シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

146 / 163
LastCase:再誕作戦/衝突

「君達はその叫びを”我儘”として聞き届けるからね」

 

 彼女は、事実を淡々と述べる。

 

「『これが欲しい』『あれがないと生きられない』そう言ったフレーズを何度も聞いたと思う。何かをねだるときにね。実は人間は、本気で欲するものをそう表現するんだ。分かりやすいし。だけど君たちはそれを言った時に……いや、君たちでは話にならないか。どうしても欲しいもの、必要なものを自分で勝ち取ってきた真の強者だから」

 

 手を挙げてやれやれと首を振るリンネは、少しばかり常識を口にした。

 

「大体そう言う時って『我慢しなさい』や『これやったら買ってあげる』とかになるわけだ。そうやって何かをやってその礼にあげると言ったものだし、それを超拡大+難解化したのが雇用関係なんだからね。でも、学んでない子達にはそれが分からない。何故なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から」

「それらは見た目や話を聞けば解決できる問題じゃないのか」

「はっきり言ってあげよう。君たち以外には難しい」

 

 言い切った。

 

 実際に過激派を救ったゼンヒ、自分たちが苦しくても全く気にも止めずにそこに物言わず佇んでたシロコを救ったホシノ、そして求める側だったハクジツに、どっちのことも見てきたシャルアー。

 

 彼女達は弱者を救えるほどの強者と勇気を持っていた、実際にしてきた、故にリンネの敵なのだ。

 

「君たちは実際にやってきて、触れていて、どうやって助けるのが一番か知っている。いや、初めてのケースでもどうやって助けるかが分かるくらいの才能がある」

「おじさんはそんなことないよ、あれも偶然だった。事実他の子は」

「その時点で砂狼シロコがキーパーソンだと分かる証拠もない。あの時の君は善意で満ちていた、故にその力に飲まれかけた。一人で解決することによってね。それはユメも評価していた」

「……」

「話の続きだ。

 だが、他の人はどうだろうか。ギブアンドテイクが骨の髄まで染み込み育ってきたと言うことは、欲しいというそのただ一言にどうやって返すと思う?」

 

 皆は口を閉じる。

 

「言えないよね。君たちはそれを言うような状態で育っていないから……じゃあ代わりに行ってあげよう。『我慢しろ』と」

「_____」

「たとえば災害にあった時、いつかは復旧する、いつかは元の状態に戻れると思っていてもその被災した人物達は必ずしも適正な消費の仕方をするとは限らない。不安に駆られ、食べれるものは全部食べ、そしていつかいつかと幸せだった時を夢見ながら待つ」

 

 極限状態では、普段の理性も失われる。

 

 事実、避難所では女性に対するセクハラをはじめとしていろんな問題が起きる。人がいるどさくさ故の盗難も、自分の家が無事ではあったが周辺で買えるものが全滅しているからと公民館などに物資を取りに行っても自分たちのところにいないからと分けられるのを拒否される。避難所は別に最終地点ではないのに、そうして堰き止めを起こしてそれ以降必要な人間に振り分けられることもない。

 

「この世界も同じことだ。子供と大人の区別があって、意地悪い大人も多いが大体は若く未来を作る子供のためにと皆がリソースを注ぎ込む。

 だが!」

 

 リンネは立ち上がった。

 

「その子供達とは学園に所属している子供達だ!ヘルメット団はその社会に完全に適応できなかっただけで、普通に戸籍は持っている!戸籍もない子供達、少女らはどうなっていると思う!」

「それは」

「言わなくても分かるだろう!『無かったことにされている』んだよアリウスのようにな!」

 

 そろそろ、殺し合いが始まるか。

 

 ゼンヒは腰の銃に手をかけて睨む。

 

「だが彼女達は今普通に生活が遅れている。それは何故か!シャーレが介入できるだけの理由があったからだ!ゲマトリアが!」

「違う!ゲマトリアがなくても明るみになった以上、トリニティの解決する問題としてシャーレは介入した!実際桐藤ナギサの補習授業部の件から始まっている以上、いずれぶつかる問題だった!エデン条約の一件がなくても、三大学園であったからシャーレの介入は時間の問題だったんだ!」

「ではその時に彼女達は”救うべき相手”と認識されたと思うか!」

「それは!」

「はっきり言ってやる!答えはノーだ!」

 

 もはや有無を言わさぬ勢い。

 

 大声で、口を閉じた彼女にリンネは追撃を仕掛ける。

 

「先生は模範・規範だ!シャーレは連邦生徒会、キヴォトス、いや、少女達の阿頼耶識の具現化を、彼女達の妄想する救世主の姿で作り上げただけの偶像にすぎない!その偶像がゲマトリアのいないアリウスになんて言えるか分かるだろう!」

「分かるものか!先生は普遍的であるべきならば仕事上は絶対に手を伸ばす!」

「『気持ちはわかるけど武力行為は良くないよ』だ!」

「あの活動を見てそう言ってるのか!?だったらFOX小隊に対して、不知火カヤに対する反逆は内乱罪として処される!RABBITも処されて、ショウコもユリも少女達の妄想によって処刑されていたはずだ!それが規範だ!」

