シャーレ前交番勤務のヴァルキューレ警官   作:らんかん

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先生は理想を享受した

 ゼンヒはシャーレにやってきた。

 

 建物の中にはあまり大したものはなく、そのまま上に行ってオフィスまで入っていく。

 

 扉が開いたままだったのかノックもしないで入ると、応接間がある普通のオフィスへとたどり着いた。

 

「やあ」

「先生」

 

 先生は応接間の所に座って、出来立ての紅茶を用意していた。

 

「座ってくれ」

「遠慮なく」

 

 話をしに来たのだから、おもてなしは受けるが礼儀。ゼンヒは対面に座って、彼を見る。

 

「話があると聞いてきたんだが」

「ああ、世間話をしたくてね。今回の件に関して」

 

 先生は、紅茶を一口飲んでから話し出した。

 

「まずは解決ありがとう。決着を付けたいと思ってるだろうとこっちからはリンネとの決着に手を出さなかったけど、良かったかな?」

「それは懸命な判断だ。シャルアーかハクジツに聞いたとは思うが、リンネは異常な状態だった。他の人間があんなやつに傷付けられると困るから、非常に助かった」

「ならよかった」

 

 ゼンヒも一口飲む。

 

 少しばかり苦めだが、奥底に甘さがある。味わい深い。

 

「君のおかげで自分も憂いごとが消えた。シャーレはその成果のせいで非常に神聖視されていたからね、拘束具となっていた羨望の眼差しは君に向き、君自身は自分のしたい事をして社会に貢献し、それはただ臨むだけだった子達に自発性を与える。まさしく民主主義が完成した瞬間だ!ああ、とてもいい」

「民主主義がどうたらで喜ぶの初めて見た。普通シャーレみたいな強権的なポストにいたらそういうのって蛇蝎の如く嫌いそうなものだと思うんだが」

「とんでもない!敵だらけなのはいいことだ!」

 

 とんでもない笑顔を見せながら手を広げる先生。

 

「独裁者なんてつまらないもの誰が好き好んでやるんだい。あっちもこっちも自分に反発したり指摘してくる敵だらけ、でもそれがいい。そうじゃないと面白くならないし、わざわざ超法規的組織を真面目にやってる理由もない。誰が正しいかを吟味してる間に洗練されまくった案が出てきて、その一個がどデカい革新を齎す。それが自分が生きてきた民主主義なんだ」

「随分と思い入れあるんだな、国民主権に」

「そういう国で生まれて育ってきているからね。確かに“何かを更新したりするときや新しい政策を生み出すときに遅すぎてイライラする”って欠点はあるけど、その時間を費やした分だけ民主主義は面白いタネが出来上がる。それを走らせ育てたら、唯一無二の出来事と歴史が出来上がる!素晴らしくない?」

 

 彼の話と勢いについていけてないが、適当に彼女は頷いた。

 

「……マコトも同じようなことで苦しんでいたようだしな。だが種というより爆弾か?一気に改革という波の防波堤を崩すという意味では」

「いいねその表現気に入った」

「それはどうも」

 

 二人は紅茶を飲み、机にあったクッキーを口にし、味わっては話を続ける。

 

「ああ、とても良い気分だ。酔うくらいには……」

「おいおい」

「君は自分がもたらした自由の意味を分かってない!」

 

 先生は立ち上がった。

 

「いいか世の中には自由になれない事がある!社会がある限り権力があり、その権力を持っている人間は力を上梓すればするだけ何をしようとも正義から離れる!世の中には必ず100%は存在しない!何せ100%のパラドックスがあるからね!

 だから権力を行使すれば反対派が生まれる!1回目の決断と行使で1割生まれ、次の行使で1回目の賛成派の人間から1割が反対派に行く!何もしなければ期待せずに離れるから結局どう足掻いても時間が経てば味方が減る!敵は増える!

 だが……ひっく……いやあ、シャーレが影響力を増しているだけで結局連邦生徒会長時代から“独裁国家”として存在したキヴォトスは……」

「やっぱり酒飲んでないか?」

「飲んでなぁい!」

「飲んでるじゃないか!」

 

 よく見てみると先生が座ってるソファーには、香り付けのためにあったのだろうブランデーがあった。

 

「キヴォトスは……その政治形態ゆえに反対派と改革のサイクルをうまく回せなかった。ロシアでプーチンが長く居座っているのは結局彼の政治力が他の政治家よりも上回っていることを市民は理解していたからだ……そしてこの世界にはアメリカがなかった……ゲヘナというドイツ、トリニティというイギリス、日本に中国フランスに国らしい場所はあったが、アメリカだけはなかった!しかし、ようやくアメリカ、自由の種子を作ることに成功した……!」

「あの一人で突っ走るのやめないか」

 

 先生はゼンヒの肩を掴んだ。

 

「アメリカは多種族国家だ!つまりキヴォトスの統一こそがアメリカの自由となる!しかしそのまとまり方は独裁や専制であってはならない、民が国のリソースになってはならない……だが大統領という”連邦”のトップならば国民を糧にせず、国民が安全保障という最低限の権利を享受し、その上で『トップを柔軟に使用できる』んだ!上がいるからこそ、責任の所在や外交などの多岐に渡る分野での行動や保証がスムーズに行くが、それらをスムーズに進めるための”責任者”が大統領であることを考えれば……私は今、ようやく大統領になれた!国民が自発的で、直接的なムーブを取ってもいい、取れる、取るべきだ!その結果があの事件のハッピーエンドだった!君は上層部の人間だって救ったんだ!」

