シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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LastCase:再誕作戦/刃交

「次に話す秘密は……シャルアーが怒り狂って仕方ないものにしよう」

「何を話すつもりだ。私は既に友人を傷つけられて今すぐにでもお前を殺したい」

「まあまあ、聞いてくれよ」

 

 ハクジツの安否を自分達で確認したいがそうは行かない。背中を見せればいつ刺されるか分からない恐怖がそこにある。

 

「シャルアーのコキュートスアームズには神と使徒がいる。とても危ないデカグラマトンの様な存在がいると話したね。そのうちの一体の力は、実はセツカの襲撃前には解析成功したんだ」

「どれだ」

「侵食する力だ」

 

 彼女の笑みは、どこか優しく、狂気的。母性はないのにその振りが完璧に出来ているような……振れれば崩れて変異する何かを目の当たりにしているようだ。

 

「それでもちゃんと理解し切った訳ではないけどね。しかし、その力はあまりにも私の目的に合っていた。弱者達を束ねたところで意味はない、強い軍隊を作ればそれを使用する前に嗅ぎつけられる。だが侵食して変異させる、これが出来れば弱者達は己の人生からの離脱と他人の人生の蹂躙を同時に出来るようになる。そう思った私は、青輝石を使った神秘の研究と侵食のシステムを組み込めるよう物質の構造やアルゴリズムを研究・改良を重ねた。それと同時に元々手を出していた違法薬物も品種改良したんだ、人の変化を促すためにね」

 

 そもそも煙草など、人体への有害物質を含む接種物は人体への悪影響が出てくる。13歳の時から噛みタバコをしていたせいで歯茎が溶けてしまった少年もいるし、普通のドラッグのうち安くて効果が強すぎるクロコダイルでは顔が見るに耐えない状態になっていることもある。

 

 このキヴォトスの住人も当然その例に漏れることはない。それどころか、神秘の加護を貫通する加害手段の一つである以上リンネが重視するのも無理からぬ話。薬物は“手っ取り早い強化”という点では何よりも勝るものだ。

 

 ドーパミンなどの過剰供給によって依存症にさせる事で、身体の基礎を破壊しながらそこに手を加えることも可能になる。薬物による神秘の侵食は、裏社会的には“合理的”だった。

 

「シャルアー、君はあの時点で私達を殺していれば全ては上手くいっていただろう。こんなことになることもなかった」

「その程度のことで説教か?」

「いいや、これは過去の選択肢の確認だ。君はそれでも選ばないだろう?」

 

 相手がろくに反論しないやつだとわかった上で畳み掛ける意地悪さ。

 

 言われた方は不快な顔しながらも、彼女に問い返す。

 

「だったらその力で征服すれば良かっただけの話じゃないのか」

「解析できない力は逆に身を滅ぼしかねない、扱い方も同じ。君たちが私を潰す前に、社会にあれをお披露目するという大本の目的を達成するにはそれくらい慎重にならざるを得なかった。アリウスのメンバーがまさかゲマトリアのオリジナルヘイロー破壊爆弾に関する情報を持っていて、それを応用できる技術があるとは思いもしなかったが、それまではあの異形を元に戻す手段はないか、ない場合倒して良いのだろうかという疑問が公務員たちの中にあったのは事実なわけで。この時間、つまりこちらの情報アドバンテージを利用することが大敵を相手にする上での正義だ」

「随分ご大層な割には彼女に逃げられて恥ずかしくないのかお前は」

「論点のすり替えはダメだよ、シャルアー」

 

 どうも言葉では敵わない。

 

 ゼンヒは黙って聞いている、下手なことに体力を使わないようにキープしているようだ。

 

「何度も話しているが、私の目的はこの大侵攻そのものだ。相手が望むハッピーエンドがあるなら、相応しい負担を。負担するのが嫌であれば、相手は本当に人間を殺す大敵として独裁政権を樹立するしかなくなるだろう。下層部の人間を殺しておいてまさか、自分たちは潔癖ですと言い張れない」

 

 リンネは剣の鋒を、ゼンヒに向けた。

 

「最も、それだけなら私は隠れるだけで良かったんだけどね。それでも出てきた理由には君がいる」

「私がセツカの血を引いているからか」

「ああ」

 

 互いに表情が消え、睨み合う。

 

「シャルアーは言わずもがな、君は危険すぎる。天衣セツカは名前通りの天真爛漫、その心意気のまま人を殺し続ける天使のような存在だ。それは裏の社会を揺るがし、私の地位を脅かすまでにはなったが____その程度で私は歯牙にかけるつもりはない」

「つまり存在そのものが危険だから自分の手で殺したい、というわけか」

「ああ、私でないと多分完全に殺せないだろう。何しろその体の中には私もいる、侵食すれば確実にセツカを破壊できるんだ」

 

 殺し合う理由は、殺す側の理由と、生きる側の理由で成り立つ。

 

「私は自分自身を正義だとは言わない、けれどもセツカが正しいわけでもない。ゼンヒ、君には哀悼の意を表するが……セツカは人殺しの罪を償ってはいない」

「人を殺す殺さないだけが犯罪じゃない。どうして傷つけたかによって罪状が変わる、だけど罪状とはそれそのものに価値がある。大きかろうが小さかろうが変わらない。そしてセツカ自身の意識がない以上、彼女は罪を償えない」

「嘘をつくな!」

 

 リンネは激昂。

 

