シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseC-10-3:梔子ユメ追撃/混沌のプレステージ

 激しくぶつかる盾と刃。

 

 ガンブレードは銃部分がある剣というものを分類する人間も多いが、シャルアーが持っているものが元祖ガンブレード。つまり銃機構のトリガーを引くと強い激震を起こして切断しやすくするタイプ。

 

 だが、どうやらそう言った衝撃も加えて分断するようなタイプでも壊れないらしいユメの盾。

 

「うっわ随分強いねえ」

 

 なんて言う彼女は一度離れてリボルバーを撃つ。

 

 当然それらはそんなすぐには当たらない。動きながらの射撃はどれだけ上手くても半減するくらいだ、動いてないでも無ければそもそも当たると言う事自体がありえない。

 

 事実としてシャルアーはここの世界ではないにしろそもそも戦いが多い世界で生き残ってきた、つまり銃弾を避ける最適行動を取ることもできる。

 

 相手がリボルバーを持っている手と逆の方向に回って剣を振り回す。当然盾を持っている方なので防がれるが、一撃一撃を重くすれば防ぐという行為の関係上盾にダメージを大きく与えられるし身体を疲弊させるのに役立つ。

 

「チッ……的確に防御しやがって」

「ホシノちゃんの目の前で死んじゃってるかもね」

「そうじゃないから困ってるだろうが」

 

 互いに実力を認めていた。

 

 そもそもシャルアーはシロコ*テラーも合わせてかつ彼女自身の武装が少ない時で漸く死にかけまで持っていけたレベル。この社会の裏で生き残るにはそれくらいの実力か、それと同じくらいの結果が出せるコミュニティがあるのが必須条件。

 

 前者である以上、ユメは気楽にはしているが一切余裕は崩さない。

 

「キリないな」

 

 ただ、その反対側の人間はこのままでは勝てないのを理解している。

 

 ガンブレードを上に放り投げつつバク転すると、それが四つの武器になって落ちてくる。それがうまいことユメの射撃と噛み合って、全て武器で銃弾を防いだ。

 

「ひゅー、やるね私」

 

 だが悠長にしてる暇なし。

 

 急いで2丁拳銃を拾い、アームガンを装着し、大剣と大太刀を拾ってそのまま飛びかかる。

 

 さっきよりも扱いなれた武器だらけなのか、かなり動きがいい。

 

 ハンドガンは異例の55キャリバー、その上でアームガンによる追加の射撃が相手の攻撃をさせないほど苛烈であり、近接戦闘に挟める牽制射撃の役割を果たしていた。

 

 飛び掛かればそのまま大太刀を大剣に納刀しつつ振り下ろす。盾で防がれるものの、この一撃は重くなっているからか少し床が凹んだ。

 

「うぐ、ちょっとまずいかな」

「よそ見するなよ」

 

 飛びかかって防がれてる、と言う事はまだシャルアーは盾の上に乗っている状態。大剣を蹴って相手の盾を割ってしまおうと言う判断らしい。

 

 だがそれを許すユメでもない。

 

 盾を持ち上げるだけの力で振り回すと、ちゃんとした支点のない相手は振り回されて飛ばされる。

 

「うおっ!?」

 

 一度離れて着地するシャルアー。

 

 この二人の間は差し詰め車両半分くらいの距離がある。

 

「っ……ダメだな、割と出来る限り本気で攻めてるんだがどうしてもきっかけが掴めない。あれがガチの防御術か」

 

 彼女は最善手を打ったつもりでいた。

 

 狭い列車内での奇襲は上手いことできず、武器の都合上出力を上げすぎると諸共で死にかねない。

 

 シャルアーにとっての勝ちはユメが動けなくなることであり、そのための最短行動は正面火力をぶつけること。

 

 ガンブレードという小回りが効く近接武器で振動を与えて疲弊させ、大剣で叩っ切る。普通だったらこの時点で勝っているが、盾を新調してだいぶ固いものにして、その上で大打撃を回避する方法をとったユメには届いていない。

 

「電車内じゃなきゃもう少し手が打てるんだがな……どうしたもんか」

「鍵を使えば良いのにね」

 

 シャルアーは、ハッとした表情で目の前の少女を見た。

 

 その言葉は、彼女にとっては非常に関わりのあり、隠していたことでもあった。

 

「君ってさ、ずっと隠してる事があるんだね。大体の人間はともかく、ゼンヒちゃんにもセツカちゃんにも、ゲマトリアの協力者にも。本当はもっと色んな武器があって、異能という意味での神秘も持っているのにどうして使わないの?」

「……そんなものはない」

 

 彼女は話を逸そうとする。

 

「大体そんなものがあったらとっくに使ってる。隕石を落とせる少女とも戦ってて、まさか出し渋るなんてこと」

「私は見たよ」

 

 盾を腕にマウントし、両手の人差し指で鬼の角を表現するユメ。

 

「君の刃の向こうに____」

 

 無意識に大太刀を引き抜き構えたシャルアー。

 

「えへ、本気にした?」

 

 彼女は、すぐに答えられない。

 

「君は賢いよ。私が本音を聞いた時に、本当にどうしたいかを理解した。当然理解しているから私を殺そうなんて思ってないし、出会った時よりも手加減をしている」

 

 ユメのからかいが続く。

 

「でも君が手加減してたらダメなんだ、憎しみの無い戦いは何も生まれない。茶番は見て面白かったで済んでしまうから、ちゃんと大炎上させないと」

「私は本気でやっているんだぞ」

「ナイナイ!意味のない虐殺も出来ない少女に本気なんて!」

 

