_____この世界で、生きること。
それはとても難しい。
どれだけ自分の身体に夢を詰め込んでいても、その身体に大した価値が無ければ、他人はすぐさまその存在を忘れる。
何故ならその他人もまた、若さ故に羨望と妬みが強く鮮やか。故に下を見て貶しても済まない憎悪が燃え盛って止まない。
強者も子供であるならば、自分達の欲望に歯止めを効かせる事もまた困難。その結果、社会の本質である人間の共存と成長を忘れ、強きものとして生まれた存在はそのまま学園から消えるまで暴虐の限りを尽くす。
生まれによって、全てが決まる。それが子供達の社会だ。シャーレは大人である先生を用意し、善性の行動を徹底するよう呼びかけるが、彼自身の才能は“強者を心酔させる”だけ。強者は社会を背負っておきながら下を見ず、ただひたすらに過ちを続ける。
「これバンリさんが作ってくれたやつです。ほら、みんな食べて」
「わーい」
「いいねぇ、貰っちゃおう」
「……美味しい」
「バンリ____頑張るよ」
いや、そもそもキヴォトスだけじゃない。
どの場所もそうだ。
経済活動においては、先に需要を注目できたものだけが富を手にする。技術も資産ではあるが、資産を”作る”リソースの争奪戦は最初に需要を見つけたものだけが先行し、その富によって”他人”という資産を得る。
他人を使って自分のリソースを作り、その分前を都合のいいように分配し、そして生体圏を広げるように金で理を作るのだ。
「君はあのエリアの子達に食料を配って」
「わかりましたわ」
「指揮は君に任せるよ、資材の分配に手一杯なら私もできる限りのことをする」
「ありがとうございます、セイア様」
そして初めて金というものを手にし、栄華を手にしたものが死ぬ時。
当人が巨大な世界を歪める権利をめぐって人は殺し合う。
遺された力、富、そしてルール。これらをめぐって殺し合うことによって、今度は非人道的であった行為に需要を見出し、新たな選ばれし者が誕生する。
経済活動とは、砂金探しであった。
人々は己の口を賄うために砂金探しを続け、金脈を手に入れたものに縋り、そしてそのおこぼれによって生きる糧を得る。
「マコト議長、ここの建物をお使いください」
「いいのか?」
「私もゼンヒに助けられたんです、だから今度はどんな形でもいいから恩返しがしたい」
「____わかった、この事件が終わったらちゃんと使用料は払おう」
天命という渦が大小幾つも生まれ、重なって出来上がるのが社会だ。
その社会は、二つの時代を何度も反復して進化していく。
一つは、天命によって寿命と文明という力を手に入れ広めた英雄と、その英雄をなんとかして自分のために働かせようという崇拝によって出来上がる"神の時代"。この時代は、停滞する味気ない世界を破壊するために、誰かを裁きにして停滞の要因を破壊、生まれた亀裂に自分たちの利益の種を蒔く。そして、その活動を邪魔されないように異を唱えたり妨害するものは排除した。
一つは、選ばれたものの消失に伴う幻想に踊らされた者たちの殺し合いと、その殺し合いによって進化し続ける反社会的流行の肯定と渇望の"人の時代"。この時代は、亀裂に蒔いた誰か一人のためにある利益の木を全力で破壊して、残っているおこぼれを貰いつつ、それが生まれないようにゼロ以前の混沌を殺し尽くし、禁忌とし、そして自分達を豊かにした者たちを肥沃として成長する。
後者の時代が極まればまた、人間の最大的な特徴である文明の進歩の再効率化を目指して文明レベルに合わせた秩序の再構築が始まる。最大限の結果を求めることを欲した人間は、今度は正義を振り翳して反社会的行為を厳しく縛り、新たに進歩を生み出した英雄を崇め、自分たちのためにという
最初の始まり以外は、このループを繰り返して人は成長してきたのだ。
「デミ・セラフィムの補給は!?」
「現在アリウス・スクワッドと連絡が取れません!カザミ様あ!」
「狼狽えるな!彼女たちは最高戦力だ、自分たちよりも多くの経験と寵愛がある彼女たちが早々死ぬわけがない!」
「シスターフッドから応援要請!」
「待機中の第四中隊を回すんだ!」
その最初の始まりは結局、誰が最初に見つけるかの運試しゲームである。
また、それを人は"才能"と言った。
己の内にある体内組織が噛み合い、環境もまた合えばそれだけすぐに適応力が上がり、適応力が上がるということは理解につながり、その理解からまた新たに発見する。
社会的、と呼ばれるものさえなければ、誰も何も咎めることもできない。そもそも最初に発見した人間以外に、その事象を知ることもない。
そうして、生まれて何も手にできずに朽ちていく、
社会という実態のない、生き物の
これを人類が知覚した時、自分と違い、もっと満たされてる生き物を目にした時。
人の時代が始まる。
「機動局壊滅!走行車両が足りません!」
「ならばそちらは撤退させろ、ポイントAまで引き返せ!」
「Bも捨てるおつもりですか!?あそこにはまだ沢山の市民が残っています!大規模に展開したテントも、まだ!」
「できる限り撤退を急がせろ!ヘイローAEDの製造・配分を考えても、現存している分ではB地点での防衛・展開の維持は不可だ!戦力を集結させる!」
「ですが!」
「私だって本当はBを守りたい!だが、被害が増える!」
では、このキヴォトスに人の時代はあったのだろうか?
