シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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FallC-neun

 ここは落下堂本部。

 

 いつもは薬膳堂という名前の企業をやっており、その企業ビルのために基本怪しまれない。

 

 何よりキヴォトスはどこまでも広がる学園都市、いくらビル街であったとしてもそこが超有名な場所であるかどうかは別だ。

 

「……という感じです」

「報告ご苦労。下がってくれ、今日は休みをとっていい」

「でも」

「言ったろう今は気を窺う時と。休める時に休んで欲しい、業務命令だ」

「では……」

 

 部下の想いに応えつつ、それでも自分の要望を通すために甘言を回して相手を退出させて休ませる。

 

「私も少し、ギャングとしては格が落ちたかな」

 

 なんてぼやくのが、今の時点で散々ゼンヒ達を苦しめてきたリンネだとは思うまい。

 

 その彼女は書類をめくりながら、部下を見送る。

 

 が。

 

「あれ?」

 

 何故かこっちへくる人影が見える。

 

 部下は挨拶して去っていった、おそらくは自身の客人だと思ってのことだろう。

 

 しかしそんな約束は、この日はない。

 

「やっ」

 

 ただし、どちらも見覚えがあった。

 

 お互いに敵だったからだ。

 

 目を見張るほどの胸と背、揺れる特徴的な水色の髪。

 

「梔子ユメ……」

「おお、覚えててくれた?嬉しいなあ」

「どうしてここに来てしまったんだ」

 

 呆れたリンネが、本心を隠さずぼやく。

 

「来てしまったなんて随分な言い草じゃない?」

「味方に来たら困る、本当に。もし仲間になるつもりだったら、あっちに行ってくれないか」

「へえ」

「まあ、かのホルスの右腕がそんなことで来るわけないが」

 

 席から立ち、客用のソファを勧める。

 

 自身も対面に座った。

 

「で、なんのようだ?一人で潰しに来たのか?」

「そんなことしてるならすでに大騒ぎになっているよ。下を危険地帯にすれば、基本的にここから逃げられない。ヘリを用意してても、伝手で破壊するだろうし」

「そうだな」

 

 お互いがお互いに呆れながら、話は続く。

 

「何の用だ?」

「私が生き返った理由って知ってる?」

「予測はつく程度だ」

 

 大方、天衣セツカが研究していた再生医療の結果だろうとリンネは話す。事実自分がそうだったのだから、間違いはないだろう。

 

 そう話した。

 

「正解」

「しかしそれがなんの関係が?」

「私の計画のために仲間に入れてくれないかなーって」

 

 ユメは、ホシノと青春していた時と変わらない態度。

 

「その計画とやらを聞こう」

「と言っても簡単だよ、死者は死者同士仲良くしたいなって」

「私はハクジツ以外興味はない」

「知っているよ。でも、彼女を守るためにも必要なことなんだ」

「……死者蘇生を否定でもするのか?」

「御名答」

 

 言いたいことは理解できたリンネ。

 

 ユメはおそらくだが、自分が生き返ったことを快く思ってはいないのだろう。本来であれば死をも超越した存在と喜ぶか、愛しの人に会いにいくか、どっちでもいいが多分生き返ることを良いことだと考える。命が失われなければ、それは一番良いことだから。

 

 だが彼女は違う。

 

 自分が死んだ苦しみを忘れないし、たらればでホシノを恨んだ日もあったが、それでも自分が死んだことは歴史に大きな意味を残したことを生き返って知った。彼女が痛みを知ったから仲間ができて、最近では頼ることさえ覚えた。他の学校の生徒と仲良くできるなんて時代の流れが大きいとはいえ自分たちからすれば夢のようなことだ。

 

 その幸せを、過去の幸せの象徴が壊そうとしている。

 

 ユメが生き返った程度で、今の幸福が簡単に壊れることはない。だが、それで残るのは失っても生き返るのを期待して歪んでいくホシノだけ。それを彼女が許容できるわけはない。

 

「私、それによる結果がなんとなく分かる気がするんだ。そうでしょ?」

 

 リンネは目を背けた。

 

 ハクジツに向かって自分は愛していたリンネと違うと言ってしまうような少女が、相手の言い草を理解できないわけはなかった。

 

「無論私だって、タダで仲間にしてもらおうとは思ってないよ。でも今の状態じゃ、君は賽を振れないでしょ?」

「そう見えるか?」

「君が情報を集めてないわけないからなあ。最近、特別暴力対策課が各学園と派兵や調査の件で提携してるの知ってるでしょ?」

 

 言われた方は誤魔化すことなく頷く。

 

「先生も昨日のニュース番組で連邦生徒会からのバックアップも公表されたし、つまり君は今ピンチなわけ。もちろん対策自体は打っているけど、相手の人数が人数で限界もある。だから私が出れば、賽を持ち上げる時間は稼げるんじゃないかなと」

「小鳥遊ホシノを相手に取るのか?」

「まあ表に出たら十中八九避けられないけど、彼女は今自分一人で動くことを避ける。それに私が生きてることも知らないだろうし、そのショックと敵に回った精神攻撃は効く。君はそれで、必要だと思うくらいの混乱を起こしてしまえばいい」

「仲間を裏切ることになるぞ」

「その痛みも必要だけど、先生はなんの貴賤なくあっちにつくからね。100%越えれる程度の苦痛しか与えないよ、まあ、その苦痛が小さいとは言わないけど」

 

 ユメは変わらない。

 

