シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseC-7:市街地乱戦-中編

「そもそも、私のこの計画は死ぬ前から練っていた。大人を受け入れることを前提とした不完全な連邦体制からの独立を。私のような人間を生み出さない、は完全には出来ないだろうが、もし流動性の高い政治を生み出すに至ることが出来れば、様々な属性を持つものを代替わりにトップに据えれば、時間はかかるが結果的に全人類をゆっくりと上へと押し上げることができる」

「だったら十全な政治活動をするべきではないのか?」

「民衆は思っているより馬鹿でもなければ、思っていたよりも賢くもないんだ」

 

 リンネの表情に色はない。

 

「一旦私もそれを考えたんだ。もし、身を寄せ合った貧民の代表として、政界進出を果たすことが出来たとしたら。それはとても嬉しいことだし、私の目指している世界に近づくわけだ。ただ、それは本当に助けることになるのかと言われたら別の事だが」

 

 彼女は語る。

 

 もし、そうして真っ当に連邦生徒会入り出来たとして、果たして機能するかどうか。

 

 自分がもし手を伸ばそうとしても、その先にいる人間が素直に受け取ってくれるかどうか。

 

「人間というのは愚かなものだ。どのような生き方をしていてもグループ分けが出来るくらいには、相手のことをよく見ているし、集団を作る際にその人物が適合するかどうかを見分けれる。しかし、民衆が出来るのはそこまでで、それ以上のことはできない。一人というのには限界があるが、では複数人で話し合って決める"集団生物"としてだったら適切な判断が出来るかと言えばそれも違う」

「手を差し伸ばせば受け取る、そういうものではないのか。貧困者がもし、連邦から正式な援助が出ると言えば、それは無償で然るべきだし、手を伸ばさないはずもない」

「それが、出来ないんだよ」

 

 悪辣な笑いを含む声。ゼンヒは不愉快に思いつつも、下手に話を遮らなかった。

 

「集団というのはいわば、それが一つの生き物として機能しても自分の同類、つまり一人じゃないというのは悪意に囲まれてもそこに居続けられるだけの麻酔になる。後人間は、見透かされる行為を嫌う。なぜなら自分が隠していることを、嫌なことを的確に知っている人間を未知の存在として怖がるからだ。だってそうだ、自分だけしか知らないことを知る手段なんて、考えるだに恐ろしい。私も避けられないことだ」

「でもそれは隠していることだ。隠していない、それこそ見ただけで分かることで恐れるか?」

「見透かされる行為というのは、隠していたことを当てるだけじゃない。見て分かることでも、そこから何をするかで同じ結果を辿る。ゼンヒ、君はそうならなかっただけで、そのケースを知っているはずだ。

 SRTの連中を思い出してご覧?」

 

 ゼンヒは少しだけ、眼を開く。

 

 そう、ユリが率いていた元SRTのメンバー。今でこそ自分のために働いてくれている彼女達は、元々は弱者同然の立場にいた。

 

「私は評価している人の話をするならば……そうだな、尾刃カンナが元SRTに対してアクションを起こさなかったと思うかい?」

 

 彼女はゆっくり首を振る。

 

 もしそんな人間であれば、強盗事件の後のインタビューの時、あの昼飯に向かう途中に話を持ち出したりもしない。自分がどうにかしようと思った時に、協力したりもしないだろう。そもそも現場主義の人間が訓練を受けた優秀な人材、しかも大規模運用が可能な兵士を飼い殺しにすることも考えられない。

 

「君が私であることの証明が一つなされた。私も君も、優秀な人間に対して非常に純粋な信頼を抱いている。

 そうだね、彼女がもしSRTに無関心・憎悪のどちらかを心象として持っていた場合、必ず元SRTのメンバーは冷遇のまま放置するだろう。追い打ちをすることも考えにくい、現場の人間をコントロールする手段として最低の行為を彼女がするとも思えないから。何せそういうのなしで上がってきた女傑が、薄汚れたことはしないだろう。もっとも汚泥も等しい屈辱や行為は、恥を忍んで被るだろうけど。君みたいにね」

 

 しかしカンナは現実の通り、元SRTのメンバーをなんとかしようと苦心していた。ゼンヒがいない間には、アリウス過激派を中心に、その学園からの引き抜きもやっていた。仕事だけは多岐に渡らせるのはどうしようもなかったが、それでも住所などは特定させた。アリウスを治安維持の組織として、改めて学園として認め出向させる、もしくはヴァルキューレで雇うという行動をとった。

 

 つまり、彼女は"高潔である"のだ。

 

「でも、彼女がいくら気高くあったとして、果たして最初のSRTは彼女の要求を受け入れただろうか。君が来るまで、ちゅうぶらのままだったんじゃないか?」

 

 そうだ。

 

 ユリを中心に仲間を集い、ヴァルキューレへの反乱を企てるほど固めていた。

 

 もしカンナがSRTメンバーの有効活用を考え、それを伝えていた場合。彼女らは蹴っていたことになる。

 

「それこそ最初に言った、出来ないの意味だ」

 

 リンネの、笑い声。

 

