「おい!こっちだ!急いで来い!」
「大丈夫!助けに来ました!」
市街地は騒ぎに包まれている。
元はと言えば不良どもの騒ぎだと片付けれるはずだったものだが、その状況が異常だった。
不良どもの目は虚、しかも見つけた奴等片っ端から襲っては食べようともしてる程。
死人は出てないが、このまま放置すれば最悪な状況になると判断し、特別暴力対策課は迅速な包囲作戦を展開。
「あ、警官さん!」
「急いで逃げろ、ここは私がやる」
「は、はい!」
相手に優勢を思わせるため、今回はエサ役としてゼンヒが飛び込んだ。
彼女に向かってくる人数は3人。他は別方向へ逃走中。
「こっちだ!」
装備はショットガンにアサルトライフルにハンドガン。
盛りだくさんな上に取り回しが大変だと思われそうだが、そうでもしないと抑えられないと判断したゼンヒは持って行った。
無論その光が惹きつけないはずもなく。
「____」
「なんか言え」
「……」
「無駄なようだな」
ゼンヒの方を見ては変わらず、襲いかかってくる。
「素早い!」
驚くだけのことはあった。
相手は武器を捨てて全速力で飛び、壁すら蹴って普通だったらやらないようなことを全速力でやる。
パルクールに慣れてるとは思わないが、脳の処理能力や恐怖がすっ飛んでいるのかキヴォトス人の身体能力全開でやってくるのだから溜まったものではない。
しかし、それらの相手はゼンヒだ。相手は腕を伸ばして掴んでから噛みつこうとしていても。
「甘いな」
片手に持ったショットガンの引き金を引き、ストッピングパワーで思い切り支えのない飛びつきを吹き飛ばす。今回の弾は火薬を強化したもの。
もう一人その陰からやってきても、同様に飛ばして少し距離を取った。
三人目はどうやら反応が遅れてる。
ゼンヒはアサルトライフルに巻きつけた紐を咥えてから二発ショットガンに入れて持ち直す。
「来いよ」
人の言葉は流石に理解しているようだが、戦略は理解する気はないらしい。
もう一度、今度は三人同時に攻めてくる。
「おいおい」
呆れるゼンヒ。
左右から追い込むようなやり方をして、時間差で攻撃を仕掛けるようだ。
しかしここは市街地、言ってしまえばビルのど真ん中。
構えて相手の攻撃を見切るふりを少しして、相手が飛んでくると思ったタイミングでビルに小銃を撃つ。
そうすればどうなるか。
ガラス片がそのまま落ちてくる。
「ほら!」
ショットガンで飛んできたやつを飛ばして、ガラス片の鋭さで切り裂きながら一人ダウンさせる。
他の奴らの方はそのまま前転して躱し、もう一回距離を取る。
《リーダー!》
「なんだ」
《そっちはどうですか!》
「今一人硝子の餌食になった。そっちは?」
《ゆっくり追い詰めています!他の三方向も!》
「ならいい」
撃ち続けながら応答を続ける。
「そのまま追い詰めて射撃で一斉に制圧する。私が見えたら連絡しろ」
《了解!》
一度通信が切れて、また目の前の状況に戻った。
硝子の餌食となった一人は出血によって移動が不可能になっているが、他の二人はそんなのお構いなし。
しかし、どうやら様子が違い。
「ほう?」
それは普通なら取れない手段。
彼女たちはもう元の道に戻る気はない、そういう意思表示の一つ。
ナイフの刀身が晒された。
「私を殺す、か」
どうとも思わないのはいつものことだが、今日のゼンヒは少しばかり機嫌が悪い。
「そういう武器を持ち出す意味を理解しているのか」
その問いに答えるものもいない。
「そうか」
彼女は別にどうともしなかった。
獣は弱みを見せれば考える暇もなく突っ込んでくる。
それは獣の強みでもあるが、同時にどうしようもない本能であり、付け入る隙だ。
悲しい。
こう呟いたゼンヒは、少し悲しそうな顔をした。
「_____」
獣には理解できない感情だ。
だが、理解できることはある。
その表情を見せるのは"弱さ"だと。
喜び勇む化け物は、ナイフの快感を覚えさせられ、それを埋めるために飛び込んだ。
「馬鹿者が!」
残り二人とは言え、それをいなすのはあまり簡単ではない。
一発当たれば致命傷。
しかしゼンヒには一発も当たるわけもなく。
獣に制御はない。ゆえに、スピードアップするが、それが余計アドレナリンで霞んだ疲労を蓄積させていく。下手に攻撃しないで距離を取ることに専念している彼女は、撃った弾の分だけ軽い動きをして避ける。相手にとっては自分と獲物、その直線的な考えが快楽に引き換えた柔軟な発想の末路。
ただ、アドレナリンが出ていても体というのは正直だ。
振れば振るほど、飛べば飛ぶほど、筋肉は悲鳴を上げる。脳は誤魔化せても、体にそんな機能はない。
「____はぁ___はぁ_」
イキる獣の息は絶え絶え。
流石に窮地を何度も切り抜けて、窮地を作れるほどの強さを持つ彼女にとっては、相手の方が餌に落ちた。
「そろそろトドメを刺す」
ショットガンをアサルトライフルを、乱射する。
強装弾の雨はいくら銃弾に強いキヴォトス人でも、苦痛を伴うもの。吹き飛びはしないがノックバックは当然発生し、それが疲れ切った相手なら尚更。
