シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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Case12:薬物関連の家宅捜査

 ゼンヒは家宅捜査に駆り出された。

 

「普通こういうのってお巡りさんがやる仕事じゃないですよね」

「すまないな後輩、私の立場のせいだ」

「こればっかりは上の命令ですかね……先輩は悪くないっすよ」

 

 家宅捜査は彼女ら含めて5人いた。

 

 事の発端は公安局幹部からの頼みである。

 

『この前の売人逮捕から末端がわかった。買ったやつや使ったやつを逮捕して防がねばならない』

 

 そう、呼ばれて言われたこと。

 

 この時は珍しくゼンヒもやる気あると捉えられる答え方をした。

 

『私もその意見に賛成します。あのようなもので人生を変えてはならない上、広めるのも全力で止める必要がありますから』

『君はどうやら必要な、そうだな、市民を守るという点では全力を尽くす警官だったな。しかし、そのような同士に迷惑をかけることになるとは詫びる言葉が見つからない』

 

 曰く幹部は、適当な人間を集めて捜査すると麻薬をくすねる可能性が出てくるとのこと。

 

『今回は必要な検挙なのもそうだが、それによって警官が新たな温床となって売り捌くとなれば言い訳もつかん。未だヴァルキューレはそう言った点では疑心暗鬼になる魔境だ、申し訳ない』

『お気になさらず、そう思っていただけるだけでも嬉しく思います。頑張ってこちらで人を集めてみましょう。ある程度集まったらお知らせします』

『ではこちらもできる限りのボーナスを出すことを約束しよう。それで釣ってくれ』

『了解しました!』

 

 前にアピールの件で言い合っていた二人とは思えないほど円満に話が進んだ。

 

 そのままゼンヒはその日自分のいる署で集めてみたら後輩も合わせて四人ほど。結果、メンバーに臨時手当が入る代わり、家宅捜査へと出ることに。

 

「ゼンヒさーん!こっち調べてたらフツーに出てきましたよ!」

「何の薬ー!?」

「覚醒剤!」

「押収ボックスにでも入れといて」

 

 ここの監督になった彼女は部下に指示して見守る。

 

 少ししたら、また後輩から話しかけられた。

 

「ところでここの家に住んでた生徒って捕まったんでしたっけ?」

「捕まったのは別件かつ一ヶ月も前のことだ。しかし、年始早々に捕まえたあの売人が売っていたのが発覚してな」

「別件?」

「殺害一歩手前まで行った傷害事件があったな、それだ。もっとも関係しているやつ以外は外部に漏らさないようにっていうお達しがあって私は何も知らないが」

 

 キヴォトスで死人が出るかもしれない、というのは大事。あまり無責任に広げては、意味がない恐怖が広がることを意味する。

 

 しかもそれが人為的に引き起こせる、その場で殺せる、そんな技術が広まることを上は恐れていた。だから、滅多なことでは人に知らせもせず、極秘情報として処理されるらしい。

 

「ところでお前は何か見つけた?」

「あ〜LSDなら結構見つかってますね。押入れとかは調べましたけど栽培してた様子はないですね」

「まあこんなところでやってたらバレるだろうしな。マンションの一室だぞ、ここ」

 

 さほど高級でもないマンションの一室。そこで栽培なんてしてたら何育ててようが目立つのに、違法薬物のやつなんて一発でしょっぴかれて然るべきだ。

 

 そんな雑談をしていると、まだ調べられてないであろう棚を見つける。さらにその上には、何かしらの日誌みたいなのが置かれていた。

 

「こういう時ってのは大体、何か面白い話があったりするんだよな」

 

 指紋がつかないように手袋を嵌めてから、ゼンヒはその日誌を開く。

 

《流石にネットで書いたらバレてしまうから、ここにわたしの大事な心を書いておきます》

 

 そんな味のないうえに後ろめたい書き方をしつつ、彼女はその日誌を読んだ。

 

《わたしはただ、誰かに褒められたかったです。誰か、自分だけを見てくれる大切な人に出会いたかったです。トリニティでは常に敵しかいなくて、派閥にいればその大流に飲まれ個を失っていく。そんなところが嫌でした》

 

 ゼンヒが捕まえた売人もトリニティの生徒で、ここに住んでいたのもトリニティ生徒だったのだろう。ただ、ここはシャーレ近郊。元、が付くだろう。

 

