シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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CaseC-10-5:梔子ユメ追撃/反撃

 電車が爆ぜる。

 

 加速度に電車の破片ほど全員投げ出されるが、ゼンヒ以外はうまいこと着地したらしい。

 

「んぐっ!?」

 

 痛みでのたうち回ろうとするゼンヒだが、誰かが抑えた。

 

「大丈夫?」

「ああ、ホシノ……!」

 

 ホシノが上手いこと盾を投げてゼンヒを線路と瓦礫の蔓延る地面から守った様子だ。

 

 そこから少しすると、全員が立ち上がる。まだ援軍は来ていない。

 

「シャルアー!」

「少し、本気を出さないといけなくなった」

 

 彼女の姿は、少しだけ変わっていた。

 

 灰色の百合が纏わりついているが、そのおかげで傷が治っているらしい。花は一つ、彼女の右目に眼帯として存在。その上で武器はカイーナ、つまり大太刀を一本のみ持っている。

 

「ホシノについて知っている、ということはテラー化についても知っているな?」

「もちろん」

「私も似たような事ができる、と言っても同じようなことやってる奴の力を無理やり奪っているに過ぎないが。まだ残っていたようで助かったよ」

「コキュートスの罪人から、いや、罪人は君か。神にとっては、ダンテの皮を被ったサタンだものね」

「知った風な口を利くのはここまでだ」

 

 鋒を向けるシャルアー。

 

「ここからは第二、いや、第三ラウンドだ。ゼンヒは怪我をしてすぐには動けないが、私一人で暴れられるなら越した事はない」

 

 彼女とユメの二人の距離が近づく。

 

「それで勝ったつもりなのは甘いんじゃないの?」

「小鳥遊ホシノが居ようがいまいが関係ない、私が勝つ」

「へえ」

 

 すでに言葉を交わす必要はないと、二人は感じていた。

 

 実際、互いにぶちのめすしかやる事はない。

 

「行くぞ」

「うん」

 

 互いにステップを挟んで、至近距離の戦闘に持ち込もうとした瞬間。

 

「わっ」

 

 素っ頓狂なユメの声に呼応するように、ショットガンの弾が散る。

 

 そして、それを察する奴はもう一人。

 

「_______決めたよ」

 

 ホシノだ。

 

「私も先輩を止める」

「ホシノ!」

「シャルアーちゃん、だっけ。おじさんも戦うよ」

「じゃあ2on1か、最高じゃないか」

 

 ユメを挟み込む形になった。

 

 当人はとても嬉しそうだが、その本心は誰も知らない。

 

「仕切り直しだ!ここでお前を止める!」

「そう、やってごらん」

「あの時よりも私は強くなった!だから!」

 

 シャルアーとホシノは、互いにタイミングを合わせて飛び上がる。

 

 ショットガンをばら撒いて足元を不安定にさせつつ、シャルアーの刀で上手い事ダウンさせる作戦だ。

 

 だが、相手は同じく手だれ。

 

 散弾をジャンプで交わしつつ盾を持った手を振り上げて、着地タイミングと同時にシールドバッシュをすることで穴だらけの地面を崩し、かつ衝撃で密度を上げて安定した地面に着地しながら刀を受け止める。

 

 シャルアーはそれに構わず刀で強く推し、体制を崩すのを招くように踏み込んでいく。

 

「中々いい一撃だね!」

 

 だがシャルアーはここの人間でもなく、また神秘の加護を受けることはできない。力押しでもそこに止めるのが精一杯、態勢を崩すまでには至らないようだ。

 

 そこにホシノが突っ込んで回し蹴りをするが、ユメは盾を持ってない方の腕で受け止める。

 

「痛い、なっ!」

 

 さっき壊されたチェーンソーの刃が当たった腕でのガードになるので、流石に顔を歪めるほど痛かったようだ。

 

 それでも攻撃を受け切ったユメは、盾を構えていた方の腕の力を抜いて傾けることでシャルアーを受け流す。

 

