シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseC-8:先生による政治活動

 警察による威圧だけでは、犯罪はまず抑えることはできない。

 

 それは医者がたとえ万病を癒す者であったとしても、予防というのは欠かせないのは知っての通りだ。

 

 ただ、その活動は警察は入れない。

 

 ゆえに今回は、事務所の一節となる。

 

「リーダー!」

「ユリ」

「重要書類届けて来ました」

「わざわざ遠くまですまないな」

 

 昨今は落花堂の事件に振り回されっぱなしで、息つく暇もない。

 

「ショウコが少しの間ここ離れることになったのは連絡来てます?」

「ああ、忙しいから少し後でっては聞いたが」

「サクラコさんのお願いがあってシスターフッドの方々の手伝いに」

「直々に?相当だな」

 

 新興組織かつ他校の組織でありながらシスターフッドと仕事を共にして、今の所信頼をどちらも裏切ったことはない特別暴力対策課は元シスターフッドが今回の件に絡んでいるため情報提供を望んだ。あまり心地のいい話ではないのは承知しているが、どういう人間が落花堂に協力しているか、という統計の話ではやはりゼンヒが最初に関わった売人も、その末端もトリニティの人間だった。

 

 それでトリニティが悪い、という断定はしない。が、そこが風土上自然とそういう存在の溜まり場になっている懸念はある。それを明かすための調査依頼だ。

 

「なにしろ他の組織に説明するのにも証人が欲しいとか」

「使者でいうならショウコが一番だろうからな」

 

 ただ、どの学園もその懸念を話してはいそうですかと認めれるわけではない。

 

 特にトリニティは権力争いに終始する傾向がある。武装組織であるシスターフッド、正義実現委員会はもちろん治安維持のために反対意見を出すこともなく、救護騎士団も出動体制を整える以外に変化はない。ただ、政治組織として長く居座り、権力争いの根源であったティーパーティーはエデン条約の一件から完全に立ち直ったとも言えない状態で、アリウスという火種も抱えたままなので政治家どもは"いかに利権のみを掠め取るか"に終始。

 

 そうしている場合ではないとも素直に言えればいいが、弱者は嫌味を言いながら足掻くのも校風なのかもしれない。ナギサが認めても他の人が認めないのもあって、説得力が必要だ。

 

 これが原因で、お泊まりの服も持ってないのにも関わらずショウコはトリニティで過ごすことに。

 

「ショウコならなんとかしますよね」

「我々の中で一番モテるだろうしな」

「そんな言います?」

「誰のおかげでここに戻ってこれたと思ってるんだ私が」

「説得力だ」

 

 そもそも、気配りができる上にヒスって殴られてもよっぽどじゃない限りは怒らない彼女のことを思い出せば、容姿も相まって普通のお嬢様には人気なのかもしれないとも。

 

 バカな妄想だ。

 

 互いに首を振り、仕事に戻ろうとする。

 

《ええ、ではここからは先生に話をしていただきましょう。よろしくお願いします》

《どうも》

 

 付けっぱなしのテレビから先生の声がした。

 

 二人とも視線を向けると、先生が映っている。

 

「あ」

 

 声を上げたユリは、画面に釘付けになった。ゼンヒは何も言わずに、一緒に見る。

 

 話題は最近発生している違法薬物に関する事件であり、タレントとして出演して意見を求められているようだ。

 

《昨今は先生も忙しいようですが……やはりこの件が関わっているのでしょうか》

《恥ずかしいことに自分は、権力者の生徒としか関われていないと言ったところかな。なにしろ、仕事の流れでその調整役としての役割が日々大きくなっていったから》

《先生個人としては、この問題をどう思っていますか?》

《至極重大な問題だと思っているよ。と言っても、自分が直接援助すると言うところまではできないからね》

 

 当たり前の話だ。

 

