シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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LastCase:再誕作戦/会敵

「よし、ここで降りてください。ここから先は入り組んでいて車だと逆に危険です」

「ありがとう、ショウコ」

「ありがとうねえ」

「サンキュー」

「ありがとう」

 

 各々お礼を行って、動き始める。

 

 ブラックマーケット前の大通りから、そのまま侵入。

 

「不気味、静まり返ってる」

「そりゃそうだ。人っこ一人居ない」

「警戒は怠るな、削るために戦力を投下してくる可能性だってある」

 

 今回突入するメンバーはゼンヒ、ハクジツ、シャルアー、ホシノの四人。

 

 今いる場所はひどく静まり返っているが、やはり何か潜んでいるのだろうという不気味さが止まない。なんと言っても、あれだけ異形が横行している都市にその形すらないのは逆に不安を煽られる。

 

「おじさん達を待っているのかなあ?だとしたら早く出てきて欲しいんだけどね。すぐに戦った方がいいじゃん」

「それはそうだが……ん?」

 

 ゼンヒは気づく、何かの香りだ。

 

 香ばしく、油っぽく、そしてその中に薬膳の香り。誰かが料理しているのだろうというのは一発で分かった。

 

「まて、誰かまだこの近辺にいる」

 

 周囲を確認する。

 

 料理の匂い、警察も勧告は出しているはずなのにも関わらずある。

 

 そして後追いするように、若干の暖かさと視界のぼやけ。

 

「煙……」

 

 料理の湯気を感じると、それを辿る。

 

 すると______

 

「ああ……?」

 

 辿って行った先の建物は、見覚えがあるものだった。

 

 カンナの写真で見た、黄色い立ち入り禁止テープの先にある建物。ゼンヒが生まれたその場所は、まるでそこが帰るべき場所であると自称している。

 

「そこに誰かいるのか!?」

 

 呼びかけても、誰もいない。

 

 いや、いてもそうそう返事することもないだろう。

 

 リンネがいる場合はわざわざ反応することもなく、また別の誰かであっても態々移動してないなら尚更だ。

 

「……行くぞ」

「罠の可能性は?」

「ゼロではないが______放置する訳にも行かないだろう。空き家に住んでいるだけの居候の可能性だってあるし、仮に有毒だったとしてもシャルアーのあの花でなんとか出来る……と思う」

「あんまり乱用するものでもないが……まあいい。ゼンヒが言うなら行こう」

 

 どの道、目的地はそのテープの家だ。

 

 かつてセツカの潜伏場所であり、ハクジツを刺されて激昂し単身で乗り込んで殺そうとしたリンネと共に死んだ墓標。

 

 そのアパートのような場所の階段を駆け上がり、匂いが強くなっていく中で黄色いテープをくぐり、全員は奥へと進んでいく。

 

「大丈夫?このまま奥進んでも」

「私が先にクリアリングする、ハクジツはバックアップをお願い」

「分かった」

 

 匂いのするある部屋の前に辿り着く。

 

 光は漏れてないが、それでも匂いが強い。

 

 料理してる音は聞こえないが、誰かが居るようだ。

 

「突入するぞ。準備はいいか」

 

 ゼンヒが確認すると、全員頷く。

 

 ならばもう、これ以上は何をいう必要も無い。

 

 全員武器を持って________

 

「手を上げろ!警察だ!」

 

 と、中に突入した。

 

 一斉に四人は展開し、そのまま部屋を制圧しようと動く。

 

 しかし、その動きはすぐにとまることになる。

 

「や」

「リンネ……!」

 

 そこにいたのは扇堂リンネ。

 

 テーブルと人数分の椅子があり、上には色々な料理があった。

 

 匂いの正体はこれである。

 

「君たちのことだからこう言った場所に愛着も特別視もせずにやってきてくれることは、理解していたよ。随分早いね、誰かに送ってもらったかい?」

「それを話す必要はない」

「だろうね。まあ、座りなよ。食べるかどうかは、君たちが決めていい」

 

 決着をつけにきたのはゼンヒ達で、それを率いているのもまたゼンヒだ。

 

「どうする?」

「私が対面にいるべきだろう、他三人は警戒を頼む」

「いいの」

「ああ、どのみち一番戦力にならないのは幸運にも私だ」

 

 軽く話し合った結果、当人が対面に座ることにし、他は警戒として立っておくことに。

 

「ふむ」

「お前がここにいるのは先に到着した警官の目撃情報や、過去のデータによってここにいるという予測だ。すぐに捕まえられるとは思っていない、が……何故ここに陣を構えた。見たところユメもいないようだが」

 

 多分、お互いが死ぬまで戦い続けるのだろう。

 

 そう思っていた二人は、最後の言葉であると理解して、存分に言葉を交わすとした。

 

「梔子ユメは、最後の戦いになったら出てくるだろう。私とゼンヒが戦っている時に小鳥遊ホシノが邪魔しないように……いや、他のシャーレの生徒の足止めを阻止するために契約した最高の仲間だからね」

「いくら彼女が強くても一人では対応できないはずだ」

「その人数を削るために弱者を化け物にして、大行進をさせている」

 

 それを悪いことだと思っていないリンネに、ゼンヒは少しの憤りを覚えた。

 

 だが、そう言った当人は悪くは思っておらず、それは自分たちの自我をなくしてまでも強大な力を手に入れようとした少女達も同じだったのだろう。

 

 本来だったら、いや、実際そうなった少女達を目にしていた彼女は安っぽい怒りを抑えて話に臨む。

 

