シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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生徒達は自由を享受した

「今回の事件、よく解決してくれた。素直に嬉しいぞ」

「それはどうも」

「やはり、このマコト様の目は間違っていなかった。お前が精神面の不安さえ乗り越えれば絶対強いという確信は持っていたからな」

「随分と信頼されてる」

「当たり前だ。お前の実績がそれを物語っているからな……それに、今回その信頼が補強された」

 

 車の中には運転手とマコトとゼンヒの三人。

 

 もう片方は病院の服装にコートを着ただけの簡素仕様でどうもミスマッチだが、話は進む。

 

「私はシャーレ・グローバリズムから成るキヴォトスという国際社会の成立を重視していた。グローバリズムを起こすのは先生の役割で、彼はその役割をしっかりこなしてくれた。しかし、それだけでは不十分だった」

「シャーレの先生が凄いだけで居なくなったら絶対的な主導者が居なくなるから新たな偶像(イコン)を必要としたのか」

「偶像じゃない。

 国際社会における自立とは何か、また広域化するべき共通の規範とは何かを体現した生きている人間が必要なんだ。それがお前だったのだ、ゼンヒ」

「ユリから聞いた話と大体一緒だ……しかし、私は結局自分の経験も持っているが、そのベースを作り上げたのはリンネの頭脳とセツカの身体、つまり一番美味しい場所を組み合わせただけだ。結局、中身としては人造であるだけでシャーレの生徒と変わらない。果たしてそれが勝つ意味があったのか」

「あった」

 

 マコトはなんの迷いもなく言い切った。

 

「大人の力なくともそれと同等の事件を起こす生徒と、それを解決できる生徒がいる。劇じみた状況だが、その要素の全ては全員のれっきとした思想があった。裏口を合わせる理由もないし、シャーレもゲマトリアも数多の企業も関係を否定すると思う。この事件が全てリンネという少女が発端である以上、事実は大衆の邪推を踏み潰すだろう。弱者達の証言も待っている」

「政治的には問題なし、か」

「それ以上に今のキヴォトスは先生の影響が大きいからな。彼の言葉を盲信する人間は後を絶たないし、何より彼の口添えがあれば”しっかりとした方法”での情報開示も出来るだろう。連邦生徒会は情報統制する()()()()()()()()()()()

 

 詰まるところ、今の先生であれば連邦生徒会の妨害を押し除けて情報公開するだけの実力と、その信憑性を持ち得る。彼女はそう言い切った。

 

「ともかく、そういった”嘘”への対策は万全だろう。気にする必要はないし、それによってゼンヒの戦いの意味がなくなる事もない」

「それは安心したけど……いや、やはりダメだな。私の生まれがどうしても、この戦いの意義を問いかけてくる」

「もう少し詳しい話をするか。お前のやってきたことについてだ」

 

 車は静かなままで、マコトの声が反芻する。

 

「お前はゲヘナ・トリニティ・ミレニアムの三大学園に加え、色々な学園に使節を飛ばして安全保障をするための協定と盟約を結んできた。その効果が現れたのは今回の事件では各学園のスペシャリストが所属に縛られずに被災したエリアを回れたのが一番だが_____そこに至るまでの上層部の説得・交流や私を含めたトップ達を納得させるような内容をこの前までただの一警官だった少女が成し遂げたことは非常に大きい。これらは全て、自分たちでも頑張れば出来るという”教育の理想像”を体現しているとも言っていい」

「そうでもしないと捕まえられない相手をしていたんだ、それくらいはな」

「逆を言えばリンネという少女はシャーレなどが対応できないほどの動きをする人間であるとも捉えれる。市民達は自分たちが無自覚に追い詰めた人間が、そこまでするほど切迫させたという後味の悪さを得たわけだ。それをお前は最小限に食い止めたから、皆お前に感謝している。先生も名前を出すほどだった」

「ニュースで?それはすごい」

「お前を心配する声も多くあったというのに当人がこんな暴れ馬ではな。

 まあいい。どちらもさっき伝えた通り、一般人の少女・生徒の頑張りが社会に影響を与えるというケースとして存在することになった。片方は追い詰めれば社会的なダメージを与えるべく組織を形成して脅威になること、もう片方はちゃんとした教育を受けて実践を重ねれば『基礎を全うして』上層部など各学園の政治・経済の重鎮を動かし良きシステムを構築できること。これを見れば、賢い奴は『自分達が適当に接して半ば諦めかけていた生徒会などのふんぞり帰った奴らに対してちゃんとアプローチをかけて自分がいる学園に責任を持とう』と思うだろうし、バカは『自分達でも政治の根幹に働き掛ければ改革ができる!』とはしゃぐ。どちらの思想にしろ、社会に参加する生徒が大きく増えるのはいいことだぞ」

 

 ゼンヒのやってきたことは偉大だ。

 