アサルトのリロードをした後にギャングみたいな撃ち方をしながら、ショットガンのストックを噛んで右手に2個3列のショットガンシェルを持ち、3回で一気にリロード。マッチセイバーに一発仕込むと、丁度小銃の方が撃ち切れた。
肩掛けロープを振り回して相手へと打撃すると、二人はそのまま吹き飛んだ。
「さよならだ」
吹き飛んで、倒れ、立ち直ろうとする二人に向かって均等に散弾を浴びせた。
コンクリートが削れて吹き飛び、快楽に蝕まれて力を失った四肢は跳ね回る。
これがキヴォトスを揺るがす元大軍隊をまとめて頭領をやる少女のやり方。
既に相手は動かない。
まるでヤクザ映画のように雑な処理。端っこに蹴り転がしながら、ゼンヒは背伸びした。
「これで終わりか。んん〜……あ、連絡しないと」
今回の作戦は特暴課全体での囲いによる殲滅戦。
他のメンバーの指示を出さなければならない。急いでインカムを起動して連絡を取ろうとするが、取れない。
「おい……おい!ユリ!反応しろよ!」
叫んだところで変わらない。
「どうしてだ!?」
「はい、どうしてだと思う」
「ったく、妨害が____あ?」
後ろから声がして、それに反応してしまう。
そんな方向を見ると、一人。
「やあ、初めまして。君がゼンヒだね?」
「……お前は」
薄紅色の髪を靡かせ、歩いてくる少女。
彼女はそれに見覚えがあった、いや、無ければおかしかった。
仮にセツカの記憶がなくとも、相手を見ればそれが自分にとって特別関係ある人間なのは一目瞭然だったのだから。
「こんにちは。ゼンヒ……そして、もう一人の私」
「リンネ!」
急いでリロードして銃を向けるゼンヒ。だが相手に怯む様子は見受けられない。
「銃を向ける、か。いや、そうだね。私は敵だ」
「分かってるなら今すぐ投降しろ。捕まるなら無用な真似はしない」
「残念ながらそれは出来ない。捕まってあげてもいいけど、それはデメリットが大きすぎる。私一人ならいいんだけどね」
「何を言って」
目を伏せるリンネ。
「捕まったところで一人で脱出できるからあまり関係ないんだよね。だけどさ、今すぐ捕まっちゃうと私の配下に申し訳が立たない。なので捕まってあげられない。分かるだろう?頭を失った不良組織がどう滅んでいくかを」
「ああ、私はそれを望んでいる。お前を捕まえてハクジツの元に!」
「白日の下に、か」
「貴様!」
ふざけてるんじゃないんだぞ、そう脅す。
「いいか!ハクジツはお前が、お前が元に戻ることを望んでいた!自分のところに戻ってきて、過ごせることだけを望んでいた!なんでそれを分かってやれない!」
「自分が元に戻ることはないからだ。真の意味で、ね」
「その為だけに愛した人を捨てるのか!」
「半分は私である君は、どうして彼女を代わりに埋めようとしない?」
「お前を愛してるのを知っているから!」
「君は“私とセツカのキメラ”なのに?」
次の発言は、銃口から発せられた。
ショットガンの弾はまた、下っ端の中毒者を屠るときと同じように飛び、殺そうと迫る。
それにふさわしいほど、ゼンヒの怒りのスイッチを踏みつけたのだ。
セツカは自分にとっての大事な人で、自分自身も改めて大事な人間であると。それを事実とはいえ無機質な謂れようをして、許せるはずもない。
しかし。
散弾は、ある事象を映し出した。
「なっ……!」
血肉踊るように、散弾は相手を屠って弾き飛ばす。内臓は見えないが、血は溢すように散って、肉は落ちる。
キヴォトス人ではあり得ないことだ、ましては銃弾でそうなってしまうなど。
「どういう……ことだ!」
「あーらら、酷いことしてくれるじゃないか。えっと、前に言ったっけ。いや確かあの時は君は居なかったね。そう私は繭みたいなもの、銃弾をいけたら砕け散ってしまうんだ」
いつのまにか真後ろにいる。振り向けば、何も武器を持たず構えていないリンネが。
「そうそう、今電磁波妨害をしているのは機械だけど、やってる理由を説明していなかったね」
銃口を向け直すゼンヒだが、撃つのは躊躇われる。さっきのが幾度となく続けば、弾切れを起こすだけだ。
「君にはちゃんと説明してなかったことがある。みんなに説明していたこともそうだけど、改めて君と話をしたい。そのためにこんな企画をしたんだ」
「……わざわざ市民を巻き込む必要は無かっただろ」
「いいや、君達が暴れてくれないと困るからね。まあ真意に気付いたとしても出撃せざるを得ない君たちの事だ」
笑う頭領には、若干の狂気を感じる。
「私と君は同一人物だ、故にもう少しだけ踏み入った話をしようじゃないか」
「勧誘ならお断りだ」
「勧誘しなくても、自分で納得したあとなら勝手に接触してくるだろう?今焦って誘う必要はない。でも聞いておいて欲しい事がある。私の計画についてだ」
「言ってどうなる」
「私の計画の土台になる」
状況的に下手に動くのが良くない、と言う状態であれば聞くしかない。
ゼンヒとリンネ。
死ねば混じり合うこともなく、交差することも無かっただろう二人の時間が始まった。