戦車4台を二層積み重ねた面積の蜘蛛がそこにいた。
リンネが蜘蛛になったのは、ある意味では揶揄であったかもしれない。
蜘蛛が糸を使って巣を作るのは、糧を獲得しながら己の生態圏を確率させるためだ。
彼女は糸ではなく薬を広げ、自分のテリトリーを拡大しながらそこに迷い込んだ弱者を食い物に膨れ上がった。
「……気色悪い相手だな」
「ああ、だがこれ倒さない限りは私たちに未来がないってことだ。いけるか?」
「問題ない。ハクジツは?」
「頑張る」
「よし、いくぞ!」
もう一度、ゼンヒとシャルアーで接近戦をしつつハクジツが後方火力を担当する形になった。
蜘蛛は何も言わず、突進を仕掛けてくる。
「チャンスタイムだ!」
前衛二人は大太刀と大剣を交差させるように振るって、突進してくる蜘蛛の足を切り伏せるように当てる。
が。
「があああああっ!」
流石に相手の方が重量と勢いが強く、足を止めることはできても抗力の影響か二人で足元から離れてしまう。
ハクジツは道中温存していた本来の自分の武器、アサルトレールガンを取り出して蜘蛛を撃つ。
叫びのない蜘蛛は、その威力に驚いたのか急いで柱や壁に飛び退いて様子を見る。
「ごめん、はずした!」
「相手の動きを見れるようになっただけ上々!」
シャルアーが叩き落とすべく、大剣のエネルギーを解放して飛び上がりながら斬撃。
振り下ろしたその一撃を対応しようと飛んだ相手だったが、それを見越しているのか敵の上を陣取るように飛んでいた彼女の一撃を喰らって叩き落とされた。
これ幸いとばかりにゼンヒは刀を持って突撃。
しかし、蜘蛛の中身はリンネだ。戦闘スキル、いや、少なくとも”リソースの扱い”に関しては彼女の方が上。
叩き落とされても蜘蛛の足と胴体は頑丈かつ耐衝撃性に優れているのか、叩き落とされた勢いを逆に
突き刺すような一撃だが、ゼンヒは刀の面でガードし……
「わあああっ!?」
短い悲鳴をあげながら踏ん張ることもできずに吹き飛んで、入り口付近の柱に衝突して地面に叩き落とされた。
「あ、が」
「先輩!」
「ぼさっとするんじゃない!」
シャルアーも急いで下に降り、ゼンヒに気を取られていたハクジツを庇うようにして大剣でもう一撃を防ぐ。
「チッ、手慣れてやがるな」
「あ、ありがとう」
「ゼンヒを気にかけるのも分かるが、気にしていたら逆に彼女を危険に晒すぞ。いいな?」
「うん」
もう一度間合いを取り、ゼンヒが復帰する時間を稼ぐことにした。
何も言わない彼女達が取った選択は、ハクジツをメイン火力に据えること。
彼女の持っているアサルトレールガンは、実は改良が加えられている。従来の電磁力を利用した弾丸の射出ではなく、そのエネルギーを純粋なビームとして放てるようになっていた。
流石にアリスの光の剣……までは行かないにしろ、人間サイズのビームライフルであるのには変わらない。
蜘蛛の足に当たると流石にノックバックが発生して後退。
「そのまま押し込め!もう一回喧嘩を売る!」
「おっけー!」
二人は波状攻撃を仕掛ける。
シャルアーが大剣を振り、足の攻撃を振った遠心力と大剣の重量で弾き、その間にハクジツが攻撃を叩き込む。
胴体の方はまだなんともないが、足は衝撃による疲労が見えてきた。動きが鈍いのもあるが、狙う時の正確さが失われていく。
「よし!このままぶち込んでやる!あいつが起きる前にな!」
彼女は大剣のエネルギー出力を全開にして、振り下ろす。
相手は一番前の足を振り、殴り飛ばそうとするもののこの勢いはその足の数では足りないようだ。
結果、右一番前の足を切り飛ばす事に成功。まだ7本は残っているが、少なくとも攻撃範囲の減少には役立っている。
「よし!」
「シャルアー危ない!」
「ああ!?」
ハクジツに言われた通りに飛び退いた彼女。
蜘蛛らしくあるためのアイデンティティの糸は、粘り気を持ちながら発火していた。それを口や胴体から発射し、周りを燃やし破壊しながら進んでいる。
「本気出しやがったな!」
シャルアーは大剣を背中に戻して、拳銃とアームキャノンを取り出す。
「シャルアー!蜘蛛の巣の処理を頼んだ!」
「任された!」
二人は下がりつつ、完全な射撃戦へ移行。
燃え盛る糸は八方に飛び、それらが壊れないようにと彼女らは銃弾で張った糸を断ちながら下がりつつ蜘蛛にビームをぶち込み続けた。
怯む様子はないものの、糸での包囲網を形成しようとしては邪魔されていて、下手に動けば崩落して戦闘エリアの被害が大きくなる事を危惧した蜘蛛は動きを止めている。
二人はこちらが優位に立っていることを確認。周囲は熱で溶けているのもチェックした彼女らは、この膠着状態を大いに利用。
「あいつの動きを完全に封じる!天井を狙え!」
「分かった!」
ゼンヒはまだ動けないようだ。
ハクジツとシャルアーで相手の攻撃を防ぎつつ、周囲の構造物に被弾するように仕向けた。
糸を切って垂れる方向を調節し、その熱を溜めて柱の根本を溶かす。
相手は気づいていない。
彼女達がその攻防を続けて5分といったところだろうか。
「今!」
