突撃している彼女達は、何度も翼をへし折り、切り裂いては進んでいる。
ヴァイキングが己の力でヴァルハラに辿り着くために行進しているようだ。
「くそっ!斬っても斬っても減りやしない!」
「だが前進している!先鋒を頼む!」
「だめ、こっちは何度も飛ばしてるけどまた追いついてくる!」
「シャルアー!刀を!」
「ほら!」
ゼンヒは
三人がいるところはリンネの生み出した神殿の前の下町。しかし全部翼で出来上がった、グロテスクでないのに優美とも思えない場所を進んでいるのだが、ところどころ大小の翼の柱が生えてきて突っ込んできていた。
その上を歩いている以上振動でどこに誰がいるかを理解できるのだろう、虫が体の上を這い回ればどこにいるのかが分かるのと一緒だ。
「来た!」
翼の柱は、ゼンヒに向かって一直線に進んでいく。
それを彼女は、刀を構え待つ。
刀の範囲、すなわち刃の腹のところまでくればいい。
「今!」
武道に則らない雑で力任せな回転斬りをする。
翼の柱が彼女の体に到達する前に、それらが全部切り裂かれては落ちていく。
「よし!」
「ナイス!流石は私の友達だ!」
「これくらいはね」
ウインクすると少しだけセツカっぽい彼女。
この時のゼンヒには、セツカが繋いだシャルアーという縁と、リンネが繋いだハクジツという縁があった。
お互いに優劣もなく彼女に協力するし、彼女もまた、二人に優劣もなくサポートする。
今の陣形はシャルアーとゼンヒでそれぞれ大剣と大太刀を振り回して翼を削ぎ落としながら、ハクジツがデミ・セラフィムの銃弾で牽制と削りを担当。
その結果、上手く進んでいる。少なくとも止まっていることはない。
「これじゃ辿り着く前にやられちゃうかもね!」
「大丈夫だ!私らは負けはしない!」
「必ずハクジツを王子様の元へ連れていく!」
三人の勇士は、今まで住んでいたような世界とは思えない場所を進む。
刀剣は氷のように青白く光りながら切り裂き、それはまた使用可能なリソースになるまで翼の奥に染み込んでいく。それを振り回せば、少なくとも道は開けた。
だが、遠い。
彼女のためにと名誉に酔う弱者達はもれなくリンネのリソースになっているのだから、当然その勢いは強大。自分勝手じゃないにしろ、みんなでいい思いが出来るようにと人の形を失うまで願っていた浮浪者達はたった一人の英雄のために、悪者へと出来る限りのアタックをかけていた。
みんなで掛かれば効果があるのは本当だが、一番望む相手の死まではまだまだ遠い。それでも文字通り一体となって襲うことに躊躇もないのが分かる。
『みんな!あの人のためにここで絶対に食い止めるよ!』
『おー!』
どうやらここら辺は自我だけはたくさん残っていて、自発的にエネルギーとなって協力しながら戦っているらしい。
そんな純粋で、力を手に入れたからこその希望が容赦無く三人に襲いかかる。
「舐めた真似しやがって!」
シャルアーが先陣を文字通りぶった斬る。
翼の柱は少し性質を変え、手足や触手を生やして相手を拘束させて圧死させようとしてきていた。
「くそっ!仕方ない!ゼンヒ、とっておきを出すからハクジツを頼んだ!」
「了解した!」
彼女は双銃を取り出し、射撃して相手を吹き飛ばしながら唱える。
「其は神、十三の使徒、そして数多の戦乱と楽園の微風によって刻まれた氷塊の烙印」
双銃アンティノラは55口径の大型ハンドキャノン、しかも強装弾。
相手が防ごうとすればするだけ、本来銃弾を受けても無傷で済ませるはずのバリアを機能停止して自由を手に入れたそれは貫かれては爆ぜていく。
「自覚なき天使の器、
銃弾が火花を散らして、誰彼構わず燃やす。
「轟け
撃ち込んだ弾丸が爆発し、炎の渦を祝い事のように起こして周囲を破棄しながら神殿の方へと進む。
『ギャアアアア』
「グッド!」
『まだ!諦めないで!私たちはここを任されたんだから!』
「黙りなさい!」
円柱のうち無事だったリソースと人格は別のところに統合されようとするが物言わぬ肉片になるまでハクジツはそれに銃弾を撃ち込む。
「あなた達みたいなゴミに興味ないの」
「えげつな……」
「なんか言った?」
「い、いや、あはは」
シャルアーは苦笑いしながら誤魔化す。
だが、事態はもっと面倒になっていった。
『抑えきれないからみんなで防壁を!』
『わかった!』
まだ残っている魂達は、そのまま防壁を作っていく。
神殿へと繋がる道を翼を何層も重ね合わせ、妨害するための壁を完成させた。
『ここから先は通さないぞ!』
『そうだそうだ!』
「ちっ、しぶといな。おいどうする」
「困ったな……ん?」
ゼンヒのスマホに着信。
「もしもし」
《リーダー!私です!ユリです!》
鹿嶋ユリだ。
「ユリ!無事だったんだな!」
《リーダーこそ!》
「どうした?」
《今すぐそこから離れて!》
「え?」
