シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseB-7:市街地乱戦-後編

 残されたのは警官一人と、人外一つ。

 

 ゼンヒはこの時点で真っ当に戦うことを諦め、できる限りここで食い止める形を取ることにした。武器が大したものがなく、仮に効いたとしても相手の方が大きく相対的なダメージは低い。

 

「仕方ないか……!」

 

 リンネが愛おしく思い、そして嘲笑した弱者の成れの果てはそのまま物理攻撃を仕掛ける。

 

 腕を振り回してビルを適当ながらも大きく倒壊させ、その瓦礫を用いて相手の動きを封じ、一気に攻略しようと言う魂胆である。

 

 流石にそれで引っかかっていては時間が稼げない、難しいがそのまま落ちてくる瓦礫に飛んでからあっちこっちにジャンプして避け続ける。瓦礫が小さければ踏み台にせずに蹴り飛ばしてから別のやつを掴んで回避を続けた。

 

 流石に理性はないのか、彼女を追い続けるには至らない。

 

(瓦礫を相手に素早く投げてみた、が)

 

 傷ひとつない。

 

 これが質量の差であると体感した。

 

 自分が倒したヤツカはあくまで器の拡張でその装填速度や質量は一人分でしかなかったことを考えると、相手は何人も継ぎ接ぎしているのだから当然強さは相当のもの。

 

 下の方を見れば瓦礫の山だが、コンクリートの山は見えない。

 

「逃げて正解だったな……な」

 

 自分が足場にした瓦礫が砕け散る。

 

 一瞬で何かが飛んできて、瓦礫を破壊して飛んでいく。

 

「うわわっ」

 

 そのまま回転しながら落ちていくが、当然彼女の判断通り着地でダメージを軽減できるなら潰されて動けなくなるよりもマシだ。

 

 何よりも視界が開けたことにより、飛んできたものの正体もわかった。

 

「羽か!」

 

 相手は翼を何重にも重ねた肉体。

 

 それが羽を飛ばせないわけもなく、どうやら筋肉や力の集め方を自由化させることで圧力で飛ばすと言うやり方をとっているようだった。

 

 肉体の構成要素、そのうちの大事なひとつである形を取る皮や神秘のバリアを自由化させたから出来ることであり、逆を言えば人間性を喪失させること前提の強化生物だ。負ければそれを肯定することになり、否定をするには叩きのめすしかない。

 

「ゼンヒ!」

 

 大型二輪の音が聞こえ、誰かが彼女の腕を掴む。

 

 その慣性で地面に叩きつけられることこそないものの、引っ張られて減速するタイミングで足を動かしてうまいこと着地した。

 

 あんまりにも近未来なバイク、乗っていたのは。

 

「シャルアー!」

「お待たせ、遅れたな。シャーレの先生の側近曰く、やばいものが近くに感じたから行ってこいとのことだ」

「わざわざ突っ込んでくるなんて!」

「言ったろお前と私は止むを得ず別れるまで友達でいるって」

 

 相手の姿は変わらない。

 

「見たところだいぶやっている。ああ言うのを処理するのにはかなり時間を要するし」

「だろうな」

「まあ二人で行けば問題はない。ほらこれ」

 

 シャルアーは、カイザー製であろう武器を渡す。

 

「なんだこれ」

「黒服はカイザーの経営に関わってるお偉いさんなのは知ってるだろ?それが今回の対テロ用に持ってきた太刀だ」

「太刀って……」

「思うところはあると思うが、真っ当な装備で狩れる相手じゃない。狩れる装備はそもそも装備として大きすぎる」

 

 銃器による攻撃は結局、特性として残ってしまっている。

 

 重量によるダメージ軽減はあれど、刃物の摩擦であれば通るだろうとの判断。何より、対ヤツカが証明したことだ。

 

「私は慣れてるからいいが、お前は違う」

「……」

「やれるか」

 