「なら少女達の規範とやらはすでに機能していないじゃないか!男一人の手に落ちるだけの脆弱なルールなんざ何の役に立つ!」

「その規範で今まで私は助けてきた、一度大暴走したアリウスの過激派だって飲み込めた私が少女達の規範で助けてきたんだぞ!彼女達の悲鳴が聞こえて、その内情を理解できたから!」

「過去のないお前がどうして誰かの気持ちを慮ることができる!?」

 

 ゼンヒがまだ、言われたくないことを堂々と言って黙らせるリンネ。

 

「________私は」

「人には過去がある!さっき言った教育も、その教育のもとで得た自由も、思想嗜好も全て過去があって初めて出来上がるものだ!その教えに”ギブアンドテイク”が仕込まれた子供達は、浮浪者達の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!その例に漏れるように見えた弱者の救済だって、そこには『悲哀を誘う相手に涙する自分』に酔い続けるためだけに存在する!アリウスのあれもゲマトリアと言うものが絡まなければ歴史の汚点にしかすぎない!そしてその”程度”では悲しむ理由もない!」

「人が迫害されて内戦も起こした歴史が哀しくないとでも」

「バカを言うな!内戦”程度”で大衆(バカ)が泣く訳ないだろう!寧ろぬるま湯にいてこう言うんだぞ……『内戦できるほどの資材があるならみんなで協力すればいいのに』と!」

 

 リンネは怒り、机を蹴る。

 

「できる訳がないだろう!彼女達にとっての規範は、戦争しないと消えていく!なのにその規範を知らずに堂々と己の価値観でそんなことを言う!」

 

 憤りが、声となって部屋を震わす。

 

「それは浮浪者達も一緒だ!普段ああいった人間は限界まで食べるのを繰り返すから太っているが、基本的に食べれるものは安物の甘いものや脂っこいものだ!野菜などをたくさん食べれるような生活にないから、あんな姿になる!それを彼女らは太っていることを悪として自己管理を糾弾する!何故なら自分たちの育った基準はそうだったから!その一つで!」

「その摂理を解き明かして論文化して発表し、メディアに伝えるやつだっていたはずだ!」

「それのどこに娯楽がある!大衆が、中流層を支配するための快楽はそこにない!何故ならそれの結論は『何も言わずに分け与えろ』しかないからだ!しかも今は”普通の価値”が跳ね上がっているじゃないか……時代に色々なものを求められた結果、そこから溢れた中流層もいる中でそれが罷り通ると思うのか!?」

「だが結果的に一次産業・二次産業などの人手不足に役立つはず______」

「誰がそうなりたいと思う!?この少女達は自分が汚れる仕事を進んでやりたいと思うのか!仮にそう言った人間が沢山いるならそもそも差別どころか浮浪者達を助け出す仕組みに漕ぎ着いているはずじゃないか!」

 

 キヴォトスの少女達は、上へ上へと目指すか、青春に喘いでいる。

 

 その中で望んでもない限り肉体労働を好きでやり続ける人間はそうはいない。そもそも中流階級でさえ、シャーレに基本的に絡んでいる上層部ないし運がいい奴らを妬んでる時だってある。自分が特別だったら、という思春期の欲望の中でその特別を享受する同年代を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()この社会でわざわざ原始的行為で目立とうとする人間はいなかった。

 

 そこは先生のいた現実と変わらない。

 

 先生のいた日本では『コンクリートから人へ』と本来そのインフラ整備前提の生活をしていた政治屋が煽り続け、韓国はそもそもその人間性から常に最先端で目立ち、何かしらの才能や結果を持ってないと死ぬしかない状態になっている。中国に至っては、文化大革命と称した徹底的な文化破壊によって政府の言う通りにできないと死ぬが蔓延した結果『納期以外は出鱈目』が罷り通る始末である。

 

 だがどれも、第一次・第二次産業が壊れる原因となった。それが大人よりも子供が多く様々な学園があるキヴォトスとはいえ、キラキラした職業以外に特に用事もないのだろう。おまけにキヴォトスはそう言った単純労働やそれに準する職業の分野で人工知能の利用が目覚ましい。

 

 結果として、強い学園に入って何かを手にするが前提になっており、そこから溢れた人間などに用事はない。

 

 そこに神秘などという”異能”が存在すること、これがどれだけ不条理だろうか。

 

「だから私は君たちと決着をつける!ゼンヒもシャルアーもここで倒し、先生の力が及ぶ前に弱気もの達で喰らい尽くし、アロナの福音書(シッテムの箱)に結末を記そう!」

 

 地面が揺れ、部屋の中には羽が舞う。

 

 彼女を包む、と言うことはすでに変異する前提というわけだ。

 

「そして、ハクジツ」

「_______!」

 

 最後に最愛の人の名を呼んで、彼女は人間の姿を捨てる。

 

「その世界で、永遠に愛し合おう。私達が、新しく誰かを救えて、その者達同士で愛し合える世界を」

「リンネ!」

 

 建物はもう屋根を失い、周りは建物というアイデンティティも崩れ去った。

 

 あるのはただ。

 

 数えるのも馬鹿馬鹿しくなる翼の柱と、

 

 その奥にある神殿である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。