「助かった話は何度も聞いたし酒臭い」

「ああでも自分ではなく今の臨時大統領はリンちゃんだったね……尚更いいじゃないか!彼女らはもっと忙しくなるだろうし、生徒達が生徒達によって無茶苦茶楽しい政治をする……リンカーンの言っていた『人民の人民による人民のための政治』ってこういうことだったのかぁ……!」

 

 ゼンヒは彼を弾き剥がして座りながら紅茶を飲んだ。アルコール臭を流すには紅茶を滝のように飲むしかない。

 

「ずいぶん楽しそうじゃないか」

「日本は融通も効かなきゃ頑固でもない腐敗国家だったからね!政治というどこにでもあるけど深く触れられないものに触れれる立場にあって、もみくちゃにされない絶対領域のシャーレにいるしかないのにその肝心のシャーレがテロ以外に騒ぎがなくて全く面白くなかった!だが、君の後に続いていくフロンティアスピリッツ溢れた人間が、シャーレ所属以外にもやってくる!もしかしたらひと月ぐらいずっとデモで賑わう時もあるかもしれない!それでいい!それがいい!連邦生徒会に対するアプローチもガンガン増えれば先生という肩書きに”品行方正”という鎖が消える、人民に対するアクションを増やさなければならなくなるが逆を言えば直接頼んで行動して、責任さえ負えれば自分の全ての行動が”越権”ではなく”自由”に塗り変わる!

 自由だけじゃない、権利に機会______民主主義が生まれた基本概念がわかりやすくそこにある!だがシャーレの意義は全く変わらない、何故なら緊急事態に素早く団結し解決するためのコントロールであるからだ!」

 

 両手を握りしめ、感涙を流し、震えて喜びを表現する先生。

 

 シャーレは『生徒達の困りごとを解決する』ために生まれた。そのためには当該事件においてある程度の越権行為も許された上にそれ自体が非常事態に必要な命令系統の統一の理想系だが、裏を返せば保障された独裁でもある。

 

 独裁の面が補強されないように立ち回る必要がある場合、超法規的措置を取れても”それが社会から認められているかどうか”を気にし、動いた後でもフォローをしたりなどともかく()()()()()()()()()()()()()()()ようにする必要があった。

 

 だが、ゼンヒが居たらどうだ。彼女みたいな人間が増えればどうだ。

 

 間接民主主義が直接民主主義に置き換わる時、市民はとてつもない力を手に入れる。だが民主主義である以上、国家権力の力は変わらない。つまり名実ともに国民主権を達成できる。

 

 これがある限りシャーレの行為は国民が信頼を担保し、その信頼を継続する行為は”市民たる生徒に話しかけたり相談し続けるだけで成り立つ”……当たり前の行動、やらなければいけない使命に集中できるように、行動には信頼の付加価値がつく政治が達成された。

 

 『経済や災害などの非常事態にも強い政治形態の柔軟な形態変化とその管理者が形態変化する時に国民が信頼と担保をすることでの負担軽減』

 

 それがシャーレの責任者にとってどれだけの価値があるか。いや、そもそも価値をつけれるほどの普遍で陳腐な出来事なのか。

 

 彼の喜びは、計り知れなかった。

 

「もうほんとに先生は嬉しいよ!なんか理想の政治に自分が入っちゃってるのが申し訳ないくらいに!」

「でも、私がそこまでの活躍が出来たのは先生がグローバリズムを発展させてくれたおかげだ、先生という信用先がなければ今回の協定も私一人では難しかった。ありがとう」

「こういう政治のためなら喜んで奴隷やるよ私は!」

「あはは」

 

 苦笑いするゼンヒを見てる先生。

 

「あ」

 

 何かを思い出したかのように、時計を見ては彼女に言う。

 

「どうかしたか?」

「ああいや、大事なこと思い出した。君に取って大事なこと」

「何?」

 

 そもそも先ほど起きて急用が出来るとは考えにくい、本来ならまだこの時間も意識不明のままだった自分にとって重要な用事とは何か。

 

 ゼンヒは疑問に思いながら尋ねた。

 

「シャーレ前の交番に顔出して欲しいんだ。私は行けないけど、重要なことがってね」

「なんだ」

「ハクジツちゃんが今日で辞める。で、そろそろお別れ会が済んで本当に去っちゃうんだ」

「バッ……!」

 

 それを先に言え、と怒鳴りたいがそもそも衝撃で動けない。

 

 ゼンヒにとっては突然の出来事で、なにより自分が好きな後輩が急にどこか行ってしまうというのにショックを受けたようだ。

 

「黙ってようと思ってたんだけど、しっかりとした別れがないと人間は傷を残すもので……え?」

 

 もうすでに彼女は居なくなっていた。

 

 ジャケットも荷物もなく、階段から強い足音が聞こえる。

 

「……ふう、やるべきことは終わったか」

 

 したいことを終えた彼は、オフィスの窓を閉めてからシャツを緩めて瓶に口付けブランデーを飲む。

 

 甘くも蒸せる口当たりとアルコールが、彼の五感をぼやけさせた。

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