シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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ゼンヒの目覚め

 ________再誕作戦の終結から、一週間は経った。

 

 白鳥 ハクジツ、シャルアー・ドーンの二名は翌日には意識を取り戻した。怪我の回復も非常に早く、前者はキヴォトス人の常識、もう片方は別の世界の力による鑑賞での負担が掛からない急速回復によって、身体能力や検査後、終了から四日目には退院。

 

 しかし、扇皇ゼンヒはその時もまだ眠っていた。

 

 そもそもゼンヒとリンネは自分たちが意識を失うギリギリまで戦っていた。それこそ、体の制御が出来なくなるくらいのダメージを置いながら。ナイフは深く刺さり、その前から深い斬り傷を与え合ったりしたせいで、神秘がどこをどう治そうか迷った挙句に効果的なルートが見つけられず手当たり次第な回復をしたこともあって両者内蔵は拾われる時では無事でも筋肉や血管を修復するのに時間をかけすぎた様子。

 

 だが、幸いにも両者は死ななかった。

 

 それは彼女達はそもそもが”自分一人の体ではない”ことが原因。

 

 ゼンヒはリンネの一部とセツカ、リンネは不特定多数の浮浪者達のリソースの残滓。

 

 アレだけ斬り合っておきながら死んでいないのは奇跡と言えたが、実際に奇跡だったのはその状況まで持って来れた今までの経緯なのだろう。

 

 セツカとリンネがナイフで殺し合い、ゼンヒが生まれたあの日のような暴力の決着。

 

 世界は結論を出した。

 

『自分たちの世界を良くし、未来に託すために困っている誰かを救うための社会を一緒に作ろう』と。

 

 だが、彼女達はどのような結末を迎えるのかはまだ出ていない。

 

 故に、見届けよう。

 

 扇皇ゼンヒを始めとした、弱者達の挽歌の最終楽章。

 

 穏やかな歌声の歌詞は、一体なんと書かれていたのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は目覚める。

 

 繋がっている管はそこまで多くなく、おまけに全体的に柔らかな布団で囲まれていた。

 

「おお、目が覚めた?」

「ああ……?」

 

 誰かの声がして、視線を動かす。

 

 そこにいたのはカザミだ。

 

「カザ、ミ……?」

「うん、カザミだ」

「ここは……?」

「D.U.の病院だ。個人病室だけど、集中治療室じゃない。ちなみに目覚めたのは今が初めてだ。気分は?」

「それよりも……リンネ、は……?」

「お前と同じ状態だけど、あっちは矯正局だよ」

「そっか」

 

 その言葉を言った途端、ゼンヒは繋がっていたものを全て抜いて呼吸器も外した。

 

「ばっお前何して」

「目が覚めてから急激になんか元気になったようでね、外しても大丈夫だよ」

「お前なあ!」

 

 抜いたところから出た血を、急いでカザミは手当する。

 

 ガーゼでキツく巻いて血の流れをキツく締め、周囲に血が散らばるのを避けた。

 

「びっくりしたあ!全くもーこっちの気持ちになってよね」

「あはは、ごめんごめん」

「……いいけど」

「それよりも、どうなった?あれ」

「どうなったって何が」

「あの事件の後だよ。リンネが逮捕できたと言うことはおそらく再誕作戦は成功したってことなんだろうけど」

「ああ、その説明か」

 

 彼女は説明した。

 

 ゼンヒが倒れた後、黒服の添え口でカイザーグループの助力が出てきてあの神殿周辺を探し回った結果、決着をつけた二人を回収したこと。現在はその事件から七日経っていて、なおインフラの復興作業が続いていること。

 

 そして、事件の翌日に先生の呼びかけもあって、キヴォトスは全体的に”弱者援助”のブームがやってきていることを伝える。

 

「結局先生の鶴の一声があって、みんな良き事をやろうと必死になっているってわけさ。一部売名行為だと批判している声もあるけど、全体的にはみんな助け合おうとしてるっぽい。各学園の上層部、しかもゲヘナとトリニティの共同作戦の実施が出来たことも追い風になってるよ。こればっかりは流石にリンネの差金がそのまま引き金になったから、ちょっと弄ばれた感があるけど_______それでも、みんなが少し真面目に社会活動に取り組んでるんだ」

「はは、それはいい」

「ともかくゼンヒのおかげさ。モモトークですら今のトレンドはボランティアの報告と、この作業の手伝いをお願いしますという呼びかけで溢れてるから」

「じゃあ私も手伝わないとな」

「冗談だよね?」

「冗談じゃない。いますぐって訳じゃないけど」

「ならいいや」

 

 二人は笑う。

 

 かつてトリニティの地下水路で決闘したとは思えない、朗らかな雰囲気を出せるほどの仲にはなっていた。

 

「ところでなんでカザミはいるんだ?」

「普通に不法侵入だよ。面会の時間はまだあと二時間はある」

「今何時だ?」

「8時。この病院の面会開始は早くて10時だよ」

「お前なあ」

「いきなり管引っこ抜くやつに言われたくな……」

「それもそうか_____あ」

 

 ゼンヒは、相手の肩を掴む。

 

「他のみんなは!?怪我とか死人は出てないか!?」

「ゼンヒに付いてった二人は回復が早かったのか翌日には目覚めてその三日後には退院してる。バンリは毎日見舞いに来てるし今日も来るだろうけど基本的に食事に喉が通ってなくて少し痛々しい姿になってるよ。ユリは当然それで若干憔悴しきってるし怪我の回復も遅くなってて、ショウコは無傷だけど流石に精神が堪えてる、回収した時の傷を思い出してうなされてるレベルで。彼女がそうなるのは見た事ない」