《みんなは才能・家柄・生まれ持っての特殊能力でその地位にいます。地位は変わることなく、季節以外は何も変わらないこの街。シャーレが出来てからは尚のこと、見向きされなくなっていきました。神様、お教えください。人間の幸せは何なのでしょうか。わたしは誰かに認めて欲しい、頼られる存在であって欲しい、そのために尽くしたい。だからこそ、もっと頼れるようにそれ相応の地位や名声を得たかった。だけれども才能なく、力もなく、故に悪意のある天才で埋め尽くされ、それが罷り通る社会とは正しいものでしょうか》

 

 ゼンヒは何も言わずに読み続ける。

 

《強きものが正しいのであれば、何故神は顕現せず正さないのでしょう。人々が善きに計らい、ただ善なるもので、絶対者のルールに従う奴隷が世界に良きことと言うのであればどうして神は裁きを与え“生まれ持った能力”を是正せずに生かしておくのでしょう。あれは邪悪なるもの、理性なき力、真の社会とはああ言ったイレギュラーを粛清し真に同じ人間の社会で共和的な世界を作り上げる集団のことであって、ああ言った賊を内包することではないと思うのです》

 

 はあ、とゼンヒはため息をつくと後輩が話しかけてきた。

 

「何読んでるんですか?」

「犯人の日誌だよ。軽く読んでなんか有りそうなら持って帰ろうかなって」

「じゃこの棚調べますよ」

「よろしく」

 

 後輩は前の棚を調べる。それを見てから、ゼンヒはページを捲ってから別のところを読み始めた。

 

《ある日、わたしは見つけました。自分が強くなれる薬を。吸うだけで何もかもが飛躍して強くなり、まるで機械をも超越した機関と化した自分。運動をして戦ってみれば相手よりも上回り、理系の勉強や理論も頭にしっかりと、明瞭すぎるほどの状態で再生しながら話が出来、その想像力を持って一人で叙事詩を作れるほどの万能な脳の解放。これさえあれば、わたしにこれを授けてくれた人のように“阿頼耶識の社会”が完成する。わたしはあの人に出会い、共に歩むために生まれた》

 

 自分が捕まえた売人のことらしい、ゼンヒはまたため息をつく。そんなもっともらしい思想を掲げながら自分の利益のために売るとはあまりにひどい。

 

《その日がわたしの運命を決定づけた日でした。その日からは神を讃えずただひたすらに隠れ家を探し、入居するためにあれこれ書類を変え、祈りを何度でも無視して新たな生き方に急ぎます。途中、サクラコ様がわたしの変わりぶりに心底驚き、何度も教えを解いて、自分の予定すら何個かすっぽかして話を聞こうとしてくれて。とても嬉しかったのですが、それは神ではなく一つの座に佇む傲慢でしかなく、それでわたしは強くなるわけでもない。あの薬こそが全てであり、自分の力の解放を主軸としながらも、多幸感をと与えてくれる素晴らしい薬でした。何故、力に代償を要求しない、まさしく神なるものが体内に入り込む素晴らしいものを人々は恐れるのでしょうか》

 

(その代償は本人で気づけないから禁止にするんだ。例えどんなことになろうとも、自分ではもうやめられない。それに人間の身体は苦痛に歪むことがあってもいずれ耐性ができる。悲しいことに、幸福だってそうなんだ)

 

 シスターフッドで敬虔なシスターをやっていたはずが、段々と神に祈ることへの無意味さを悟り始めた挙句に神なる存在を取り入れることができると薬に手を出した嘆かわしさに頭を抑えて首を振るゼンヒ。それでも彼女は読み進める。

 

《そして……逃げ出すことを決行した日。私は新しい自分の為の私服を買って、修道服や聖書を全て、人目がつかない場所で燃やしました。何故か涙は出ないことに、少しの悲しみが襲います。自分の人生に深く食い込んでいたものが抜けて、漸く癒され始める日が来る。その喜びが、身体を覆っていたのです。神は救いはせず、ならばわたしがあれを使って様々な政治活動へと身を投じ、武力抗争の果てで真の凡人社会を作り、イレギュラーな神秘を持ったものを全員葬って平和な世界を作る。そうしなければ我々の世界は生まれによって全てが決まり、それを肯定せざるを得ないシャーレの邪気に覆われることでしょう。そんな社会は許されるべきではないのです》

 

