全員外に出て構える。
翼の柱は何処までも伸びていて、そのうち細いのが狙いを定めようとしていた。
「あはは、随分と激しいお出迎えじゃないか!これくらいじゃないと流石にセーブが頭に出るからな」
「だが、三人でどうする?ヘイローAEDも無尽蔵にある訳じゃない。このままではジリ貧だぞ」
「開発局の人から貰ったデミ・セラフィムもいくつもないし……どうする?」
「どうしようねえ……危ない!」
ホシノの言葉で散開。
地面は砕け、何かが飛翔してきたことを知らせ、その上で敵だと告げるくらい禍々しいほどの鉄の擦り切れ音が聞こえた。
「いやあ、行っていいよとは言われたけどまさか四人だけとはねえ」
「……ユメ先輩!」
梔子ユメが、やってきた。
「あれれー、ホシノちゃん。待ってたよ〜」
「私は逃げ出す訳には行かない」
「他のアビドスの子達はどうしたの?」
「今回の戦いだけは私と先輩の問題です。この確執を解消するにはどちらかが倒されるしかない、だから別の仲間に頼った」
「ふーん……」
そんな彼女は、今回はドレスを着ている。
肌の露出は少なめだが、全体的に黒いドレス。喪服というわけではないにしろ、高級感があり目立つ。
「あ、これ気になる?リンネが戦化粧にって色々くれたうちの一つ。戦闘用のドレスなんだってね。綺麗でしょ、関係ないか」
「綺麗だとは思いますけど……それをしっかり見るのは戦いが決した後です」
「そうだね」
ホシノは戦闘態勢を整えて、他の三人に言う。
「ユメ先輩は私が抑える。先に行って」
「下手に戦力を分散させる気か?あの柱が追加でお前に攻撃する可能性だってあるぞ」
「下手に人質を取られて動けなくなる方が最悪だよ、死ぬなら私一人で挑む。死ななかったら合流する、それでいい?」
「……任せていいんだな」
ゼンヒは確認を取る。
彼女は頷き、笑顔を見せた。
「先輩にきっちり痛い目を見させて仲直りするしかない。だから、早く」
「わかった。決着が付くよりも先にこっちが決着をつける」
「期待してるよ」
ゼンヒ達は、そのままホシノを置いて神殿へと近づく。
残ったホシノは、そのままユメと対峙。
「これで二人きり、ですね」
「うん、二人きりだね。ホシノちゃんが死んでも、ちゃんと私が看取ってあげる」
二人は微笑んでいる。
あの時の青春が蘇ってきて、お互いに悔恨を持っているのにも関わらず楽しくなってきたようだ。
「まだ死神にお世話になるつもりはないよ!」
「かかってきて!」
二人は口角を上げ、盾を構え、そして_____
一呼吸をあげて突撃した。
盾同士の衝突により火花を散らせたこの戦い。
お互いに盾を引き、そのまま持ち上げて今度は鋭角より殴りつけるとお互いの狙いが真正面から交差して鍔迫り合いを引き起こし、絶妙な力加減をしながら射撃戦。
だが、この状態、つまり片腕が使えずお互いに近接を防ぐべく鍔迫り合いする攻撃だとショットガンを持っているホシノの方が有利だ。
「あぐっ」
「まだ!」
至近距離で弾を浴びたユメはそのままノックバックするが、その時に引く勢いで盾を持ち直し正面に固めてタックル。
片腕で撃っても平気なキヴォトス人とはいえ、盾の鍔迫り合いが急に解除されると態勢は崩れるようだ、そのままタックルに当たってぶっ飛ばされて転がる。
「うわあ!」
「へっへ、甘いね」
互いにダメージを負った状態で、元の間合いに戻った。
「流石に楽しくなってきちゃったね。本気で戦える、しかも私の真似してるホシノちゃんに!」
「先輩!」
「盾を受け継ぎ、本気で守ろうと思って鍛えないと私に辿り着けないことを知っている!ホシノちゃんが生き残ることは正しかったのかもしれないって、若干思い始めてるよ!」
「やめて!私は!」
「泣き言を言う暇があったら殴ってきたらどう!?私は心の底から楽しんでいるからね!」
唇を噛み、瞼の痙攣を起こすほどの痛みを文字通り味わってからホシノは立ち上がってショットガンのリロードをして走り出す。
「私を恨むのなら、そう言ってください!あの時の私は、確かに、確かに先輩のあの願いさえ聞いてれば何も失うことはなかった!あなたの命も!」
「恨んでた時もある!私のことどうでも良かったんだって!でも、そんな恨みよりももっと知りたいことがある!」
互いにもう一度シールドバッシュをして、盾の向こう側から声を投げ合う。
「私が死んだ意味を!」
「先輩……!」
一歩引かぬ盾の衝突。
「あの時、確かにホシノちゃんによって死んだのは間違いないかもしれない!実際私のトンチキじみた解決策を一緒にやって絶望して、現実見始めたホシノちゃんはそう言うのは分かっていた!アビドスに住んでいるから迷いもしないだろうと言うのも!だけどそれに何の意味があったのか、私はそれを知りたい!」
「先輩の死に意味はない!あって欲しくない!あれは、あれは私の失敗と、永遠に癒えない傷であってほしい!」
「今私は生き返ってる!」
