つからないものだな)

 

 ノっている奴がほとんどで、縦乗り故に上下する光のせいで周りの状況が確認しにくい。

 

 なかったらなかったでいい、依頼主さえらしいで止まっているものを無理やり見つけ出すつもりはない。だが、探しているからには、ちゃんとやるのが彼女だ。

 

 ディスコのミラーボールは輝き、周りを塗りつぶす光を放つ。その中を縫うように進むゼンヒ。

 

(こういう仕事は流石に手が必要だからな、一緒に動くができないがその分働いて、かつ、無事でないといけない。で)

 

 そんな彼女の、視線を奪うのが一つ。

 

 青と金に輝くものに片目を照らされ、目を細めてからその方向を見た。

 

 二人の人間が周りの人間に合わせて飛んでいるが、後ろに回した手で何かを受け渡している。

 

「そうか」

 

 ゼンヒは躊躇うことなく銃を抜き、撃つ。

 

 その音があまりに響いたのだろう。飛び退くようにディスコの魚どもは離れていき、撃たれたやつは驚いたまま逃げ遅れる。

 

 ディスコの中心に立つは三人。

 

「な、なんだてめえ!」

「私の名前を言う必要はない」

 

 パッチを肩につける。

 

 それは紛れもなく警察のものだ、それ以外に彼女を飾る必要はない。

 

「な、て、てめえは」

「え、まさか____!」

「扇皇ゼンヒ!」

 

 そこそこ悪どい奴らには有名になっているようだ。

 

 落花堂含め、基本的に犯罪者を制圧し、政治的なグループでさえも捕まえてしまうような女が無名のままではいられない。

 

「今からお前らを捕まえる。理由はもちろん薬物の所持・使用だ」

「やってみろてめえ!」

「いいだろう」

 

 ディスコの真ん中で、殴り合いが始まった。

 

 先制を取るべく突っ込んでいった不良の一人だが、その勢いをつけたストレートはそのまま体の軸をずらすことでゼンヒは回避。

 

 ついでに突っ込んできた不良の頭を掴んでは、そのまま地面に叩きつけた。

 

「ぶべ」

「おいおい随分弱いじゃないか」

「何を!」

 

 受け渡し先の少女も当然殴ってくるのだが、それでもゼンヒは怯まない。

 

 今までの戦いや騒ぎに出てきた奴らと比べたらその力というのは高が知れているからだ。そして何より、自覚して生きているからセツカの経験も生かせるようになっている。

 

 本当の逸れ者の強さを知っていれば、これだけの奴らの攻撃など避けるのは造作もなかった。

 

「くそっなんで当たらない」

「当たるわけないだろ」

 

 ゼンヒは言い切るだけの実力がある。

 

 相手が激昂し、どれだけ攻撃を重ねたところでその攻撃が読み切れるようなものしかなければ警察に当たるわけがない。

 

 時間が経てば巻き込まれたくないとディスコの群衆は逃げ出していってしまうし、当然受け渡しの仲間も足切りのように逃げてしまうのだから当然避けやすくもなるのだ。

 

「さあ、早く来い」

「舐めてんじゃねえぞ!」

 

 受け渡し先の少女は、ナイフを取り出した。

 

「へへ、こっちはナイフの扱い慣れてんだよ。よく考えてみろ、銃で殺せないならこれで殺しちまえばいいんだよなぁ!?いくら慣れてても武道の型に収まっているだけじゃどうしようもあるまい!」

「たかが20cmに満たないそれが届くと?」

 

 彼女は煽る。

 

 ゼンヒの過去には、ナイフで太刀と渡り合った女がいた。その女のような動きが、相手にできると思わない。

 

 すでに格闘でこれだけの差がついていて、ナイフはその差を埋めれるようなものでもない。それで慢心するとは困ったものだが、そう言ったのを理解しないのもまた格差社会の現れである。

 

 ただ、それを教えたところで変わるわけもなし。

 

「死ねえ!」

 

 と、襲ってくるのが関の山。

 

 何度も、何度も適当にも程がある突きと薙ぎ払いがくるのだがこれが当たらない。

 

「ほらほらどうした!」

「……」

 

 攻撃すればテンションが上がっていく少女に、攻撃に見飽きすぎて避けるのさえ雑なのに全く当たらないゼンヒ。

 

 素人の攻撃は基本的には勢いをつける。その弱点は二つ。

 

 一つ目。

 

 勢いをつけることで威力が上がるのは間違いではない。遠心力というのは実に偉大で、加速度というのも力に加わる。しかし加え方が大袈裟すぎると攻撃する部位の動きで分かってしまう。殴るときに勢いをつけると、それだけ腕が攻撃態勢になりがち。

 

 ゼンヒが実際に避けているのも、その合図を見逃すことなく事前に回避して相手のカバーが間に合わないようにしている。ゆえに避けるのに対して力を使っていない。

 

 二つ目。

 

「はぁ、はぁ」

 

 ナイフを持った少女が息が切れている。

 

 素人の攻撃には勢いがあるが、どれも体があってこそ。

 

 つまり勢いを何度もつけた攻撃をしていると、それだけ体に疲労が溜まる。疲労が溜まるだけならともかく、ディスコという室内の閉鎖空間で空気の循環が換気扇あれど外よりうまくいかず、しかもさっきまで色々な人間が酸素を食いあったせいで息切れするタイミングも早まる。

 

 すると、どうなるか。

 

「この!」

 

 少女は攻撃を繰り出し、それを避けるゼンヒ。

 

 そのまま。

 

「寝てろ」

 

 勢いをつけすぎて、挙句疲労で対応が遅れている少女。

 