 先生に認められているのはあくまで生徒の困りごとを解決することで、政策を出して実施することではない。しかも連邦生徒会長が意図した生徒とは、各学園の生徒会などの担当をしているまとめ役だろう。

 

 ニュースで言われていた生徒まで手が回らないにしろ、そもそも救う中に入ってないと見ていた。

 

《そもそも自分が彼女たちを救えるだけの余裕がないのも確かで、そのために他の生徒を巻き込んだ各学園の福祉政策などをお願いしている状態なんだ。正確に言えばそう言ったものに手を出す前に働き口とか学園への入学を促すような、ね》

《そう言いますと?》

《例えばトリニティであれば、過激派の一連の事件を受けてアリウスの有用性を再認識して仕事などを渡すことによって身銭を稼げるようにしつつ社会参加を促すような行動をしたりすることかな。テロそのものは咎められるべきことだけど、言うなればベアトリーチェが仕込んだ技術そのものは本物だし、事実そのノウハウは昨今の薬物事件に対処しているヴァルキューレ公安局の捜査並びに摘発にかなり貢献している》

 

 彼の状況理解度が如実に現れていると言っていい。

 

《ミレニアムなどではそういった浮浪者に対する活動の一環として研究職での採用を検討していたりするそうだ。最も急激な対応になるから経済面の圧迫にもなるけど、連邦生徒会にも自分から助成金を出すようにも頼んでいたりするよ》

《この前はそのミレニアムでの合意がニュースになりましたね》

 

 いつも通りのように見えるニュースだが、今回は自分たちに関わりがある。

 

 食いつくように見ている二人。

 

《しかし、政治的な問題というのは大丈夫なのでしょうか》

《政治的な問題?》

《例えばの話なんですけど、連邦生徒会としては他の学園が自分たちよりも人員を獲得して戦力増強した上で政治的な影響力を強めることを嫌う傾向にあるのではないかと思っているんです》

 

 司会の発言は正しい、と思えるものだった。

 

 かの不知火カヤは、連邦生徒会長になるためにSRTの復活を口約束にしたそうだが、事実彼女は成功すればSRTに頼る気でいたことは考えるまでもない。

 

 なにしろ、どの学園も大体不可能な個人戦力と大規模軍事行動を可能にする軍事組織を持ち合わせている。連邦生徒会としても、軍事行動をした場合に大損害を与えれるほどの戦力を持つことで冷戦のような状態に持ち込みたいと考えるのは自然なこと。

 

 先生もそれを理解していた。

 

《それに関しては、正直心配してないんだよね。確かにキヴォトスをまとめる組織という自負を持っている連邦生徒会にしてはあまり看過できるものではないけど、カヤの一件によって強く出れないからお金は出す方向に固まってる。下手なことをリンがするとも思えない。一応先生もその直下組織の所属になっているからね、まあ少なくとも影響力に関しては自分が生きているうちは無視できない分はあるんじゃないかな?》

《この前の色彩に関する一件を見るに、先生が突然死してしまうリスクも考えられます。それにテロリズムは自身の状況さえ理解できない状態になってしまった生徒が起こすリスクもあって、そう言った人たちは社会への影響を考えるに至れない。薬物に手を出してしまう人は、そう言った状態にあると思うのですが、ここら辺はどうでしょうか。具体的には、先生なしでも連邦生徒会が体裁を保つ手段があるかどうか》

 

 先生の世界にはいないタイプの司会だろう、おそらくは。

 

 隠すこともなく、ベクトルがあるわけでもないような。

 

 彼は、笑顔のまま返す。

 

《それに関しては、実はもう対策らしい対策はあるんだよ。さっきアリウス過激派を受け入れてるヴァルキューレの組織があるって言ったでしょ?》

《おそらく特別暴力対策課のことだとは思いますが》

《そうそう》

 

 自分たちのことを話す。

 

「ほう、先生が」

「何て言うんでしょう」

「見てみるしかない」

 

 ゼンヒは若干の興味を持って、見た。

 

