「_____というわけで、現在落花堂の奴らを捜索中ではあるんですけど尻尾が掴めてない状態ですねえ。結構でかいグループで、ヤク売ってるやつを片っ端から捕まえるなんてやってはいるんですがね」
「うーん、人員を増やすか?」
「いくらリーダーのおかげで改革できていると言っても、やっぱりヴァルキューレ全体だとまだ腐ってるやつが多いのなんのって。しかし、安定した経営のためには今人減らすわけには行かないんですよねえ」
「そりゃ困ったな」
特別暴力対策課事務所で話しているのは、ゼンヒとショウコ。
本格的に薬物売買をしているギャングである落下堂の撲滅を図ることになったのだが、まずは相手を知らないとどうしようもない。なので、特別暴力対策課の人間を偽装してブラックマーケットなどへ調査に行かせてる。
とはいえ本格的な調査が開始してからそこ三日と日が浅い。
だから、しばらくは出した尻尾を掴みながら相手の居場所を探って捕まえるのが得策だとゼンヒは判断した。
「なかなか相手も尻尾を出しませんねえ。少なくともリンネに関してはうまくやっている」
「薬や過度な快楽は、人間には全くと言っていいほど耐性がない。薬効以外は耐性がつくが、気持ち良さには耐えられないものだ。だからいずれ、あのクラブハウスの事件のように末端が何かするさ。それを追うのが一番だ」
「ですよねえ」
なんて話していると、誰かがドアを開けた。
ノックなんて必要ないのがこの政府に育てられたエリートで自由な奴らの風習、そうして部屋に入ってきたのは。
「失礼します」
「ああ、ユリ!」
ゼンヒは嬉しそうな声をあげる。
鹿嶋 ユリ。特別暴力対策課の実働部隊長だ。
少しの間休暇を取っていたようで、ゼンヒのことを追ってた時よりは顔色が良くなって元気な様子。
「今日復帰なのは聞いていたよ、おかえり」
「え……?あ、はい。そうですけど_____」
「どうした?」
「なんか、なんか____えっと、無理してないです?」
「そりゃこっちのセリフだよ。私のことで無理させてすまなかったユリ、まず謝らせてくれ」
「仕方ないですよあれは知らされてないことですから。でも、恨み持ってると思ってて」
「持ってたらおかえりなんて言わないさ」
「そう、ですよね。リーダーが元気になっているとは仲間から聞いていたので、暗い顔をしないようには心掛けてるんですが思いもよらなかったのでつい動揺してしまって」
「お前を恨む理由もないさ。権利もない」
とりあえず自分が休む用のソファにユリを座らせて、ゼンヒは冷たい紅茶をふたつ注いで持ってきた。何しろ夏だから。
ユリは暗い顔はしてないが、やっぱり動揺は見える。
「こっちこそ、リーダーが元気そうでよかったです。と言ってもあんまり時間は経ってないので、まだ心配はしてますけど」
「不安になったら意地にならず頼る」
「そう言ってくれて嬉しいです」
お互いに紅茶を飲み、相手の様子を見た。
ゼンヒは前よりかは笑顔も見せるが、何よりリラックスしているように見えた。あまりシルエットに固さを感じず、仕事場で安心できるという雰囲気をエリートの兵士だったユリは感じとっている。
一方ユリの方はやはり、前のことが気がかりなのだろう。ああなってしまったのは自分にも責任の一端はあると考えているのが分かる。流石に休暇を取っていても、自分を納得させる何かが思いつかなかったのかもしれない。
「ユリ」
「はい」
「やっぱり、気にしてるのか?」
「ええ」
「素直だな」
「リーダーが意地張らずに頼ると言ったんです、自分もちゃんと胸の内を明かさないと」
「そう言えるのは素敵だ。ということは、何かしらの罰か、代償を欲しているのか?」
「正直なところ、そうでもしないと許された気がしなくて」
「じゃあ今から少しだけ話に付き合ってくれ」
そう言って、改まることで萎縮させないように、ショウコが居ること関係なく話を始めた。
「ユリはショウコに怒られたことはある?」
「SRT時代では何度か」
SRT特殊学園所属時。
キヴォトスが一都市としてではなく、確固たる自治区、小国の乱立状態であった連邦生徒会長時代では、大きな軍事行動が取れずにいた。連邦生徒会長そのものはそういった軍事行動が必要になると予見していたが、やはり彼女の時代では外交が乱れることがかなりの脅威になっており、先生と同類のカリスマを持ち合わせていなかった彼女は小隊範囲での動きしか取れなかった。
故にFOX小隊の名前は響いたが、大隊前提で動くことで訓練されていたユリ達は活躍の機会なく不満を募らせ、彼女を筆頭に抗議ないし訓練の気力低下を招いたのである。
「その時にはすでに仲良かったショウコに怒られました」
「なんて?」
「『政治は安定せず、ゆっくり変わるものでもない。そのような治世は絶対にないのだから、自分たちの今だけを優先するな』って」
「ショウコなら言いそうだな」
実際その後、連邦生徒会長突然の失踪によりSRTも解体。以降はヴァルキューレで弾圧され続けることになった。
