暁に見える夕暮れ。
ユメは口にする。
「私が死んだ意味は、実はシャルアーちゃんがあの時に語ってたの」
「なんて?」
「『死んだことより死ぬまで貫いた意思が小鳥遊ホシノに受け継がれたことによってカイザーグループに巨大な土地を与えず、子供たちの居場所を守る好例と後継者を産んで大人に対する無力感を生まずに済んだ』って」
「私が、後継者」
「あの時は素直に喜んだけど、それでも私が戦うのをやめる理由にならなかった」
彼女は微笑みながら、ホシノを見た。
「君は後継者だよ、そして私よりも多くいろんな子たちに手を伸ばしたし、同じくらい助けられたでしょ?それが答えだよ、立派な」
「……でも」
「君は行動で示した、罪が口を拭うけど、やったことは嘘をつかないから」
「私は先輩を……っ!」
泣き崩れたホシノを、受け止めるユメ。
「私が彼女の味方をしたのは、私たちみたいな子達を救うにはああするしかないって思ったから。私にとっては、やっぱりあの苦しいだけの人生で終わっちゃったから……その時点で、苦しくても投げ出さなかったホシノちゃんとは違った」
「私は殺してしまった!」
「誰もあの選択が重要だって思わないよ。でも、人生ってずっとそうでしょ?だから私はホシノちゃんをしっかり恨んだことはないよ。恨もうとして、でも仕方なかったって、そんな反芻を繰り返す哀れな死体だったね」
彼女たちは、ゆっくり抱きしめ合う。
「シャルアーちゃんの話がなぜ効かなかったのかの答えが、それこそリンネの誘いに乗った少女達だ」
「あれが?」
「うん」
ユメの顔から笑みが消える。
「あの子達はそもそも無力だったし、それが身に染みてわかる状態だった。アビドスの時より金以外ない生活をしてたから、何度も彼女達のことを見たよ。薬を手に入れたらみんな群がって、ありがたがって、そして薬を吸引して溶けていく。でも止めても、私は彼女達を幸せにできる事はない」
その場の少女達を救ったところで、そこから先のビジョンがなければ自滅行為である事は自覚していた。
「あの子の言葉は本当かもしれない、ホシノちゃんと言う継承者と戦える生徒がいれば子供達が大きな未来を切り開く事は可能だって。けどね、その時みた少女達は、その子供達の中にいなければ、むしろ迫害される子達なの。私がイコンになることは別に問題ない、そうしたければそうしてもいいけど……そうしたら尚更その子達は迫害されるかもしれない。先生が触れられないところに、みんな追いやるだろうから」
先生は浮浪者の子達と会った事はない。アリウスが特例と言っていいほどだ。
どんな落ちこぼれ、それもヘルメット団みたいなのには関わりがある、しかし浮浪者にはそう言った関わりはない。
「先生がそれに注力した時に、高官達は自分たちのコントロールもできない以上は一気に混沌化する。これは確かに避けることかもしれないけど、でも、本当に救うべき子達が一切触れられないままだよ。それって最悪テロリズムに派生しかねないし、もう一人孤独なシロコちゃんを生みかねない。プレナパテスだって……だから、どんな形でも引っ張り出すしかなかった。みんな結局、福祉に金を多くは振らない。福祉という”綺麗事”で金を搾取し、私腹を肥やすに留めるだけだから」
見えない子供達をストーリーに組み込めば、それだけ危機感を煽って回避できるだけの事件だと思っていた。
先生だけではない、いろんな権力を持つ生徒達の改革もあって初めてキヴォトスは安泰になる。なのにみんなそうしない、いや、していても対して効果が挙げれてない。連邦生徒会に至っては”かっこいい”程度の思想でクーデター起こす議員も出る始末。
「リンネはそうやって革命を求めていた、渇望していた。だから私は、私を認識できているかどうかも怪しい、そして私自身の納得のために彼女の側についた。ホシノちゃんと戦いたかったのもそう、でも彼女達の助けにもなりたかったんだよ」