いきなり言われたが、身体は今までの危機で学んだことが身についているようだ。
自然と出たハンドサインと自分の飛び退きに驚きながらも下がると_____
空から音がする。
黒いミサイルみたいなのが何個か降ってきて、着弾した瞬間に大爆発した。
「うわあ!?」
《当たったようですね!よかった!》
「何をやったんだお前!?」
《今から支援砲撃を開始します!相手の本拠地まで一斉に飛んでいけるようにしばらく雨を降らせるので!》
「おいおい!」
そういう割には笑顔なゼンヒ。
だが、そこで電話しているということは当然相手にも聞こえてるに等しい。
『妨害しよう!』
『そうしよう!』
そんな声が聞こえて妨害が入ってくる。
だが、飛んでくる数多の攻撃さえ、彼女は大太刀を片手で振り回しながら捌いては一撃を入れて分断を繰り返した。
「最高だ!最高だよユリ!お前達は最高の仲間だ!」
《リーダー!》
ゼンヒのポテンシャルは最高となった。
何せ電話しながら大太刀を振り回して捌いているなんて、基本出来ないことなのだから。
「仕事をさっさと終わらせて安定させて、その上で支援砲撃をかますようなクールな兵士なんてそうそういない!」
《一回決裂しかけたのに》
「うぐ……羨ましいからって我儘言ったのは謝る。ごめん」
《えへへ》
その話を聞いていたシャルアーも少し微妙な顔をしながら、敵を切り伏せてる。
《でももう一回ぐらいは信じてくれたでしょ?だから頑張るんです!》
「ああ、頑張ってくれよ!最後の手柄は頂く!」
《ふふふ、ならもう一個プレゼントをあげよう》
声が変わる。
「カザミ!」
《今から支援砲撃で混乱状態に本体にミサイルぶちこんで無理やり入り口を開ける!ミサイルはエデン条約の時よりちょっと威力が上がった特別製だ!》
「それ私たち死なないよな!?」
《死なない死なない!何せ高低差的にはまあまああるからな!ちなみにもう撃った後だ!》
「バッ……」
ゼンヒが文句を言おうとした、その時だった。
黒いミサイルが、すっ飛んできた。
機械に迷いがあるわけなく、そのまま神殿に突っ込んでは内側から爆ぜる。
一瞬ブラックアウトと同然の視界の消失、聴覚も轟音でろくに役に立たない。
しかし、その中でも確かな手応えがある。
振動が何方向からも絶え間なく飛んできて、バラバラになった破片が体に当たる。
そんな時間が何十秒かあった後。
「嘘だろ……!」
「マジか」
「ええ?」
三人が唖然とする光景が広がった。
対してグロテスクでなかったところは、血肉こそ顕になっている場所はないが匂いがひどくなった。焼き焦げたよくない脂の匂いがするし、所々に人の形が見えている。
全員死んではないのだろうが、壁は崩壊、神殿も前方向は崩落。
《やりい!》
「加減ってものをなあ!」
《今撃ったのは広域用ヘイローAED。流石に効果を広げるために熱量が上がっちゃうけど、少なくとも当たった段階で輝薬の効果は消えて元に戻るからそのまま神秘の加護で傷が治るはず。指揮系統もおそらくその周辺は乱れてるから早く決着をつけてきてくれないかな》
連絡遅れた挙句にミサイルを撃ってくるようなやつに偉そうに言われると腹が立つものだが、裏を返せばそれくらいの気概がないとテロリストやって元気でいられる訳もない。それで尚更生きてきた人間の気力を否定したくもなかった彼女は、引きながらも答える。
「ん〜……わかった!急いで決着をつける!」
《こっちは相手の人員切れを引き起こせてるからそのまま援護続けるよ。よろしく〜、じゃ》
電話は切れた。
「どうだった?」
「今のミサイルは広範囲用ヘイローAED、つまりは再誕作戦の要を撃ち込んだようだ。今すぐに乗り込むまでは可能、そのあとは自分たちで決着をつけるしかないが少なくとも外の方は放置してて問題ないらしい」
ならば、やることは一つ。
「だから今のうちに神殿に乗り込んで、確実にリンネを捕まえてこの事件を終わらせよう」
「……わかった」
「ええ」
全員意見は一致。
誰一人欠けることなく、彼女達は走り出した。
周辺の様子も、終焉を醸し出すにふさわしい。
治ってきていても火傷に吐き気、急激な身体組成の変化もあって全員戦える状態ではない。そもそも元気だったとて武器は己の身体一つ。
警察とそれに追随できるくらいの無法者にはとても敵うわけはなし。
「この調子だったらこいつらが元気になる頃にはドンパチ始められそうだな!」
「始まっただけで別に勝てるかどうかは保証されてない!」
「大丈夫、私達はきっと止められる!そうでしょう、先輩!?」
「……ああ!」
道を駆け上がり、神殿へと瓦礫を避けるためにジャンプしながら突っ込んだ三人。
血生臭い匂いもなく、他の生々しささえない神々しい神殿。
「ようこそ」
________ユメとホシノが決着をつけた少し後の時刻のこと。
彼女達は、因縁の少女が待つところへと辿り着いたのだった。