シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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Case13:覆面警官のストーカー対処

 ゼンヒはその日、普通の車で移動をしていた。

 

『わたし、最近付け狙われているような気がして。なので一緒に来てくれませんか?』

 

 そう、ゲヘナ生に頼まれてのことである。

 

 もっともゲヘナは血の気の多い生徒が主体となっている学校であるから暴力で解決してしまえばいいのに、と思うゼンヒであったもののキヴォトスの治安を守るという広義的な組織たるヴァルキューレではそう言った依頼も避けられない。

 

 それに所属しているからと言って性格も激変することもないだろう。

 

 覆面しているやつに狙われている、近辺ではそういった怪しいやつの目撃情報もわずかながらあると知ったゼンヒはその依頼を受けることに。

 

「あの人綺麗だな〜」

「ハットを被ったあの人でしょう?まるでその、禁酒法時代のマフィアみたいな格好。ああいうのが似合う方って少ないですから」

「先生はそう言ったの着てくれませんもんね」

 

(別にそれを狙ったわけじゃないんだが)

 

 ゼンヒはため息をつきつつ、電子たばこを取り出して吸いながら車を走らせ続ける。

 

 道端で止めては何か連絡を待って、また少し走らせてを繰り返しているが車は普通なのに中にいるやつのせいで目立つという歪な状態に。それでも本来の仕事のためにはあれこれ変えている暇はない。

 

 _____そしてゲヘナ校区に入って、少しした入り組んでいる地区へと到着。ただここは、シャーレ近郊の地区と隣り合わせであるから暴れてもさして問題はない。

 

 依頼してきた生徒はゼンヒがついてきているのを確認して。自分の家の近くへ行く細い道を入って行った。

 

「もしついてきてるのが五人以上とかだったら困るよなあ、お前はどう思う?」

 

 助手席に置いていた中機関銃に話をしてもその問いは返ってくるはずもない。

 

 この武器は前のヘルメット団鎮圧の際に彼女が使ったものを本体・銃身に分けて持ち運びやすくしたもの。砂や泥、水につけても八万発を無整備で撃てるほど耐久性が優れている。あの時に協力してくれたガンショップの店主にお願いしたら

 

『この銃は君専用に作った、だから渡す前に実戦テストしてくれると助かる。当然基礎テストはしているが実戦ではどうかわからないから』

 

 そう言われて了承。ゼンヒも銃を貸してもらって解決した礼もあるのか、快く引き受けた。

 

 路地まで車で追いかけていたら騒ぎになるだろう、そう思って彼女は武器を持ち出してから他の生徒と同様に紐にかけてから後ろ腰に機関銃をつけてから車を出る。

 

 ただ、大通りなのでやはり目立つ。シャーレ近辺で居た時からそうだった。

 

「何だあいつ」

「かなりいい服着てるよね、てことは不良でもない?」

「映画の中から出てきたみたい」

 

 通り過ぎる生徒たちはそう評価した。

 

 口々に言われて目を引くが、彼女にとってはあまりいいことではない。ゼンヒは物見に集まりつつある少女たちにお願いをする。

 

「すまないが君たち、私はこれから仕事なんだ。黙っててくれるか」

「わー!話しかけてくれたー!」

「騒がないでくれと言っている。邪魔だ」

「は、はいっ!」

 

 ____キヴォトス人は美人が多い。

 

 その中でも暴飲暴食をせずに体型を維持し、しかも彼女は美しい寄り、端正な顔をしていて身長もある方。まさしく女の子、という衣装はあまり合わないが、スーツにコートにハットという姿はまさしくかっこいいと取れるものだろう。それに基本はスカート着用だが、彼女だけはしっかりとズボンを履いているのだから。なおのこと異端さとかっこよさが現れているのもあった。

 

 目を引かせた詫びへと退いて去っていく子達に手を振る。そして居なくなっていつも通りのストリートを取り戻したら。

 

「助かる。では、私は仕事へいこう」

 

 そう言って、彼女は機関銃を揺らしながら路地へと入っていった。

 

