シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

143 / 163
黄昏のゼンヒ達-3

 持ち場に戻るとは言え、ゼンヒとハクジツは暇を持て余していた。

 

 ショウコは装甲車や銃器点検の指揮をしなければならないし、シャルアーやホシノだって自分の武器の点検や細かい確認をしなければならない。

 

 彼女達はそもそも自分の武器が少ない上に、簡単にメンテナンスが出来るものだったのでさっさと終わらせて、休んでいた。

 

「先輩」

「なんだ」

「こうして二人きりになるの、久しぶりですね」

 

 ハクジツは、そう呟いた。

 

 ゼンヒが巡査部長の時はずっと一緒だったが、彼女が警部補に上がった時には既に特別暴力対策課が出来、段々とお巡りさんではなくなっていった。

 

 その時から疎遠になりつつはあったが、ゼンヒに残っていたセツカが暴走してからは尚のこと確執のせいで離れ、挙げ句の果てには復帰時に彼女に怪我させるところまで行ったのだ。

 

「先輩は、もう私の事が嫌いだとは思いますけど……それでも、また仕事が出来るのが、少しだけ嬉しいです」

「セツカの件は聞かないと分からないけど、聞いた以上はどうってことはない。ハクジツが優秀なのは変わらないし、私だって改めてバンリって依存先ができたときに、それを失う恐怖を知った。ハクジツにとっての私が仇であり恋人だった時、その心境が酷い有様だったのは想像に難くない」

「だけど」

 

 彼女は罪悪感に溢れていた。

 

 今更なのに、捨てないといけないのにと思いながらも、それでもゼンヒへの愛は捨てきれずにいるらしい。

 

 そんな彼女を、ゼンヒは慰める。

 

「私がリンネよりもセツカの友達であり……子供であることを選んだ。それは彼女が守ってくれたことも、シャルアーという仲間を遺してくれたことも、色んな恩義があってのことだ。尤も、セツカは沢山の人を殺した。その被害者が、快く思わないのもそうかもしれない。過去を知ったが故に、私達はあの時に戻れなくなった」

 

 ハクジツは暗い表情のまま相手を見た。

 

 その相手は、微笑んでいる。成長して頼れるような、いや、全てを知った上であえて警官として戻ってきたが故の表情で。

 

 ゼンヒは言葉を続ける。

 

「だが、ハクジツが有能で頼れる後輩であることには変わりはない。ただ後輩であったあの時よりも、しっかりと理解して、今度は手伝うこともできる」

「私の、手伝い?」

「今回の作戦はリンネの力を消すことだ。そうすれば一般人と化した彼女を拘束して事態は解決する。そしてそれは、ハクジツが一番望んでいる結果じゃ無いのか?」

 

 ハクジツにとっては、自分が一番愛した人間が逃げられないようにするのが大事である。

 

 そのことを理解して、そのために自分が頑張る。と言うのが出来ると、必要なこととそうで無いことがはっきりするらしい。

 

「……そうですね」

「漸く、ハクジツに対して恩返しができると思ってるんだ。本当のハクジツに」

「私になんて」

 

 ゼンヒは、相手の肩を掴んで抱き寄せる。

 

「ハクジツ。私はお前を騙し続けた、リンネの血も入っていたのは事実だけど、その事実だけでお前と偽りの警官生活……いや、青春を続けた。許してくれなんて言えないし、許される道理もない。だからこそ」

「何も言わないで」

 

 ハクジツは、俯いてゼンヒを抱き締める。

 

「私も先輩に唯一の王子様を重ねて、そうであるべきだと誘導していた。先輩が王子様であるように、可愛くて頼りになる女で努めて、崩れ去った時には仲間さえ傷つけた。それでも先輩が彼女でないと、私が壊れてしまうから________耐えきれなかった。私は恋人失格です。でも、彼女に会いたい。自分のところにいてほしい」

 

 彼女にとってもまた、ゼンヒに対する贖罪としてこの都市を平和にする手助けをしたい。お互いに理想を重ねて利用した、爛れた関係。その終止符を打つ時に、互いに大きな痛みを生じた。

 

 だから、終止符を打たなければならない。

 

「私の醜い願いを、叶えてくれますか?」

「_____ああ」

 

 互いの顔が近づいてもキスはせず、互いの顔に未練と最初の冬を思い馳せ、互いに手を離した。

 

「約束するよ。お前の王子様を繋ぎ止める」

「________ありがとう、ございます」

 

 ようやく、心から笑えたような。

 

 ハクジツの笑みは、あの時と同じ優しさを持っている。

 

「よし、そうと決まればさっさと終わらせないとな」

「そんなリーダーにお知らせでーす」

 

 ある程度話し終えた状態で、一人入ってきた。

 

「ショウコ!」

「こっちは準備できました、いつでも出撃できますよ」

「ありがとう。じゃあ、しばらくは元に戻す方を優先しよう。場合によっては私も出」

「カチコミに行きません?」

 

 二人は困惑して彼女を見た。

 

「カチコミに行くと言っても何処に」

「私が説明しよう」

 

 さらにもう一人、後ろから。

 

「局長!」

「久しぶりだな」

 

 彼女達の直属の上司がやってきた。

 

 尾刃カンナだ。

 

