「くそっ、少し遅れた!シャルアー!」
「遅い、な。だが丁度いい、少しばかり体力は削って、おいた、ぞ」
ゼンヒとホシノが挟み込む形で、飛び込んできた。
「おっそ〜い、三体同時にって思ってたけど案外遅れたんだね」
「わざわざ飛び込んだんだぞ、走ってる列車にな。タイミングを掴み損ねた」
「仲間の為なら……なんて綺麗事だね。でも、そうやって無理して時間を喰ったり下手な被害出すよりはいい、か。よく考えてる」
「褒めたって何も出ないぞ。それより!」
シャルアーのことを確認して、しばらくは置いておいても大丈夫だと判断したゼンヒは銃口をユメに向ける。
「どうして戦っている!シャルアーは確かに敵だったが、すでにヤツカもセツカも消えている!それに当人はすでにシャーレとの協力関係だって結んでいるんだぞ!どこに攻撃する理由がある!?」
「あるよ、私"が"敵だもん」
「はぁ……!?」
「言ってあげよう。私はリンネの味方だよ」
綺麗で、それでいて悪意に満ちた笑み。
「なんでだッ!お前は、お前はあれと戦った!あれが仲間になる訳が!」
「じゃあ君はなんでカザミちゃんを仲間にしたの?」
言葉が止まる。
そうだ、リンネはゼンヒでもある。彼女のが正しい。
「あれは君自身でもあるんだよ。あの子は目的のためなら私と手を組むのも辞さないし、私も彼女に手を貸してやりたいことをやる。君も誰かを助けたい、もっといろんな人に活躍してもらいたいって純粋な願いでカザミちゃんを仲間にした。それと、私は変わらない」
「違う!」
「手段が少し違うだけだよ。私だって、いいなあって羨むこともある」
盾の隙間から覗く瞳。
「私ね、生き返った時はとっても絶望したんだ。一番信頼してた後輩に裏切られて、殺されて……砂漠を横断する準備の時になぜ大きめの水筒を用意しなかったんだって。それはもう分かりきった話で、私を消したかったの。そうでしょ?」
「っ……!」
ホシノは目をそらす。
振り向いた先にいるかつての先輩は、悪意をぶつけた。
「自分が特別なの、気づいてたんでしょ。それが戦闘能力で感じていたか、別の要素で感じる要素があったのか……いや、どっちでもいいかな。ともかくそれらに気づいていた。で、私を排除しようと思いたった。その時のアビドスの云々、代表者とかの話は私が受け継いでいたからね。過去の遺産も使えば、きっと望み通りの結果が得られると思ったんじゃない?」
「違う!私はそんなこと考えてない!先輩は」
「だったら最後、なんであんな態度をとったの?人が作ったポスター破いたり、さ」
冷たい声が響き、熱砂が信じられないほどの凍えるような風が列車を吹き抜ける。
「最初はあんなに優しくしてくれたのに、一緒に頑張ったのに、酷いよ。でも、復活してから色々話を聞いているうちに、少しばかり納得できた」
「何が」
「アビドスが最大の学園だった時にあった遺産、誰にも公表していないだけですでに所有していた。でも私がそれを使うことを許すはずもない、もっと言えばそれを資金にするか戦略兵器として使うかで完全に分かれるから、その時にすでにホシノちゃんは私のことを邪魔に思っていた」
「そんな事はない!」
「じゃあ、なんで最初先生じゃなくてゲマトリアを頼ろうとしたの?」
「あの時はみんなのことを信じてなくて……!」
「違う」
ユメの見下した表情、下劣なものを見る目。
「ゲマトリアがその遺産を使うのに最適な協力者だったから。それに自分自身を拘束させることで、シャーレの脅威査察を兼ねてたんじゃないの?それにゲマトリアも覆す手段があったから拘束された。そうでも無い限り自ら捕まる……いや、連邦生徒会の手下という危険分子が疑うような手段は取らない」
「違います!私、私は……!」
「ホシノちゃんはいつもそう。ようやく本性を表し」
銃弾が飛ぶ。
この状態で撃てるやつは一人しかいない。
「あらー、ゼンヒちゃん。人の話を聞くのは苦手?」
「黙って聞いてれば有る事無い事喋る。お前だからホシノに効いている“嘘”を、私が許容すると思うか?」
「これは私達の問題なんだよ」
「犯行動機を喋っておいて今更その言い訳が通じると思うのか」
ゼンヒは銃を構えたまま睨む。
「そっかあ、君に取っては私のこれは嘘なんだね。それとも認めたく無い?こう言う叫びを弱者がする事」
「その遺産の話だって先生が過剰に近づいた以上あるなら絶対に話題になっているはずだ。連邦生徒会直下の超法規的組織である以上、どの追及でもホシノは避けられない!それでたくさん交流して該当するものがない以上、お前はただホシノを虐めたいにすぎない!そうだろう!?」
「セラフィム弾のように、この世界には沢山の罪が埋まっている。アビドスにもそのようなものが沢山ある。じゃあ、彼女が隠し持ってる可能性だってあるでしょ」
「今聞いてれば具体的な証拠もない!それが答えだッ!」
これ以上下手に口を開かせてホシノにダメージを与える訳にはいかないと、ゼンヒは撃ちながら突っ込む。