 冷たい風が建物の隙間に溜まって流れる。冬の川の中にいるような寒さなのに、何も体に触れ合わないのが逆に心へ虚無を与えて虚しく感じる。ニューヨーク・ジャズの一曲流れていれば、一瞬でいい景色になるだろうにと彼女はため息をつく。

 

「重厚な建物も多いからな、見慣れていれば堅牢なふるさと、そうでないなら敵陣のど真ん中。か」

 

 なんて寂れた暗い場所を歩き続けていると、退屈な追跡に報いるような事件が。

 

 少しの悲鳴が聞こえてすぐに前を見直すと、車がある。そこまで大きめでもなく装甲車でもないが、その横で依頼した生徒が覆面の生徒に連れ去られようとしていた。

 

 覆面、つまり彼女が言っていた不審者である。

 

「入ってすぐには嬉しいぞ」

 

 そう口角を上げてから機関銃を組み立てて構えた。

 

 巻き込まないようになんて考えは彼女にははなからあるわけなく、むしろ車側には引きずろうとして犯人の方が近づいている上すぐに発進できるようにと複数の人間が乗っている。

 

「じゃ、お祝いと行こう」

 

 ゼンヒは引き金を引いた。

 

 銃弾が旅立ち切るまでの刹那、一気に事態が動くのである。

 

 まず、彼女は車へと集中砲火を行った。当然車はパンクする上に原型を留めないほど穴だらけにもなっていくが、そうすると今度は運転席突き抜けてエンジンブロックまで入ってしまう。するとバッテリーにも銃弾が届き、衝撃が加わって壊れた結果ショートして爆発。

 

「きゃあー!」

 

 なんて間抜けな悲鳴が依頼者から聞こえるほどだった。

 

 しかし銃弾は止まらない。なんとかして這いずって出てきた奴らもまた、たくさん残っている銃弾の餌食になるのだから。

 

 あまりに重厚で、金属音がなって、二重奏のような銃声は擬音で表すのは難しいものだが、それが単調でくりかえさえ、その中に悲鳴や何かが壊れる音が混じるとこの世の終わりみたいな雰囲気が出てくる。

 

 相手は頑張って応戦しようとするが、車に置いてあった銃は見るも無惨になっていてまるで使い物にならない。ゼンヒを向く前に攫おうとした生徒はすでにノックバックで吹き飛んでいるし人質を取るなんて手段さえ許さない状況だ。

 

 依頼したゲヘナ生徒は這いながら移動しているため、すでに相手の手が届く範囲にはいない。しかも探そうにも中機関銃を垂れ流しながら迫ってくるハットを被ったヤバい奴がいるため難しい。挙句、撃っているのは徹甲弾。航空機銃に使用するようなものを手持ちサイズのもので撃てるように目指したガンスミスの頭の悪さが、この場においては"ゼンヒ一人で集団を破壊する鉄槌"として機能している。

 

 ______そして。弾が切れる瞬間。

 

 車は炎上、近くの建物から顔を出したゲヘナの生徒は安堵した様子で見る。車の周辺では銃弾と爆風を直接喰らって倒れ伏していた。

 

「終わったな」

 

 とはいえ周りに伏兵がいる可能性があるので機関銃は分解しないでそのまま歩いて車の方へ寄る。

 

 伸びているやつの襟を掴んで壁に押し当てたゼンヒだが、どうも反応はない。

 

「____フードかぶっているうえにガスマスクか」

 

 ガスマスクを乱雑に外すと、白い肌を晒した娘が。

 

「伸びてて使えんなこいつ」

 

 一応起き上がって突っかかってくると迷惑なので一度手を離してから鳩尾を三度蹴って、まだ残っているやつを調べる。どれも尋問の目的にしては意識がなくて使い物にならない、腹を機関銃で殴って転がしてまた探す。

 

 だが、結局どれもガスマスクを外して意識を取り戻そうと揺さぶったりビンタしたりしても起きない。中途半端に起こしとくと危険だからという理由でダメージを与えて完全に動けなくした。