「私とハクジツの細やかな平和を破壊しておいて罪が無いと!?」

「罪が無いわけじゃない!お前達の件に関しては傷害罪と殺人罪が適応される!だがその罪を追うべき当人がしっかりと実在しない以上は裁きようがない!」

「そうやってお前は私からハクジツを奪った!あの部屋で!」

 

 彼女は剣を両手で握りしめて構える。

 

「あの時よりも鋭く、長く続く痛みの中で殺してやる!」

 

 もう語り合う必要はあるまい、シャルアーに言いがかりをつけた後では和解の余地もない。

 

「殺るしかないのか……!」

 

 互いに一歩も引かず、走り出した。

 

 ゼンヒは今、出血している。先程の衝突のダメージがあまりにも大きかったようだ。

 

 それを誤魔化すように、大振りな攻撃を繰り返す事で相手が受け止める時の疲労増加を目指しながら攻めていく。

 

「遅い遅い!」

「ぐうっ!」

 

 左右上下からの初撃を不規則にしつつも、上下と左右での振替しなど規則的な攻撃も入れる事で相手の認識を狂わせる作戦を取った彼女。

 

 しかしリンネは見てからガードしている。糸がある以上、自分をマリオネットのようにしながら引の動作を高速化する事によって対応していく。

 

「まだまだ!」

 

 それでも剣の扱い方はゼンヒの方が上だ。こればかりはセツカの恩恵が大きいからだろう。

 

 大太刀を初めて使うにしては短時間で相当な練度を上げている。

 

 戦い方はやはりキヴォトス人のスペックを活用した片手持ちによる大幅リーチの横凪に、両手でしっかりと構えて放つ心技体の揃った振り下ろし、この二つの威力は推して知るべしと言ったところか。大太刀が雑多な棍棒を上回る打撃、切れる破城槌という最高の力を手にしているのだ。

 

「早い早い!」

 

 リンネの動作を糸でカバーする動きをしていても、流石に劣勢になってくる。

 

 なにしろ糸が切れるほどの衝撃だ、それを真っ当に受け続けるわけにもいかない。

 

 糸を地面に巻いてその熱で足場を不安定にすると、地震はともかくゼンヒの動きが急激におかしくなった。スリップして回転、その隙に糸を被せて焼き殺そうとする。

 

「これはどうかな!」

「させるか!」

「な」

 

 シャルアーが時間差で大剣を持って回転して飛びながら迫ってくる。地面の状態関係なしの質量攻撃は流石に強力だったようで、リンネは受けきれず後ろに吹っ飛んだ。

 

 その間にゼンヒは立て直し、同時に吹っ飛んだ少女も瓦礫で反転して飛んでくる。その際にリソース補給もしたのか、いつの間にか二刀流になっていた。

 

「楽しもうじゃないか!私たちの宴を!」

「お前と踊る趣味なんざない!」

 

 流石に支えとブースターがあると二人がかりでも困るようだ。

 

 二刀流、しかも力強い一撃の連打は、確実に化け物と戦っていた彼女達のスタミナを削っていく。

 

「んぐ……!」

 

 特にダメージが蓄積しているのはゼンヒ。

 

 彼女は最初の戦いにおいて壁に背中から衝突していて、神経は切れていないにしろ打撲が複数箇所あった。それどころか至近距離で熱の糸を掛けられていて足は焼けただれ、血も熱で固まり足取りがおぼつかない。

 

 敵がそれを見逃す理由もなかった。

 

「遅い!」

「危ない!」

 

 シャルアーが大剣で味方の姿を隠すように防御。

 

 一瞬で大体を隠すような防ぎ方をするものの________

 

 リンネは二刀流である。

 

 大剣を下から捲るような太刀筋で切り上げながら弾き、もう片方の剣でゼンヒの足を切り付ける。

 

「がああっ!?」

「ゼンヒ!」

「お前もだ!」

 

 シャルアーもその刃の餌食となった。

 

 大剣を捲るような動作ができたという事は、彼女は大剣を使って持ち上げられたのと同義だ。

 

「舐めるな!」

 

 ただし、彼女はただでは転ばない。

 

 大剣から手を離してアンティノラとアームキャノンのトロメアを取り出し、トロメアで一度キャノンの反動で浮き相手のリーチから逃げるような高度でスピンしながら対空。二丁拳銃を取り出して、そのまま回転しながら乱射した。

 

 無論、それはキヴォトス人に効くような手段でない。銃弾である以上、よほど喰らってなければ致命傷にはなり得ない。

 

 シャルアーの奥の手を考慮しなければの話だが。

 

 彼女はゼンヒの手から離すように跳弾で大太刀を押して相手に飛ばし、自分が弾かれて手を離した大剣も同様に柄頭の部分を銃弾で押して飛ばす。

 

 二刀流ゆえに大太刀を弾くのは簡単だったが、跳弾前提の動きのために攻撃タイミングが読みづらい。

 

「あが」

 

 大剣が銃弾のスピードで飛んでくると、流石に不規則な弾きと波状攻撃では対処し切れない。

 

 そんな声をあげて、リンネは大剣の刃を生身に受けて瓦礫へと突っ込んだ。

 

「が、は……いやあ、随分やるねえ」

「化け物か」

「まあ、相当今の一撃は重かったけどね」

 

 片目を閉じ、血を流し、それでも立ち上がってくるリンネ。

 

「だけど、君は私に勝てない。いや、勝てなくなった」

「何を言って」

 

 刹那。

 

 シャルアーは血を流し、膝から崩れた。

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