シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseC-10-2:梔子ユメ追撃/それは微睡む電車の中で

 電車が揺れていた。

 

 アビドス行き列車は、未だに利用者が少ない。

 

 最近は復興してきているとは言っても、やはり砂塵の害というのはそう簡単に解決できるものでもない。それにアビドスはそうなるまでは、キヴォトス有数の学園であったことも考えれば残っているインフラの残骸の撤去も含めてまだまだ時間を要しそうだ。

 

 その電車に乗っている少女が一人。

 

「……」

 

 スマホでゲームしている女。

 

 シャルアーは、アビドスに向かっていた。

 

 ある殺人鬼であり研究者でもあった天衣セツカという少女の研究設備の破壊のために、彼女はアビドスに足を運んでいる。

 

 電車が止まる。

 

 各駅停車のこの列車は、どの駅でも平等に止まるのだ。

 

 そして乗り込んできた少女が一人。

 

「やあ」

「ああ」

 

 水色の髪をした少女。

 

 そう、梔子ユメだ。

 

「君が電車乗るなんて珍しいね」

「それを言えば、お前もだ。自分の車持ってるだろ」

「まあねえ。今日はちょっと用事があって車じゃないんだ。砂漠走り抜けるのって大変じゃん?」

「そうだな」

 

 互いに、少し黙る。

 

 電車の中は影が差し、その隙間を陽の光が埋めていく。

 

「こうして君と話すのいつぶりかな。ゼンヒちゃんを取り戻した後は会ってない気がするよ」

「そもそも奪還作戦の時はそこまで会ってもないからな。依然として敵同士だ」

「そうだね、敵同士だ」

 

 ユメは笑っている。

 

「……そういう時には、嘘でもまあ敵対しないと言って欲しいものだけどな」

「嘘じゃないからね」

「そりゃそうか」

 

 自分たちがやってきたことを考えれば、立場は保証されても信念上的であるということも理解した。

 

「私もそろそろちゃんと自分の人生に目を向けないとなあって思ってさ。そのために色々やってるんだ」

「アビドスのタクシーは結構割りのいい仕事だって聞いてたが」

「そりゃあねえ。おかげで貯蓄は結構溜まっているし、嬉しい限りなんだ。でもタクシーもルート決めての自動化も進むっていうし、運転業も廃業が近づきつつあるんだよねえ。だから、私も晴れて弱者側ってわけ」

「そんな捻くれなくても」

「君みたいに人を殺してもなんともないならそれが一番なんだけどねえ」

「やめとけ」

 

 自分の過去も考えれば、あまり人を殺すスキルが役に立ったことはない。

 

「意外だね」

「そうか?どの道要らないスキルだ」

「そっかあ」

 

 彼女は対面の席の向こうにある光景を見ている。

 

「いやあ、私さ。ホシノちゃんみたいに持ってる側の人間じゃなくてねえ。運が悪かったともいうのかな、あと二年生きてれば……いや、その時には結局自己責任の社会に放り出されてるか。だから、どうしてもねえ。身の振り方が決まらないんだ。手段がどうあるかもわかんないし」

「それこそゼンヒのところに行ってみたらどうだ?あんたは強いし、それにシャーレだってお前が来てくれればきっと喜んでくれる」

「そういう道もあるのかあ」

「生き返りとかに関しては確かに気になるかもしれないが、それを言えばリンネもゼンヒもそうじゃないか。それがシャーレに関知されている以上、下手にびびる必要も」

「ダメなんだよね」

 

 話を遮るユメ。

 

 止まった話を風が掻き回すように、貫通路から風が流れる。

 

「彼女達は自分達のやってきたことや、因果に立ち向かおうとしている。そのために命が増えても驕らず、使命を果たそうとしているんだから。ただ身銭稼いで蕎麦啜るのが幸せな運転手とは違うんだ。私はその因果とは関係ない。なぜなら、その因果は________」

 

()()()()()()()()()()()

 

 彼女の本音が出た気がした。

 

 シャルアーは感情を動かすこともなく、その話を聞き続ける。

 