 盾の少女は両腕を開き、迎えるようなポーズ。どこからでも来い、と言わんばかりだ。

 

「今この世界で生きている彼女達は偽りを歩いている。先生の住んでるところもそう。最近色んな人がアニメとか見るようになったよね?曇らせという加害性の隠匿でしかない創作とか、報われない事がリアルだと嘯く人達がいるよね。それが彼らが知っている“弱者の限界”であり”自分達のアイデンティティを得れる方法“なんだよ。謂れのない被害を受ける事、それで自分達はあれより幸せだというやり方でしか自分の個性を確立出来ない。ただ真の弱者はそれ以上に分かりにくいし、醜い」

 

 曇らせが好きな奴は『攻撃的な無能』で、ある意味では“才能が無くて生きていけるだけのスキルも無いけど社会的システムで死ぬことを許されなかった弱者”であるが、この世の大多数というのは成功者じゃない限りこういう傾向が技術の発展と共に多数派になった。それらも増えたのは大ごとではあるが、今はその話では無い。

 

 この車両にその実例がいないことを残念に思うユメは、窓に写る自分を見ながら口にする。

 

「例えばシャルアーちゃんなら……そうだね、先生と同じ外の世界の事例を話そうか。例えばアメリカの低所得者に美人は圧倒的に少なくその多くが太っているけど、それは彼らが手に入りやすい食事が甘いものないし脂っこいものが非常に多いから栄養が偏って太ってしまう。だからそう言った見た目になる。だけど世の中で肥満と言うのは“自己管理不足の象徴”なんだよね。だってちゃんと適切な食事をして動いていればそう脂肪はつかないものって認識、だから『適切な食事を摂れない』という発想が出てこない」

 

 それはこの世界の浮浪者達も同じことだ。

 

 彼女達は住民としての権利がない、支払いをするための金を用意する真っ当な方法はまずその権利がないとどうにも出来ない。学園に所属するなんて以ての外。だから持っている者から奪うために、犯罪に手を染める。

 

 でもそれで減らないのは、そこに『学校でモノを学べた上で転落してきた強者』や『そもそも社会という環境を作る大人』が搾取しているからだ。後者はともかく学園に馴染めないまま消えるしかなかった前者のせいで相対的にはそう言った弱者が増えていた。

 

 そのような構造を理解できる人間は少ない。それはいい。

 

 問題は()()()()()()()()()()()()()ことである。

 

「仕組みを理解するにはまず存在を認識する必要がある。そもそも自分の人生で触れてないから知らないのかもしれないし、もしかしたら知った上で無視をしているのかもしれない。でもそれを"社会が完全に壊れる瞬間に知覚しても遅い"んだよね」

「そのために今生きているやつの幸せを壊すのか」

「ゼンヒちゃんが言いそうなことだね。そうやってアリウスの人間を取り入れたんだっけ?でも君は違う、真似をしてもどうしようもない。シャルアーちゃんだけは外の世界から来た人間、そもそも言及する権利もないけど……それ以上に『力で社会を歪めれる』人間なんだから。そんなやつの言葉にはなんの価値も無いよ」

 

 それ以降、彼女らに言葉の価値を生み出せなくなった。

 

「そうか」

 

 ユメも同じことだ。

 

 必要があって弱者側に付いているだけであるのを自覚していて、己の発言が『彼女らが花火の火薬になってこそようやく価値がある』という意味であることも理解している。

 

 確かに社会は彼女に厳しかったが、倫理という自分を守れないルールのためにホシノを使い潰さない自分の愚かさも、そのホシノが尊敬を抱くくらい頑張ってきた自分の実力を軽視していた弱さも克服して、悪となり社会に挑み尚過去を肯定するために誰かの救いのために犠牲になることを望んだ。

 

 瞬間。

 

 どちらの少女も息をつくことなく、互いの得物を構えて飛んだ。

 

 太刀は稲妻を奔らせ、盾は火花を散らして突っ込む。

 

「終わりだ!」

 

 シャルアーが刀を薙ぎ払う一瞬。

 

 盾は大きく変形し、彼女の脇腹を裂く。

 

 悲鳴はない。その一瞬で声も上げれないほどの痛みと熱が回る。

 

 結果、斬られた方は刀を手放してそれが自動運転中のシステムに刺さって停止。その慣性の勢いで転がったシャルアーは運転室のドアを倒す勢いで突っ込んで背中から崩れ落ちた。

 

「……」

 

 ふらふらの状態で見る。

 

 ユメの盾が重厚だったのは、その中に本来は機動隊などが頑丈な立てこもり用のルームの入り口を破壊して突入するブリーチング用の電動鋸を複数用意していたからだ。

 

 近接戦では武器の持ち替えも充分な隙になるが、そもそもこの世界の少女は余程の仕掛けが無い限り銃弾でのダメージ稼ぎは得策ではない。ならばこういった即時展開できる凶器こそ、彼女の望んだ戦乱、混沌を引き起こす撃鉄になりうる。

 

「ちょっと深く刺さっちゃったけど、内臓や大きな血管は避けたはず。それに列車も止まってしまったから、増援が来るのも時間の問題かもね」

 

 サイレンの音。

 

 武装した奴らの音。

 

「君は運がいい。いや、善行を積んでくれたから"必然"か」

 

 ここからは建前の仕事だ。

 

 ________乗降口のドアに、影が飛び込んでくる。

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