「君たちは、どうして私を倒そうとするんだい?」

「知っているはずだ」

「ちゃんと口で説明してほしいな」

「ならはっきり言ってやる」

 

 問われた方は、はっきりと言った。

 

「住所不定者を中心とした販売や己の服用に対する薬物取締法違反、キヴォトスに対する過激かつ死傷者を問わないクーデターによる内乱罪、そして暴行罪などの疑いだ」

「君自身は、私に憎しみを持っていないと?」

「その憎しみに理由がなければ、お前と同じだ」

 

 ここで一度言葉が途切れる。

 

 互いに顔を見ているが、どちらも油断がない。

 

「ところで、食べないのかい?」

「敵が作ったものを易々と口に運ぶと思うか」

「腹は減っていないのか」

「そもそも食べてきたからな」

 

 リンネは、感心したのか少しばかり笑顔になって相手を見る。

 

「じゃあ、ここで一つ話をしてあげよう」

 

 彼女は足を組み、膝をつき、話をした。

 

「今君たちはこの飯に毒が入っているかどうかは分からない。それは実際食べていないからだし、たとえ見分ける手段を持っていたとしても今やってないから結局知る術はない。仮に道具を使用しない嗅覚の情報で分かったとしても、きっと君たちは食べないだろう。どういうトラップをこっちが持っているか知らない以上、口に運ぶことはないんだからね」

 

 当たり前の話だ。

 

 結局食べなければ、そこに毒があろうがなかろうが関係ない。それに彼女達は検査する必要もない、必要なのは扇堂リンネの逮捕だけ。

 

「だけど、君たちが救おうとしている人達はこれにあり付くだろう。彼女達は常に腹が満たせる状況にないし、そもそもこの中に毒があるのかどうかという確認どころか知識も……いや、そもそも”毒という概念”があるかどうかも怪しい。なぜならそう言った教育はなされないからね」

「何が言いたい」

「君たちはそんな人間を救いたいかどうか、ということだ」

 

 彼女は続ける。

 

「君たちが普通だと思っていることは普通じゃない。私を逮捕するために何かを食べるということは、その事件に関わっている間の飢え、また飢えから連鎖する注意力や体力などの低下を防ぐために食べ物があった。そして君たちは()()()()()()()()()それらを食べてきたわけだ。それ自体は間違いじゃないどころか、正しいんだよ」

 

 困らない程度に、は言い換えれば腹八分目で止める、という意味だ。

 

 彼女達は自分たちにとって適切な量を、適切な形で補充している。だから最高のパフォーマンスが出せる。

 

「貧困にあえぐ者たちにはどれもできない芸当だ。なぜなら先が見えないからね」

「だが、先が見えなくても己の体調を崩さず、また保管するという意味でも食い尽くすなどはしないはずだ」

「甘いね」

 

 リンネは嗤う。

 

「彼女達は先が見えない、それは間違いではない。いや、人類は常にそうなのだからそれを忘れてない君たちは優秀だと言っていい。全員経験を忘れていない、いい証拠だ。しかし、その先が見えないに段階があることを君たちは知らないんだ」

「何を言っている」

「正確には予測できない、と言っていいかもしれないね」

 

 彼女は、近くにあった薬味酒をゆっくり飲む。

 

 少し苦いが、アルコールと少し付け加えた砂糖がいいアクセントとなって喉越しと風味に特化しているらしい。

 

「予測、というのは『体験』『保存』そして『定着』によって出来上がる。人間というのはそれを元にして先の見通しを作るんだ。今まで経験してきたことを覚え、同じケースを何度か経験すると定着する。ただそれは裏を返せば『同じことを何回もできる』が前提になってくる」

 

 食う寝るも、言葉も自由もない時期から何回も繰り返して覚えるものだ。

 

 社会的な活動の失敗や成功も、同じようなことを繰り返し体に馴染ませる。

 

「同じこと、いや、行動というのには莫大な資金とサポートがある。たとえば逆上がりを習得するまでには学校が必要で、学校にはまた教員がいる、教える教員、そして養護教諭。教えるためにはさらにそこから教科書があり、書く人と出版する人が必要だ。道具も必要だね?逆上がりするための鉄棒、そしてそのサポート器具を作ったりする人……色々な人間が関わって逆上がりを習得するまでの体制が出来上がる。この環境の一つを、税金で作り上げている、そして作り上げて自分の世代、いや、次の世代の基礎にするのが社会というものの本質だ」

 

 ただ、その輪にあぶれたものはどこでその教育を受ければいいのか。

 

 それだけじゃない。

 

 どういう経験を積み、どうやって己を自立させ、そしてどこに行けばいいのか。

 

 そう言ったもののヒントさえない。己が生きていくだけに必死で、そして生きていくために遠慮もできないのが貧困者の現実だ。

 

「君たちはそう言った”多大なるサポート”の上で育っている」

「お前は違うとでも言うのか」

「そうでなければ私はハクジツと出会えなかった」

 

 ハクジツは目を逸らす。

 

 同じ孤独同士で惹かれあった彼女達は、その見たくもない、口にしてもどうしようもない不条理で愛を育んだのだから。

 

「その一つ一つを自覚する、周知させるが出来ない時点で君たちは透明な子供達(エキストラ)を見つけられないだろう_____だから、君たちは誰も助けられない」

「助けを求められれば!」

「その叫びを君たちが知覚することもない」

 

 リンネは言い切った。

 

 冷たく突き放すように、理解できない壁で押し付けるように。

 

 少し時間が経った後で、また彼女は口を開いた。

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