シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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黄昏のゼンヒ達-2

「化け物を元に戻す」

 

 それはつまり、あの異形をそっくりそのまま人間の状態に戻せるという話だ。

 

「そんなことが出来るのか?」

「出来るから言ってるんじゃん」

 

 カザミは自信満々に答える。

 

「でもどうやって」

「それを今から説明するんでしょ。ほら、これ見て!」

 

 プロジェクター画面を指揮棒で指す彼女。

 

 映っているのは人間の構成要素。

 

 と言っても、三つしかないが。

 

「この世界の生徒達はね、おおよそ三つの構成要素から出来ているの」

「その構成要素って?」

「一つは器、一つは中身、そして最後にヘイロー!まずは神秘の加護、銃弾にも耐えれるバリアはそのまま人を作る器になる。で、その中に注がれる中身が、いわゆる血肉になる。最後のヘイローは、DNAのバックアップでありながら総合コントロールなんだ」

「Iフィールド駆動に近いんだね。んと……つまり広義で言うならATフィールドで人間の形を作って、LCLを中になみなみ注ぎ込んで、最後にヘイローで中身の細胞を作って管理するってこと?」

「ちょっと何言ってるかわかんない」

「ごめん聞かなかったことにして」

 

 先生は相手に謝る。

 

 カザミが言っているのはつまりこう。

 

 まず、銃弾や物理攻撃を対する耐性は実は透明なバリアであり、そのバリアが人間の形を常に存在している。

 

 そのバリアの中に、血肉になり得る得体の知れないリソースを注ぎ込んでまず人間の素体を作り上げているようだ。頑丈とはいえ生徒達が攻撃を受け続けると血を流すようになっているのは、実は穴が空いたペットボトルに近いらしい。

 

 そしてヘイロー。

 

 これはその人間の全てを決定する遺伝子であり、制御システム。

 

 作られたバリアという器に注ぎ込まれたリソース、物理的なエネルギーを分配し、筋肉や内臓、血管に各組織などを形成する。これが機能していれば、常に最適な形での運用や成長も出来るが、何よりこれがその中身のコントロールシステムであるため、体を形成した後で適切な運用方法、それに合わせた人格の構築などが行われているようだ。

 

 これがある段階で成長などに体を最適化されるためバリアの生成・変更権限もヘイローに譲渡される。

 

「最も人格とかは推測だけどね」

「脳波などもあるにはあるが、それを完璧に解析し利用できるまでには至ってないと聞いたな」

 

 聞き齧りだが、と付け加えるゼンヒだが彼女は否定するつもりは無いらしい。

 

「そこが分かれば心とかも科学的に説明できるようになるからな〜。ま、ともかくヘイローという遺伝子情報があるからこそ、栄養というリソースの分配が最適化されてキヴォトス外の人間と比べて非常に運動性能が高いと考えてくれていいよ。そこまでは確実な情報だからね」

「アリウスの……ベアトリーチェってやつの?」

「そうそう。ここら辺ハッキリしてないとロイヤルブラッドなんざただの置き物さ」

 

 カザミは笑っている。

 

「まあここまでが基本情報って感じ。質問ある?」

 

 彼女は聞いてみたが、誰も手をあげないで頷いている。

 

 つまりわかっていると言うことだ。

 

「よし、じゃあ次の説明に行くか」

 

 スライドが移動して、もう一つ。

 

 今度は人間を元に戻す方法だ。

 

「次は戻すプロセスについての説明だよ」

「頼む」

「言われなくても」

 

 指揮棒で指しながら、彼女は話を続けた。

 

「さっきも言った通り、ヘイローは遺伝子情報を持っている。その上でシステムが残っているのだから、起動させれば周囲のリソースを吸って元に戻れるって寸法さ」

「実際にやったの?それ」

「やってたから遅れたまである。まあまあ、ともかく理論を知らないで使ったらこれ終わった後が危ないから話を聞いてね」

 

 ハクジツの問いも押さえて、話の肝要。

 

「あいつが売り捌いていた輝薬という薬なんだけど、あれはヘイローを停止することでバリアを分解、その上でバリア内に残っていたリソースをそのまま彼女が制御する形に持って行ってるみたいなんだ。生き返った時に多分、そう言った類の神秘を手に入れたんだろうね。だけど、神様じゃ無いから自由自在というわけにはいかないみたい」

「リンネは『“体内組織の明確な臓器・筋肉組織の分別を行う神秘リソースのコントロール”を停止』するとかなんとか言っていたが……つまりそういうことか?」

「おお、種明かししてくれるとはありがたい。けどまあそういうこと、ヘイローの機能を停止して組織分解を促進させることで彼女はリソースの確保と制御権を代替することに成功したそうだ」

 

 あの時のリンネのセリフはそうだったのか、と現地で戦っていたメンバーは納得。

 

「まあ、ただ制御権云々に関してあくまで近場のリソース管理ができるヘイローシステムに渡っているだけで権限そのものは決して高いとは言えない。リンネのヘイローは特別だったとしても、一斉に停止しているヘイローが元に戻ったら、指揮系統の混乱を招くし、それで制御できないうちに人は元に戻るんだ」

 

 理論はわかるのか、なるほどとなるメンバー達。

 

 しかし、どうやったらそんなのが出来るのか。疑問は深まるばかりだ。

 

「そろそろ先生、どうやって戻すか気になるな」

「そうだそうだ、まさかここまでやって出来ないとは言わないだろうな」

「早く説明して?」

「おじさんも早く聞きたいなぁ〜」

 

 ヤジが飛ぶが、半ば気休めのようなものだ。

 

「さっきも言ったでしょ、やったから遅れてきたって。今からいいの見せてあげるよ」

 