ユメは盾を展開して彼女の突進を受け止めてから、下のチェーンソーを展開して斬り裂こうとするが展開する時の駆動音をちゃんと聞いて、盾を素早く蹴り登ってからホシノとユメの間に着地。
流石に依頼主を傷つける訳にはいかないと、守るのを重視して動くことにしたようだ。
「小鳥遊ホシノは依頼主だ、そう簡単に傷つけさせはしない。精神はともかく、物理的には絶対に!」
「随分と威勢がいいねえ、私は結構強いんだよ?裏切られる前、その子の相棒だったんだから」
「小鳥遊ホシノは裏切ってない!裏切ったのはお前だ!」
「そうかなあ?」
実験をするように、ゆっくりと射撃と近接攻撃を織り交ぜながらゼンヒに仕掛けるユメ。
仕掛けられた方はどっちも避けつつ、射撃に関しては蹴りをして撃たれる前に銃口を別の方に向けて射撃を回避させるのを繰り返す。
「やるじゃん」
「流石に強いな……!」
ゼンヒはホシノを見つつも、しっかりと対応。
「ホシノ!ぐずぐずしてると急なタイミングで死ぬことになるぞ!」
「でも」
「もう遅いよ!私達は殺しあうしかないから!君が裏切った日から……そして、私が天衣セツカの手で蘇ったあの時から!」
盾も展開せずに項垂れるホシノ。
彼女に取っての嘘塗れで、何一つ真実を突いていない発言。
だけれども、彼女に傷が出来たのは、ユメが“そう思っている”というただ一つの真実だった。
「そうか、私が」
自分は大事に思っていたが、そう思っていただけだった。
立ち尽くす彼女。
「この邪魔者を殺したら、ホシノちゃんのこともちゃんと苦しめてあげる。まずは自分が頼った人間を一人、殺してね!」
ユメは邪悪な笑い声をあげる。
が、その刹那。
「いい加減目を覚ませ!」
と、相手すら怯ませる怒号が響く。
ホシノに叫ぶ少女が一人。
ゼンヒだ。
チェーンソーの連続攻撃を交わしつつ射撃を混ぜてリロードし、被弾しないよう避けるユメの態勢変化で攻撃を鈍らせることで回避する彼女は、戦いながら言葉を続ける。
「確かにお前はユメに対して酷い事をしたかもしれない!それを謝る前にこうなってしまったことも悔やんでいるかもしれないが、今のユメは敵だ!それも飛び切り悪の手下になったんだ!」
「でも、でも!ユメ先輩は私があんな事をしなかったら……!」
「狼狽えるな!」
ゼンヒは押し負けている。
守るようにして立ち回っているが、どうしても武器の差が出てしまっているようだ。
「ほらほら!」
「んぐっ!?」
右腕をチェーンソーで斬られる。
切断までには至っていないが、骨に当たるレベルで斬られた。
「ゼンヒちゃん!」
「自分の心配をしろ!」
それでも彼女は立ち向かう。
チェーンソーの回転するチェーンを撃つと、戦闘での攻撃で少し負荷が掛かっていた。
さっきの骨に当たって少し変形したか、キヴォトス人の硬さを見誤った設計であろうとゼンヒは見抜いてチェーンに向かって銃弾を放つ。
急いで完全盾に変形しようとするあまり、銃弾は弾かれたものの数発のうち一発が収納されるそれに挟まった。
結果。
「きゃっ!?」
異物による駆動妨害と、急激な負荷に耐えきれずチェーンソーが破壊。チェーンは外れて暴れ回り、ゼンヒの左側に当たったあとバウンスしてユメの右腕に当たる。
あまり調整する時間もなかったかつ、多機能故の耐久性の低さによって相打ちとなったようだ。
「あがあ……!?」
チェーンに当たったゼンヒは吹っ飛ばされて、電車の荷台に当たった後に席に落ちてそのまま転がり床に戻ってきた。
「う、ああ……」
立ちあがろうとするが、結果的に自分の方が多くダメージを与えられてしまったのか、血まみれになるだけで立ち上がれない。
一方ユメは右腕こそ確かに大怪我しているが、骨折までには至ってない。指も弾け飛んでない以上、まだ近接戦闘だけなら充分に戦える
「やるねえ……!流石に先生なしで戦い抜いてきただけはある!セツカちゃんも、君も、一人での戦闘力が結構高い」
「はぁ、はぁ……!」
息を整えるのが精一杯、整えたら痛覚が明瞭になってのたうち回るが関の山。
「ホシノ……!戦え……ッ!戦わないと殺されるぞ!」
「そうはいっても私がユメ先輩を……!」
「あれは、あれは嘘だ……!お前を惑わせるための、嘘だ!何の証拠も……無い……!」
「だけど……!」
「お前には、他に、後輩が、いるだろ!」
過去に踊らされかけたホシノを、止める一言、
「そいつらに、助けられた!そいつらを、助けた!そこに、利害関係は、無いはずだ、ろ」
息も絶え絶えのゼンヒは、それでも激励を続ける。先生がいない以上、自分が言うしか無い言葉。
そしてそれは、仲間や後輩、部下によって自分が歩めたことを理解出来たからこそ言える言葉だ。
「だから、今の、全てを!その全てのために!戦え!」
「あはははは!それでホシノちゃんが立て直せるかなあ!?」
ユメは邪悪であることを演じ続ける。自分が偽物であるように、悪であるように、それを徹底する。
それが一個ずつ、ホシノの傷を抉った。
「私、は……!」
だが、その傷を抉る手は止まることになるだろう。
何かを察知したユメは、声を上げる。
「な」
それは。
異邦者の紫電によって。