「先輩」
「なぁに?」
優しい声のユメの手をそっと握ったホシノは、細くなる声で話す。
「ユメ先輩が一番、この世の中に絶望していたんですね」
「……え?」
「アビドスが急激に崩壊した時から、ずっと」
ホシノは、思いの丈を話すことにした。
「今、こうやって話して分かった気がするんです。あの時水筒を拒否したのは、確かに不要だと判断してのことだった。でも、よく考えれば先輩は言葉の通り私の上で、私よりも偉い立場だった。強行することは全然可能で、金額だって大したものじゃない。私の慢心さえ無ければ、そもそも理に適ってるものでしたから」
しかしそれを無理に買いたい買いたいとせがまずに、不貞腐れながら手を離したあの時。
「アビドスの砂害は正直酷い、砂が積もることを考えれば地形が変わるレベルでの経路変更だってありえた。だけどそれすら訴えなかったのは、その時から既にこの世界に愛着が湧かなかったから……そう、ですよね」
「_____そう、かもね」
ユメは否定しなかった。
「だって、アビドスが衰退するあの時から貴女は自分の青春が破壊されていたも当然だったから。なんでもかき集めて再建しようとしても、周りは敵ばかりで助けてくれなかった。その時からすでに、あの少女達にようにこの世の何もかもに失望していたとしてもおかしくはないと、そう思えました」
「ホシノちゃん」
「何もかもを捨ててしまおうとして死んだとしたら、少しだけ辻褄が合うような気がするんです。タイミングそのものは偶然だったとしても……」
ホシノは涙も枯れ、ただ思ったことを素直に伝える。
「……ユメ先輩が今まで言ってきたことは全て本当だと、私は思ってます。私だけが生きて仲間に恵まれて、幸せに暮らしていることを恨んでる事も。自分がどうして死んだのか、死んで何の意味があったのかと悩んでいる事も。でも結局、あの時から先輩は死んで消えてしまいたかったんじゃないかって……そう思えます」
彼女は目を伏せ、呟く。
「消えなかった苦しみと絶望は、きっと計り知れないものです。だって、誰も生き返るなんてことしたことないから。でも、そうだったなら……私がしたことで無くても、すでに贖罪する方法はなかった」
「……ねえ」
既に暗いことしか言えないホシノを、もっと強くユメは抱きしめる。
「先輩……?」
「そこまで分かってくれてるなら、もう口にしないでいいよ。そこから先は私が話したいことだから」
「でも」
「同じだけ苦しむことが“償う”ことじゃない。代わりに何かをしてもらう、でも十分に出来ることだから」
彼女は、もっと深い本音を話す。
「私は確かに絶望はしてた、希望がなかった。だからせめてと自分が楽しい方法で時間を食い潰すことを選んだ……でも、その時間はとっても楽しかった」
「_____」
「それは私の最後の青春だったんだよ、ほんとだよ?だから私の青春はホシノちゃんとの二人三脚全部が、私にとっての宝物で幸せなんだ」
微笑むユメの顔には、一縷の涙が見えている。
「だから私は、先生が居なくても楽しかった。先生がいる前の世界でもう二度と戻らない青春を歩目たことを誇りに思ってるんだよ……」
「先輩」
「でもリンネちゃんも、他の今犠牲になっている子達にもそう言ったものは一切ない。だから教えてあげたいんだ、それでも先生みたいな救世主の有無も関係なしに楽しく幸せな生活は送れるって。自分達はやれるぞって戦って散って……ホシノちゃんから先生に向かってのラインでこの事件は絶対に陰に潜まない、だから先鋒を飾りたかったんだ」
お互いに手を握りしめる。
ゼンヒ達は突入をするために翼の柱を叩き折っては分解しているのか色んな翼が折れて地面へと倒れていくのが見えた。
「この戦いは、あの子達を表に引っ張り出すだけで概ね勝ちなんだ。それだけは揺るがない」
「でも、それで危害を加えたら……」
