イオリはこのような事を言った。
まず、この前のアリウス過激派の確保によって分かったことは三つ。
一つ。アリウスの中にはまだトリニティもゲヘナも滅ぼそうとする一派が存在していて、敵領地内での適度な潜伏場所を欲していること。
二つ、アリウス過激派が依頼者のゲヘナ生徒を狙う理由はそれに適した領地を持っていること。
三つ、それを邪魔した奴の正体は不明であるが絶対に排除しなければならないと画策してること。
以上のことが分かったので、当事者であるゼンヒの元へ訪れたということだ。
「本当はこっちだけで解決したかったんだがな、ただでさえこっち人手が少ないのにアリウスの相手をしなきゃならないのキツいのなんの。だから、もう一度力を貸して欲しいんだ。お前だって誇示できればあいつらが下がっていくかもしれないって思うだろ?」
「なら、ちょうど良いところに来た。イオリさん、あんたの要望通り人手があるんだよ」
「マジ!?」
イオリは食いつくようにカウンターに手を置いて顔を出す。
「あの活動で私が変にヒーローに祭り上げられてることは知っているだろう?その中には当然ヴァルキューレの奴らがいるんだが、特に元SRTからの信頼が厚いんだ。ゲヘナ生徒の鎮圧であれば内政干渉に関わるだろうがどちらにしても外敵ならこういった人手は役に立つんじゃないかって」
「本当にラッキーだな!」
「ただ、少し困ったことがあって」
「なんだよ」
「武器が足りない」
ゼンヒはそう言って苦笑いするが、言われた方はそれを受けて真面目に考える。
「もしよければデッドストック貸そうか?」
「良いのか?」
「人手が欲しいからな、私たちができる分なら全然貸すぞ!」
「マジか!」
「ただそこまで要望には応えられないからな!狙撃銃は確かない」
「ありがとうイオリさん」
武器は貸してもらえるだけありがたい、イオリの厚意に感謝したゼンヒはとりあえずゲヘナ生徒に目線を変えて話を続ける。
「とはいえそんな土地を持っているなんて驚きだな。いったいどこのお嬢様だ?」
「それはお嬢様ですから……事件があった場所より前の方に、ゲヘナ校区に入る一歩手前に結構状態のいい建物があるんですよ。噴水があって石畳の道で5本の道がある大広場の前なんですけど」
ゲヘナ生は周辺の地図を出した。
確かに真ん中に大噴水があり、シャーレ側の方の二階建ての建物は大きく、大規模なカフェを立てれるほどだ。
「で、ここを連中は狙っているわけか」
「実際ここにくる前下見をしに行ったんだがな、私もいる事を知ったら引き下がったがやっぱり奴らが居たんだよ。だからとっちめてやらないと委員長にも負担をかけるし、何より先生にも迷惑が掛かる。アリウス随一の勢力はそれこそ先生が抑えているが、かと言ってそれがアリウスの牙を抜いているわけでもないし」
イオリの心配要素が包み隠されることなく吐露される。しかし、相手の狙いも分かってそれに対抗できそうな手段が集まりつつあるから実際はそこまで心配する必要はないのかもしれない。
一方ゼンヒは地図を見て最適な武器を考えつつ、これまたイオリに対して武器に関する要望を出す。
「そういえばイオリさん」
「なんだ」
「武器は何がある?SRTの特殊部隊なら……いやまあグレネードまで用意しろとまでは言わないがサブアームくらいまではまけてくれないか?」
アサルトライフルに拳銃があればとても嬉しいとまで話すゼンヒ。
相手は曲がりなりにも特殊部隊、それもテロリストとして長年訓練し洗練されてきた部隊だ。こちらも負けてはいない上、数で勝ることもできるが装備の質が悪かったり種類が少なければ不測の事態があった時やそもそもの攻略方法が狭まったりするなどの懸念があった。
言われた方は一瞬『図々しいな』と思ったがそれを口に出す前に、また考える。
「あるにはある……がちょっと待ってくれ」
イオリはスマホを取り出して、連絡をする。
「もしもし?イオリです」
『イオリ?どうかした?』
電話に出たのは風紀委員長のヒナである。
「アリウスの件なんですけど、人手が見つかりました。ただ……元SRTかつ酷い扱いを受けていたのが災いして武器が無いって言われて。委員長、ゲヘナで暴れてたやつから没収した武器を渡してもいいですか?」
『構わない。持ってた倉庫がギリギリまで溜まっているでしょう?折角ならば全部流してもいいと思う』
「ありがとうございます」
『じゃあ、その人達に大体を任せる形で過激派の件の対処に当たる。それでいい?』
「はい」
『分かった。じゃあ、切る』
電話は終わった。
どうやらデッドストックの他にもまだ武器はあるらしい。
「ゼンヒ、没収分もそっちで処理してもらうって形で使えるようになったぞ」
「至れり尽くせりだな……ありがとうイオリさん」
「いいってこと。じゃ、とりあえず今まで押収した分の武器とか見てみるぞ」
自分のスマホで何があるかを確認するイオリ。
「まあカスタムメイドしたアサルトライフルがざっと100、ショットガン47のうち26がセミオートショットガン、10がポンプアクション、11が連装式のちょっと古いやつ。狙撃銃二丁だがどっちも対物。短機関銃が68か、PDWなら23はあって……」
「マシンガンは?」
「ミニガンが4個あるし、ロケットランチャーは2個ある。中機関銃が3個あって、重機関銃が一つ。グレネードランチャー自体は無いが……まあこれくらいあれば困りはしないだろう。一応グレネードも各種が沢山あるぞ」
