シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseC-10-1:梔子ユメ追撃/始まり

 特別暴力対策課は、ちょっとした騒ぎになっている。

 

 最近はずっと警備強化のための派遣並びに外交による護衛任務、トップに至っては牡蠣学園の重役との交流が主な任務で味気がなかった。いや、彼らはそう言った状況の方が良いのは分かってはいるのだが……それでも仕事がある事に越したことはない。

 

 だが、全体的に好戦をしたのは市街地乱戦の一回だけ。つまりまた平和になりつつあった。

 

 油断を挟むことで緊急時の時の疲弊や被害を引き起こす手段は有効的であり、そこから傷口を広げていくのは特にルールが細かく定められている公権力、役所仕事の公務員には有効だ。まあ、完成された軍隊が信念をもって行動していて完璧な状態で動けるこの組織にとって意味を為さないが。

 

 逆を言えばそれを騒がせる程、影響が大きい事が起こっている。

 

「リーダー!リーダー!」

「なんだ」

 

 部下が急いで扉を開けると、特暴課職員に囲まれた少女が一人やってくる。

 

「アビドスのホルスが単身でやって来た!やっべーこれ」

「なんだ、それで騒いでたのか。お前達は強いだろ」

「いやそりゃ疑ってないっすけど誰だって有名人居たらびっくりしますって」

 

 小鳥遊ホシノ。

 

 アビドス高等学校の三年生であり、アビドスの最高戦力であり、キヴォトス最高の神秘を持っている少女。

 

 その噂は裏の話も良く聞く特暴課メンバーには聞き馴染みあるモノだ。本物が来たら驚くのも無理はない。

 

「いやぁ、みんな熱烈に歓迎してくれておじさん嬉しいよぉ」

「こっちだってかの暁のホルスのモノホン見れたらびっくりするけど嬉しいじゃないの。だってうちらとは違う単独のプロ!」

「うへへ、嬉しいこと言うねえ」

「お世辞はそこまでだ。ここに来たってことは、それなりに用事があると言っているようなものじゃないか。しかも暁のホルス直々の依頼、碌なもんじゃないぞ」

 

 自分のデスクから立ち上がり、ソファを勧め飲み物を持って来させる。ホシノも素直に従って、お互いにテーブルについた。

 

「とりあえず話を聞かせてくれ」

「じゃ、単刀直入に聞いちゃおっかな」

 

 彼女は、少しだけ真面目に聞く。

 

「梔子ユメについて何か知ってる?」

「……」

 

 若干、問われた方は口を閉ざす。

 

 ゼンヒは知っているし、この場にいるメンバーも知っている。ゼンヒ奪還作戦の時のメインメンバーの一人でもある以上、知らないと通せないほどの交流はあった。

 

 しかし、目の前にいるのは自分達よりもその人物を熟知している人間だ。普通に隠し通せないだろう。

 

「何かあるとしたら無理に答えなくても良いんだ。私はそれで怒ったりはしないよ」

 

 しかもホシノはユメと死に別れしている。

 

 先生曰くそれで一悶着あったようだが、ある程度の解決の兆候も見えていた。

 

「どう?」

「……ああ、知っている。アビドスでタクシーやっているよ」

「そうなんだ。おじさんの時は、見てなかったんだけどなあ」

「タイミングが悪いな……でも知っているよ、それが?」

「____ちょっと会うのを手伝って欲しいんだ」

 

 素直な申し出だ。

 

「おじさんね、彼女と一緒にやっていた時期があるの知ってるでしょ?」

「ああ」

「でも死に別れして、生き返って……下手したら新たなる火種になる可能性があるし、本物だったら火種じゃ済まない。だって、蘇る術があるって話になっちゃうから。だからおじさんとユメ先輩が出会うのを手伝って欲しいんだよ」

 

 それを手伝うかどうかを迷っている。

 

 他の特暴課メンバーなら拒否するだろう。何故ならそれを知っていたところで、全員で今の行方は知らないと良い張り関係悪化することは前提として下手な騒ぎを避けられる。そして避けるべき案件でもあった。

 

 しかし、ゼンヒだとそうは行かない。

 

 自分自身で無いにしろ、セツカを自分として、家族として受け入れた以上はその復活に関与したのと同義だと捉えていた。

 

 ならば、その被害者に一番関わっていた人間への誠意は出すべきなのか。

 

 その結果、彼女はこう答えた。

 

「……タダで、というわけには行かない。それでも良いなら」

「うひゃ〜、厳しい事言うねえ」

「金を払って貰おうとは思わない。言うなればこっちも協力して欲しいことがあるってだけだ」

 

 ゼンヒは一度席を立ち、計画書のコピーを数枚持って戻って来る。

 

「どんなの?」

「まあこれは好き勝手に持って帰ってくれ。判断に困るなら他の生徒にも見せてくれても良い。ただまあ全て、汚れ仕事じゃないが……」

「うーん」

 

 全てはヴァルキューレの計画書。

 

「見ての通りこの特別暴力対策課は謂わば国営のPMC、ある文書で言えばPMSCsと呼ばれる軍事警備を中心とした仕事をしている。大体の人間が元連邦軍と言うべきSRTや今に至っては大規模なアリウスのテロリストもその構成員の一つ。だからそれを活用するために様々な企画や事業に手を出したい。アビドスにも当然話を持ってるわけだ」

 

 アビドスの広い敷地に大規模訓練施設並びに軍事研究施設の設立。

 