 その様子に若干怖気付くものの、そこに真意があることはわかっていたドンは頷いてロボットが持ってきた紅茶入りのカップを勧めつつ自分のを飲む。

 

「ありがと……うーん美味しい」

「トリニティからわざわざ取り寄せてるからな。しかし驚いた、こっちの情報も知ってるとはな。まあ、完璧に口を割らない人間だけで構成するのも無理な話か」

「そうだねえ」

「おまけに、こっちの考えてることもお見通し、か」

 

 カップを置いたリンネ。その瞳を映す紅茶の水面は、どうしようもないものを抱えてる表情を正直に映す。

 

「君はハクジツに幸せになってもらいたいって思ってて、その際にもう死んだ女のことをあまり気にしないように言ったそうだね。私も同じ気持ちだよ、ホシノちゃんが幸せになった以上もう出番はないけど生きていること自体が彼女を不幸にする。

 だから()()()()()()()()()()()()()()()()分からせるために君を助けるんだよ」

「そう思うなら、なぜ私を殺さない」

「確かにこの基準なら君も排除の対象だよ。でも、君はその不幸を知って彼女から離れた。その上で、今浮浪者たちに手を差し伸べてる。それが間違った方法だとしても、行動自体が社会の善を呼び起こすと信じてね」

 

 自分がホシノに与えてしまう偽りの命の幸せを嫌い、関係ない奴の真っ当な生活をさせるための社会活動に熱心な彼女は”まだ”排除する必要はないと判断した。

 

「だけど、まだその影響力を社会に行き渡らせることができていない。そうするには、大規模な軍事行動を引き起こすだけの事変が必要。相手は当然、そう言うことが起こらないことこそが正義だから今の行動を繰り返して小手先全部潰すような動きを取る。だけど君はそれを超えて、弱者を明確に映し、社会の中になんとかして放り込みたい。だけど今のままでは組織力という点で大きく劣る……」

「そこで暁のホルスと並んで活動していたお前が私と肩を並べて戦えば、その組織力に打撃を与えて、混乱している隙にバケモノの投入を急ぎ薬を売り捌くことで政治へのダメージの大きさで、コントロールする時間を大きくし、そのうちに勝つ。そうして強者が循環するシステムを作ることが出来れば、社会はもっと回る」

「一回でも圧勝すれば、その対応とプライドの回復にどうしても人間は時間を費やすからね。もっとも君と真っ当にやり合うし、先生はケアが得意だから見積もりを見誤る可能性は高いと思うけどそこさえ乗り越えれば君の勝率は競馬で勝つより高くなる!」

 

 ユメは、リンネに顔をグッと近づけた。

 

「どう?良いプランでしょ?私は生き返らせた張本人に罪を突きつけるから搦手にも実は困らない!恨みを晴らしながら本懐も遂げれる!そしてこれを全力でやれば、社会の衝撃という賽を持ち上げる時間を稼げる!具体的に言えば、さっき行った圧勝を私がやる!どう!?」

「流石は暁のホルスの相方だ、舐めていたよ」

 

 提案を受けた少女は、微笑んで手を叩いた。

 

「分かった。信じて良いんだな?」

「死んだ者同士、嘘はつけないんじゃない?ここの二人だけは、死という感覚を知っている人間。ちょっとだけ特別だから」

「……ああ」

 

 リンネは一度自分のデスクに戻り、あるカードを取り出す。

 

「じゃあ、上限はあるが限りなく高く設定してあるこれを渡しておこう」

「ええ〜!?そんなカードいいの?」

「資金をいちいち受渡しているとバレる可能性もある、昨今はブラックマーケットも安全じゃないからな。たくさん使ってもらって構わない、跡をつけられない細工はしてある」

「やったー!ありがとー!」

「当然その分の働きはしてもらうぞ、弱者の快楽の残り滓でしかない金だが資本社会では金の本質は変わらないから」

「おっけー!」

 

 契約成立。

 

 梔子ユメが、なんの因果か運命か。

 

 リンネ率いる落下堂の協力者になった。

 

「じゃ、私は色々準備しないとね。準備できたら連絡するね!」

「そうだな」

 

 ユメに連絡先のメモが渡される。

 

「ありがと」

 

 それ以上に用事はない。

 

 彼女は挨拶して帰ろうとするが_____

 

「あの」

「んー?」

 

 呼び止めるリンネ。

 

「言っていいのか分からないし、言ったら変な感じになるが……すぐに死なないでくれ」

「変なの」

「じゃあ……捕まるな」

「あーい!」

 

 それでいいのだろう、リンネは頷いた。

 

 ユメは手を振って、社長室を出る。

 

 残されたのは一人の少女だ。彼女は、デスクの社長椅子に身を沈め耽る。

 

 最近は急速な市場拡大をすることによって影響力を強めることを目標に動いており、その結果成功しつつあるもののそれに伴い働き詰めだった彼女は眠くなってしまったようだ。

 

 彼女自身はその薬をやっていなければ、やろうと思っても効く体でもない。

 

(生物には眠りが必要だとは思っていたが、疲労も相当だな)

 

 陽が差し込むオフィスでの眠り心地は良い。

 

(これも幸せなのだろうか、ハクジツ……)

 

 何よりも愛しい少女の名前を心の中で呼びながら、眠りに落ちていく。

 

 日に背き、それが何よりも居心地がいい自分に辟易しながら。

 

 夢のない眠りを望んで瞳を閉じた。

 

 




(これがCaseC-9です)
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