 ゼンヒは無言で刃を晒す。

 

 刃の音、金属が揺れる音はあまりに澄み、持ってみた所、噛み合いは一切問題なし。振って内部の揺れを感じることもない。

 

「これならいける」

 

 改めて過去を受け入れた中で、体にはセツカの技が残っている。

 

「いいな、じゃそれで」

「ああ」

 

 互いに武器を構える。

 

 シャルアーは大太刀を取り出して、素直に構える。ゼンヒは一度鞘に戻し、抜刀の構えを取りながら相手の動きを待った。

 

 その相手は、当然待てるわけもない。

 

 最後に願ったことは蹂躙の二文字、これが遺伝子となった人間の集合体は相手のことも理解できるわけもなく、刃物を持った人間を警戒することもない。

 

「来るぞ!」

 

 距離をとって攻撃するよりも、突っ込む方が質量での勝負に持っていけると踏んだ相手はそのまま二人が行くところへと突っ込んだ。

 

「______」

 

 ゼンヒは相手の前足が近づくまで動かず、待つ。

 

 自分の瞳に大きく映るが、その映り方で正確な距離を計りながら刀身を剥き出す。

 

 相手は余裕があると踏み、重ねていた翼を展開して相手の拘束も兼ねて絡めつつ己の血潮にしようと押し付けようと近づけた。

 

 ただ、それを受け入れるだけの人間はどこにもいない。

 

 相対する彼女は、一気にステップを踏んで距離を稼ぎながら振り向きつつ刀を真っ直ぐブレなく振り下ろして展開して厚みの無くなった翼ごと相手の肉を切り裂いた。

 

 翼の中身は皮すらない筋肉や神経の塊で、それに太刀の一撃を加えられれば大きなダメージが入る。

 

「やるぅ!」

「シャルアー!」

「見てみろよ!」

 

 もう片方の足を真っ二つにしている。

 

「やはり凄いな、コキュートスアームズは……!」

「こんくらいできないと顔向けできないやつがごまんといるからな。当然よ」

 

 相手は叫び声をあげれないが、痛みがひどいのか、かなり身悶えしている。

 

 血は飛び、それを避けながら彼女たちは相手を見た。

 

 下手に暴れているところに飛べば当たって吹き飛ばされるため、状況を観察するのが得策だろうと。

 

「勝手に修復するわけじゃなさそうだ」

「神経も切れたから、修復可能箇所が縮小したかな」

「どうりで」

「来るぞ!」

 

 残った方の前足を落ち着いてから振り回し始めた化け物は、二人に迫ってくる。

 

「お前は足を切れ!私が受け止める!」

「分かった!」

 

 隣にいる少女を知っているからこそ信じ、ゼンヒは駆け出す。

 

「可哀想になぁ!私が両前足ぶっ壊してやる!」

 

 大太刀を戻し、あの事件以降変異した基礎形態であるガンブレードを取り出した。

 

 まずシャルアーに迫った、真っ二つになった方の足が迫る。

 

 それを受け止めるタイミングで引き金を引き、刃を大きく振動させてから受け止めると刃が食い込みながら震えてスマートに切断しながら飛んでいく。

 

 声がないから余計なノイズがなく、化け物は痛みに苦しみながら今度は残ったもう片方の足で彼女を襲う。

 

「遅いんだよッ!」

 

 しばらくこの世界の裏で生きていた人間にとっては造作もない。

 

 今度は大剣を取り出してから内側に潜り込みつつ振り下ろして相手を斬り飛ばす。彼女の剣にはあまりの熱量と質量が籠っており、この世界で兵器になれるほどの近接武器なのだから。尤も、それが生まれる彼女の世界も大概だが。

 

 弾かれるように大きくのけ反る化け物をよそに、彼女は仲間に声をかける。

 

「ゼンヒ!」

「問題ない」

 

 一方そのゼンヒは冷静に反応。

 