「色々表立って手伝いたかったが、市民への説明と避難誘導などを指揮するのに手間取っていた。ろくな支援も寄越せずにすまない」

「気にしないでください。政府関係者や高官に対する説明並びに対策願いというのは局長にしか出来ないので」

「そう言ってもらってありがたい。お詫びと言ってはなんだが、彼女が居るだろう場所……その情報を持ってきた」

「なんですって?」

 

 カンナの手には写真と地図。

 

 まずは写真から提示した。

 

「これは」

「30分前、警察のヘリが撮った写真だ」

 

 そう、リンネの後ろ姿の写真。

 

 場所は地図に赤いマークが示されている場所。

 

「ブラックマーケットの入り口?いや、あり得る話だな」

「そして、おそらくいるのはここだ」

 

 地図の青い点と、並びにそこの写真をカンナは見せた。

 

 現在は黄色いテープで立ち入り禁止としてある場所。

 

「ここは……?」

「天衣セツカの研究施設兼拠点だった場所であり……お前が生まれた場所だ」

 

 リンネとセツカが殺し合った場所。

 

 そして、ゼンヒが生まれたところ。

 

「そこに……?」

「ああ。近所に住むヘルメット団を捕まえて聞いてみたところそこに入って言ったとの証言があった。写真もある以上間違いはない。私もお前を見つけた時に、行った場所だ。ただ、その近辺での異形確認かつ人化作業に人手を全部取られてしまっている」

「私達が行くしかない、と言うことですか」

「図らずともな。だが、お前達が行くならばそれだけ動きも鈍るだろうから彼女のリソース管理に狂いを出すことで時間も稼げるし、何より________」

 

 この一言だけは言いたくなかった、と言う表情でカンナは口にする。

 

「決着を付けれるのはお前達しかいない。仇であり彼女自身でもある扇皇ゼンヒ、彼女が本気で愛した恋人の白鳥ハクジツ、そして彼女が神秘の仕組みを理解しその力を手にするために巻き込まれた被害者のシャルアー・ドーン______この三人以外であの少女との決着を付けれる人間は存在しないんだ」

「局長」

「だから頼む」

 

 一度軽く頭を下げ、そして上げる彼女。

 

「今回の一件、必ず解決し……扇堂リンネを確実に逮捕してくれ」

 

 その頼みは、狂犬でも解決できない"当人の因果"を社会のために精算させる苦しみを負わせることになった少女の最大限の礼儀だった。

 

 ゼンヒはその心境を察するとどれだけ苦しいことかと理解できた、だからこそ彼女に近寄ってしっかりと目を見て話す。

 

「局長、最近はずっと会えてなかったですけど……貴女は私に青春を_____いや、人生をくれました」

 

 この際だからと、最大限の感謝を言葉に変えて伝える。

 

「まだ何も知らなかったあの時に、いろいろなことを教えてくれましたよね。勉強のこともそうだし、他のことだって。貴女の勧めがあったから私は今警官として働けています。貴女が居たから、私はハクジツやバンリ、ユリにショウコや色んな人と会えて……それどころかカザミ達過激派みたいな、永遠に可視化された政治の磔であるしかなかった人達を助ける人生をくれたんです。ずっと与えられ続ける幸せより、自分が誰かを助けることができたのが、私は嬉しい」

「ゼンヒ」

 

 名前を呼ばれ、かつてはセツカでもリンネでもあった少女は笑う。

 

「それだけじゃない。私が頑張ったから、みんな私が不貞腐れてもちゃんと助けてくれました。でも元を辿れば、それはかつて何も知らず、何の力も持たなかった私に関わってくれた局長達がいてくれたからこそ。

 だから私はこの件に決着を付けてきます。みんなが協力して、少女達を連れ戻して保護しているように、一般市民の方を助けているように……私がリンネの孤独に終止符を打ちます」

「____ありがとう、ゼンヒ」

 

 お互いに手を差し出して、握手する。

 

 この件ばかりはシャーレの魔力でどうにもならないが、それは万事休すと同一ではない。寧ろ、いろんな生徒が自立し、自発的な善行を積めば社会というものはもっと良くなる。そして思春期の少女達が不相応な政治というものを押し付けられ、壊れかけていたのを先生が治した以上はパフォーマンスというものも上がっている。押さえつけられていたものが軽くなれば、その分だけいい成果を残せる。

 

 その『分散と用意』を本来だったら見捨てられていただろう元SRTの転入生達やアリウスのテロリスト達に浸透させた彼女は、まさしく善の妃であった。

 

「じゃあ、行ってきます」

「気をつけてくれ。帰ってきたら、飲みにでも行こう」

「はい」

 

 ずっと話を聞いていたショウコも、口を開く。

 

「よし、みんな行こう!装甲車は私が運転する、みんなを送っていくよ」

「よろしく頼むぞ、ショウコ」

「ユリも今頑張っているからね、縁の下で沢山働きますよ!ほら!」

 

 全員急いで部屋を飛び出す。

 

 それを見送ったカンナは、バーの席に座った。

 

「_____彼女は、素晴らしいものだな。あれは受け継いだ血にあったものか、それとも彼女自身が手にした実力か……どう思う?」

 

 かつて、彼女と共にゼンヒの誕生と共に起きたあれこれを一緒に駆け回った戦友に、届かなくとも問う。

 

 その答えが、求めた本人からは返ってくる事はないが________

 

 終章が、代わりに答えるだろう。

 

 ゼンヒという少女の全てを。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。