 相手をしていたゼンヒはそのまま足を引っ掛けて、体勢を崩す。

 

「キャッ」

 

 その悲鳴が最後。

 

 少女の腹を殴り、襟を掴んで頭から地面に振り下ろす。

 

 そうなれば悲鳴を上げることも、急激な体勢の変化によって状況の把握すらできていない人間には無理なこと。

 

 ダメージが甚大、脳震盪に加えて疲労による身体能力の低下はそのままダメージに入ることで一気に再起できなくなる。

 

 クラブハウスの音は流れ続けるが、ノれる奴はもういない。

 

「終わったか」

 

 そう呟き、容疑者二人に手錠をかけ、事態は収束した。あとは警察が来て、この二人を連行すればいいだけである。

 

「ありがとう、ゼンヒ警部補」

 

 一仕事終えた彼女に、レモンコーラを差し入れる少女がひとり。

 

 錠前 サオリだ。

 

「ああ、どうも」

「見事な戦いぶりだ、私の仲間に劣らない」

「それだけの修羅場を潜ったんだ、一個は自分で作り出してしまったけど」

 

 仕事終わり、夏場の室内で暴れた後のコーラはとても美味しい。

 

 ゼンヒは仲間でメッセージに来るように伝えた後、そのまま待機している。のしたやつは起きる気配はない。

 

「そうだ」

「ん?」

「確か警部補は、アリウス過激派と戦ったんだったな……」

「まあな」

「その_____」

 

 どう聞けばいいかは分からないまま、サオリは聞く。

 

「どう、言えばいいんだろうな。警部補」

「気にすることはない、みんな元気にやってる」

「元気に……?」

「少し面倒な事態になってな」

 

 ゼンヒは、現状を説明する。

 

 アリウス過激派を全員逮捕した後に自爆テロが発生したことも、そのアリウス過激派のリーダーをスカウトして色々な状況の解決に当たっていることも、今その過激派はある程度の監視のもとに薬物・兵器の解析班や犯罪者鎮圧用装備の製造班として活動中であることも。

 

「そうなのか」

 

 説明した本人は押収した薬を手袋をつけて拾い、説明する。

 

「これは警察も情けない話だが……各学園が自治区を持ち、キヴォトスというのがあくまで"世界"と同等の意味しか持たない時期では警察が真っ当に活躍することもできなかった。そのせいで犯罪者の方が一方的に成長することがあってな、その結果がこれだ」

 

 彼女が持っているのは輝薬。

 

 人の身体機能を飛躍的に上げる薬だ。

 

「これを製造し販売しているギャングがいるんだ。それの撲滅をしなければならないんだが、対応できるだけの練度もなければ装備もない。知識すらも。

 だから、アリウスの、しかも過激派の連中であれば社会復帰を支援するという真っ当な名目でスキルを活用できる。だから、今協力してもらっているんだ」

 

 少しだけ、サオリは申し訳なさそうな顔をする。

 

「正直そちらにも協力してもらいたいが、先生に迷惑をかけるからな」

「……」

「どうした?」

「先生の有無が、これだけ彼女たちを苦しめるとは思わなかった」

 

 彼女は目をそらす。

 

「私たちはあれで救われたと思っていた。アリウスはこれで、真っ当な扱いを受けるものだと」

 

 正直なところ、彼女たちは自分たちのチームで生き残るのに精一杯だった。

 

 それだけ強かったチームでもあったし、アツコ含め重要なメンバーだったのには違いない。ベアトリーチェがいなくなった後で、先生という安心できる場所がなければそれこそベアトリーチェ以外の神秘に精通した悪い大人や、巨大な権力が消失した後にまたロイヤルブラッドのせいで内紛が絶えないアリウスになることを考えれば正直なところサオリたちが先生に身を寄せたのは正しい判断とも言える。

 

 しかしそれを伝えたところで、サオリという人間が自罰的なのには変わりはない。正直偉そうに言える立場ではない、というより過去はどっちも人に害をなす存在で偉そうに言えないゼンヒは内心『傲慢だな』と自嘲しながらも咎めるような言い草で相手を励ます。

 

「仮にその理想が本当になると思っていたら見通しが甘すぎると言わざるを得ないが、甘すぎるとすら分からない環境だったから仕方ないと割り切るしかない。下手に気にし過ぎれば、それだけ捨てられた側は恨み、殺そうとしてくるぞ」

 

 ゼンヒはまっすぐな目で言う。

 

「全員頑張ったのには違いない。真っ当に生きれる環境を目指した結果、別れてしまっただけだ」

「警部補」

「だからそっちは先生の名の下に好きにやれ、こっちも私の名の下で許せる範囲で好きにやらせる。それで恨みっこなしだ」

 

 これが彼女の結論だった。

 

「先輩!」

「お、リーダー!」

 

 ハクジツとショウコがやってきた。

 

「すまないがこの二人の連行をよろしく。こっちも代表者に挨拶したら向かう」

「はい!」

「りょーかい」

 

 そうして部下二人は伸びてるやつを引っ張り、薬物を押収してからそのままクラブハウスを後にする。

 

 確認したら、ゼンヒはサオリの方を向く。

 

「では、お別れだ。また会える」

「警部補」

「なんだ?」

 

 サオリは、少しだけ静かに、彼女に言う。

 

「ありがとう」

「こちらこそ、優秀な奴をありがとう。好き放題使わせてもらう」

 

 お互いに握手して、笑顔で別れた。

 

 夜中、それでも都市は明るい。

 

「____暗いな」

 

 中が眩しく目まぐるしいせいで、そんな場所も彼女にとっては落ち着いて見えてしまっていた。

 

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