「すごいや……これなら安泰だな」
ゼンヒは頷いている。
その様子を見て安心したイオリは、今度は彼女に質問。
「ところで今回どれくらい来るんだ?」
「少なく見積もっても50人くらいは出せる。追加が必要ならば連絡取ってる奴らから広げてもらうことも可能だ。何より武装がたんまりあって貰えるって言うならやる気があるなら食いつくだろう。今度はこっちがメールを出しても?」
「いいぞ」
彼女はスマホを取り出して、モモトークのグループにメッセージを投げた。
『仕事が入ったぞ。ゲヘナ校区ハズレにてアリウス過激派の撃退依頼、ゲヘナの風紀委員から人手の要請があった。武器は貸し出してくれるらしい』
メッセージを送って、そこ2分で返事が来た。
『本当ですか!?』
『やったー!仕事だー!』
『しかも武器くれるなんて最高じゃないか!』
とんでもないはしゃぎよう。
「すごい喜んでいるな」
「まあ、それだけ真っ当な仕事に飢えてたっていうのもあるのでしょう。それに今回はゲヘナにも踏み込んで仕事でしょ?彼女らに取っては真にSRTらしい仕事をするチャンスなんです。これもまた依頼してくれたイオリさんのおかげ」
「そんなことないぞ。こっちだって応じてくれるかどうか冷や汗かいてたんだから。頼んでみたらものすごい勢いで噛み合った」
イオリの返事に頷きながら、ゼンヒはメッセージを書く。
『今回は最低でも50名ほどが必要で、安全を期すなら75名くらいは欲しい。武器はかなり沢山あって、装備のデッドストック並びに風紀委員が不良から押収した武器が沢山あるから人数が倍になっても大丈夫だろう。それによって君たちの腕がより発揮できるなら惜しみなく使いたい』
『知ってる限り声をかけてみます!』
『シャーレ所属のRABBIT小隊はどうします?』
『いや、その生徒達に関してはシャーレを守ったりする方が性に合っているだろうし、声はかけなくていい』
やりとりを続ける彼女は、始まる祭りの予感に胸躍らせているのかものすごい笑顔になっている。
『にしても風紀委員とのやりとり出来るとかかなり顔が広いんですね、ゼンヒさんって』
『ああ、姉さんはそれでも連絡取らないから困ったものだよ』
「双子の姉って……!ふふ」
「笑わないでください。ヴァルキューレの、しかも最近目立ってる警官があれの正体だって最初に出会った時点でバレるのはあまり良くなかったんですから」
「いやそうだが……ふ」
イオリが必死に笑い堪えているが、我慢の限界が来そうだ。そんな彼女のことを見て溜め息をつくゼンヒだが、それはそれとしてグループの会話の勢いが止まらない。
『とりあえず今回は告知だけになる。しっかりと参加する人間が決まってから詳細は練ろうと思っているので、期限は明後日の12時までにしよう。悩む時間も必要だからな』
『了解です!決まり次第、すぐに連絡ください!』
『もちろん。君達の活躍が早く見てみたいからな』
とりあえずは、そのメッセージ送ってからスマホの画面を消した。
こちらの士気は鰻登り、それをみた風紀委員もこれなら任せられると安心している様子。
「しかしまあ、かなりの慕われようだ」
「彼女達は彼女達で酷い扱いを受けてきたのですよ。ヴァルキューレは彼女達を扱いきれない、かつ情報操作を行なってイメージアップの犠牲にもするという有様だったので」
「そりゃ大変。まあでも、根は悪いやつじゃ無いだろ?なら大歓迎だ」
二人は笑顔で話す。
「決まりだな!とりあえず、明後日から本格的に動き出す形になる。武器とか急いで確保して、人数が決まったら……そうだな、一週間後には片付いているんじゃないのか?」
「アリウスの強さを測り損ねているから私にはわからない。しかし、イオリさん的にはそれで大丈夫、と考えてるのか」
「あいつらは確かに訓練されているが大したことはないぞゼンヒ。いいか?ベアトリーチェという頭脳的にも金銭的にも後ろ盾がなく、この前のトリニティの祭りにも出ないほどのアリウス思想の人間は少ない。当然動きは洗練されてるし、武装のストックはあるだろうけど、こっちは人数で勝る上で装備も不良から奪った分で何個もあるんだ、当然その中には強いものも混じってる」
SRTの連中がどれくらい当てになるかはその目でしっかりと確認してないので、士気はともかく技量がどれくらい錆びてるかが分からないのが不安要素だが、それでも人数がいて装備もあるというのは練度をカバー出来る要素である。
だから大丈夫、そう自信満々に言ったイオリを信じるようにゼンヒとゲヘナ生徒は頷いた。
「じゃあ、これで一旦解散しよう。私も仕事あるしな!」
「は、はい!ゼンヒさん、またよろしくお願いします!」
「ええ。お二人とも気をつけて」
話は終え、二人は交番を後にした。
立ち上がって見送ってから、ゼンヒは背伸びする。
「うーん、これからが楽しみだ」
「お巡りさんじゃ無くなると思うと後輩として寂しいなあ」
「どのみちシャーレ前の警官はそれなりの地位があっても実力で必要とされるからな。いいじゃないか、ここに座って指示するだけで大部隊が動く……安楽椅子の探偵みたいで」
ロマンあることをキメ顔で言う彼女を笑う後輩。
ゼンヒに二つの立場と力が与えられる日が近づいていた。