 シャーレという大人が介入しない条件下、安全保障と言う分野のもとで様々な学園交流と協定の締結を成し遂げたことは、現実社会であれば様々な国の人間から尊敬されるべきものである。絶対的な権力もなしで、色々な権力者と話し合いをつけるための才能は無類ではあるが、他人には不可能というものでもないことを含め『後継者』を難なく育て、その当事者がしっかり扱える社会を託す”持続性”の点では才能関係なしに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それにシャーレはその組織の都合上、公平性を損なうような政策は絶対に触れられない。例えばナギサの裏切り者の調査は引き受けたはいいものの、結局彼は彼女を説得する道を選んだ。それは裏切り者を作り上げて非難することよりも、平等に味方する方が”シャーレの理念的には正しい”し、何より”問題解決のための越権行為が認められる事案”だからだ。

 

 彼は”公平性”という法律上の絶対善に反することはできない。

 

 それは時代によって激動する”やらなければいけないこと”が抵触した場合、最善策でも動けないことを意味した。

 

 先生に永遠に科せられた法律という名の鎖、それこそが彼に権利が与えられるための代償。

 

 言わば正しく古来からの王朝に相応しい玉座の主であった。

 

「先生が手が届かないことも、みんなが少しずつ協力して解決する。その解決の過程で政治とかち合えば、そのために話し合って健全な策を様々な頭脳から出し合って手段を講じる。何度も言われたこの理想は、お前にしかできなかったんだ」

 

 シャーレに所属しているメンバーの多くは、そのまま各学園の重鎮や活躍したスターが多い。言い換えれば、下手な政策を打ち出した場合バックにいる先生への風評被害を誘発させかねない。

 

 だが、この組織に関わってないと『国際化に協力しない』と敵対視、または疑念を抱かれる可能性もあった。トリニティは色々考える前に瓦解していたからともかくとして、ゲヘナは雷帝の一件を考えれば手っ取り早く、かつ自分達は協力的であると証明するためには協力関係を結ぶしかなかった。

 

 しかしそうすれば前述の通り、越権行為の解釈や政策の失敗や粗が思わぬところにダメージを入れる結果にもなる_____という動きを封じる負のループが完成してしまったのである。

 

「難しい話だな……」

「まとめると『シャーレに所属している間は国際関係上の信頼度は担保されるがその組織の権力を鑑みた場合大規模な行動を取った時にその信頼度に亀裂を入れてこれまでの関係性や信頼度の破綻、そこから広がった場合その前から上げてきた成果を破壊しかねない』という危険性があった」

「なるほど、ようやく分かった」

 

 ゼンヒは相手の顔を見た。

 

 少しばかり、理解できたと笑いながら。

 

 シャーレの権力という問題が全てを停滞させたのを実感していたマコトにとっては『自発的な活動を好みしっかりと権利を行使する市民団体』の存在は『政治家として直接市民に訴えかけつつ相手側からの意見を貰い”シャーレの力をそのままに”改革の口実を何にも煩わされず獲得できる機会』として唯一無二の価値を誇る。

 

 それは各学園の上層部も同じことで、言い換えればゼンヒは『この世の根底にある統治機構を全く弄らずに、その上で”一切の例外なく”この世界の住民に自由を与えた』のだった。

 

「お前は確かに血は呪われていたかもしれん。だが、その血の定めには全く持って従わなかった。知ることも向き合う事もしたが、一度たりとも屈服してはいない。もし屈服していたら、お前は自分の部下を殺していただろう。そうでなくとも、負けを認めて死んでいたはずだ。今の終わりに辿り着けたのは、ゼンヒがゼンヒで居てくれたからだ」

「マコト_____」

「ありがとう」

 

 マコトは手を差し出す。

 

 ゼンヒも手を握り返す。

 

 暖かい場所にいたが、それよりも暖かく感じる握手。

 

「これからも互いに頑張ろう」

「もちろん」

「あ、二人とも着きましたよ」

 

 話を終えたところで、運転手が車を止める。

 

 車は特別暴力対策課の目の前に止まっていた。かつてヒエロニムスらしい何かと戦った、あの場所で。

 

「そろそろお別れだな。一応聞いておくが、大丈夫か?」

「体調は問題ない。タバコも持ってるし貴重品もちゃんと回収してきている。大丈夫だ」

「ならいい」

 

 ゼンヒは車から降りて、窓越しから挨拶をする。

 

「これからそっちはどうするんだ?」

「私はこのまま万魔殿の事務所に戻って夕方まで仕事だ。何せゲヘナの方では支援金周りで書類が重なっているからな、自分だけふんぞり返っているわけにはいくまい」

「そりゃそうだ」

「お前はどうする?」

「私は……このまま挨拶回りでもしようかな。だがこの格好だと目立つし、着替えが必要だ。警察じゃない、もっとギャング的な服装がな」

「分かった。怪我の悪化には気をつけろ」

「ご忠告どうも、そっちも気をつけて」

「ああ」

「それじゃ」

 

 車の窓は閉まり、ゲヘナ本校に向かって走り出す。

 

 またタバコを付けて外を眺めるゼンヒ。

 

「変わらないのも、たまにはいい事だな」

 

 去年見た賑わう冬を味わってから、彼女は自分の居場所の一つへと入っていった。

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