「でも先輩を苦しめたのは私だ、その苦しみだって覚えてるならそれを無かったことにしてはならないんだ!」
ホシノは盾で押す時に、自分の小さくて、かつ力のある身体をバネにするように地面を蹴って急激な押し方をした。
受ける側も負けてはいなかったものの、弾丸のようなパワーが急に加わったことにより自分の力の使い方、耐えるように使っていた筋力の均衡が崩れて弾かれる。
「貰った!」
仕掛けた側は盾を下にして飛ばないように自分の姿勢を低空で維持しつつ、何発もショットガンを連発して相手を削る。
「きゃあっ!?」
地面も散弾で崩れ、その上で盾を持っていたせいで逆にバランスを崩し、ユメは回りながら地面を転がった。
ホシノは立ち直す彼女を見つつ、自身は一切不動の構え。
「私はあの時の喪失があったから、誰かを助けることを一切拒めなくなった!関わることだってそうだ!学園に入ってから自分が絶望しないように色々してくれたユメ先輩に勝手に失望してあんなことを引き起こした後に……後輩の助けになれるようにやってきた!他の学園で友達をも出来たけど……それはユメ先輩を殺した贖罪にはならない!だって貴女には何にもなってないから!」
「ホシノちゃん________」
「私が永遠に背負うだけの罪のためだけに死んだ、運命がそう言うのなら私はもう背負う覚悟を持って進んでる!だけど、死ぬことも殺すことも、どれにも大義はあって欲しくない!」
彼女は叫ぶ。
「意味がないから罪になるんでしょう!?」
殺すことに、意義があってはならない。
死ぬことに、意味があってもならない。
失くすことに意味を与えて満足してしまったら、人々は引き算という取り返しがつかない事象を軽く見てしまう。意味を与える行為を覚えたら、善悪のバランスが壊れて人々は取り返しのつかないことをする。
ユメが生き返っても、それを無かったように甘やかして償うことは一切考えてなかった。むしろ、敵になるなら自分の傷を抉ることになっても堂々と立つことをホシノは選んだわけだ。
「________」
「先輩」
「ホシノちゃんは、本当に最高の後輩だった……いや、いつまでも最高の後輩だよ________」
本気でそう思っているのか、今の言葉を受け止め、表情がないままに彼女は構える。
「じゃあ、ホシノちゃん。生き返ったから、私から一つお願いしてもいいかな」
「……何ですか」
「この戦いに決着をつけたい。延長戦も、ドローもなし、ここで全て終わらせよう!」
「わかりました」
互いに歩きながら、構え、機を伺う。
「次の一撃で終わらせよう。その時に私が負けたら……全てを語ってあげる」
「私は絶対に勝つ、シロコちゃん達がいるから」
「行くよ」
「はい」
互いに微笑み、銃を構え、盾を持ち________
駆け出した。
互いに盾を構えず、寧ろ最後の一撃を繰り出すための鉄塊として振り回し、振りかぶる。
「今だ!」
「そこ!」
ショットガンとリボルバーが互いに敵に口を開ける。
撃鉄とピンが、同じように雷管を叩いて火薬を炸裂させ、敵を屠ろうと吠える。
「っ!」
ホシノにその銃弾が当たって、それが血を流すほどの一撃になる。
どうやら使っていたのは流出していたセラフィム弾らしいが、予定よりもだいぶ逸れたのか彼女の額を掠めるだけに至る。
しかし散弾は、その程度ではない。
「うぐ」
確実に突き出し、至近距離にあった相手のリボルバーと手に降り注ぎ、それは破裂。銃弾への衝撃がないため暴発はしないものの鋭い破片が逆流するようにユメに襲いかかっては腕を服ごと切り裂いて飛んでいく。
この傷が決定的な差を生んだ。
銃の反動を利用して盾の一撃を叩き込もうとする両者だったが、ユメは腕の出血や装備の破損による乱れで視界不良。おまけに撃たれた反動は利用できないような前面でのノックバック。
「終わりです!」
ホシノは、容赦無くそこに飛び込んで盾の鋭角による一撃を叩き込んだ。
可動部に傷がないために想定通りの一撃であり、これが結果を確定させるものとなった。
盾がめり込み、それがユメの肉も内臓も圧迫し、挙句にはその影響で声も出ないまま________
吹き飛んで瓦礫の山に突っ込んでしまった。
彼女自身の盾は吹き飛んで、もうどこにあるかもわからない建物の彼方へと消えていく。
「はぁ、はぁっ」
流石に痛みがひどいのか、適当に持ってきたガーゼで頭を巻きながら自分の愛した先輩に近づくホシノ。
殴り飛ばしたその少女は普通に意識があるが、出血並びに先ほどの攻撃による打撲で動けないらしい。痛そうな顔しながら、歩いてきた自分の後輩を見て口角を上げる。
「はは、流石に強いや。分かってたけど」
「私が暁のホルスだから、ですか?」
「私の時以上に仲間に囲まれて生活してたんでしょ?流石に、ね。負け戦だったっぽい」
ホシノは、どんな表情もせず、ただ淡々と口にする。
「先ほど勝ったら全て話すって……どうして、私達と敵対したんですか」
「________聞かせてあげるよ」
ユメは、自分の思いの丈を話した。