ハクジツの合図で、二人は一斉に柱へと掃射。
熱で溶けている根本から、柱は崩れ、倒れ、それが全て蜘蛛に襲いかかる。
相手から見て外側の柱はまだ無事だが、熱の糸を何層にも重ねた片方は支える力を失っていた。
そのまま蜘蛛の方へと倒れたが、相手は同時多発的に起きた崩落に対応できない。どこに飛ぼうにも必ず倒れる柱に当たる。流石に重量を逃さないように押し付けられると死んでしまうだろう。
_____
瓦礫の受け方を知らない奴が、蜘蛛であった時の話だが。
リンネは、この時にはすでに一人の再起不能を狙っていた。
糸による拘束と火傷でもなく、物理攻撃によるダウンでもない。
「あ」
「ハクジツ!」
倒れてくる柱を身体を弾ませて飛ばす事によって、熱の糸で溶接をしながらもそのまま相手の動きを封じる瓦礫として機能させる。柱達は焚き火のように組まれながら、燃えることもなく柱と瓦礫で固定し、ハクジツ一人での力ではどうにもできないように彼女の周辺を塞いでしまった。
彼女の声が聞こえる前に、瓦礫によって防がれてしまったのである。
「くそっ!私一人か!」
ただ、相手も相手でダメージを負っている。
二人を一旦行動不能にするためには流石にリソースを使いすぎたのだろう、蜘蛛に生えている翼は使う前に折れてしまい、脚も6本に減少。
シャルアーは1on1で全てを乗り切る覚悟をしたが、どうやら蜘蛛はそれすらも踏み躙るつもりらしい。全力で足を動かし、最後の一人に向かって突進開始。
(どうにかするしかないか!)
そう思い、彼女が大剣を構えた。
その時である。
ひゅん。
そんな音がして、飛んできたは大太刀。
熱波が切り裂かれ、温度の変化で蜘蛛は気づくがもう遅い。
刀に抵抗する前に、その鋒は蜘蛛の目を捉え、瓦礫に煩わされることもなく、右目を貫いた。
「カイーナ!」
その軌道をなぞるように、少女が飛び出す。
ゼンヒだ。
彼女は刀を握れるところまで飛び、蜘蛛の頭に乗って刀でほじくり返すように耐えながら切り裂こうと奮闘した。
「シャルアー!」
「お前なんでそんな危ない真似」
「いいから大剣で早く全部斬って!」
「仕方ない!」
実際、ゼンヒが叫ぶほどのチャンスであったのは事実だ。
相手は目を抉られ大発狂しながら暴走、しかし足や身体のダメージで振動を起こすのが精一杯で周囲への大したダメージはない。
シャルアーはもう一度大剣を構えるが、いつもの呪文みたいなものは唱えず、そのままエネルギーを解放して切りにいった。
蜘蛛は痛みと視界の乱れによってそれに気付かない、知ったとしてもそれは刃を身に受けてからのこと。
「はああああああーっ!」
大剣を持った少女は、力強く振るいながら脚を切り裂いていった。
彼女達を飛ばすほどの硬さと耐久性を誇っていた脚は、やはりハクジツの動きを封じるために動いた際、柱を弾く動きで相当のダメージを負っており、それはひび割れという分かりやすい危機を見せつける。
そのひびに一撃を入れて粉砕するように大剣を叩き込むと、周辺を破壊しながら刃がスムーズに入って、これで脚の切断を達成。
脚が切り裂かれていくと蜘蛛も動きを止めざるを得ないが、身動きはし続ける。だが、すでにシャルアーが右の脚を全部切り落とした後では反抗も難しく、おまけに彼女は左の脚を全部破壊して離脱。
「動けないようにしてやれ!」
「ああ!」
ゼンヒは刀を食い込ませながら、体を切り裂いていく。
ハサミで紙をなぞる様な切り方で、刀は蜘蛛を切断。
体の上を走り切った彼女は、同タイミングで身体を裂き終わった刀を逆手持ちにしながらジャンプして奥の壁をキック。反動でそのままシャルアーの近くに着地した。
「よし!」
「やったなゼンヒ!」
蜘蛛は爆発することはないが、少なくとも動ける状態でないことは確かだ。
急いで二人は、後方の瓦礫に向かう。
「ハクジツを助け出す、警戒を頼んだ」
「任せてくれ!」
ゼンヒは大太刀の威力をちゃんと理解しているのか、しっかり瓦礫を切り裂いて_______
「残念、そうはいかないよ」
そんな声と共に、熱い糸がまた飛んでくる。
「危ない!」
「わかってる!」
熱源を肌で理解した二人は急いで位置をずらしながら、剣を使って糸を切り払い、神殿に入ってくる風を利用してハクジツの瓦礫から逸らす。
「まさかあの程度で終わりだとは思ってないだろうね」
「ああ、お前のしぶとさは私が一番よくわかってるからな!」
扇堂リンネは、いつものスーツに蜘蛛を彷彿とさせるジャケット、そしておそらくリソースで作ったのであろう剣を持ち出していた。
「第二ラウンドと言ったかな?」
「このラウンドでストレート勝ちしてやる!」
「誰も2本先取とは言ってないだろう?それに、君達にインターバルがないと不公平じゃないか」
「なんだと……?」
彼女は手を広げる。
「ハクジツは死んではないが、あの武器を至近距離で、安全マージンなしで撃つのは不可能だろう。だから、最後の戦いにふさわしく、話したいことを話すことにしよう」
リンネは、剣でシャルアーを差しながら話をした。