不満を募らせていた奴らにテロの計画を回していたりもしたユリだが、もうその時になればショウコも止めることができず見逃すことしかできない。そのテロが発生する寸前で、彼女達はゼンヒを見たと話す。
「あとは知っての通りです」
「なるほどなあ。そんなことがあったんだ」
「だから、アタシは自分の今ある人生を賭けて学んだことを活かせるここが大好きです。ずっと続いて欲しいですし、それが望みですから」
ゼンヒは納得した。
自分にとっての帰れる場所と、彼女のこの仕事に対する好意が等価値であることを。
「そうなんだな。いや、そう言ってくれれば嬉しいよ。でもそうか、やっぱり怒られたことあるんだな」
「リーダーもありそうな言い草ですけど」
「それがあるんだ」
え、と驚いた声を漏らす。
「それこそお前が休んでる時、ショウコがここを回していた時なんだ。トリニティでの人質事件を解決したの実は私なんだけどさ、療養先の人間の許可を得ずに飛び出して行ったんだよね。それでだいぶ迷惑をかけたんだ」
あの時のことを、ゼンヒは話した。
自分がどうしても不安になって、精神不安定のままに事件を解決したこと。それを勝手にやったことでショウコに"自分がいなくなって心配をかけるなんて言語道断"と言われたこと。
「割と怖かったな。何しろあんな表情、いつもと口調変わらないから怖いのなんのって」
「そうですよね。ショウコ怒った時、怖いですし」
「ただそのおかげで、学んだこともあった」
彼女は明るい表情で、言いたいことを言う。
「私はバンリのところでゆっくりしたり、彼女と色々するのが今一番好きなんだって。それが私の大事なことなんだって、理解したんだ」
そう思っているからゼンヒは守るために、自分が苦しくても事件に立ち向かった。それそのものは深く追求せず理解を示したショウコだったが、それはそれとしてならば大事に思っているものへの不義理を働くべきではない。これが、怒られた内容だった。
ユリの話を聞いて、ゼンヒはこれと同じことが相手にあったと理解した。
「お前がここに感謝して、好きでやっていることには深い意味があるとわかった。そしてそれは、私が今の居場所に対する思いと一緒なんだって。そうなっていることを私は誇りに思うし、そう感じて仕事してくれて感謝しているよ」
「そんな____自分が勝手に思ってることですから。でも、これでリーダーを追い詰めてしまったのも事実です」
「お互いに素直になれなかったのと、これを理解するのに自分は浅かったのも事実だ」
今、ユリがこの課に抱いている感情を彼女は理解できなかった。
理解できないものは思い浮かぶことも、思いやることもできない。それが彼女を孤独に導き、セツカという一つの結果に辿りくことになったのだ。
だが、その一件を通してセツカやシャルアーから居場所や大事なものが必ず何かあり、同じものが仲間にもあったことを。自分が過去と称していたそれは、大事なものであり、その裏付けが欲しかったのだと。
そう思えば、改めて仲間と言葉を交わし、確認し、信頼するべきだという答えに辿り着いたことを、その信頼したい仲間に伝える。
「だから今、改めて大事なものを聞けて、それがとても嬉しいんだ」
「そう、ですか」
「だからユリ」
ゼンヒは相手の目を見る。
「その大事なものの為、また力を貸してくれ。一般市民だって持ってるそれが、失われることがないように」
その願いは純粋なものだった。
お互いのことを確認し、その上で力になる。
罪の意識を丁寧に拭き取り、お願いした彼女の行動はユリに安心感を与えた。
「____はい!」
「いい返事だ」
互いに頼れると、確信するいい返事だった。
その声がした直後。
「おーいユリー!」
「なーにー!?」
「早くおかえりの会するから降りてこい!」
「すぐ行くー!」
彼女はなんだかんだ実働部隊長としての人望もある。
仲間はユリのために、パーティーの準備をしていたようだ。
「リーダーも」
「後で向かう、準備をしててくれ」
「あーい!」
一人が去った後で、ユリも立つ。
「またよろしくお願いします!リーダー!」
「ああ。こちらこそ!」
握手をして、手を離す。
「じゃ、みんなのところに行きます!リーダーもできるだけ早く!」
「ああ」
そうしてユリもまた部屋を出て、ゼンヒも立つ。
「私もすぐに行かないとな」
「リーダー」
「ん」
そう、話し込んで忘れていたこと。
ショウコは黙って近くで立っていたのだが、二人はそれを気にせず彼女が怖いと言ってしまったのである。
「あ、ショウコ……」
「誰が怖いって?」
「いや、その……大事なことだっていうのは言ったし、だから、な?」
「私はこれでもあなたの彼女と仲良いしチクることも辞さない」
「まって本当にごめん。ごめんなさい、許して」
手を合わせて目を閉じ必死に謝るゼンヒ。
「まあ、今回だけは許しますか。ユリのこと元気にしてくれた礼として目を瞑ります」
「ありがとう……」
「じゃあ、さっさと行きますよ」
「ああ」
二人も部屋を出て、階段を降りる。
通路に漂う、香ばしいハーブと肉の匂い。
戦う者への、賛美だ。