《彼女達は昨今その薬物売買の対処に当たっているんだけど、そもそもがヴァルキューレの中で浮いていたSRTからの受け入れ生徒をまとめて運用しているんだよね。管理責任者は元々ヴァルキューレの生徒だけどね。つまりこの時点でSRTとヴァルキューレを合併して、失踪していた連邦生徒会長がおそらく想定してあっただろう抑止力というものはほぼ完成しているんだ》

《しかしヴァルキューレといえば腐ってる警官で有名ですし、実際ニュースでも何回か汚職を取り上げたことがあります。あまり威圧にならないのでは?》

《それは連邦生徒会がそもそも自分たちをコントロールできてなかったのもあるよ。自分が先生としてやってきた時、学校間の自治領の壁は大きかったと聞くし、SRTは訓練してもその成果を発揮できる状態でもないし、ヴァルキューレもそれは同様で、その問題で警察としての仕事ができなかったのを考えれば当然腐っていくのも当然と言えるんだ》

 

 彼の顔は、だんだん明るくなっていく。

 

《でもシャーレが出来てからは、自分の権威の元に学園間の交流の敷居は下がった。その最たる例が昨今のミレニアムとトリニティの合流で、ゲヘナはその動きに若干の遅れが見えるけどあそこの議員はかなり個性派でその個性も種類があるからね、誰かが誰かの接着剤になれば普通に流動的になると思う。そういう動きが強まっているから、学園間の連携とかも取りやすくなったと言える》

 

 そこに加えてヴァルキューレではキリノがお巡りさんとして活躍した実績もあった。彼も隣にいたからその実力を保証できるし、それがヴァルキューレ全体ではなく"実績があれば信頼できるほど強い"という認識に変わったターニングポイントだ。

 

 先生はそういうふうに考えていると話す。

 

《そこにシャーレ前にできた交番の当時巡査部長だった、現特別暴力対策課長のゼンヒって子がSRTを引き連れて、しかも大規模作戦行動を完遂した。つまりは組織の運営力というのも非常に高いことを証明できたんだ。自分の作ったチャンスを確実なものにしてくれたからね、ヴァルキューレの運用方法を適宜変えていけば連邦生徒会も健全で強い武装組織を持てる。その状態だったら連邦生徒会が懸念している福祉の助成も大体の維持コストを他の学園が持つことを考えれば実はさしてリスクではないと思うよ》

《なるほど。では、今は救ったほうがそもそもそう言った犯罪者を減らすのに一番有効だと》

《そうだねえ。人員の流動性を上げることは、一人一人の生活圏の拡大につながる。さらに言えば、それは経済が大きくなる。大きな学園出身の経験を積んだ人間が新たなプロジェクトや組織、大きくいけば新たな学園を立ち上げる。そうした発展の糧を今、多く取り込むチャンスだと自分は思っているよ》

《ほう……》

 

 先生が語り終えたところで、司会はカンペを見たのか次の話題に行くようだ。

 

《もう少し細かいところを話し、視聴者への呼びかけを強めたいところですが番組には時間があります。次のトピックに移りますね、先生、今日はありがとうございました》

《いえいえ》

《では、一旦コマーシャルです》

 

 そうして、テレビは話を終えてCMに行く。

 

 ゼンヒはテレビを消して、ユリを見た。

 

「先生は案外私たちのことを高評価してるようだな」

「まあ、そうでもしないと助けてくれたりとかしませんし」

「それもそっか」

 

 さて、二人も仕事に戻る時だ。

 

「じゃ、私はまた書類仕事に明け暮れるよ」

「はーい、頑張ってください。何かあったら呼んでくださいね」

「そういえば今日は非常待機の日か。あんまり休める日でもないけど、ゆっくり休憩してくれ」

「もちろん!」

 

 ユリも部屋を出て、待機するためバーへと向かう。

 

 時刻は14:57。

 

 欠伸やまぬ時間を、彼女は仕事で過ごした。

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