 

「どいつもこいつもガスマスクつけた割にはあの爆発と銃弾でくたばるのか。しかもちゃっかり防弾チョッキ着込んでおいてか?」

 

 兵器と呼ばれる類の銃弾をばら撒いた人間の言うことではないが、事実状況が停滞している。

 

 そんな中、完全に寝かせたうちの一人の装備を物色していた依頼人の生徒が彼女を呼ぶ。

 

「マフィアさーん!」

「マフィアって呼ばないでくれ。なんだ?」

 

 ふざけた呼ばれ方にツッコミを入れつつ、彼女は生徒の方へ近づく。

 

 ガスマスクの縁にあったエンブレムを指差して、生徒は言った。

 

「これ、何かのヒントになりませんかね?」

「あー……ちょっと待ってろ」

 

 外してそこらに放り投げたガスマスクをゼンヒは取ってきて、同じところを確認する。

 

 全部に骸骨と薔薇、後ろには逆三角形ないし何かしらの文字が書いてあった。

 

「随分と品のない。まるでギャングみたいなマークだ」

「それゼンヒさんが言っていいんですか?」

「私は警察だからな。まあ、腐っている警察という意味ではこいつらと同じか」

 

 それがアリウスの校章であることを彼女は知らないが故の無礼な言い草である。

 

 とりあえずはこいつらを回収して矯正局かどこかに送って、なんて考えていると狭い道に騒いで入ってくるやつが。

 

「おいそこの怪しいやつ!」

「……ん?」

 

 帽子を深く被って、機関銃を持ったまま声のした方を向く。

 

「こんなところで何騒ぎを起こしているんだ!」

 

 肌は褐色、銀色のツインテを揺らした生徒がゼンヒに銃口を向けて脅している。

 

 腕章を覗くと、おそらくは風紀委員。委員長以外はあまり警戒しなくてもいいという噂を聞いていたがゼンヒは警察なので素直に従うことに。

 

「私は怪しいものではないよ。横の生徒に言われて、いろいろやってた。その腕章は風紀委員だろう?よければこれを贈呈しよう」

「そんな伸びたやつと廃車なんか要るか!」

 

 と、言いつつも風紀委員の生徒は近づいて不審者どもを見る。ゼンヒは持っていた機関銃を分解して撃てないようにし、彼女の方を見守る。

 

 だが、当然この不審者たちはアリウスの関係者。ついでに言えば、ゲヘナの治安を守るような組織の人間にとっては一大事。

 

「なっお前これ知ってるなら早く連絡しろ!危ないだろうが!」

「私も彼女を救うために乱射した後で初めて知った。全員伸びて使えなくなってるが、一応のため伸びてるやつに暴力を振っておいた。どうされたかも気づくまい」

「そう言いたいんじゃない!お前がどこの誰か知らなくてもこいつらは危ない存在で、そう言った処理も必要なんだよこっちは!」

 

 風紀委員の生徒は心配から叱り、ゼンヒは帽子を深く被り直して目をそらす。

 

「ちゃんとこっちを見ろ!」

「……はい」

「とりあえず私についてこい!まだ危ない奴がいるかもしれないし……それよりここまで至った経緯を知る必要がある。いいな?」

 

 ゼンヒと依頼した生徒は頷き、その風紀委員に付いていく。

 

 流石に場数を踏んできた彼女はあまり気にしなくもなってきたように見えて、ことの重大さに気づいていない。気づいたとてどうしようもない問題だが、少なくとも警察としてできることの仕事を果たしたのであった。

 

 彼女が憂き目に遭うことはないだろう。このことについては、だが。

 

 こうしてキヴォトスの治安を守りに行く限り、彼女がヴァルキューレを離れるまではたくさんの事件に出会い続けるのである。

 

 空に光が差し込んで、ゲヘナの重厚な建物を照らす。

 

 それは災難を跳ね除けた強大な城であるかのように、太陽の下に威厳を示したのだった。

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