「リンネは結果を知りたいんだよ」
彼女は言う。
「先生達がどう出るかによって未来が変わる」
綺麗事なしに全員を救ってみせたなら前例として記憶されて素晴らしい歴史として何度も語り継いでもっと社会を良くするだろう。
全員排除して殺すならばそれはもう才能という条件で階級が決まり環境に依らず全てが生まれで決まる縦型社会が出来上がるだろう。
最後にこの戦いがリンネ達の大勝利で収めたとしても、シャーレが結局最後の砦として機能するなら既にこの都市の子供達に力はなくて良識ある大人の見せかけの幻影に踊らされていたと言われるだろう。これを超えても、あるのは力だけしか頼る物のない終焉の社会だ。
これのうちどれかになるにしろ、結局どれも大体は浮浪者・弱者達を社会の面前で凱旋させて結果を得ることができた。救済ならそのまま受け入れ、排除ならば死により苦しまずに消え、革命が成功したなら自分達の時代が始まる。
ともかく、何もしないよりも全てがいい手段だ。結果を得るために侵攻するのが唯一の正義なら、本来正義を抱えて庇護するはずの政治に一切頭を下げずに喧嘩を売ることもまた、得策に見えた。
「私は、そのダイスを振るための協力者だった。彼女もそれを分かっていたから、私に変な薬も改造も何もせず、ただ自由にさせてくれてた。私がホシノちゃんからシャーレへと芋蔓式でギャンブルへと引き摺り下ろすために」
「だから戦ったんですね」
「でも本気だったんだよ?負けちゃった」
笑うユメの顔は、少し作ってるようにも見えた。
「死ぬ訳じゃないけど……悔いは、無くなったかな」
「……先輩がそう言うなら、良かった」
「少しだけ休憩したら、私達もあっちへ行こうか」
「はい」
二人はそっと笑って、休憩した。
夜になっても輝くサーチライトに、無秩序な翼の柱の乱立。
「ちょっとだけ、綺麗だなあ」
ユメのそんな呟きは、風に消えていく。
彼女達は決着をつけた、納得出来る結果を手に入れて。
次はゼンヒ達の番。
神殿と天使達の融解に立ち向かう少女達の結末を_____
世界は、望んでいる。
《後書》
どうも、らんかんです。
シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官、ラストの事件を楽しんで頂けてるでしょうか。楽しんでいただけてたら幸い。
これが今年最後の分になりますが、皆さんいかがお過ごしだったでしょうか。私は色んなものに手を出してはやめてを創作でも繰り返してたので一見何にもなってないですが、ちょっとずつ色んなスキルが手に入るようになりました。
シャーレ前交番はもうそろそろでエンディングを迎えますが、来年1/4には1周年になります!最初は1周年に間に合わせるためにも頑張っていたのですがどうも間に合いませんでした。1周年でキッパリ終わり!ってしたらカッコよかったんですけどね。
ともかく、この作品はそろそろ終わります。
書いているうちにみるみる評価下がって悲しみを抱いていたりはしますが、もしあわれんで頂けたりさっさと書け!って言う方は高評価とか感想をもらえると嬉しかったりします。(⭐︎9が一番嬉しいです、10はまあ完結してから考えてもらって見ていいかと)。
感想の時には良ければですね、今までこの作品で出てきた中で好きなキャラとか教えていただけると嬉しかったりしますので、よろしければご協力お願いします。実際の反映例は今書いてる「ここだけちょっとカッコいいマコト様」になります。
来年の初めにはこの作品は終わりを迎えることでしょう。それまでの熱い応援をよろしくお願いいたします!
また、LastCaseの最初の方で挨拶を忘れていたためにどっかで書くと思います。その時は追記で書いた日付を付けておくので(あーなんかやってんな)ぐらいに思っていただけると。
では、良いお年を!
らんかんより