 カザミは懐から爆弾を取り出す。

 

 それは手榴弾のようなものだが、その表面には天使の輪が描かれていた。

 

「え、何それ」

 

 困惑する一同だが、一人だけそれを知っている奴がいる。

 

「ヘイロー破壊爆弾!」

 

 シャルアーだ。

 

 実際の使用者が、口にした。

 

「正解!でもこれはヘイローを破壊するのではなくて、あくまで衝撃を起こすためのもの」

 

「その名もヘイローAED!」

 

 驚いて、早く続きをとせがむ皆に、彼女は説明した。

 

「そもそもヘイロー破壊爆弾の原理については誰にも語ってなかったから言うけどね、さっき言った人間の構成要素の中で一番大事なのはヘイローって話をしたじゃん?」

「それはね」

「あの爆弾は爆発するとヘイローを探知して、そのまま一定ダメージを与えた相手のヘイローに影響を及ぼすんだ。具体的には破片手榴弾のような仕組みを作るように情報を書き換えて、そのまま相手を爆破させるようにする。それゆえに人格も肉体も爆弾になって、そのまま爆ぜて連鎖被害を起こせるようになるんだよ」

 

 デカルコマニーはそんなとんでもないものを作っていたらしい。

 

 エデン条約の当事者だった先生は引いている。

 

「うええ……そんなものだったの、アレ」

「そうだよ、だからテロにも使われた。どんな神秘があろうとも、とりあえず破片手榴弾に当たってればそのまま書き換えて爆弾に出来るからね」

「あれで変な被害が出なくてよかったぁ……!」

 

 作った当人も理論までは作っていたのだろうが、生徒の神秘というものに興味があるのかそれを消失させるような真似を好まなかった。

 

 ただ、理論までは使ったシャルアーでさえ知らなかったので全員引いた表情をしていた。

 

「でこっからが本題」

「はいはい」

 

 カザミは、ヘイローAEDの説明をする。

 

「今回はヘイロー破壊爆弾にある『探知』『ショック』『書き換え』を行ってヘイローを復活させることになる。リンネの薬はヘイローが停止してあるだけで、あの三つはセットだから異形の中には当然複数の天使の輪がある。なにしろ精神と肉体は同じところにあるからね」

「じゃあその爆弾を異形にぶつければ」

「沢山の人間に分解されて元通りってわけさ!」

 

 これがアリウス過激派の技術の真髄。

 

 この世界の裏の部分も汚い部分を知り尽くしているからこそ、出来ること。

 

 ゼンヒは彼女達のことを見殺しにも皆殺しにもせずに出来る限り和解し、助け合うだけの土壌を作った。ゆえに”現実に負けない綺麗事”がやってきたのだ。

 

 みんなの目はやる気に満ち溢れる。

 

「おお、これがあればみんなを治せるんだね!」

「当然ヘイローから元に戻すだけで彼女達の問題は何も解決していないからね、暴動とかも起きるかもしれないから彼女達の収容・監視も必要になってくる。正直特別暴力対策課だけじゃどうしようもないね、アリウス過激派も人手が足りない」

「だから先生がいるんでしょ」

 

 先生が立って、カザミを見た。

 

「自分はいろんなところにコネがある。トリニティにもゲヘナにも山海経にも、いろんな学園と繋がりを持っているんだ。しかも、彼女が綺麗事として吐き捨てた上層部との関係がね。フル活用すれば大規模な人員の稼働も簡単に出来る。救世主の腕の見せ所さ、ま自分はそんなたいそれた人間じゃ無いけど」

「じゃあ、バックアップの手続きとかよろしくね。過激派はこう表立って出来ないからさ」

「任せて!」

 

 これで話し合いは終わりだ。

 

「ってな感じ!わかった!」

「さしづめ《再誕作戦》か、最高じゃないか」

 

 人の再誕、それに伴う社会システムの再誕。

 

「かっこいいな、私もそれ名乗っちゃおうか」

「いいねいいね!かっこいいのは大事だよ!」

「よし、じゃあこの作戦は《再誕作戦》で決まりだ!」

 

 はしゃいでいるところで、カザミはゼンヒの肩に手を置く。

 

「ん?」

「号令、やってくれる?」

 

 この場所は特別暴力対策課。

 

 今いるのは部下、後輩、友達、協力者。

 

 そしてこの作戦はゼンヒの生まれ、そして彼女が紡いできたつながりがあるからこそできあがったものだ。

 

「ゼンヒがやったほうがいいでしょ」

 

 カザミはそう言い、周りもそれを肯定した。

 

 ならば、特暴課のリーダーがやるべきことなのだろう。

 

 ゼンヒは真ん中に立つ。

 

「みんな!これが最後の戦いになる!」

 

 彼女は強く、言葉を発する。

 

「この作戦が成功すればリンネが求めていた弱者の楽園は崩れ去るが、その弱者達を社会に引き摺り出して救える!そして、あいつの力の源を削げれば逮捕し、薬物の蔓延は頭打ちになり縮小するだろう!」

 

 皆は、彼女の声に盛り上がる。

 

「だから、ここで決着をつけよう!連邦生徒会のためでもどこの学園のためでもなく、この都市に住むすべての住人のために!」

 

 

 

 

 

「《再誕作戦》、開始!」

 

 

 

 

 叫ぶ。

 

 これが最後の戦いになり、彼女が本気で挑む最後の事件になるだろう。

 

 この号令と広がるように、皆はそれぞれやるべき事をするために持ち場に戻っていく。

 

 ________この賽の目は何を出すか。

 

 唯一の赤い日を、誰しもが待ち望んだ。

 

 その意味だけ違うまま。

 

 

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