「結局私の努力は先生が来て一瞬で目処が立った。彼がプロデュースするだけで、全て上手く行った。不平等だなあって、近況を聞いた時には思ったよ。私や、私の同期達や、私の先輩達が頑張って立ち直らせようとしてたアビドスがあんな簡単に直っちゃうんだもん」

「でもそれはホシノが自分で解決しようという自立心があって、周りの理解があって初めて成り立ったものだ。明確な目標とそれへの努力がちゃんと見えれば、誰だってそこに辿り着くまでの努力ができるし、先生だってサポートしやすい。リソースの使い道が明瞭で、途中で捻じ曲がらなかったからこそ、彼女は進んでいるんじゃないか」

 

 悲しいことでもあったが、それでもユメが水分不足からの無駄死にしたことが彼女の決意を強化してより当初の目的から脱却しないようにしている。彼女が迷いそうな時、その『罪』が歪みを重さで、時にはヒビを入れながら正して歩かせた。

 

「お前が残したのは"(ミーム)"じゃなくて"意志(センス)"だった。お前との記憶が、彼女に意志として継がれて、時を経て強化されたからこそ最高の目標になったんじゃないか。だから、お前が居なければ、アビドスはもう荒れ果てているか、カイザーグループの企業都市になっていた。それは、最悪シャーレ・グローバリズムの弊害になっていたんじゃないか?」

 

 廃墟の都市が出来るのはともかく、カイザーグループの都市が出来た場合は経済への深刻な影響が出ただろう。すでに銀行などで大きな割合を占めているカイザーが、大きな土地を格安で叩いて軍備増強もし放題になれば尚更警戒する内容が増えてほとんどの学園が保身のために軍拡並びに保守化するのは火を見るより明らかだった。

 

 シャーレ・グローバリズムなんて言ったが、シャーレは国際化の手助けをしただけ。大人が子供の世界を強く侵食する足がかりを作らせない、アビドスの体裁を保ち続けることは生徒主体の社会を守るのに大事なことだった。それを後輩と二人で、そして自分無き後でさえ続けさせるほどの意志を継がせられたのは梔子ユメ最大の功績だろう。

 

「私、結構偉かった?」

「ああ。少なくとも、そうだと大体が解釈しているから暁のホルスと一緒に評価されている節がある。シャーレの先生がいるいないに関わらず、梔子ユメという少女の遺したものは大きかった」

 

 砂嵐の中を突き抜ける電車は若干曇る。

 

 それでも壊れないのがキヴォトスの電車だ、素晴らしいものだ。

 

「そっかあ。嬉しいな、そう思ってもらえるなんて」

「私もその評価で概ね間違い無いと思う」

「でも、残念」

 

 ユメの声色が変わった。

 

「その評価もそろそろ無きものになっちゃうね」

「……」

 

 その一言で、シャルアーは何が起こるかを理解する。

 

「私の考えはやっぱり変わらないよ。どれだけ私が意志を残せても、結局私は後世のことを知らないまま死んじゃったわけでさ。それって不平等だよ、どこまで行っても。彼女がキヴォトス最高の神秘だったなら、私は一体なんだったの……って」

「その発言は本人が来た時までに取っておけ」

「____えへへ、君じゃ効かないか」

 

 感情が忙しい少女を相手にするのも疲れるが、この次にもっと疲れることをするのだ。

 

 互いにため息をついて、話を続けた。

 

「じゃあ本音。シャーレが……いや、シャーレ"だけ"が今救いになってるのってよく無いと思うんだ。ホシノちゃんが私の意志を継承したように、みんなが過去の意思を継いで世界を継承できるようにした方がいいんじゃ無いかって思ってる」

「ほう?」

「無論自分達からそうしている人たちについては何も言う事はないよ。でもさ、ちゃんと生きようと認識したら上の方は全部コネとか縁が出来ていて実力で入った人はいない。"最初からこうだった"って人で埋もれてる。ホシノちゃんとかもそう」

 

 彼女はすごく楽しそうにしている。

 