「ふふ、そう。彼女達はおそらくあの時、助けようとしても要求を跳ね除けただろうね。それはもう単純に、ヴァルキューレそのものが敵として認識していたし、自分達のことを知っているからこそ助けよう、つまり有意に立たれたからこその恐怖もあったのかもしれない。他にも色々な警戒はあっただろうけど、まあ総じて支援を受けるとは考えにくい。自分達と違ってしっかりとした味方なのかも判断できないのも大きいだろう」

「つまりまともに政治の道を歩いて成功しても、人々を助けることにはならない。か」

「君も見ているはずだ、シャーレに関わっているかどうかで人々はどのように互いを認識しているかを。その積み重ねを爆発させたのは私だが、積み重ねそのものは皆の漠然とした意識だよ」

 

 二人の間に、風が流れた。

 

 まるでその分断を見るように、まだ暑いこの日と、硝煙の熱がおだてる陽炎が"格差"のメタファーであるように。

 

「先生は救世主じゃない。救世主である人間は、人に寄り添えない。私が乱入した時、高笑いしながら出てきた男が救世主"程度"の人間な訳はないだろう。潔癖であり平等、故に救世主と呼ぶのだから。

 彼はそれを超えた、だが完璧ではない。その完璧でない、埋めれない欠点こそが積もって薄い差別階級を作ったんだ」

 

 先生による活動は、様々な学園を救い、戦争一歩手前の事件さえ解決するほどの手腕を見せつけた。

 

 だが、社会の根本的な問題を解決させるほどには至らない。それを弱さと呼称する。

 

「あと、先生が助けたのはそもそも力を持っている生徒だ。その持っている生徒に、色々な知識や経験を仕込んだにすぎない。私も彼があまり出過ぎた真似をしないのは評価しているし、自身の力量を弁える年長としては敬愛するべきことだ。だが、大衆はその細かい、いわゆる機微を見分けられない」

 

 力があろうがなかろうが、浮浪者にしろ学園の生徒にしろ少女という括りは一緒だ。その括りで見てみれば、上位層を助けてるだけに見えてしまうのも仕方ない。

 

「私が正当な方法で、連邦生徒会で民主化を推し進めた時。いや、福祉政策を確立させて手を伸ばした時。果たして私の救いたい居場所のない少女達は手を取ってくれるだろうか」

 

 ゼンヒは答えられなかった。いや、答えられるはずもなかった。

 

 改めて例を出されて考えてみれば、自分が出るまでのユリたちの事が頭によぎっては止まる。

 

 それが大きく、そしてもっと困窮した者たちがどういう行動をとるか。

 

 止まった彼女を、リンネは嗤わなかった。

 

「答えられないなら、それでいい。それを恥じる必要もない。真っ当に考えれる人間は、そのプライドも自我も壊されてはならないから」

 

 彼女は言葉を続ける。

 

「そうだ。その浮浪者たちにとって私は"連邦生徒会に影響を与えるほどの大成した人物"だ。つまり、何の力もなく起きてる間はずっと苦しみに喘ぐ者たちとは違う存在だ。出生がそうであったとしても、彼女らに取っては見透かされ支配される道具や理由を隠すカバーストーリーにしかならない」

「そうならずに団結し、本来の目的を果たすために今のまま世界を破壊しようとするのか」

「破壊しようとしてるわけじゃない。一度、私達の手で政治を掌握して、その上で福祉を充実させてからもう一度ほかの政権を立てる。それだけのことだ」

「そのためだけに人を快楽に堕として、殺しを強制させるのか」

「人がそこにいることを知ってもらうための、ささやかな犠牲だよ。政治にとって生徒と認められるのは"先生が頼りにする道具"と"その道具を維持するための金蔓"さ」

 

 一瞬の嫌悪感で、ゼンヒは怒りに支配された。

 

 止まるべきところで止まれず、散弾を相手に放つ。

 

 もっとも、それが効くわけはないが。

 

「おやおや、怖いな」

「その大義の為に何人死ぬと思っている!」

「金蔓は人としてカウントしない、勿論私の兵士もね。彼女らに取っては全能感という性欲でも変え難い人類の傲慢に支配されて、気付かないまま永遠の眠りにつく方が幸せだろうから」

「そんなものは救いじゃない!」

「そうでもしなければまともな生活もできずに狂うだけなのに?」

 

 その言葉の終わりと共に、空気が揺らぐ。

 

「何を____!」

「人々は集団によって自我を確立することが多い。そして一人じゃないという安心感は、最初に言った通り地獄を耐え得るだけの麻酔ともなる」

 

 空から落ち、上がる煙。

 

 声は薄れ、だがコンクリートを反射して響く。

 

「たとえ自分達がどんな姿になろうとも、意識が一つでなければいい。自分達が可哀想だと思う、というひどい酔い方はその快楽を強くする」

 

 煙は晴れ、その存在が姿を表す。

 

 溶けた肉は大地へ垂れ、それをこぼさないように翼が掬うように重なり、それが続く。

 

「化け物になったとしても、可哀想な自分を助けて自分より上の人間を蹂躙する力を手に入れればそれでいい。

 そんな人間の末路だよ」

 

 その声を最後に、リンネは陽炎と煙の中へと姿を消した。

 

 もはや聖書の化け物と呼ぶべき存在。

 

 それが、そこに立っていた。

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