 ヴァルキューレ、と言うよりは特別暴力対策課の軍備増強のための施設の一つをアビドスに持ちたいと言う話だった。

 

「アビドスには幾つか手放された大きい土地が有ると聞いている。それらはカイザーグループが奪って行ったとも聞いているが、それらを取り返したらいくつかは訓練ないし研究施設の建設のために頂きたいと思ってる。無論拒否するなら構わないし、されたからと言って嫌がらせはしない」

 

 そもそもヴァルキューレは個別の自治区を持っていない。キヴォトスの警察としての大義で見るならそれこそキヴォトスが土地であるとも言っていい。

 

 特暴課の事務所がゲヘナ近くにあるが、色々な施設を様々な学園の土地に持つことはヴァルキューレの影響力を強化する事にもつながるが、寧ろそうする事で各学園がヴァルキューレへの影響を持つ事にも繋がり特定の学園と癒着しない健全化という点においては効力を発揮した。

 

 自治権を侵害せず、その上で共有できる追加戦略。犯罪者の対処がヴァルキューレの本懐であれば、例えば校区を跨いで逃走した犯罪者をヴァルキューレがすぐに引き継いで捜査可能。その逃走先の自治区が同じく特暴課と連携をしている学園であれば当該学園の治安維持組織に共有して迅速な逮捕まで持っていける。

 

 アビドスにも同様の事をしたいが、そのまますると特暴課の負担が大きい。そもそもアビドスに人が居ない、それは負担を共有しようとすれば人数的に大きく持っていかれる事を意味した。

 

 無論それで治安維持を断り続けることは公務員としてどうかと言う話であるが、事実負担が大きい状態が続くことはよろしく無い。

 

 ならば、その負担に耐えれる準備で幾つか用意できるものは約束を取り付けようという考えだったのだろう。

 

「……」

 

 ホシノは書類を見ながら、考えている。

 

 彼女にとってはこういったものは即断しなければならない、という決まりでもあるのだろう。断言は出来ないが、大人の都合に振り回され、大事なところは武力でしか解決できなかった彼女には今出されたものを今決めなければと躍起になっていた。

 

 その過去を知っている人間はここに一人も居ないのだが、ゼンヒはその真剣さに意外だったのだろう。

 

「今すぐに答えは出さなくていい」

 

 と、フォローを出した。

 

「ふぇ?」

 

 素っ頓狂な可愛い声が返ってくる。

 

 そもそもが学園間の締結に近い内容であり、それを一人で解決しようとするのは誰であっても相当な圧力が掛かる。トリニティやゲヘナの重役と話してきた彼女は、今目の前の少女がそういった圧力を悪い意味で味わい続けたのだろうという予測はできた。

 

「他にもメンバーがいて、確か今の頭は違う生徒がやっていた筈だ。一人で決めるのは早計だ、何しろ土地の何個か寄越せと言っている訳だからな」

「でもこの内容で締結しないと」

「土地の下見をしてやっぱいいやと思う時だってあるだろ?」

「……ああ、そういう?」

 

 ようやく、意図はホシノに伝わった。

 

 そもそもゼンヒは契約後に動こうとしていたわけではない。

 

 ホシノ自体が先生のおかげで内面もある程度共有されるようになった結果、彼女は断片的にだが"善意を信じきれない"ことを知った。今までのせいなのでそれは覆しようもなく、無理やり信じてくれとも言うには互いの関わりもない。

 

 ならば、いっそある程度のギブアンドテイクで"協力する口実"を作り出してしまおう。そう思い立ったのである。

 

 互いに信用しようができない人間が相手なら、互いに状況によっては撃ってもいい口実を結びつけること。それによって、契約というものに別の信頼を付加し、互いの利益やしたい事を共有し、共有できなくてもその契約の切り方が派手で大胆である方が戦い慣れしている少女にとってはやりやすいと判断した。

 

 尤も、それは余計なお世話だったらしい。しかしゼンヒも生まれて一年ちょっとのカリスマがある赤ん坊、これもホシノは理解している。

 

「気遣いありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて企画書自体は持って帰るね。あとは……ユメ先輩の件はどうしよう」

「今から駅前周辺の方で土地ついでに探しにいく。少し時間をいただけないか?」

「分かった。じゃあ、お見送りまでよろしくねえ」

 

 話はまとまった。

 

 とりあえず色々するためにも、と二人は立つ。

 

「……ん?」

 

 立ち上がって少し、激しく鳴る床。

 

 足音が部屋の前に来た時に扉が大きく開き、入ってくるのが一人。

 

「大変ですリーダー!」

「ユリ?どうしたんだ、慌てるような内容で」

「ハイランダーの人たちから緊急依頼がありました!ハイジャック同然の車内に暴走した奴らが!」

「相手の素性は分かっているのか!?」

「はい!現在交戦しているのはシャルアー・ドーンと……梔子ユメです!」

 

 場が凍る。

 

「え……?」

 

 だが、止まっているわけにはいかない。

 

 どっちにしろ市民に迷惑を掛けているなら、止まっていれば尚のこと被害が増える。

 

「今すぐその列車に向かう!多分止まってないならシステムも弄られているはずだ、ハイランダーの専門家がなんとかするまでの時間を稼ぐ!装甲車を複数台用意しろ!」

「りょ、了解!」

「ごめんホシノさん、一緒に来てくれ」

「分かった」

 

 梔子ユメの暴走。

 

 それは、彼女たちが最後に挑む敵のプレリュードに過ぎない。

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