「そう言った状態は無気力を引き起こすし、尚更競合がいなくなれば内々で話が進むし、継承者もそうでしか生まれないから腐っていく。少女達の社会は完成しているが、内部が未完成の子達しかいないから、そんなやり方が安全だとしか思えない。そもそも夢ばかり、自分の利益ばかり追い求める世界なら、福祉なんてないも同然。その末路を君は見てきたはずだよ」

「だが、それを言うならゼンヒがまさしくそうだ」

「知らないの?彼女も"そうあるために生まれた"ようなものだって」

 

 互いに立つ。

 

 武器を持ち、距離を保ち、機を伺う。

 

「確かに生まれは有能ではなく、寧ろ下級層の生まれだった。だけど彼女は裏に精通し、上手く使える子達で配合したハイブリッド。詰まるところ、君が前に戦ったあの化け物となんら変わりない」

「そんな事はない。ゼンヒはゼンヒだ、だから悩むし一回反発もした」

「意思はそうかもしれないけど、マクロで見れば一緒だよ。シャーレに所属してないだけで、才能に塗れた……そうだね、ずっと一人でも動けるホシノちゃんと変わりない」

 

 ユメの笑みは、飾った諦観に濡れていた。

 

「人は平等と誰しもが謳う、それが平和の証拠だから。でも現実はそうじゃない、シャーレに所属できるような生徒の価値は、その生徒を殺せるバケモノを作るのに要した弱者の数と同等。例えばシロコちゃんを百人の浮浪者を溶かして固めたバケモノで倒せたとする、倒すのに必要な人数がシロコちゃんの価値ってわけ。

 けどね、浮浪者にはそれぞれの人生と価値観ある。そう言った数を知性と呼び、人の形を取っているその個体を一人と数えるなら、その百人がシロコちゃん一人の価値になる」

 

 福祉はその弱者一人の価値を上げて社会全体を強くしていくのに大事な事業。

 

 だが少女達は青春という言い訳にかまけて、派閥争いや独裁や治安維持など"わかりやすい政治ごっこ"をしているに過ぎない。

 

 そんな余裕もなく、一生懸命生き抜いていたユメにはそうも見えていた。

 

 「ゼンヒちゃんも一緒だよ。一見彼女は自力で上がったように見えて、砂つぶほどもある弱者の砂金同士を組み合わせて大きな金になったから価値が出来た。でもそれってさ、福祉が必要ない強者を融合させて社会に投げ入れたら無双しましたと言っているようなもので、言って終えば中流階級の御涙頂戴と変わりない。本当の弱者は現実にもいるけど、それを救うのにはめんどくさいし見ても面白くないからね」

「_____だから敵になるわけか?」

「うん」

 

 微笑む彼女は、その瞳の中に敵意を宿す。

 

「ゼンヒちゃんは確かに必要だよ、弱者でも、どんな境遇でも人は乗り越えられるって。でもそれだけじゃ不十分。そうなるための土台を作らせるべきだというのを理解させる必要がある」

「それは私達の敵になってまですることか?」

「直接的に伝えても、すぐには出来ない。子供達はすぐに出来ないことには手を出さない」

「よく分からないな」

「じゃあはっきり言うよ」

 

 ユメは武器を取り出した。

 

「ちゃんと対策を取らなきゃ〜」

 

「君達の世界を滅ぼすよ!」

 

 宣戦布告。

 

 これ以上ない、敵意の宣言。

 

「理解した」

 

 シャルアーもガンブレードを取り出す。

 

「確かにそれはお前じゃないと出来ない仕事だ、私もそう思う。確かに弱者が取れる手段がないのも認めるし、手助けが不十分だ」

 

 構える彼女の鋒も、またユメに向いていた。

 

「だが、それで理解しない奴らしかいないとも思わない。事実ゼンヒは出来ることをやっていろんな上層部と関わってるし、アリウスの過激派だって取り込んだ。彼女がやってきたことを共有できれば、助け方だって広がるはずだ!」

 

「だから、私も彼女の友人としてそれを守り通す!」

 

 互いに言葉を交わす必要は無い。

 

 ここからは、武器と結果が物語る。

 

 どちらが()()()()()()()()()を。

 

「かかってこい!」

「本気で行くよ!」

 

 この車両の中で、二人の決闘が始まった。

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