それはないと言っていい。
シャーレが出来上がる前、超人と言われた連邦生徒会長が全てを仕切って順調に動かしていた。
学園によっていろんな種族が固まっているのを見るに、雷帝もかのユスティナも、全員その超人が生み出した摂理を広めて自分たちの種族に合うように実体化させた。
この種族、いや、彼女たちを人とするなら人種だろうか。人種間の間の摂理には、いろんな差があったのだ。
だが、この世界は一つだ。陸続きで、歩いても空飛んでも海を渡っても________結局、その隣人と同じ世界に存在し、認識できてしまう。その認識は、やがて自分たちが守っていた摂理を壊すだろうという恐怖を与える。たとえそう思っていなかったとしても、結局人間は、その当人にある感覚でしか世界を構築できない。
つまり、人間の社会性は『自分と同じであろう』と言う安心感と、それに伴う実益や保険で出来ていると言っていい。それ以外はそもそも”理解”出来なければ、触れることも叶わないだろう。
これが争いの種になる。
当たり前の話だ、理解できないと言うことはそれが危害を加えないという保証がどこにもない。だから人は争う、己の自己価値を揺るがす恐怖を払拭するために。
だが、争いというのは同レベルの存在でしか起こらない。なぜなら、それ以外のものは"虐殺"になるからだ。
「ユリ隊長、この地区の異形は大体女の子に戻りました。しかし、薬物依存症の傾向が強く抑えるのが難しいです」
「すぐに催眠弾を用意して、暴徒鎮圧用のすごいやつ。それが終わったら護送車で刑務所の方にお願い。道路の安全、ルートの確保は交通局がなんとかしてくれてる。この地区の制圧が終わったら、あのビルを臨時拠点にするよ。空きフロアに通信基地を設立して、特暴課事務所とヴァルキューレ本校と連絡が取れるようにお願い」
「わかりました、すぐに取りかかりましょう」
「_____ショウコ、必ずリーダーを送り届けて……生きて帰ってこないと許さないから」
だが、この世界には才能に加えてさらに差別を助長する神秘もある。
おまけに環境は、彼女たちに役割を与えた。先生は、その選ばれし者達のために連邦生徒会長という名の英雄の”演者”となったのだ。そして、才能と神秘によってこの世界の根幹を力ある者達で分け合った生徒は、それを先生に証明し、先生はさらに沢山の人間に分配するべく奮闘する。
だが、弱者にその蓄えは分けられることはない。
彼も連邦生徒会も玉座から一歩も踏み出せなかった。
期待、憧憬、依存_____様々な有力者達の思惑が楔となって、その英雄を釘付けにする。
だから弱者にも正義にも寄り添うことはできない、してしまえば既存の強者を脅かすだけでその者達の利になることもないからだ。
そして若ければ若いほど、人間というのは刺激に踊らされる。老いればその体力もなく、諦観が目を覆い動けなくなるだけ。
少女達の世界では"発展"と"活躍"が若いだけの社会の指針となって、人が生きていく上で必要な福祉というものは軽視され、その存在の重要さを知っていたとしてもそれにリソースを割くことは”他の成功者に遅れをとるだけ”と判断されてしまう。
故にキヴォトスは圧倒的な強者が蹂躙するだけの社会として、生き続けているのである。
「ホシノちゃんってね、本当はすっごく強くて私よりも現実見て行動出来るんだよね。次に戦ったら私殺されちゃうかもね」
「先生はそれを許容しないだろうし、逆のパターンも私は許容したくないものだね」
「それは、私たちがどちらかが死ぬことを望んでないから?」
「ああ。あの異形達は私の提案に乗り、惨めに死ぬより惨殺する生を選んだ。その選択肢すらなかった少女達に、不当な押し付けはしない」
キヴォトスは不平等だ。
だから、今、その不平等を自ら破壊して利する財産を奪うべく、そして神の時代を破壊してしまおうとする透明な子供達はサタンによって実態を得て社会の端まで噛み砕かんと奮闘している。
この戦いがどちらに転ぼうと、後世のみが正誤を知る。いや、事実以外全部IFなら、本当の正解は誰にも分からないのだろう。
しかし、始まりには終わりがある。
故に、この戦いの”結果”は確実にそこにあるのだ。
その結果が、果たしてどこに着地し、どんな意味を残すのか。
歴史への回答を作り、導く問題式は_____
間も無く邂逅する。