「ショウコが?随分迷惑をかけたんだな_____」

「多分この後それの比にならないくらいお前が迷惑をかける」

「なんでだ」

「そんなことする人間は必ず病室を抜け出す運命にあるから」

 

 カザミは、無表情のまま目の前の少女を見る。

 

「どうだ?今、何をしたい?」

「私の、したいこと?」

「ああ」

「タバコをくれ」

「はぁ?」

「くれ」

 

 呆れる発言だ。聞いたやつも呆れた。

 

「自分が持ってる訳ないでしょ。ユリか、ショウコが持ってる。大体怪我しといてそんなこと言う?」

「それ本当なんだな?」

「うん」

 

 その刹那。

 

 ゼンヒはカザミの腕を抑え、壁に押し付ける。

 

 やるわけがないと呑気に考えていたカザミは反応が遅れ、押さえつけられてはあるものを落とした。

 

「……嘘つき」

「はあ、上手くいかないか」

「私の生まれがはっきりして言えるようになったよ、血の匂いじゃないなら多少敏感だとね」

「ヤニカスが」

「ふふ」

 

 落としたのは電子タバコ。

 

 警部補になってから急激に吸う頻度が減った、彼女の青春の一つ。

 

 そのまま加熱されたそれは、カートリッジから芳醇な香りを広げる。

 

「ふぅ……久々だといいものだな」

「勇者がこんなんだとイマイチ気分が乗らないなあ」

「では、もう少し悪を重ねるか。私はリンネでもある」

「何を」

 

 その言葉を言った途端、ゼンヒはタバコを咥えたまま窓を乗り越えて地面に着地。

 

 五階から一階に急降下して着地。ちゃっかり荷物にあった自分の荷物を持っている。

 

「あ、おい!本当に脱走する奴が!」 

「ああもう!」

 

 止めても言う事を聞かないだろうと、カザミも飛び降りた。

 

 ジャケットをちゃんと着て、患者の服を隠すようにカッコつけ、帽子も深く被った。警察用のものではなく、かつてギャングを醸し出していたあのハット。

 

「車はあるか?」

「んな分かりやすいもの持ってきてるわけないでしょうよ」

「じゃあこっから徒歩か」

「残念ながらね」

 

 二人は歩く。

 

 リンネがあの大規模侵攻を起こすまでの間に時間が掛かっていて、今はもう冬だ。

 

 枯木どころか雪が降る。

 

「綺麗だな」

「うん」

「寒くないか?」

「それはこっちのセリフ。患者用の服にジャケットなんてどう考えても寒いでしょ」

「私は寒くない」

「……本当に寒くなったら言うんだよ。なんか買ってあげるから」

「おお、それはありがたいが大丈夫なのか?」

「公務員になったから金はたんまり入るけど元々の生活のせいか全く使わなくてさ」

「甘えようか」

「ところでどこ行くのさ」

「特暴課の事務所だよ。顔出さないでどうする」

「それもそっか」

 

 雪を踏む音は、ふかふかではない。ぎゅい、という音がする。

 

 あの独特な感覚、雪を踏んでいると起こるアレは一体どうしてあんな音が鳴るのだろう。

 

 そんなどうでもいい事を考えれる世界を取り戻した英雄は、手をこすりながら歩き続けた。

 

「去年と変わらないな。交番で普通にお巡りさんとしてた時と変わらない」

「いいじゃん」

「そうだな」

「もしかして、もう少しお祭りムードの方が良かった?」

「ゆっくりタバコが吸えなくなるからな……やっぱり今のままでいい」

「気疲れしまくりだね」

「おーい」

 

 声が聞こえて、二人は足を止めた。

 

 後ろを振り向くと、止まった高級車から一人出てくる。

 

「お疲れ、何をしているんだ?」

「マコト……」

「病院を抜け出したのか?何をやっているんだか」

「言うな。と言うより、どうして私達が歩いていると分かった」

「カザミは普通の格好していたが、口元から見たことがある煙を吐く少女は一人しかいないからな。そうだろう?」

「敵わないな」

 

 電子タバコを止めて、マコトに近づいた。

 

「これからどこへ?」

「特別暴力対策課に行こうと思ってた、挨拶とかも含めてな」

「送っていこう。ここからは遠いし、何より寒い」

「いいのか?」

「キキ、今更気にする必要もあるまい。このマコト様のご厚意を受け取れるいい機会だぞ?」

「お言葉に甘えよう」

「カザミは?」

「自分はちょっとアリバイ作りのために別行動を取るよ」

「どこに行くんだ」

「この近くに行きつけのレストランがあるんだ、そこでゆっくりさせてもらうね」

「分かった。気をつけてくれ」

「そっちこそ」

 

 カザミは手を振って、みんなと別れる。

 

 見えるところにあったレストランに入っていくのが見えて、手を振りかえしたゼンヒは笑いながら、誘ってくれた悪魔を見た。

 

「じゃあ、あそこまでよろしく」

「承知した。おい、出してくれ」

「はい」

 

 部下に送迎を頼み、二人は車に乗り込む。

 

 暖かい車内で、リムジンの対面座席に向かい合って座りながら出発。目的地まではそこまでないが、やはり軽く話す時間はある。

 

 外の景色は、車の光もあってか少し幻想的。

 

「少しだけ、私と語らないか」

「分かった」

 

 羽沼マコトは、ゼンヒに今の素直な気持ちを伝えてみることにした。

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