「わっ!?」

「大丈夫!」

 

 刀がそのままホシノに向かっていくが、彼女は身の軽さを利用してジャンプで刃の側面を蹴ってシャルアーとユメの距離を保たせつつ相手に追撃。

 

 盾がぶつかり合うが、使用しているが故にできたホシノの盾は細かい凹凸があり、その摩擦と傾斜で盾同士がすぐに離れないのをいいことに彼女は盾を登って上からユメに散弾を数発おみまいした。

 

「いったぁ!」

 

 少しだけ苦悶の声を上げたユメもやられっぱなしでいるわけではない。

 

 盾同士が重なり、ホシノが上にいることをいいことに盾を蹴ってその勢いと振動でホシノを篩い落とす。

 

「ひゃっ」

 

 だが、盾を蹴り飛ばすということは防御手段を無くしたに等しい。

 

 一緒に戦っている仲間は、そのままもう一度腕を使って盾と一緒に斜め上に飛んだホシノの足がかりになって彼女のサポート。

 

 ホシノは攻勢を崩さずにもう一度足場になった腕を蹴って飛び上がり、自分の盾を空中で拾いながら盾のなくなったユメにショットガンを撃ちながら接近。

 

 相手はそのまま避けるが、彼女は盾を投げて逃げ道を防ぐ。

 

「やる、ね?」

 

 刹那。

 

 紫電と共に馳しる少女がそのまま突っ込んで、ユメの足を切りつけた。

 

(あ)

 

 ユメが意識する頃にはもう遅い。

 

 シャルアーの切り払いと、その勢いでもう一回盾が捲り飛んでホシノに戻る。

 

「いけ!」

「うん!」

 

 足元が切り付けられ、そのダメージでふらふらな状態で避けられないユメ。

 

 そこにホシノが盾を鳩尾に、抉り込むように殴り飛ばした。

 

「んがあああっ!」

 

 声を出すための息がきれ、少し汚くなった悲鳴をあげてユメは吹き飛んだ。

 

 線路にも当たって転がり、近くの廃墟に突っ込んで、その壁にヒビを入れながら止まる。

 

「う、ぐ」

 

 片目を閉じで呻くほどの痛みに耐えながら、彼女は立ち上がる。

 

「流石に強いね……!これでいい……!」

「何を企んでいる!」

「いや、純粋に喜んでいるよっ!これ以上ないくらいにね……!」

 

 実際に心からの、そして純粋な笑みを浮かべるユメ。

 

 互いに一回止まり、間合いを取って次の衝突に備える。

 

「ホシノちゃんの実力が本物で、それが研鑽され続けたのを実感できると元気でるよ」

「さっきは私のことあんなに言っておいて!」

「実際羨ましいなってのはホントだけど、ね」

 

 片膝立ちで精一杯の彼女は、口を滑らせることにしたようだ。

 

 閉じている片目の上には、血の川が流れる。

 

「今の戦いで分かったことは、あの時よりも強くなったこと。あの時よりも強くなったけど、戦い方は昔よりも味方をうまく頼っている事。”荒らす”より”一緒に攻める”が出来ていることが分かった」

「それで何が分かる」

「私が仮定で話した”遺物”があるんだったら、そもそもホシノちゃんはこんな戦い方もしないし、こんなところにも居ない。確信が持てて、嬉しいよ」

 

 さっきとは違う言葉を並べる故、警戒心が高まりつつある。

 

 甘い言葉でも、ホシノはその真偽が分かるまで警戒を解かないようだ。

 

「ホシノちゃんは心が弱いからね。でも、誰かを頼れる君は誰よりも強い。それは人に劣等感と、敵意を芽生えさせる最悪な噛み合わせだけど……ホシノちゃんを今大事に思っている子は、その強さを個性程度にしか思ってないんだろうね。すごい事だよ」

 

「でもね、みんなそうじゃないんだ」

 