 シャルアーよりも速いスピードで相手の後ろに回り込みながら刀を抜いて素早く何度も両足を斬り裂くことで効率よくバラバラにしながら的確に深く斬り込んでいく。

 

 相手はのけ反って無防備になることを恐れての攻撃が、さっきのカウンターでの足振りであった。それを受けた方がほぼ完璧に押し返したことによって、耐え切れず仰向けで倒れることになる。

 

 急いでゼンヒは離脱して、スライディングで瓦礫を避けながらシャルアーに合流した。

 

「やり、いいじゃないか!」

 

 互いに拳を突き合わせて、相手の様子を観察する。

 

 そして丁度いいタイミングで、心地いい音が鳴った。

 

 地を這う駆動音。

 

 ヘリの音。

 

「間に合ったようだな」

「よし、急いで逃げよう!」

「ああ」

 

 二人は急いでシャルアーのバイクに乗り込んで離れる。

 

 離れた直後に、もっと激しい光景が出てきた。

 

 流石に容赦されないのか、ミサイルや機銃の雨が相手を襲う。

 

「ヒュー!」

「あれを喰らっては流石に形を保ってはいられないはず」

「そうだな」

 

 一定距離離れた段階で、止めて向こう側を見る。

 

 いくら化け物であっても、人間の形を保っていない上にバリアの形もマニュアルな以上制御できなければただの肉片と変わりはない。兵器の雨は、それぞれが己の生まれた理由をこなすためだけに飛んで役目を果たす。

 

 その役目が、着実に相手へと果たされていき____________

 

 ついには、この天使の園が、天使だったもので造られた兵器の破片で彩られた。

 

「終わったな」

「ああ、この件だけは」

《リーダー!リーダー!》

「出な」

 

 バイクから降りて、ゼンヒは応答する。

 

「ユリか、今は少し離れた場所にいる。西の方だ」

《本当ですか!?今向かいます!》

「シャルアーと一緒にいる、お互いに刀持ってるから分かるはずだ」

《えっなんで持ってるんですか》

「ゲマトリア製だと。な?」

「かの黒服は『今後の戦いをするに当たって近距離戦の破壊力を見直し、大規模軍事行動を念頭に置く必要がない上に個の戦闘能力が高いこの世界なら生徒と呼べる生命体に対して近接武装を持たせることで結果的な破壊量の増加で影響力を上げる』ことを狙いにしたらしい。他は知らない」

 

 シャルアーは実際に彼が言ったことを繰り返した。

 

 事実、彼の見方も一つの観点で言えば間違ってはいない。生徒は非常に頑丈であり、いっそ近付いて格闘戦という銃弾よりもより一撃を重くできる戦闘行動で有利を取り続け、そこに近接武器を持たせれば政治的な要素によって少数精鋭がまだ是とされる時代においては効果的だろう。

 

 嫌な話ではあるが、大人がどういうものかの偏見を見せつけられた気がした彼女はそっぽむく。

 

「嫌な顔するな、いずれ私たちもそうなる」

「はあ」

「あとその刀は試作品としてお前にくれるらしい。ありがたく受け取っておけ」

「いや、いらない」

 

 ゼンヒは勝手に、もらった刀を立てかけた。

 

「どうしてだ」

「人を殺せる武器は、誰の手にもない方がいいと思ったから」

「……そうだな、言っとく」

 

 お互いに、お互いのことを否定することもなく、そのまま刀はバイクに収納された。

 

「リーダー!」

「ユリ」

 

 それと同タイミングで、ユリとその部下がやってくる。

 

「ご無事ですか!」

「ああ」

「シャルアーも無事なのね」

「私がこんなので死んだら誰がゼンヒを守るんだよ」

「よかった」

 

 とりあえず、この騒乱は終わりを告げた。

 

 敵の全貌が見えつつあるし、当然やられっぱなしというわけにもいかないが_____

 

 今は、ただ、喜び休む時だ。

 

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