 捕まえた売人と大体同じことを言っていたが、やはりその売人の通りこの一件は“薬による作用”をかなり良く見てる傾向にある。これさえ吸えば誰にでも並べる、勝てる。承認欲求と生きてるだけで積み重なる屈辱の軋轢が憎悪の渦を生み、それを多幸感で軽減しつつ力を与えると考えてるような奴にとっては、覚醒剤などは吸うに限るものだった。

 

 その後の副作用とかについては、何か書いてあるのだろうか。彼女が信仰を捨てた日からはしばらくのページは特に何も書いていない。

 

(忙しくなって飽きたのだろうか。ただ、少なくともあの事件までに余罪があったことを考えるとやはりこいつの知人にも薬が広まってると考えていいはずだ。困ったが……私は巡査部長で今もシャーレ前交番の勤務だしな)

 

 なんて後はないかとペラペラ勢いよくめくっていると、最後のページに何かを書いているのを見つけた。

 

 副作用の影響で時なんかまともに書けておらず、あまりに揺れている線だが元がお嬢様学校の生徒だったからかギリギリ読める字の方が多かった。

 

《わたしは見つけた、簡単に人を殺せる方法を。刃物で刺せばいいんだ。天衣____見つけてくれていた。何人も殺し____》

 

 あまりにひどい文章で、薬物中毒末期の誇大妄想のようなもの。

 

 本来だったら、特に彼女の後輩とかは鼻で笑いそうなことだがゼンヒはこの時、少しだけ震えていた。

 

(私はなんで、こいつと同じ人の殺し方を知っているんだ____?)

 

 彼女が知っている殺し方がそのまま乗っていた。

 

 彼女は何故か知っている、弾を撃たれても平気なキヴォトス人ならそのまま鋭いものでも持って刺しに行ったほうが殺せると。事実、ガラス片を使った時にはそれに従って行動している。

 

 だが、ゼンヒそのものはそれに至るまでに何かした覚えはない。それに殺した覚えもない。ただそう言った確信した知識、いや覚えがあるように、まるで“最初から”そのやり方を知って生まれてきたような感覚だった。他の生徒が入学してきて、親が居ないのにどうやって生まれるかも知る由なく、知りたいと強く願うこともなく、永遠に生徒を疑問なくやっているのと同じように、ゼンヒは人の殺し方を知っていた。

 

 そんな身体の一部、自分のプライベートに等しい思考回路そのままの殺し方が日誌にあったとなれば、何かに見られているようで悍ましく感じ、その上で疑問を抱くのに無理はなかった。自分が何故か知っているがどうして知ったのかは永遠に分かるはずのないことだったのに、突如ヒントのようなものがやってきたのだから。

 

 同じことを考えて実行したと言われている存在に対し、彼女は想像を働かせる。

 

(私はこの天衣と呼ばれるやつに合ったことがあるのか?それとも何か、こいつに関係なく別の閃きがあったのか?でもなんでだ、この変な背筋をなぞり続ける寒さは。まるでこれの関係あることを身体が覚えているみたいじゃないか)

 

 そんなゾッとするような、しかも急で脈絡のないことで固まっていたゼンヒ。彼女個人にとっては大きくなりつつあることは、周りを見えなくしたのだろう。

 

 しかし時間は当然進むし、作業だって終わりを迎えている。家宅調査はあるだけの薬物を没収して、まとめ終わっていた。

 

 彼女のそんな姿を見ていた後輩は、仕事が終わったのでそのまま手に持っていた日誌を取り上げる。

 

「うわっ何すんだ」

「怖いものでも見たかのように固まってたから取りました。まったく、5回くらい声かけたのに反応なかったから」

「あ、ああ、すまない」

 

 玄関には他のメンバーも集まっている。ゼンヒの邪魔をしないようにしていたらしいが、ずっと待っていたのかお喋りを開始していた。

 

「帰りましょ、先輩」

「……そうだな」

 

 日誌の方は後輩が回収することになった。先に玄関へ行っていたメンバーはそのままワゴン車に乗って公安局へと進んでいき、そのまま二人もマンションの一室から出てパトカーに乗る。

 

 外は雪が降っているが、それでも雲の向こうから光が差していた。冬の寒い時期でも頑張るものの微かでも良いから応援したいという太陽の願いが隙間から街を照らす。

 

 この仕事が終われば今日は自由、後輩は仕事が終わった後どうしようかとハミングするほど楽しんでいたが____

 

 ゼンヒは最後のページに書かれてあったことのせいで気持ちが悶々とし、その日は疑問に終始した。

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