 ユメは立ち上がる。

 

「シャルアーちゃんとゼンヒちゃんにはもう分かってる事だからいうつもりは無いけど、ホシノちゃんには伝えておかないとね」

 

 彼女は武器を持たずに、手を広げて歩く。

 

「この世界には私みたいに不幸な人が沢山いる。過去の少女たちの考えなしの政策によって食い扶持さえない浮浪者の少女もそう、大人によって道徳が分からないまま身体も何もかも売る少女もそう、ましてやシャーレによって救われてない子達もそう」

「何を言って」

 

 ホシノはたじろく。だが、止まらない。

 

「特にシャーレが出てからは、救われる存在とそうで無い存在が明確になってきている。シャーレは超法規的組織であるけど、それはある種国の代弁者なんだ。彼が救う存在と救わない存在は、そのまま"連邦にとって不必要である"という烙印を押されるか否かというところまで来ているんだ」

「それは詭弁だよ!そうだったらシャーレは、先生はアリウスに手を出すはずがない!」

「先生はそうかもね」

 

 ユメの声は柔らかいまま、表情が冷たくなっていく。

 

「彼はそうなるよう全力で心掛けてるし、だからこそいろんな書類に忙殺されている。あの忙しさこそが、彼の善性の証だよ。でも、手が届かないのに苦しまない。それは無くなっても問題ないと言っているに等しいんだ。アビドスは元最大級の学園、かつ君の存在がある。だから後々判明してもっと大事にはするだろうけどぞんざいには扱わない。それだけだよ」

「違う!違う……!」

 

 二人に亀裂が入っても、気にするような彼女じゃない。

 

「私は偶然彼が居ない時期に死んだ”だけ”で死後救われている。だけど、この世界にはもっと救うべき、そして一回も手を差し伸べられてない______貧困と権利のない透明な子供達(エキストラ)が沢山いるんだ。先生は救世主だ、政治家じゃない。それが居なくなっても困らない。例えばキリストが救えなかった人が居ても、求心力の構成においては邪魔でしかないからね」

「先生はそんなんじゃないです!」

「じゃあ福祉さえ知らない子供達の政治で、誰がその弱者を救うの!?」

「私だ!」

 

 叫ぶ少女が一人。

 

「ほう」

「私がいる……!」

「ゼンヒ!」

「私は生きてて最初から特別な存在として扱われた……けど、特暴課の二人も、バンリも、カザミも、セツカやシャルアーも!全員先生に関与しない透明な子供達(エキストラ)だった!だけど、私はそれを救った!そして私は彼女達に救われた!」

「でも結局君は強い子達を救ったに過ぎない!先生と代わりない!」

 

 試すように笑うユメにさえ、ゼンヒは吠える。

 

「先生と違って私は社会に元々いて、そして生徒でありながら自立して稼げる組織を立ち上げれた!政治屋の楔に縛られた彼には中立を崩壊させかねない経済的な援護出来なくても……私は出来る!後進の育成も!企画開発も!それによって大きく生まれる雇用によって、経済活動を活性化させるのも!学園に依存しない運営ができる組織があれば、どんな所属の子でも育てて支援できる!アリウスの過激派を味方に付けたから戸籍の問題さえ前例が出来た以上簡単に解決する!弱者が死ぬしかない社会を、その力を持つ誰かが変えればいい!」

 

「私がその役割を全うするんだ!」

 

 ゼンヒは言い切った。

 

 それが彼女の決意であり、壮大な野望。自我が薄く、カッコよかった最初の警官だった彼女は、人格と知性を備えて成長した。

 

「……そっか」

 

 ユメは、微笑む。

 

「君は強いよ、とんでもないくらいにね」

「ユメ____」

「でも、そこに至るまでに、一つだけ足りないことがあるんだよ」

 

 それでも彼女を戻せないのか。

 

「何が」

「それはね」

 

 ユメが答えようとした。

 

 その時だ。

 

 

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